「弟さ〜ん、ピクニックしませんかぁ??」 宇宙論U.
学園の屋上、午後八時。 元来の意味とは違った五月晴れの夜。 思ったよりも星空は明るく、月の出る幕無しと歌っているようだ。 「あんた、星にも詳しいのか?」 軽くなったバスケット。 イチゴに刺さっていたピンクのプラスチック楊枝が、ぽとんとこける。西洋の古人は、暗い闇があって初めて輝く星に光の意味を与え、 「人並みですよ、カシオペア座とかしか知りません」 ゆるりとこちらを向いて浮かべた笑みは、その問いを待っていたようだ。 夜の色に冒された髪がふわりと舞う。西洋の古人は、太陽があって初めて輝く月に、闇の意味を与えた。 「ホント言うと、夜の空ってあんまり好きじゃないんです」 あんまり穏やかすぎる笑顔で首を軽く傾ける。 雲の無い空、雲をカーテンだと聞いたことはあるが、カーテンを開いて視界を埋めたのは夜。月に弱さを感じたのなら、星に自分を重ねたのなら、 「でも星を見るのは好きなんじゃないのか?」 もう一度空を見上げた。 Wを象る女の妄想は見つからない。他人を蔑む心の皮膚、他人を嫉むヒトの本質。 「そうですねぇ……」 考え直すように理緒は空を見やった。 光の粒が張り付いた夜という事実は普遍的な日常でしかないのに。カードに思いを倚せて尋ねる明日。 「……やっぱり好きじゃないです」 ちろりと舌を出して、お決まりの表情。 ここで決まり悪そうに笑むのは確かに理緒で、その奥に何か居るとしてもそれはやはり理緒。寧ろそれは必然として、ヒトの全てを知る。 「じゃあなんで……」 ほんの少しの過去、そこに歩を誘った理緒が居たわけで。 ピクニック用のバスケットにピンクのナフキンを引っ掛けたのを思い出した。それはイデアの光に映された影。 「確かめたかったんです」 まだ微笑みを軽く残して、理緒は視線を元に戻す。 リボンがしゅんと垂れ、それでも髪は艶やかに流れる。カードの型に流し込まれた影。 「確かめる・・?」 光る粒を線で繋ぎ自分なりの神話を描いても、これから紡がれる言葉を語りはしない。 平らなパネルに3Dの彼女を尋ねること自体に無理があるから。入れ物にすっぽり納まって脱獄も試みないそれに、 「宇宙って、毎日広がってるんですよ、この瞬間も」 風が吹いた、身震いする間もないほど早く、しなやかに。 掌と掌を出して、広げてみたり縮めてみたりする、ここも宇宙の一部なのだから。光は射すもほど遠い。 「ビッグバン……だったっけな」 赤方偏移だとかドップラー効果だとかが交錯してできあがった理論だ。 世界の天文第一人者たちがほぼ皆それを信じ、そして疑う余地を探す。だからこそその示す道は、現在、過去、そして未来にも実在のモノ。 「はい、だから………」 大きな瞳がこちらを向く。 そしてその小さな手が、強く重なった。だからこそその示すモノは、平凡に醜く着飾った、僕らのシルベ。 「こうやって手を繋いでたら、離れちゃったりしませんよね」 微笑む視線と裏腹に、すがるような気の震え。 少女の唇は赤い糸なんて信じられるほど純粋じゃないし、だからって割り切ってしまえるほど幼くもない。それはあまりに淡すぎて、消えるにも消えられぬ、 「……あぁ」 理性的に肩を抱いた。 本能的にキスをした。そぅ、カードの笑う、 「…………」 温い重なりが、果たして彼女の中で絆になれたのかどうなのか。 そんなこと考えたのは風呂の中だった。カードの嘲笑う、 「…………」 微かに目を開いたままなのは、繋がりを確かにしたがるから。 きっとこれだけが彼女の唯一論。宇宙論U.