綺麗な綺麗な氷の結晶は
薄暗い雲の中を儚く降りてきて
いつの間にか溶けて消えてなくなっていく
降り積もる雪
「ふぅ…今日は冷えるなぁ…。」
11月も下旬
今日も1日牧場での仕事を終えたリーザが後片付けをしている最中
フォレスタモールを一筋の風が通り過ぎていった。
淡く薄い…それでいて身を刺すような冷たさは「冬」そのものを示している。
日は沈みかけ、その寒さを一層際立たせていた。
モンスターたちも小屋にこもり、暖炉の傍で身を寄せ合う。
そんな光景を微笑ましく見つめ、リーザは静かに戸を閉めた。
天を見上げれば灰の色をした空がこの地を覆うかのように広がりだそうとしている。
…恐らく夕方というだけではないだろう。
「一雨くるのかな…」
ふと、今夜帰るという予定であった夫の姿を思い出す。
リーザの心はこの空と同じ色に包まれだした。
もしかしたらこのまま帰って来れないんじゃないか…
そんなことまでもが頭に浮かぶ。
妙な不安と胸騒ぎ
「そうだ。迎えに行こうかな。」
会うのも随分久しぶりだ。
早く会って名前を呼んで欲しい。
身支度を整え、上着を羽織って1歩外に出た瞬間、前髪に何か冷たいものが触れた。
(降ってきちゃった…?)
そう思いながら見上げた空
しかし、そこには真っ暗闇の中をしんしんと白い水玉模様が彩られていた。
「…雪…?」
11月にしては早いんじゃ…
感情的になるより、何よりも早く思った感想がこれ。
全身に当たる冷たい感触に偽りなどなかった。
雪など見るなんて10年ぶりかもしれない。
そっと手を目の前に出して1粒の雪を受け止める。
冷たい…そう思った時にはすでに「雪」ではなくなっていた…。
…一瞬の命…
生あるものには必ず訪れる…逃れられぬ死
ふいに頭の中をそんなことがよぎったと同時に手の中で消えた雪と
数年前目の当たりにした、ある人の死が重なった。
人の生も、また一瞬
一瞬だから…みんな一生懸命輝こうとする。
一生懸命…生きてたのに…
それを勝手に他人の手によって弄ばれて…許されるのか?
「…おじいちゃん…?」
また見上げると全てを飲み込まれそうな暗く重い闇の中を必死に、
けれどやわらかく、やんわりと降りしきる雪
急にあの優しかった祖父の笑顔が思い浮かんだ。
寒いはずなのに何だか頬が暖かい…
牧場の真ん中まで歩いてもう一度夜空を見上げる。
そして、微かに積もり始めていたその地にペタンと座り込んだ。
ポツリ、ポツリと見え始めた白い絨毯はまだところどころ隙間が出来ていて、
まるでケーキの上にかけられた粉砂糖のよう。
冷たいのに…あたたかい…。
「おじいちゃん…」
そのあたたかさはその人に似ていた。
唯一人、自分を支えてくれた人…
?
…一人…?
…一人なの…?
違う?
私にはたくさんの仲間が…いる…
この雪のように…私を包んでくれる人が…たくさんいる…
私を…愛してくれる人が…
「リーザ…?」
ほら…ね?
私の名前を呼んでくれる人が…いて…
…怖いくらい…幸せで…
声がした入口の方を見やると、やはりそこには想像通りの人が立っていた。
頭と肩には少し雪を被っている。
特に意識もしなかったがリーザはふんわりと彼に微笑む。
「おかえり、エルク」
ドサっと荷物を落としてリーザの元へ大急ぎで駆けつける。
リーザが闇の中で光に包まれているような…そんな感じがした。
このまま雪と一緒に溶けて消えてしまうんじゃないかと思っていてもたってもいられなかった。
「おまえ…!何やってんだよ、こんなトコで!風邪引いちまうぞ!」
自分の着ているコートを脱いでリーザにかけてやろうとした時、
何か妙な違和感に気付いた。
「…何で泣いてんだよ?」
遠くからは見えなかったリーザの表情が見て取るように分かる。
エルクに微笑みかけているがその頬には目から伝って一筋の線が出来ていた。
自分でも気付かなかったらしくエルクのいきなりの発言に
目を見開かせて驚いている。
「え?私、泣いてる?」
あぁ、そうか
泣いてたから頬が暖かかったんだ
あれ?…でも…何で泣いてるの…?
考える間もなく涙はまた瞳から溢れ出ていた。
何かを察したのかエルクはリーザにそっとコートをかけて
更に自分の腕の中に抱きしめる。
「…オレもだよ。…オレも」
雪は容赦なく2人を包むがやっぱりどこかあたたかい…
「雪は、思い出させるよな…。死んだやつのこと…。」
あたたかいエルクの腕の中で安諸してリーザもぎゅっとエルクを抱きしめ返す。
「親父もお袋も故郷のみんな…アークやククルに…リーザのじいさん…。
みんな…いなくなっちゃったけど」
――…リーザには、オレがいるから…
「…うん。」
この人は何でこんなに凄いのかな?
何も言わなくても、私の思ってること、私の全て…
全部分かってくれて、私の不安をなくしてくれて…
ねぇ、おじいちゃん
私、この人のおかげで、今とってもしあわせよ
降り積もる雪の中で2人を包んだのは
たくさんの想いと、どうしようもないくらいの幸せ
雪は更に降り積もる…