― その21〜その30 ―
その21今日もペンギンの城を夢見て、建国資金調達に励む。
鋼のくちばし(最初は銅だとカンチガイしていた)が手に
入らなかったのは、ひとえにボクの修行が足りず所持金が
少なかったせいだ。なにしろ「くちばし」なのだから
他の冒険者達が競って所望したとしても無理はない。
多くのニンゲン達がくちばしを使うようになれば、より
ペンギンへの理解が深まる。この事はペンギン王国を築く
為の良き礎となるに違いない。くちばしを手に入れたニンゲン
には是非とも現出に巣食うディオーズ(主にゴブリン)でその
妙を堪能してほしいものである。
それはさておき、このままでは新しい武器が買えないので
斡旋公社にでも行っておこう…
商隊護衛がんばるぞ。打倒ゴブリン!
その22今日もペンギンの城を夢見て、建国資金調達に励む。
ボクが護衛を引き受けた商隊一行は、カルセオラリアへ
向かっていた。
この辺りはさほど勾配が無い。ゆっくり、静かに進んでゆく
荷台の中、ボクは束ねられた藁が積まれている上によじ登る。
穏やかな揺れに身を任せていると、なんだかだんだん気持ち
良くなってきた…
「起きろ!」
ニンゲンの声にビックリして跳ね起きた。刃毀れしたダガーを
構え、急いで荷台から飛び出す。
…が、目の前には荷馬車用と思われる馬がたくさん。そして
次々と声高々に嘶く馬の鼻から大量の水飛沫がボクに降り注ぐ…
飛沫より賊の方がまだ良かった…打倒ゴブリン!
その23今日はペンギンの城を夢見るお休みの日。
近頃市場にくちばしが並ぶようになった。
ゴブリンに支配されている五王朝(実は現出も彼等の仕業では
ないかとボクは睨んでいる)を救うのはペンギンだというニン
ゲンの理解を感じる。独り旅を続けるボクにとっては大変心強い
事だ。
だが時は既に遅かった。ボクは気づいたのだ。
「くちばしは実戦には向かない!」と言う事に。
よく考えて見るがいい。クチに当てたこの武器は常に手で押さ
える必要がある。振り回すには身体全体を捻り、バネのように
反動をつけなくてはならない。野良猫はともかく強敵を前に
そのような余裕はあるだろうか?
わざわざ作ってくれた鍛冶士には感謝の意を表したい。
どうもありがとう。
その24今日もペンギンの城を夢見て、建国資金調達に励む。
荷台でうたた寝している間に商隊護衛の旅は終わってしまった。
特に何もしていないけど約束なので護衛料を貰う。心なしかニン
ゲンの上から見下ろす視線が冷たい。賊に襲われなかったのは
ボクがいたからこそ、と言う事をまるで解ってくれていない。
まだまだグローエスはペンギンにとって世知辛い世界なようだ。
苦もなく大金が手に入って貝の中は小銭でぱんぱん。
そろそろボクの着ている旅の服もあちこち穴が空いてみすぼらしく
なった。いくら王の気品を身に纏っているとは言え、洗っても落ちない
染みや身体に合わせて切ってしまった裾の綻びはボクの高潔さを損なう
恐れがある。ゆゆしき事態だ。
商店を覗くとそこには釣り竿が…こ、これがあれば魚が採り放題!?
打倒ゴブリン…より先にまず釣り竿が欲しい…
その25今日もペンギンの城を夢見て、建国資金調達に励む。
結局釣り竿を買ってしまった。
買ってしまったからにはフィッシングライフを満喫しなくては
いけない。どこかに釣り場所は無いものか…
カルセオラリアは海から遠く、釣りをするなら湖か河を探すしかない。
ヨファイオ河からもだいぶ離れているせいか、周囲に水の気配は
感じられない…。淡水魚より海水魚の方がボクの好みだし、ここは
やはり海まで戻るべきか。南海の塩水を吸った引き締まったボディが
蒼銀に光るのを見て久しぶりにうっとりしたいものだ。
考えただけでうっとりしてしまっていた為、頭上の樹々で巨体を
揺らす猿が今まさにこちらへ飛びかかろうとしているのをボクは
察知できなかった…
明日からは海に向かうぞ。打倒ゴブリン!
その26ボクは魔王。グローエス五王朝をペンギンの楽園にするため、アンサン
シェルの地に降臨した。
ニンゲン達よ、畏れ敬うがよい。ゴブリンの王を倒しゴブリン城の
名がペンギンに変わった時、全ての生ける者はペンギンの隷属となり
この世に破壊と恐怖が支配する暗黒の時代が訪れる。
だが、同朋サザンランドペンギンに対するこれまでの所業を悔い改める
なら格別にペンギン城門番として取立て無い事もない。よく考える事だ。
類稀な魔王を一目見ようと細い街道は大勢のニンゲンで大渋滞。
このまま彼等僕達と行軍するのも悪くはない…
いざ海へ向わんと身を翻した時、目の前に何者かが立ちはだかった。
リベラシオンと名乗るそのニンゲン達はゆっくりと印章を刻み始め…
さ、さてはゴブリンが放った刺客か!? 4人がかりとは卑劣な!
…そして愛と希望に満ちたペンギンの世界は夢に終わった…
その27今日もペンギンの城を夢見て、建国資金調達に励む。
魔王と言う呪わしくも名誉ある肩書きを手に入れたボクだったが
無念にも栄光は一瞬だった。我に返ってみると何やら壮大な理想を
掲げていた気がするが、決して本意ではなかったと言う事を理解
してもらいたいと思う。
脇には土が高く積まれた山道は狭く険しい。大きく盛り上がった
斜面をよじ登っていると岩肌がぷるぷると震え始め、ボクはコロリと
転がり落ちた。どうやらディオーズの擬態だったらしい。
もはや刃が欠けたダガーでは全くダメージが与えられない。が、
敵の動きは鈍く、攻撃も大した事はないようだ。かくなる上は!
ボクは計算し尽くされたステップで荒ぶる大岩を道の隅へと誘導し
くるりと背を向けてガレクシンへの道を急ぐ事にした。
明日もがんばろう。打倒ゴブリン!
その28今日もペンギンの城を夢見て、建国資金調達に励む。
タレスに近付くにつれ、足元の岩は砂状へと変化した。砂漠地帯
ならではの乾燥した熱風がボクの身体から水分を奪ってゆく…
艶やかに潤った自慢のボディが今はカサカサ。年頃なボクには
絶え難い事だ。
見渡す限りの砂、砂、砂…薄茶色以外に目に入る色彩がない。
余りにも単調な道程にそろそろ飽きてきたと思ったその時、突然
目の前の砂が地中に流れ始めた!ボクを取り囲むように現われた
3つの流砂の中心からは紅く輝く甲虫…蠍だ。
鋭く大きな鋏から逃れようと蠍の背後へジャンプ!
…が、長い尻尾が空を斬るように素早く伸び、ボクの背中をチクリ。
…あ…なんだか目の前がぐるぐる…気持ち悪い…
ガレクシンに戻ってもまだ吐き気が…でも打倒ゴブリン!
その29今日もペンギンの城を夢見て、建国資金調達に励む。
ここはガレクシン。険しい山々に囲まれ、ルアムザやテュパンに
比べると格段にレベルの高いディオーズが徘徊する無法の荒れ地。
海を目指して西へと旅を続けているボクだが、ここに来て思わぬ
苦戦を強いられている。どうしてもタレスへ辿り着けないのだ。
砂漠に潜む蜘蛛、蠍、蛇…毒もさる事ながら群れ成す破壊力の前に
何度も敗退を余儀なくされ、生傷が絶えない。いくらペンギンの、
延いてはグローエス全体の平和を守る為の名誉の傷とは言え、こうも
身体中につけられては…やはり服ぐらいは着て隠すべきか。
海へ行くにはルアムザを経由する方法もある事はもちろん承知して
いるが、一度行くと決めたらどんな困難があろうと目的地を目指す
のだ。それが孤高の一匹ペンギンたる所以なのだから。
明日もがんばろう。打倒ゴブリン!
その30今日もペンギンの城を夢見て、建国資金調達に励む。
ここはガレクシン…険しい山々に囲まれ、ごつごつした岩肌の
道が雨に濡れて滑りやすくなっている無法の荒れ地。
今日も元気にタレスへ向かっていたボクだが、急斜面で転がり
落ちないよう細心の注意を払っていたにも関わらず、水滴が
まばらに輝く苔に足を取られ強かにお尻を打ってしまった。
その際、切っ先鋭い岩に当たり、足の裏から表にかけて細長い
擦り傷が。痛む左足を引き進むボクにディオーズが容赦する
はずも無く…
改めて考えるともう1週間はガレクシンに滞在しているが、
もしや無駄な時間を過ごしているのではないだろうか…足の
傷を地面に押し付けまいと、無意識にO脚で立つ自分の姿を
鏡に見た時、なんだかとても情けない気がして哀しくなった。
打倒ゴブリン…だけど、今日は不貞寝。ふんふん。
― その21〜その30 ―