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序章  ぼーっと、池なんか眺めていた。  二日ぶりの晴天を映して、鯉が七色に光る。  幸せとか、喜びとか、人間ってこういう時に感じるものなのかなぁ、なんて考えていたら、 この世界で自分一人はみ出しているような感覚に襲われた。  それもまた一興か。  煙草を一本取り出して咥える。  平日の昼間だということもあって、視界に人間がいないということが、孤独の感覚に拍車をかけた。  さく……  まさに今、マッチの頭を箱に擦りつけてやろうとしたその時に、後ろで足音を聞いた。  だからなんだというわけでもなく一瞬止まった指に仕事を任せようとする。と、声。 「おタバコはカラダに良くないですぅ」  聞き覚えのある声、なんて表現すると妙によそよそしいから、聞き親しみのある声。  振り返るとそこに、ピンクのふわふわ。  何がふわふわって、全てがふわふわ。  黒い髪から、二つのリボンから、ワンピースから、そしてその笑顔から。 「こんにちわデスvv」 始まり? 再会? もしかしたら、終了五分前。  全てを理解するのに、心持ち1時間はかかった。  いや、一般的な時計の計算で言えば2秒弱だとは思うのだけれど。  ふわふわなその少女はヒラヒラと舞う蝶を目で楽しそうに追いかけていた。  できればその蝶にだけはなりたくない。  彼女も気付いてないとは思う。  実際あの蝶にどれだけ負担を与えているか。  あんな目で追いかけられたら、翅を一度動かすのがどれだけ大変なことだろう。  たとえば落とした煙草を再び指にとるのが、こんなにも困難であることのように。  蝶を哀れに思いながら、そのふわふわな髪を見ていた。  もう一度こっちを向いて微笑んで欲しいと思っている。  誰がって、このボクが。  そういえば、今年で何歳になるんだろう。 「どぅぞです」  彼女がにこっと笑った。  いや、もともと笑っていたけれど。  煙草を拾えずにだらんとしていた手をすっと拾った、その、小さな手が。  真っ白になった。  ほんの一瞬だけ、サクラの花の中に入ったみたいに。  それを昇天と呼び今いるここを楽園であるというのか、それを"堕底"と呼び今いるここを奈落と呼ぶのか、 それは分からないけれど。  煙草さえ拾えない指がこんなにも複雑なチョコレートの包み紙を広げるなどできるはずもなく、ぼーっと 掌を眺めていると、ヒラヒラと開放された蝶が舞っていく影が見えた。  自由を得たはずのそれに、複雑な寂しさが見えた。 「じゃあレイヤ、行くですねv」  ちょこちょこと小走りで、少女はスカートをもっとふわふわさせながら行ってしまった。  煙草を拾い上げ、マッチを箱に擦りつけて、赤い帽子に触れさせる。  煙を一息肺に送り込んで、そういえばあの少女は何しに来たんだろう、とか、ぼーっと考えた。 fin.







†いながき かおり†