『それは雲が行くように、それは水が流るるように。』 仏教の教えに近い言葉。 地域は全然違うとも、僕としてはそんな考え方が北欧に全くないも思えない。 ただ全てのものは――たとえそれが神であったとしても――、 運命のままに時のままに歴史を刻み続ける。 雲が行くのは運命の風が行くから。 水が流れるのは時が流れるから。 運命は時の流れの中に、時は運命の風の中に。 そして僕は――――。 ――ピーンポーン その音が鳴ると、条件反射のように窓から玄関を見るようになったのはいつからだろう。 そして期待し始めたのは、いつからだろう。 「ロキさま〜、レイヤです〜」 この台詞を。 「どしたの?レイヤ」 美しいつやのある黒髪。 玲也はドアを丁寧に両手で閉め、その髪を揺らせてこっちを振り向いた。 「ロキさま、見てくださいですっ」 幼女は顔いっぱいに明るい笑顔を載せ、僕に何か差し出す。 ピンク色の紙に包まれたそれからは、なんとなく僕が好きなものの匂いがした。 「なに?」 僕はだいたいピンクの包みの正体を推理してから、当たり前のように受け取った。 『受け取る』 その行為に大した意味はない。 ただ、そこに玲也の期待と笑顔があるからそうするだけ。 期待を裏切るまいと手を伸ばし、笑顔を汚すまいと微笑むだけ。 「コーヒークッキー?」 包みを開いた僕の目に映ったものは、予想通りだった。 この空間に漂う少し苦い匂い。 「レイヤ、がんばって作ったですよっ」 実はさっきコーヒークリームを食べたばかりで、 僕の口の中にまだその名残が残っている。 『後で食べよっかな』 僕の中に浮かんだ本来の最善策。 けれど。 パクン。 気がつくと僕は既に、ピンクの包みを開き右手で 直径3cmくらいの丸いコーヒークッキーをつまみ上げ、口へ運んでいた。 そしてニコッと微笑み、 「ありがとう、レイヤ」 当然のように、けれど必然のような。 玲也は汚れを知らぬ笑顔を僕の目に映し出した。 この少女は知っているのだろうか。 僕がこのほんの数分間の間にどれくらいたくさんのことを考えながら 『流されて』いたか。 僕は自分で言うのも何だが、思慮深い方だと思う。 そして自分が考えたように思ったように行動している―――ツモリ。 でも本当は。 『それは雲が行くように、それは水が流るるように。』 仏教の教えに近い言葉。 地域は全然違うとも、僕としてはそんな考え方が北欧に全くないも思えない。 ただ全てのものは――たとえそれが神であったとしても――、 運命のままに時のままに歴史を刻み続ける。 雲が行くのは運命の風が行くから。 水が流れるのは時が流れるから。 運命は時の流れの中に、時は運命の風の中に。 そして僕は―――。 "玲也"という空間の中で、流されている。