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キリ番2000のプレゼント小説:to しきみさま |
さあこれからしぼまろうとでもいうような、欠けた月の影が雲に映る。 文字通り朧に包まれ淡い琥珀色した、頼りないその姿。 そんな夜、少女は一人窓に映る自分の像を見ていた。 幼いその顔は、どこからどう見ようとも玲也自身であり、その他の何でもない。 普段はそれだけで終わっていた。 ふと鏡の向こうに少女が見えたとき、それは自分なのだと脳は判断していた。 しかし、違う。 今夜だけは、そうもいかないらしい。 この曖昧な輪郭の月夜だけは、どうも違っていたらしい。 ――レイヤ、ほんとにレイヤですか……? 無意識に少女はガラスへ問いかけていた。 刹那のことである。 ――レイヤ、レイヤじゃないです……! そんなの関係ナイって、きっとロキさまは言うですね。 でもそれだけじゃ足りない…、もっとそばに、もっとそばに居てくだサイ……。 頭を手で覆い大きく首を振る玲也。 自分はいつからこんなにも強欲になっていたのだろう。 目を閉じて、そして大声で叫んでしまうかと思った。 ――ロキさま……。……っ!! その瞬間、玲也はハッとして瞳を開ける。 あの月のせいなのか、それとも単に自分が弱いだけなのか。 大きな瞳から闇が少女の脳へ流れ込んでいき、大事な記憶さえ浸食されてしまったのかもしれない。 ――ロキさまが……、思い出せない………?! 玲也は自分の胸をきつく押さえた。 もう一度ギュッと目を閉じる。 ロキの髪、ロキの指先、ロキのあのいつものポーズ。 そこまでは思い出せるのに、そこまでは朧の中でも存在しているのに。 ――瞳だけ……、思い出せません………。 それはまるで、月が欠けるような。 だんだんと闇に喰らわれ、やがて朔の日を迎える。 生まれる前の姿に戻るのだ。 無に、戻るのだ。 ――イヤ……、イヤ………、イヤァ…………ッ!! 心の奥底で少女は叫び、部屋のドアをかつてないほどまでに強く押した。 何も考えずに出てきてしまったから、見野さんが気付いて心配しているかもしれない。 少々心苦しさはあったものの、玲也はインターホンを鳴らそうとした。 午後10時40分。 そこは燕雀探偵事務所。 人の家を訪ねるには遠慮の足りない時刻であるのだが、玲也はそんなこと気付いてもいない。 と、その時だ。 「あれ?レイヤ……?」 玲也はもともと大きな目をより見開いて、インターホンへ伸ばした指そのままに振り返る。 「ロキ…さま……?」 そこに居たのは、いつもと何ら変わらない普通のロキと、その後ろに闇野。 「どしたの?何かあった?」 何気ないその言葉は、しかし極まれにしか見せないロキの大人の部分。 玲也は何も言えず、けれどにこっと笑った。 ――レイヤ、なんでここにいるですか?? 何しに来たんでしたっけ?? 「そんな薄着だとカゼひいちゃうよ。お茶でも飲んでいく?」 ――そうです……レイヤ、きっとロキさまに会いに来たです……。 「ハイですっv」 静かな十六夜の月は、闇の中でただ必要最低限のモノだけを照らし出す。 暗すぎて瞳の色さえよく見えないと言うのに、 何故か笑顔だけは何よりはっきり見えてしまったりするのだから。 そんな、どこか優しい朧月夜。 P.S. 「ロキさま、どこにおでかけしてたですか?」 闇野の作った暖かくて少し甘いホットミルクにふーっと息を吹きかけて、玲也が言った。 ロキは苦笑いで返す。 「え?あぁ、うーん、別に何でもないんだけど」 ――なんとなくえっちゃんをレイヤの家に使いに出したらレイヤがいなくって 心配でその辺うろうろしてた、なんて、言えるわけないよねぇ。 「それよりレイヤ、ミルク飲んだらそろそろ帰った方がいいんじゃない? 見野さんも心配してるだろーし。送ってくからさ、闇野クンと」 「ハイですv」 ――ってゆーかパジャマのまんまで眠いとか言われたら、こっちがホントにヤバイんだよね……、 色んな意味で。