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キリ番222のプレゼント小説:to Star Fieldさま |
――きっと、どこかでは思ってた。私はロキくんにとって特別な存在なんだって。 ふと気がつくと、そこはロキの家の前。 繭良がヒマだな〜、と散歩していると、何故かここに立っていたのである。 ――そーいえば最近、私ロキくんち以外どっか出かけたかなぁ。 のんびりと、そう考えてみた。 確かにここのところ、まともにお出かけしたことがあまりない。 欲しい服は山ほどあるし、見たい映画だってこの指の数じゃあ足りないくらいだ。 ロキの家に行くのを止めれば、そうまでしなくとも行く回数を減らせば、どれも達成できる願い。 けれど、なんとなくそれができない。 そういえば、いつからか明らかにロキの家を訪れる回数が増えた。 いつだっただろう…? ――多分……レイヤちゃんが来るようになってから…。 繭良はぼーっとしながらロキ家のチャイムを押した。 『ロキさま!占いが上手ってホントですか!?』 今日は、目をキラキラさせてそんなことを言いつつ、玲也は闇野が留守中のロキ宅を訪れた。 毎日毎日、飽きもせず色んなコトに瞳を輝かせてやってくる少女。 ロキ自身、一瞬考えてしまうこともある。 玲也が微笑む度に、、、 ――僕はこんなの独り占めしちゃってイイのかな… 本来は、豊穣の神フレイヤ。 神界での美しいその姿は、今もなお彼の瞼の裏に焼き付いている。 他のどんな女神よりも気高くて、それでいて本当は他のどんな天使よりも優しい。(……と思う) 極稀に微笑みかけてくれたあの瞬間は、世界の色が変わった気さえした。 そんな感覚は、未だ僕の中に息づいている。 ……けれど。 何故か不安になる。 今では、この人間界では、その紛れもない女神の笑顔がとても簡単に見ることができてしまうのだ。 『独り占め』。今の状況を表すのは、この言葉が一番妥当ではないだろうか。 そのような微妙に深い思考の中に脳を沈めていると、玲也がひそひそ声で彼を呼んだ。 「ロキさま、どーしたんですか??」 気がつけば蛍光灯の力も借りず、ロウソクの悲しい帽子のみの明かりで照らされた薄暗い部屋。 そうだ、ロキは玲也に頼まれてタロット占いをしていたのだ。 微妙な暗さに、先ほどから少女はなんとなく声を潜めている。 玲也の中には、『薄暗い=やましい』という公式がどこかしら存在するらしい。 ロキはそんな彼女に吹き出しそうになりながら、止まっていた手を再び動かし始めようとした。 と、そのときである。 ――ピーンポーン チャイムが鳴った……と同時に、 「ロッキく〜ん、入るよ〜?」 ――ガチャ 全ては、チャイムが鳴って数秒間のことである。 もちろん、ロキは何一つ言っていないし何一つ行動を起こしていない。 顔は可愛いが遠慮というものには少々欠ける、大和撫子(?)の登場であった。 「なっ、なにこれっっ」 繭良が部屋に入ってきての第一声は、これだった。 ――ずきっ…… なにげない台詞の裏で、繭良の胸が音をたてる。 ――あれ…?どしたんだろ。ヘンだなぁ…。 「タロット占いです〜v」 ――ずきん……… 「ホント?!この薄暗い中で?!ミステリィ〜〜〜!」 「……ねぇ、次まゆらもする?」 ――ほっ。 「するする〜〜〜v」 普通の会話。普通のやりとり。 繭良の中で、自分でも気づかない間に色んな感情が入れ替わり立ち替わる。 しかし彼女はただ平静を装った。……それすらも、気づかない間に。 玲也は、だんだん曇ってくる四角い空を見た。 灰色の雲は、どうも重々しい。 「あ〜、楽しかったvそろそろ帰ろっかな〜」 「そ?じゃあ気をつけてね」 ――バタン 挨拶もそこそこに、繭良はロキ宅を去っていった。 それを見て、玲也も腰を上げる。 「じゃあ……、レイヤも帰る…です」 玲也は窓の外を見ながら思った。 雨が、雨が降ってきそうだ。 けれど、少女のいつもと明らかに違う態度は、別にこの天気から来たわけではない。 それはロキも分かっていた。 「レイヤ?どしたの…?」 俯いて、曇った玲也の顔。 少女は聞こえた。……いや、感じた。 どこかで雷が、鳴っている。 風も強い。 嵐が、来る。 ――またヤキモチかなぁ……… ロキの中に浮かぶのは、それしかない。 でも今日、そこまで繭良と仲良くした気はない。それどころか……。 彼が考えていると、玲也は意を決したように唇を動かし始めた。 「ロキさま…、気づいてました……」 「??…………!」 「まゆらさんのこと…、気づいてました……」 玲也は軽く息を吸い込む。 「まゆらさん、今日、元気なかったです。ロキさま、ちゃんと気づいてました。 なのに、なのにロキさまなんで何も言わなかったですか?!」 玲也の顔が、激しい。 ロキは少女の姿でのこんな顔を見たのは久々、あるいは初めてだったかもしれない。 とりあえず言葉を探す。 でもその見つけだされた言葉に飾りを付けたりできるほど、彼に余裕はなかった。 「……だって…、あんまり繭良のことばっかり気にかけたら今度はレイヤが怒るじゃない」 この時、少女の表情から激しさが消えた。 「……レイヤの……、レイヤのため、ですか……?」 ――……! 別に悲しい顔をしているわけでもなく、涙もまだ現れていない。 ただ、まるで時間が止まったかのように元々大きな目をさらに広げていた。 『驚愕』。それが今一番正しい形容にあたるようだ。 ロキは、玲也が叫んだときよりも何よりも驚いていた。 というよりは、何か悪いことをしてしまったかのような気がした。 『あんまり繭良のことばっかり気にかけたら今度はレイヤが怒るじゃない』 この言葉のどこが悪いのだろう。 確かに玲也にとって快い言葉ではないだろうが、そこまで顔を変える必要がどこにあるのだろう。 と、そのときである。 玲也が、にっこりと微笑んだ。 何もかもを包み込むような、女神に程なく近い笑み。 『何もかもを包み込む』。これほどまでに辛い言葉もそうはないかもしれない。 全てを包み込み、全ての辛さを包み込み、自らの辛さ全てを包み込み、大きな笑顔で隠す。 寂しい、でも美しい笑顔。 「レイヤ、嬉しいです。でも、ロキさまはキライです」 そう全部言い切ると、崩れ落ちてしまいそうなその顔をどうにか保ちながら、ドアへ手を伸ばし部屋 から出ていった。 ――ガチャン 少女が微笑んでからドアが音をたてるまで、ロキはただ立っていた。 本当は部屋を出ていく少女を連れ戻してなんとか言いくるめてしまいたかったのに、足が全く動かな かった。 そう、まるで時が止まったかのように。 そして玲也が帰ってしまった後、彼はいつもの椅子に座った。 もうすぐ闇野くんが帰ってくる頃だ。そんなことを考えながら。 「レイヤちゃんは見野さん呼んで帰るんだろうなー」 さっき急に激しく降り始めた雨を傘で避けながら繭良は呟いた。 ――まあ汚れてそんなに困るものなんてナイけどね 本当の時間よりも二時間は遅く見える空を見上げながら、そう開き直ってみる。 そして、お買い物全然とか行けないし、と頭の中で付け加えると、自然とその原因となる少年の顔が 頭に浮かんだ。 ――ロキくん、今頃何してんのかな…………ってレイヤちゃん!?!? そう心の中で言い終わった刹那、彼女の横を一人の少女が走り去った。 玲也である。 「レイヤちゃん!!!どーしたの!?」 繭良は慌てて呼び止めた。 ピタッと止まって、玲也が振り向く。 「あ…、まゆらさん……」 玲也の顔は雨と涙が混じり合った水でいっぱいだ。 繭良は微笑んで、ゆっくりと少女に近づいた。 「どーしたの?濡れちゃうよ」 しゃがんで、そっと傘を玲也にかぶせる。 少女は俯いた。 鞄に入っていたミニタオルで、繭良は玲也の濡れた髪をなぞる。 すると、玲也はもう一度上を向いた。 その顔に、繭良は時間を止められることになる。 また、玲也はにっこり笑っていたのだ。 包み込むような、微笑み。 「ダイジョウブ、です。レイヤ傘もってないから走って帰るですね」 少女は繭良の傘から出ると、また走っていった。 繭良は数十秒間、その場から動けなくなってしまう。 あんな顔、あんな綺麗な笑顔、どうしてできるんだろう。 可愛いとかいう種類じゃあない。 繭良はすっと立ち上がると、元来た道を走って戻った。 『ロキくん!!!レイヤちゃん探しに行ったげて!!!!』 繭良にそう怒鳴られて、ロキは今公園の前を歩いている。 彼女によると、玲也はまだまっすぐ帰りそうな雰囲気ではなかったらしい。 繭良自身、一体玲也になにがあったのかは分かっていなかったようだが、どうも直感でロキを呼ぶこ とにしたらしい。 「そんなん言ってもなぁ、相場はやっぱ公園のブランコだけど、ホントに居るはずないよなぁ………… って、レイヤ!?」 適当に歩いていると見つかった玲也。 あっちはまだロキのことに気づいていないみたいだ。 とりあえずブランコに近寄る。 「レイヤ」 「口、口キさま……」 振り返る玲也の睫を濡らす滴に自分の姿が映る。 その様子がどうにも憎らしい。 「レイヤ……」 呼びかけてはみたものの、よく考えてみると言うべき文字が見つからない。 「ロキさま、ゴメンナサイ……です…」 「え……?」 玲也はすーっと息を吸い込む。 「レイヤ、ロキさま大好きです。だからレイヤ、さっきロキさまがレイヤに気を使ってくれてたってき いて、すごくすごく嬉しかったです。でも……」 ロキは黙って聞いていた。 いつの間にか、真剣な顔になってしまっている自分がおかしい。 「…レイヤ、知ってたです。レイヤがスキなのは、まゆらさんにもすごく気を配れるすごく優しいロキ さまで、だから……」 だんだんと自分の言っていることに混乱し始める玲也。 ロキは少し笑って玲也と視点を合わせると、先ほどから気になっていた睫の滴を指に取った。 「ごめん、レイヤ。たぶん、あれはレイヤのためじゃなかったよ」 玲也はぽかんとロキの目を見る。 「僕のためだったんだ…。ただ、レイヤには笑っててほしかったから……」 ――本当は分かってた。まゆらが元気なかったのも、レイヤが辛そうな顔をしている理由も、そして僕 が本当に欲しかったモノも。 ロキが言い終えると、玲也はまた笑った。 全ての物に何かを与えるような。 雨が、だんだんやもうとしている。 太陽があのブランコに光を射すまであともう少しだ。 そのころには、もう二人はどこかへ帰ってしまっているだろうけれど。 P.S. レイヤちゃんはいいこです。 あたしもあんな子になりたかったな。 ロキくんにあんなにも好かれる、あんな子に……。