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続・L complex



「ヒマですぅ………」  おもしろいことがあるからついておいでとこの少女を連れ出したのはつい一時間前。  もうちょっと手間もかかるかと思って桃色のキャンディやらかわいらしいリボンやら、今となってはある 意味超レアな2000円札やらを計8個ほど用意してきたというのに、少し腰をかがめてにっこり笑ってやった らモノで釣る必要もなくすぐについてきた。  見野さんの教育にも穴はあるんだなぁ、なんて相手にすればものすごいお節介なことを考えながら小さい 手を引いて向かった先は駅の七つほど離れた動物園。  こんな誘拐計画なんてこの朝まで全く考えもしてなかったから、動物園の休園日なんかこのボクが知って いるはずもない。  仕方がなく駅前の小洒落たカフェに居たりするわけだけど、ゾウさんパンダさんキリンさんに裏切られた 少女は思いっきりヒマそうだ。  少し弁解させてもらえれば、小学生の少女相手に苦笑を浮かべてるボクは別に間抜けな犯罪者なんかじゃ なくて、泣く子も黙る――とは言いすぎだけど――邪神ロキさまなのに。  目が覚めると例によって大人になっていたから、とりあえずウキウキしながらご近所を散歩してると、目 の前を我が愛すべき黒髪の美少女が。  そこで犯行に及んだわけだけど、少し考えが足りなかったな、なんて後悔してみたりする。 「ごめんねぇヒマにさせちゃって」  周りの人たちから見て、これってどーゆー風に見えるんだろう?  玲也のほうはどこからどうみてもほんわりポケポケ美少女なんだけど、ボクは――若い女の子達を除いて―― 差し詰めロリータ愛好症のヘンタイなんて思われるのかな。 「あ、えっとえっと、そーじゃないですぅ!!レイヤあんまり動物園好きじゃないですしっっ!!」  そんなわけないじゃん、と言いたいところなんだけど、一応初対面ってことだし極普通に、 「そーなの?」 とか返事してみたり。  そしたら案の定、 「ハイですぅvキリンさんもゾウさんもパンダさんもウサギさんもコアラさんもマントヒヒさんもカバさん も白クマさんもコウモリさんもニホンザルさんもペンギンさんもナマケモノさんもモルモットさんもオウム さんもタヌキさんも…………etc.、全然楽しみじゃなかったデスよっっ!」 なんて可愛らしいというかあきれちゃうというか。 「……やっぱ行きたかったんだねぇ」  わかってはいるんだけど、玲也の優しさってたまにものすんごい申し訳なくなったりする。 「え、えっとえっと……」 「レイヤちゃん、とりあえずリップサービスは覚えようね」  一応にっこり笑って、冷めたコーヒーを喉に流し込む。 「リップサービス………『お口でご奉仕』デスかぁ……?」 「………ッッッ!!ゴホッゴホゴホゴホ……」  お嬢様学校って、こんな時期からすでに基本的な英単語は教えているらしい。  傍若無人な考えだとは思うけど、無責任なことはしないでほしい、なんて本気で考えた。  周りの一般ピープルの視線が痛い。  言葉を発してるのは少女のほうなのに、一緒にいるってだけで青少年が疑われるんだから厭な世の中だ。 「ゲホッ…ゴホゴホッッ、レイヤ、その言葉金輪際忘れなきゃダメだよ………」  なんせコーヒーだから、咳き込むだけで噴出したりしなくてよかったとは思うけど。  ホント、こんなとこで妄想……もとい想像――あんま変わんないけど;――しちゃったらどうしてくれる んだろう。  首を傾げてこっちを見る様子がいつもと違って見えたりした。 「………そろそろ帰ろっか」  居場所がなくなって逃げるように立ち上がる。 「ハイですぅ」  とか言いながら微笑んでいるこの無垢な少女は、その後何度となくその口にボクの視線が走ってるなんて こと知らないでいる。  相変わらず大きい家。  ボクのうちもそれなりに大きいけど、所詮空家だし。  まだ4時ぐらいだったけど、どうにも玲也が危なっかしくて家まで送ることにしたのだ。  今度こそホンモノの変質者に絡まれないとも言えない。 「今日はありがとうございましたですぅvv」  上向きの笑顔が名残惜しいけれど、それでも明日にはまたもとの姿に戻ってるんだろう。  もしボクが常にこの姿でいられるようになったとしたら、その時玲也はもう玲也じゃなくなっているかも しれない。  なんてゆーか、ものすごくもどかしい。  …………こんなこと思う時点で、既にボクはホンモノの変質者かもしれないなんて今ごろ気づいたり。 「あんまり知らない人についてっちゃダメだよ?」  腰を曲げて視線を同じにする。  んー、ある意味かなり快感。 「レイヤ知らないヒトについていったりしないですよvv」  いやいや、今日思いっきりボクについてきたじゃないか。 「ボクは知らないヒトだと思うんだけど?」  この子のことだから、出会う人みーんなお友だち、なんて言いかねないからおそろしい。  でも、返事は全く違う方向だった。 『                        』  すっごいびっくりした。  ものすんごいびっくりしながら、それでもなんとかにっこり笑って「おやすみ」って言って、あまりの動 揺でウチとは反対の方向に歩いていた。  案外、あの少女はボクが思ってるほど変わったりはしてないのかもしれない、いつになってもあの少女は 変わったりはしないのかもしれない、なんて思いながら。 『レイヤ、アナタのことずーっと前から知ってたですよ』 数日後。ロキ邸にて。 「ナルカミさん」 「ん?何だ、レイヤ」 「んっと……まうすさーぶ…って何ですかぁ?」 「まうすさーぶ……?なんだそれ??」 「………えっとぉ…『お口でご奉仕』ですぅ」 「………ッッッッ!?!?」 「ぶはっっっ、ゴホッゴホゴホ………」  こんどこそボクは、コーヒーでお気に入りのリボンを汚してしまった。 fin.







†いながき かおり†