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好き?
キリ番333のプレゼント小説:to 葉月ゆらさま

「は?」

鳴神のあっ気にとられた声が、小さなカフェテリアに響いた。

「だからー、明日の約束ね、用事できちゃって行けないの」

彼の目の前で紅茶を飲みながら、繭良は高い声でそう言った。

"約束"

明日の日曜日、

鳴神は繭良が前から行きたいと言っていた映画を見に行く約束をしていたのだ。

「なっ!どんな苦労して取ったと思って・・・・・」

その映画は大人気の映画で、チケットを取るにも一苦労。

「あれ?誰かにもらったって言ってなかった?」

それを繭良のために1晩並んで取ったなんて言えるわけもなく。

「そ、そうだけど・・・・・」


・・・・・なんのための徹夜だよ・・・・・・・・


「で、何の用だよ?この映画見たいってずっと言ってたろ?」

鳴神は不機嫌そうに繭良に聞いた

「図書館にね、ずっと探してた本が明日入ってくるのっ☆だから・・・」

そうか、本・・・・・。

・・・・・・・・・・は?

「本だ!?んなもん借りりゃいいだろ!」

「借りるのってあんまり好きじゃないしな〜」

「いつでもいいだろ!」

「すっごい人気の本なんだよ?これ逃がしたらもーずっと読めないもん」

「そんなにその本が大切なのかよ!!」

「赤○次郎サマ五年ぶりの長編小説なのに読めないなんてっ、ミステリ〜マニアとしてハジよっ!ハジ!!」


・・・・・・・・・・


こうなってしまった繭良を、誰一人止められるはずもなく。


最近日曜日になると繭良は図書館に出かけた。

一体何を読んでいるのか。

いつも夕方になるまで帰ってこない。



    
何も言えなくなってしまった鳴神は、繭良に確かめるように聞いた。

「なぁ大堂寺、俺らの関係って何?・・・・」

そんな鳴神の言葉に繭良は首を傾げ、

「トモダチ、でしょ?」

そうきょとんと言って残りの紅茶を飲み干した。

「大丈夫だよ、映画は他の人に行ってもらえるように頼んどいたから♪」

小さなカフェテリアに、今度は楽しそうな繭良の声が響いた。





「・・・・・で、なんでお前なんだよ?」

繭良が頼んだという相手、

「この映画、結構興味あったんだよね〜ありがとうナルカミくん!!」

邪神・ロキ・・・・・。

なんでよりによって男なんだよ!!・・・いや、ロキなんだよ!!

「映画のチケットもらったんだって?」

違うって・・・・。

「へ〜、ラッキーだったねぇ」

だから違うっつーの!!

どこか全部見透かしたようなロキを横目に、鳴神は深くため息をつきながら歩いた。

別に男の嬉しそうな顔見るために取ったわけじゃねーのに・・・。
 
鳴神はロキがケラケラ笑うたびに落ち込んだ。
 

映画の内容はラブストーリーっと言いたい所だが推理もの。

ラブストーリーなら、ロキが来た時点で即帰るし、

あいにく繭良の興味をより惹きつけるものは、ラブストーリーよりもミステリーらしい。

大人気な映画の割にはおもしろくなかった、鳴神はそう思っていたが、

内容なんてほどんと見てはなく、

本当なら横に繭良がいたはずなのにと思うと、無性に腹立たしかった

そう、繭良が隣にいれば、まだもう少し楽しかったはずなのに・・・・。




隣でロキがあーだこーだと楽しそうに話しているのは分かったが、

「あぁ、そうだな・・・・」

としか、鳴神は答えなかった。
 
そしてふとロキが黙ったかと思うと、

「あの映画のチケット、誰にもらったんだろーねぇ?もしかしてその人カノジョのために徹夜してとったのに急にドタキャンされて一緒に行く人いなくなっちゃって、ナルカミくんにくれたのかもねぇv」



こいつ、キライだ・・・・・
 


鳴神は、改めて横でニコリと笑う小さな少年の影に邪神の姿を見た気がした。

 



夕方の6時、繭良の自転車はまだ家に帰ってきていなかった。

せっかく文句でも言ってやろうかと思って意気込んでやってきたというのに。(とか言いつついつもできないのだが;)

「あいつ、まだ読んでんのかよ・・・・」

鳴神は電信柱にもたれると、呆れたようにため息をついた。

「あいつがそんなに読みたがってた本って何だよいったい」

『赤○次郎』という名を連発していたこともすっかり忘れ、鳴神は気になってしかたが無い状態になっていた。

散々悩んだあげく、図書館に行く事にした。

見たいとずっと言っていた映画をキャンセルしてまでの本である。

1晩徹夜で並んだという事もあり、

その本を1度拝んでやろうと、変な敵対心を燃やしながら鳴神は図書館に向かった。






鳴神が図書館のドアを開けると、真っ先に繭良が飛び込んできた。

「おい、・・・」

そう言いかけた鳴神の言葉は、その一瞬で消された

隣、そう繭良の隣で。

見た事もない男の姿が。

楽しそうに2人並んで話しているのである。

初対面とは思えない、

繭良の前には読みたいと言っていたはずの本らしきものは無く、

ただ本当に・・・・・。

『何やってんだよ!!』

そう言ってやりたかったが、

繭良の表情があまりにも喜びに満ちていたため、鳴神はその言葉を必死に飲み込むと静かに図書館から出た。






『トモダチ、でしょ?』


昨日の繭良のその言葉が彼の頭の中を駆け巡る。

よく考えてみると、彼女にとって自分は本当にそれだけの対象だったのかもしれない。

最近よく図書館に出かけた理由も、

見たがっていた映画をキャンセルしたのも、

"あいつに逢うため"

そう、『好きだ』と言ったのは自分からで、

今までに一度だって繭良から『好き』という言葉が出たことはなくて、

それどころかそれらしき態度も大して出たことはないような気がして、

ただ気づけば傍にいただけなのだ。

好きな男がいても、おかしくないのかもしれない・・・・・。

鳴神はそんな事を思いながらもう薄暗くなった道を帰った。




キィィ。

午後七時。

家の前の電信柱に何度も見たことのある人影を見つけ、繭良はそう新しくない自転車のブレーキをかけた。

「どーしたの?ナルカミくん、こんな時間に」

また可愛らしく首を傾げている。

それすらも彼の目には腹立たしく映った。

「おめーこそ、こんな時間まで何やってたんだよ!!」

あからさまに機嫌の悪そうな鳴神の反応に、繭良は意味も解らず頭上に疑問符を浮かべる。

「図書館だよ?昨日言ったでしょ?」

繭良のその当たり前のように言う言葉に、鳴神の機嫌はますます悪くなる。

「本は読まなくても、図書館には行けるからな!」

鳴神の意味の分からない言葉に、繭良はもう一度深くため息をついた。

「ん〜、よくわかんないんだけど?」

繭良のその台詞に

「あいつだよ・・・・。」

鳴神の声が曇る。

「夕方楽しそうに話してた奴だよ、楽しそうだったじゃねーか!俺が徹夜で並んで取った映画よりあいつに会う事が大切だったんだろ!!」

鳴神は爆発したかのように吐き捨てた。

繭良は、そんな鳴神をあ然とした顔で見ていた。

「徹夜って・・・誰かにもらったんでしょ?」

「んなもん、誰がくれるんだよ!」

走り出した鳴神の気持ちを止めることなど出来ない。

「あいつが好きなんだろ!じゃーあいつの所に行きゃいいだろ!!」

思ってもいない事がどんどんと出てくる。

「ちょ、ちょっと・・・」

そう言う繭良の言葉などまるで聞いていないように鳴神は続ける。

「そうだよ、一方的に俺が大堂寺が好きだって言っただけで、大堂寺は俺を好きだなんて一言も言ってねーわけだし」

「ねぇ、ナルカミくん・・・」

「大堂寺が俺を好きだなんて勘違いしてた俺が悪いんだし」

「ねぇ、ナルカミくん」

「なんだよ!」

ようやく言うことは言い終わった鳴神が、やっと繭良の言葉に耳を傾けた

「もしかしてナルカミくんが言ってる人って館長さんの事?」

「あぁその館長さん・・・・・・・あ?」

『館長』????

鳴神の脳裡に一瞬にして冷たいモノが吹きあれた。

「夕方でしょ?昨日言ってた本がもう誰かに借りられてて、取っといてくれるって話をしてたんだけど」

繭良のその言葉に、鳴神の力ない声がする。

「でも、若かった。」

「ん〜、あんまりタイプじゃないんだけどな〜」

もっとミステリィ〜な感じがほしいのよー、と付け足す繭良に、鳴神は我に返ると今自分が吐き出した言葉を思い出した。

・・・・・・バレた・・・・・・

チケットのために実は徹夜した事、



それに・・・・・・・。



「だぁぁぁ、もー!!!」

鳴神が地べたにドスンとあぐらをかいて頭を掻きむしると、繭良もしゃがんで視線を合わせた。



「大好きだよ、ナルカミくん」



街灯の安っぽい光も、繭良を照らすこの時だけは太陽にさえ劣らぬほど綺麗に見えた。



「・・・・・・わーってるよ!!」





†いながき かおり†

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