そりゃあ私だって精霊の巫女である前に1人の人間なんだから
未来の夢だってあってもよくない?
羨ましい…って思うことがあっちゃいけないかな
夢
「おかえり」
普通誰もが言えるこの言葉はククルにとっては特別な意味を持っていた
「ただいま」
答えてくれる相手も同じく
この二言だけでも心が安らぐのが分かる
必ずここに帰ってきてくれる人がいる
必ず帰りを待っててくれる人がいる
それは日常当たり前のことだけど ここにいる15人の仲間たちにとっては
唯一の束の間の休息なのだ
みんながこの神殿に帰ってくるだけで薄暗かった神殿がパッと
蛍光灯がついたかのように明るい場所へと変わる
これだけの大人数なのだからそれぞれ性格は違ってくるもの
物静かな人もいれば大声でバカ笑いして走りまわる人もいる
この雰囲気がククルは大好きだった
昔の自分に戻してくれるような気がするのだ
ケンカして大騒ぎして大声で笑って…
作戦会議のときも まじめに聞いている人もいれば意見の反論で取っ組み
合いになることもあった
にぎやかなのは毎度のことだが ククルにとってはとても貴重な時間だった
そんな仲間たちを見てると ついつい思ってしまう…
自分もいつか…もう一度…
こうゆう日はいつも布団に入ってもすぐに寝つけて 翌朝早くに目覚める
まだ夜は明けておらず 窓の外は黒一色に染められていた
寝巻き姿のまま上に1枚薄いカーディガンを羽織って外へ向かうククル
岸壁まで行ってシルバーノアを凝視する
岸壁は風が強く ククルの紫色の髪をサラサラと軽くなびかせた
大きなスメリアのマークが目印の飛行船
かつては自分も乗船していたもう一つの仲間
自分が船を下り降りた今 この中はどうなっているんだろうか
もう自分には縁のない場所へと変わってしまったのか…
「なにやってんの?」
ふいに後ろから誰かにだきしめられた
耳元でささやく優しい声
誰だかは見なくても分かるけど
「…アーク…」
彼もまた寝巻き姿のまま
「目 覚めちゃって部屋行ってもククルがいなかったからさ 探してたんだ
…どうしたの?こんな時間にこんな薄着のままじゃ風邪引くよ?」
アークの薄茶の髪がククルの髪と混ざり合ってなびく
「私は平気よ。
アークがこうしててくれてるから…平気だもん。
アークの方が風邪引いちゃうよ。」
微笑んで自分の体に絡んでくれている腕に手を添える
「俺だってあったかいよ。ククルがそばにいるだけでも…」
耳元から聞こえるアークの言葉1つ1つがくすぐったい
アークの腕の力が更に強くなった
ククルが素直にアークの胸に身を任せる
「…みんながうらやましい…」
薄暗くなってきた夜明け前の夜空に向かってぽつりとつぶやく
「私ね このシルバーノアで空の上から見下ろす世界が大好きだったの」
白みだそうとしている薄闇の中に明星がぽっかりと静かに煌いた
「あの頃は7人だけで 何だか中が広く感じたよね」
ふつふつと蘇る『あの頃』の記憶
あのときは当たり前に存在していた日々も
今となっては夢の世界
「あーあ!あの時間もっと大切にしとけば良かったなあ」
溜息と混ざり合った言葉
一瞬 ふとすぐ横にある愛しの人の顔を見つめる
「…もっと早く この気持ちに気付けば良かった…」
どこか切なげな色を浮かばせたその顔をアークは黙って見つめていた
泣き出しそうな顔をしたかと思えば頬を赤らめて小さく微笑んだ
「そしたら…もっと早くからアークの近くにいられたのに…ね」
―――心が…痛かった
「せっかく気付けたっていうときにはすぐに離れ離れにされちゃって、
そばにいたいときにいっしょにいられなくて…いじわるな神様よねー」
彼女の一言一言から悲痛な叫びが聞こえてくるような気がした…
「…また 旅したいなあ」
運命に縛られた彼女の夢は
「またアークといっしょに世界中飛び回りたいな…」
目を瞑って俯く
さっきよりまた更に紅潮した頬にアークが小さく音を立ててキスをした
「大丈夫!全てが終わったら俺、ずっとククルのそばにいるよ。
そのときはまたいっしょに旅しよう。この船で!」
にっとククルに笑いかけると 急にククルを抱き上げた
「きゃっ!アーク!?」
「ホントはこのままさらっていきたいところなんだけどね」
悪戯っぽく笑って1回転して地に座り込む
朝日が水平線の彼方から顔を覗かせてはっきりとククルの顔を映し出した
「ククル 大好きだよ。…俺を置いていなくならないでよ?」
「それはこっちのセリフよ。私もアークだーい好き!!」
アークの背に腕を回してぎゅーっと抱きつくククル
アークもそっと包み込むようにククルを抱きしめた
夜明けが来た
今日もステキな1日が始まりますように…
今の願いはただそれだけ