ここは解放軍の本拠地。
現在解放軍では帝国軍との戦争も一段落し、穏やかな空気が城中を流れていた。
その城の一角にオレンジのマントに身を包んだ男がいた、名をキルケという。
彼は特に予定もなく空を眺めていた。
(平和だな……まるで戦争中などというのが嘘のようだ)
スカウトされてから今までのことをキルケは思い出していた。
鎌で死刑囚の首を切る仕事、それが彼の今までの仕事だった。
ロリマー城砦がネクロードに襲われ彼は仕事を失った。
そこを解放軍のリーダーと名乗る少年に拾われて、解放軍のために力をつくし今は力を振るっ
ている。
(まさかこんなことになるとはな……今までの俺の人生じゃ考えもつかなかったな)
キルケは軽く口の端を吊り上げた。
「何笑ってるの、キルケお兄さん」
キルケの背後から声がする。
キルケが後ろを振り向くとそこには立派なヒゲを蓄えた少年……と思われる声の持ち主がいた。
「……いつからそこにいたんだユーゴ」
「んー、今来たとこですよ」
ユーゴと呼ばれた少年は屈託のない笑顔でキルケの問に答えた。
「ところでさ、キルケお兄さん今暇ですか?」
「別に用はないが……」
「よかった、ちょっと出かけたいんだけど護衛してくれないですか?」
「モーガンはどうした」
キルケの脳裏にユーゴと仲のいい盲目の格闘家の姿が思い浮かぶ。
頼みごとがあるならあいつにすればいいだろう……と、思った。
「モーガンお兄ちゃんは今日はお出かけです」
(そういえば、朝マッシュに呼ばれていたな……おそらくリーダーについていったんだろう)
「駄目ですか?」
ユーゴは首を少し傾けてキルケの顔をうかがっている。
「……まぁ特に予定はないが」
ユーゴの顔がパァッと明るくなる。
「それじゃあ、お願いします!あ、僕ちょっと準備するんでビッキーお姉ちゃんの所に先に行って
て下さい!」
そういうとユーゴはあっという間に走り去って行ってしまった。
「……何処に行くつもりなのか聞いていなかったな……まぁいい」
キルケは隣に立てかけてあった鎌を手に取ると地下へ向かって歩き出した。


ビッキーの所についてしばらくたつがユーゴはまだ来ない。
「キルケさん、お出かけですかぁ?」
「……ああ、ユーゴが護衛をしてくれといったからな」
あの仕事熱心な司書のことだ、大方本でも購入しに行くのだろう、とキルケは言葉を続けた。
「どいてくださ〜い」
ユーゴの声だ。
キルケが声のした方向を見ると、大きな花束をいくつも抱えたユーゴがこっちの方向へよろよろと
歩いてくるところだった。
「遅くなっちゃってごめんなさい!」
「いや……」
それよりその花は何だ、とキルケが尋ねる前にユーゴに阻まれた。
「あ、ビッキーお姉ちゃんテレポートお願いします!」
「うん、何処に行くの?」
「ええとですね……」
ユーゴがビッキーに行き先を告げる。
その行き先は声が小さくて聞き取れなかった。
「ええっ?!そんなところに行くの?!」
「大丈夫ですよ〜キルケお兄さんもついてますし、ね」
「え、ああ……」
いきなり話を振られたキルケは少し戸惑いつつも同意する。 これでも多少腕には自信がある、よっぽのことがない限りは大丈夫だろうとキルケは考えた。
「それじゃ、いくよ!え〜い!」
ビッキーが呪文を唱える。
二人の体が光の粒子につつまれやがて、消え去った。
いつ体験してもこの瞬間はなれないな……キルケはそんなことを思っていた。


「ここは……」
テレポート先は大きな城の前であった。
人の気配はない、当然であるここは少し前まで吸血鬼が住んでいた場所なのだから……
「もうゾンビはいないとは思うんですけど、もしかしたら魔物がすんでるかもしれないので気をつ
けて下さいね」
ユーゴが扉を開ける。
主を失った城の扉は簡単に訪問者を招きいれた。
キルケはときおり現れる魔物や野生の動物を倒しながらユーゴの後についていく。
そして二人は元ネクロードが住んでいたであろう部屋までたどり着いた。
割れたステンドグラスからは日が差し込み部屋の中心には大きなパイプオルガンが設置されて
いる。
「ここが……ネクロードがいたところですかね?」
部屋には気配はしないものの戦いの後がいたるところに残されている。
ユーゴは部屋の中心に行くと持ってきた花束をひとつひとつ床に落としていく。
全ての花束を撒いたユーゴはその花束の近くの床にしゃがみこみ目を閉じた。
それはまるで死者を弔っているようだった。
ユーゴが目を閉じながら何かをつぶやく。
それはとても小さな声であったが「安らかに」とつぶやいたようにキルケには聞こえた。
まるで永遠に続くような空白の時間。
やがてユーゴが目を開いた。
「……ありがとうございました、キルケさん」
「……弔いか?」
「……ええ、クロン寺の方々の……本当はもっとはやく来れればよかったんですけど」
ユーゴがぽつりぽつりと言葉を漏らす。
「ネクロードを倒しに、クロン寺の人々は行ってしまいました。僕やフッケンおじいちゃんが止め
るのも聞かないで……、また一人また一人、そして最後には修行をしていた人は一人もいなく
なってしまいました……」
ユーゴの目に涙がたまる。
「戦士の村を襲ったゾンビやお兄ちゃん達と戦ったゾンビの中にクロンの人がいたかもしれま
せん……クロンの人が何処で亡くなったのかはわかりませんが人として死んだのは、たぶん
この場所だと思います……」
ユーゴの目から涙がこぼれる。
「……僕に優しくしてくれたあの人も一生懸命修行をしてたあの人も……」
キルケはそんなユーゴを見ながらロリマー城砦のことを思い出していた。
墓に開いた無数の穴、そこからもゾンビがはいでたのだろう。
それらのゾンビは何処へ行ったのだろうか。
クロン寺の僧院に倒されたのだろうか、それともリーダーに倒されたのだろうか。
もしかしたらネクロードが倒されたと同時に朽ち果ててしまったのかもしれない。
自分が命を刈り取ったものではあるが、2度死ぬとはどういう気分だったのだろう。
キルケは自分のマントの中から何かを取り出した。
キルケの片手には年代物のワインが握られている。
「こいつは後でモーガン辺りと飲もうと思っていたんだがな……」
キルケはワインの口を開けコルクを抜き瓶を傾けた。
赤いワインが城の冷たい床の上に広がっていく。
それは少しずつ床に染み込んでいった。
ユーゴが赤くなった目でキルケを見つめる。
「……弔い酒といったら、笑うか?」
自分が一度殺した者たちを弔う。
なんと矛盾に満ちた行為だろう。
「……いいえ」
ユーゴはつぶやいてもう一度目をつぶる。
キルケも目を閉じ思いを馳せる。
血塗られた鎌。
もう仕事を失った俺にこれは必要ないだろう。
戦争が終わったらどうしようか。
……そうだな、今度は何かを生み出すような仕事がいい。
何でこんなことを思うのかとキルケは考えたが答えはでなかった。
そのとき一陣の風が吹いた。
割れたステンドグラスから空気が入ったのだろう。
それは、とても温かい風だった。
葡萄の匂いがあたりに広がる。
キルケが目を開けると風によって巻き上げられた花びらが宙を舞っていた。
それはとても幻想的な光景でいつのまにか目を開けたユーゴと一緒に舞い落ちる花びらを最後
の一枚が床に落ちるまで見つめていた。
キルケは空になったワインの瓶を床に置いた。
ワインはもう床に染み込んでなくなっていた。


「……今日はありがとうございました」
「いや」
キルケとユーゴは城の前に立っていた。
もう空は日が落ち暗くなっている。
「あ、もう一つお願いがあるんですが」
「何だ?」
「その〜クロン寺においてきちゃった本を運ぶの手伝って欲しいんですけど……」
「……お前最初からそれが目的だったな?」
「違いますよう、ついでですよ、ついで」
ユーゴが笑う、そこにさっきまでの泣き顔は見つからない。
「帰りはこの借りてきたまたたきの手鏡でひとっ飛びですから〜、お願いしますよ〜」
「……別にかまわない」
「やったぁ!じゃあ早く行きましょうよ!」
ユーゴが駆け出す。
「お、おい走るなよ!」
キルケが慌ててそれに続く。
キルケはもう一度城を振り返った。
そこにはさっきとかわらない大きな城がたたずんでいる。
「……安らかに……俺が言えた言葉じゃないけどな」
キルケは軽く城に向かって手を振ると、先に行ってしまったユーゴを追いかけるために走り出し
た。




4800ヒットキリリクで頂きました。
立派なひげを蓄えた「少年」って(笑)
そんなユーゴの登場シーンからまず笑ってしまいました。
クロン寺のことを考えるユーゴ…なんてかわいいw
そしてキルケ兄さんかっこよすぎです!
最後は幻想的ですね♪
ありがとうございました!

頂き物へテレポート!