★ロキv玲☆


「ありがとうです」

 ニコリと微笑む黒くてフワフワな髪の少女。

 

 ―――!!!


 
 ロキはそこに立ちつくした。



 
 
再会〜shall we go for a walk?〜


「ふぁ〜ぁあ。一体何日待たせる気だよ。。。」  そこは美と豊壌の女神、フレイヤ神の豪邸。  白を基調としたそれは清楚なイメージを放っており、淡い色をした芝生に包まれている。  玄関は地面より少し高いところにあって、白い階段が玄関と地面の間を結ぶ。  そしてその階段からやや大きめの門まで架けられた、 意味もなく曲がりくねっている大理石の道。  邪神ロキは門の柱にもたれかかり腕を組んでそう呟いた。  ロキがその体制を取り始めてから、はや六日が経っている。  普通で言うと、もうすでに「待つ」とかいうレベルではない。  しかし、待つ、という行為に対するストレスというのは寿命から来るもので、 その行為が寿命の中の割合を多く占めるようになればなるほど、生物はイライラするのだ。  その点神たちに寿命などはない。  したがって時間に対する執着心は、 人間界に住む人間たちと違って極々薄いものとなるのだ。  ……けれど。  いくら神の時間的感覚がどうだといっても、六日は待たせすぎである。  神にだって疲労くらいはあるし、ロキはいい加減いやになってきた。 「もう帰ろっかな〜」  ……。  そう言うと、彼の腹から自身を嘲笑いたくて仕様がない気持ちが溢れ出す。  六日の間に、一体何度この台詞を繰り返しただろう。  何故か急に呼び出されて、『めんどくさいな』と呟きながらも 愛読書を忘れてくるほど浮かれていた自分を認めざるを得ない。  今までの経験上、待ち合わせをするとき愛読書は必要不可欠な物だと わかっていたはずなのに、である。  そのため彼は、ひたすら腕を組んで女神が玄関の白い階段から 下りてくるのを待っていた。 「……フレイヤって実は僕をからかってるだけなんじゃないの……?」  正直自分でも、どうかしていると思う。  こんなことを呟きながらも結局はここに立ち続けているなんて。  と、その時である。 「あんたそんなこと言ってるんだったら帰った方がよかったんじゃない?」  カツ、カツ、とヒールが階段を一段一段踏みしめる音と共に、その声は響いた。  フワフワな、ブロンドの髪。  六日前ロキがここへやってきたとき自分が『ちょっと待ってて』と言い、 しかしちょっとどころか六日も待たせ、 挙げ句の果てには『帰った方がよかったんじゃない?』。  全く、彼女の人格(神格?)を疑ってしまう。  ロキはため息をついた。 「で、何?用事って」  ここで怒らない彼は、典型的なフェミニストということなのだろうか。 「散歩よ」  フレイヤは曲がりくねった大理石の道の上を一歩一歩歩いてくる。  彼女がその道を無視してまっすぐ門まで来ない理由を、ロキは知っていた。  彼はその光景をほほえましく思いながら言葉を作る。 「いつ?」 「今っっ」 「どこで?」 「どこでもいいわよっっっ」 「だれが?」 「私とあんたよっっっっ」  しばし黙り込むロキ神。  そしてあっさりと返した。 「つまり、デートの誘いってこと?」 「なっっ、なっっっ!?!?んなわけないでしょっっっっっっ!」  予想通り、フレイヤは顔を真っ赤にして怒鳴る。  完熟トマト顔負けなその表情は、ロキの目に愛らしく映った。  ポン、と彼女の頭に手を置く。 「ハイハイ散歩ね。で、どこに行きたいわけ?」  ひょろりと高い背で見下げられるフレイヤ。 「なっ、何なのよそのテキトーな言い方っっっっっ!」 ドッカーーーン!  幼児をあやすようなロキの顔は、愚弄しているとしか見えない。  どうにもかなわない、ということを自分で気づく前に、 とりあえずフレイヤはロキをぶっ飛ばした。  サク、サク、という小さな足音が、ロキの聴界を満たす。  隣で歩いている女神サマを、横目に見てみる。  彼女は気持ちよさそうにこの小道の酸素を飲み、 道のわきにある雑草と言えなくもない草花を見つけては微妙に表情を変えていた。  何の会話も行き交わない、けれど優しい時間。  何の気持ちの上下もない、けれど心地よい沈黙。  ロキは彼女と居る時にだけ見つけられるこんな空気が、気に入っていた。  いくら彼女にヒステリック(!?)なところがあるからといって、 いつでも怒っているわけではない。  たまに見せる、それはそれは女神の表情。  笑っているわけではなく、かといって怒っているわけでもなく、気高くて美しい表情。  それとともに彼女から溢れ出す空気。  静かで暖かい、湧き水のように溢れ出す空気。  ロキ神は、六日間待っていた甲斐がやっとここに見つかったような気がした。 「ロキ」  フレイヤがにわかに呟いた。 「何?」  その声が、いつもと違うことに彼は気づく。 「たまに思うのよ。たとえば、この次の瞬間死んじゃったら、とか」  ロキは黙った。  そこまで驚く必要はなかった。  神は、その有り余った時間を哲学的な考えに使うことが珍しくない。  したがって神の会話の中には、よくそういうフレーズが含まれたりするのだ。  ただ彼がそこで少し驚いてしまったのは、 その言葉がフレイヤの口から出てきたということだった。 「…そしたら、どうなの?」  聞きたくて仕方ないような、耳をふさいでしまいたいような。  そんな曖昧な気持ちで唇に紡がせた台詞は、それだった。 「ソッコー火葬してよね」  フレイヤはロキの方を見ない。  でも、それには心の声があるようで。 「何で?」 「こんなとこに未練なんてないのよ。 醜くなってまでここにいるなんて、バカみたいじゃない」  心の声、それは今の状態からじゃとてもとても聞きだせない。 「へぇ」 「すぐに灰になっちゃって、それで大地に還るのよ」  ロキは前を見た。 「…………。豊穣の女神ってわけだ」  まるでからかうような口調で。  彼はこの空気を壊したくてたまらなかった。  何故かはわからないけれど、、、フレイヤが、少し遠い。 「!!そうよ、それ以外に何があるって言うの!?」  彼女の調子が元に戻ってきた。  この気位高い女神サマは、からかわれるのが大嫌いだ。 「僕はフレイヤをたたえてるだけだよ?」 「その態度がムカつくのよ!!!」 「君は、女神サマだよ」 「わかってるわよ!!!」 「でもそんな怒ってたら眉間に皺のあとついちゃうんじゃないの?」 「そうさせてんのはあんたでしょ!!!」  小一時間くらい、そんな夫婦漫才みたいな凸凹コンビみたいな会話が続いた。  ロキは飄々と、フレイヤはゼィゼィとしている。  そうして、気がつくとロキは笑っていて、 そんな顔を見ているとフレイヤはムカつくはずなのに、急に笑えてきて。  でも彼女はしっかり突っかかることを忘れなかった。 「何なのよっ。あんたが笑ってるからこっちも笑っちゃったじゃないっっっ」 「それは僕のせいでもなんでもないと思うんだけど。まぁいいや。そろそろ帰る?」 「……そうね」  ロキは必然的にフレイヤを送り、フレイヤは当然といった様子でロキに送られる。  そして豪邸の前でさらりと別れの言葉を交わすと、ロキはそこをあとにした。 「ありがとうです」  ニコリと微笑む黒くてフワフワな髪の少女。  ―――!!!  ロキはそこに立ちつくした。 〜side:a goddess〜



†いながき かおり†

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