『孤独』を色で表すとしたら何色だろうか
なんて聞かれて答えられる人はこの時代にいったい何人いるだろう
unbalance
「やあぁぁぁああ!!」
時は現在より約1年前
アララトス南に位置するアゼンダ高地
そこに少女の雄叫びとモンスターの断末魔が響き渡った。
少女の側にいた少年も彼女の背に立って向かってくるモンスターを
次々と討ち取っていく。
お互い背中を任せ合える存在
更に今より半年も満たないほど前
スメリアの地で出会い、共に旅をして、同じ聖なる力を受け継いで。
そんな中で築かれた少女と少年の関係
少女・ククル 17歳 少年・アーク 16歳
アークは現在の危機を救うべくここ、過去の世界にやってきていた。
五大精霊の力を集めるためにこの時代のククルと共に世界を回っているのだ。
1日に1つの割合で順調に回って今日で5日目…
…つまり今日で五大精霊全ての力が集まるのだ。
それはつまり2人の別れを意味する…。
最初の頃はお互い、また一緒に旅が出来ることに喜びを感じていた。
しかし苦しい事実の壁
考えないようにはしていたが
…すぐに別れが来ることは分かっていたはずだ。
この世界を守り抜くこと
それが勇者と聖母である自分たちに与えられた使命
自分の感情に釘を刺して世界を優先する。
それが何よりもの苦痛だった…
五人目の精霊の力を集めて二人はスメリアへ向かった。
すでに天空高くには月が昇っていて地上を静かに照らしていた。
本来なら夜の便は欠航なのだが、ちょうど居合わせた貨物便に
無理を言って乗せてもらい、部屋の一室を借りることとなった。
(もちろん変装してだが)
それでも夜は超低速飛行が定められているので到着は明日の朝となりそうだ。
ククルは窓を開け放し、一人悲しい色の月を見上げていた。
今夜でアークとの旅が最後になると思うとどうしても寝てなんかいられなかった。
しばらく考え込んで視線を部屋の隅の方に座って俯きながら眠っているアークへと移す。
まだいる。
アークが自分の視界の中にいる。
そう思うと心の奥深くがひどく安諸した。
目の前にいるのは間違いなくアークだ。
けど今の自分の知っているアークではない…。
6日前に別れたアークと5日前に再会した彼
全くの同一人物だがその間には1年という時間の流れがあった。
背が自分より頭1個分高くなった。
顔も体も随分男らしくなった。
急に視線をまた窓の外に向ける。
日がたつにつれてアークの顔を見るのがつらくなっていった。
今のククルにとって目の前の彼を愛することなど許されることではないのだ。
また期待してしまえば別れを笑顔で飾るなんて器用な真似を出来る自信はない。
なによりもそれが自分たちの背負うことになった宿命
『孤独』になればかえって楽なのかもしれない。
『孤独』は昔から慣れていたから、きっと大丈夫
一人でだって耐えられる…。
心と体はどうしてこうも対を成すのか…。
体は正直者で涙は望んでもいないのに勝手に流れ出る。
一筋流れれば、感情はどんどん溢れ出す。
「…ククル」
すると、いつの間にか後ろにいたアークがふわっとククルを抱きしめた。
ククルは涙をアークに見せないように大急ぎで拭ったものの全く効果はない。
頬を流れる涙は一定の場所を流れ、止まることはなかった。
無理に顔を笑顔に形作った表情が余計に切なさを増す。
「ごめ…起こしちゃ…たね…」
止まらないしゃっくりにイラつきを覚え胸元をぎゅっと握り締める。
「…ずっと起きてた…」
アークもククルに対する想いは同じなのだ。
できるなら寂しい想いはさせたくない。
自分以上に苦しむ彼女にかける言葉が見つからない。
今の彼女にしてやれるのがこれしかないことに自分で自分に嫌気がした。
耳元から聞こえる優しい声と体中から伝わる温もりにもう何もかも捨てたくなった。
だがそれは限界で留まり、アークの体を押しやって再度窓の外を見やる。
「…ごめん…今、甘えたら…これからきっと…ダメになると思うから…」
孤独は慣れてるから…
「私…今までずっと…一人でやって来れたから…」
だから…大丈夫…
この旅でみんなに出会って喜びを知った。
みんなといるだけであんなに楽しかった。
今まで生きてきて、初めて本気で笑った…。
そんな束の間の休息が終わった…ただそれだけのこと。
…なのに…
…いつからこんなに弱くなったんだろう…
「…一人は…いや…!」
口から出る強がりとそれに乗せた様々な想いがいっぱいになって
隠していた本音と共に更に涙の量が増した。
アークは黙って再びククルを抱きしめて頭を撫でる。
「みんながいなくなってたった1日で気が狂いそうだったのに…!
これからどうしたらいいのよ…!!」
アークと出会う前から親と決別してずっと一人で孤独に生きてきたククル
誰にも本心を見せないで一人で強がって見せていたが、本当はずっと寂しかった。
せっかく出会えた仲間…愛する人…
その別れが一昔前の孤独な自分を思い出させて絶望の淵に
追い込んでしまっていたのだ。
アークはただただひたすらククルを抱きしめていた。
自分の温もりがずっとククルを包んでいられるように…
次の日二人はスメリアに到着し、トウヴィルの神殿へと足を進めた。
ついに別れのとき。
もう枯れるほど泣いた。
覚悟も出来た。
アークに一瞬切なげに微笑んで言葉も無しにククルは静かに詠唱を始めた。
アークの体は徐々に光に包まれだしそしてだんだんと透けていく。
ククルはもう見ていられなくて静かに目を閉じて詠唱を続けた。
次に目を開けたときにはもうそこに彼はいない…。
昨日流しきったはずの涙がまた瞳の奥から熱を帯び始めた。
次の瞬間
唇に僅かに温もりを残してアークはその場から姿を消した。
何が起こったのか頭の中を何かが駆け巡って驚いて目をあけたが
目の前に見えるのは古い石造りの神殿の壁だけ。
1人神殿に残されたククルは先ほどとは打って変わり、
妙にすがすがしい気分になっていた。
今までの5日間がまるで夢の中の出来事だったかのように…。
「またね、アーク。」
晴れ晴れとした笑顔で、そう…
「おかえり、アーク。」
現在のトウヴィル。
過去のククルと別れ、一瞬のうちに1年成長した彼女と顔を合わせる。
自分でも驚くほど素直に綺麗だと思った。
だが、どこか余所余所しげに彼女から視線をはずす。
「どしたの、アーク?ただいまは?」
光るような優しい笑顔で自分に降り注がれる声
そんな笑顔の裏に1年前の彼女のあの搾り出されるような想いが
重なって見え、とんでもない罪悪感が生じる。
結局自分はククルのこと何も分かってやれなかった。
『離れたくない』
彼女は過去の自分に一度本心を見せてくれた。
危険信号を自分に向けて出してくれていたのに…
…その想いをいとも簡単に手放してしまった。
ククル1人にあんなにつらい想いをさせていた自分に何だか
情けなく思った。
しばらく俯いて何も反応を示さないアークに近寄って両手で
頬を挟んで強制的に顔を上げさせた。
「…アーク、私、あの時あなたが来てくれなかったら…
もしかしたらあのまま身投げしてたかもしれない。」
まるで心の中を読まれているかのようにゆっくり話し出したククルに
目を見開いて思わず視線を合わせた。
視線が間近で絡まる。
アークの今にも泣き出しそうな表情を見てククルも一瞬顔を歪めたが
すぐに先ほどの笑みに戻り、そのままアークの唇に自分の唇を重ねあわせた。
「…ね、別れ際にアークにこうしてもらったよね…。あの時それでもう何もかも吹っ飛んじゃった。
こうしてまたあなたと会えた。それだけでも十分なんだから。」
だから…そんなつらい顔しないで。
あなたが思い悩むことは何もないんだから…。
言葉に出さなかった想いも瞳だけでアークにそう語りかけた。
…本当に…自分は情けないなと思う…。
やっぱり彼女のほうが1歩上のようである。
ククルに柔らかい笑顔を送って言葉では言い表せない想いを
全て詰め込んで強く強く抱きしめた。
「…この先何があっても…絶対離さないから…!」
「…よし。じゃあ、約束☆」
『孤独』を色で表すとしたら何色だろうか
『孤独』に色なんて存在しない。
あえて言うなら『無色』
そこからいろんな色が生まれるんだから…