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空を舞う5匹のむささび―――。
青いマントをひるがえすは、隊のナンバー2、マクマク。
ピンクのマントをひるがえすは、隊のアイドル、ミクミク。
緑のマントをひるがえすは、たれ眉のメクメク。
黄色のマントをひるがえすは、カレー大好き、モクモク。
そして先頭で赤いマントをひるがえすは、隊のリーダー、ムクムク。
彼らのことを人はこう呼ぶ―――むささび5と……。
むささび達にとってキャロの街への遠出は久しぶりだった。それだけに、ムクムクは幼馴染のアクアに会うのをとても楽しみにしていた。
「もうすぐアクアに会えるム〜 。アクアはどうしているかム〜」
そんなことを考ええているムクムクを横を飛んでいるミクミクは笑って見ていた。
「早く会えるといいミー、ムクムク」
「ムムー!」
キャロの街北西の、とある道場。その裏の一本の木にムクムクは下り立った。
「アクアはどこにいるムー」
しばらく辺りを見渡していると、人がやってくる音がした。
ムクムクがそっちを向くと、そこにはアクアの姿があった。
「ムムムー!」
ムクムクはそう言ってアクアの元へ飛び出した。
ムクムクの叫びに気づいたアクアは、声の方を見た途端、飛びついてきたムクムクを受け止めるかたちとなってしまった。
「久しぶりだムー。元気にしていたかム?」
「ああ、元気だったよ。驚いたよ、突然出てきて」
「ごめんム〜。今日はみんなもいるム〜」
そう言って、ムクムクは後ろにいる仲間を紹介し、またアクアに向き直った。
「最近はどうしてるム?確か少年兵部隊に入ったとか言ってたム?」
「うん、そうなんだけど……」
急にアクアの表情が暗転した。
「どうしたム?」
「それが…」
アクアは少し辺りを見回してから、声を落としてこれまでのいきさつを語った。
「何だってム!スパイ容疑で追われてるム〜!?」
「しっ!静かに!」
アクアは慌ててまた辺りを見回す。
「ご、ごめんム。でも、これからどうするム?追っても来るかもしれないム?」
「ああ…急いで逃げなくちゃならないんだ」
視線を落として口を結んだアクア。
それを見て、ムクムクは言った。
「オイラも行くム!そして一緒に戦うム!」
その言葉にアクアと、他のむささび達までもが驚いていた。
「ムクムク…君の気持ちは嬉しいよ。でもこんなことに君まで巻き込むわけにはいかないよ」
「でもアクアはオイラにとって、とっても大事な人ム。そんな人が危険な目に遭うのを見過ごすわけにはいかないム!」
「でも君の仲間はどうするんだい?大切な仲間なんだろ?もし君が僕についてきたとしたら、君は次にいつ仲間と会えるかわからないよ?」
アクアにそう言われて、ムクムクは仲間の方を見た。彼らもまた複雑な表情でムクムクを見ている。
アクアをこのまま行かせるわけには行かない。でも仲間に会えなくなるのも嫌だ。一緒に連れてくるのも危険だ。
ムクムクの小さな頭はフル回転していた。そして―――。
「マクマク…」
下を向いたままのムクムクが言った。
「な、何だマ?」
マクマクがおそるおそる言った。そしてそれにムクムクは目を瞑って言った。
「ナンバー2のお前に、むささび5のリーダーを任せる!」
「!ムクムク!お前マ!」
ムクムクの発言に、そこにいた全員はまたしても驚いた。
「待ってミ!」
ミクミクがムクムクの背中に向かって言ったが、ムクムクは振り返らずに言った。
「もしかしたら、君たちだってあの森に戻れなくなるかもしれないんだム!?」
「それはミ…」
森…それは故郷であるグリンヒルの森。長年住みついたあの森に帰れなくなるかもしれないことを思うと、さすがのミクミクもそれ以上何も言えなかった。
「君たちをそこまで巻き込むわけにはいかないム…すまないム…」
そしてムクムクはアクアの腕をつかんで去ろうとした。
「おい、ムクムク!待つマー!」
マクマクが大声で叫ぶ。しかしムクムクの足は止まらない。ただ一度だけ振り返った。
「マクマクー!オイラは必ず、必ず帰るムー!それまで後のことは頼んだムーッ!」
そしてムクムクの姿は消えていった。
残ったのは、茫然と立ち尽くす4匹のむささび。
「い、行っちまったモ…」
モクモクが呟いた。
「な、なんだってんだマ…」
今度はマクマクが言った。しかし次の瞬間には叫んでいた。
「何だよあいつマ!オレたちのことはどうだっていいのかマ!?」
激情するマクマクをメクメクがなだめようとする。
「落ち着くメ〜マクマク〜」
「落ち着けるかよっ!あいつ、急にオレたちのこと置いていきやがったんだマ!あの幼馴染とかいう人間についてってマ!?しかも後のことは頼んだとか抜かしやがってマ!」
思いのままを叫んだ後、マクマクは土を勢いよく蹴った。
「で、でもマクマク」
怒りを抑えきれないマクマクにメクメクはおどおどしている。
「あの人間はこれといっておいしそうな匂いはしていなかったと思わないかメ?」
その言葉にマクマクは怒りを制しようとしつつ、アクアのことを思い出そうとした。
「…そういえば、おいしそうな匂いはしてなかったマ」
少し落ち着いたマクマクにほっとしたのか、メクメクがここぞとばかりに勇気を振り絞って強く言う。
「だよメ。だからそんな人間についていってもいいことないメ!」
「それはそうだマ…」
メクメクの言葉に一同は頷く。
「ムクムクは必ず戻るって言ってたんだし、とりあえず森に戻るモ〜」
そうモクモクが言うと、一同はゆっくり飛び立っていった。
あれから長い年月が経った。
ムクムクは本拠地・ニューウィンドゥ城の屋上にいた。
アクアは紋章を手にし、ジョウイと別れ、ノースウィンドゥ城をニューウィンドゥ城と改め、新同盟軍のリーダーとまでなった。
これまで仲間が少ない中、ムクムクは随所で活躍し、アクア達に貢献した。しかし後に残していったむささび達のことを忘れたわけではない。
そんなムクムクはここへきて、困っていた。
「仲間を集めてほしい」
そんなアクアの言葉が、ムクムクの次の役目だった。
仲間と言われて、4匹のむささび達のことを思い出さないはずがない。無論、アクアが彼らのことを言ったとは思えないけれど。
あの時アクアは追われていて、それに仲間を巻き込むことは危険だった。
今は追われてはいないが、新同盟軍として王国軍と戦わなければならない。そのためにはたくさんの仲間が集まって、一致団結することが必要だ。
…戦争で命を落とすかもしれない。
そう考えた途端、ムクムクはぶるぶるっと首を振った。
ふと、遠い故郷の方を見つめた。
あれからグリンヒルの森に一度も戻っていない。
ただ昔のことばかりが思い出される。木の上から人間を観察した日。木の上からどうやって登場するか決めポーズと台詞を考えた日。木の上から何回回って着地できるか競って怪我した日。木の上から大量のどんぐりを落とす罠を作って敵をボコボコにしようと思ったのに、自分が掛かった日。木の上でトレードマークのマントを使ってマジックの練習をしてたら、マントを台無しにした日。木の上で…。
「ムム…思い出すときりがないム…」
ムクムクは鼻をすすった。
「あいつらは、オイラのことどう思ってるんだろうムー」
突然置いていって、ひどい奴だと思っているかもしれない。
もし「新同盟軍の仲間になってほしい」なんて言ったら、都合がいいと思われるかもしれない。
でも、それでも。
「やっぱりオイラはあいつらと一緒にいたいム!一緒に戦いたいム!」
ムクムクは飛んだ。空高く飛んだ。
あいつらを呼ぼう。そして一緒に戦おう。
今こそみんなで戦うべき時なのだから。
「それは本当かい、ムクムク!?仲間になってくれるかもしれない人がいるんだね!」
アクアが喜んで言った。
「本当だム。 でもその代わりアクアにグリンヒルの森まで来てほしいム」
「いいよ。ぜひ行こう。そこにいるんだね、その人は」
「そうだム」
アクアは立ち上がって、早速行こうとした。
「あ、ちょっと待つム」
「なんだい、ムクムク?」
「先にレストランで食事するム〜」
「食事?さっき食べたばかりなんだけど」
「少しでもいいから食べるム♪」
「?」
グリンヒルの森で、3匹のむささびたちは暇を持て余していた。
「暇ミ〜」
「何か面白いことはないのかマ〜」
「メメ〜」
ちなみに3匹目は羊ではない。メクメクである。
ムクムクが去ってから、こんな日が多くなった。マクマクにリーダーの役目が任されたと言っても、マクマクはムクムクではない。みんなムクムクがいないことに物足りなさを感じていた。
「あいつはいつ戻って来るんだマ〜」
マクマクがそう言うと、木が揺れる音がした。
「誰マ!?」
マクマクの言葉と共に、一同が一斉に音のする方を向くと、モクモクが青ざめた顔でよろよろとやってきた。
「モクモク!どうしたミ!?」
「モ〜……」
モクモクは仲間のところへやってくると、ばたりと倒れた。
「モクモク!?」
一斉に駆け寄るが、モクモクは目を閉じたまま(普段から閉じたままに見えるが)、あくまでもむささびだがモ〜モ〜唸っている。
「どうしたんだメ!何があったメ!」
しかしモクモクは何も答えない。ただ唸っているだけである。
あまりにも辛そうな様子に3匹は狼狽するだけだった。
「一体どうすればいいミ〜。モクモクは一体どうなっちゃうミ〜」
ミクミクが半分泣きながら言う。
「何かいい薬でもないのかマ!」
「薬なんか、あってもモクモクの具合がよくわからないから、どれをあげればいいのかわからないメ〜」
「くそっ!」
ナンバー2として何か力を発揮したいマクマクだが、慌てふためくだけである。
「こんな時にムクムクがいたらいいのにメ…」
メクメクがぼそりと呟いた。
するとマクマクの中に怒りがこみ上げてきた。
「何で、何であいつはいないんだマッ!勝手に置いてって、戻ってくるって言ったくせに戻ってこないマ!」
「僕たちはもうむささび5じゃないのかメ…」
メクメクの言葉を最後に、辺りは沈黙と重い空気が流れた。
その時だった。
何かの匂いがむささびたちの鼻を誘った。
「メメメ…おいしそうな匂いメ…」
その匂いにとりつかれたように、メクメクはふら〜っと飛んでいってしまった。
「この匂いは……マヨカレーミ!」
<マヨカレー:カレーライスのレシピにマヨネーズをいれよう!>
ミクミクもその匂いにつられて一目散に飛んでいった。
「食べたいマ〜」
そしてマクマクも去ろうとすると、マクマクの青いマントを倒れた状態のモクモクが掴んだ。
「どうしたマ、モクモク!」
「…つ、連れてってモ…」
「モクモク、お前マ…」
こんな苦しそうなモクモクは、もしや最期を悟って大好きなカレーを食べたいのだろうか…マクマクにはそう思えた。
「よし、一緒に行くマ!」
マクマクは背中にモクモクを乗せて飛んだ。
<むささびの習性:おいしい匂いがするとついていく>
「ムクムク〜。僕、さっきご飯食べたばっかりだから、あんまり歩けないよ〜」
アクアたちはグリンヒルの森へやってきていた。
「大丈夫ム。もう少しだム」
後ろを歩くアクアを何とか歩かせようと促すムクムク。
そして前を向くと、そこにはひいらぎこぞうが一匹姿を現した。
「げっ!こんな状態でちゃんと戦えるかな…」
「しっかりするム!オイラがいるム!」
内心、ムクムクも少々焦りを感じていた。
しかしこんなところで負けているわけにはいかない!
ムクムクが渾身の一撃を与えようとしたときだった。
「むささび5攻撃ーー!!!」
叫び声と共に、4匹のむささびがやってきて、ムクムクと共に一撃を与えた。
ひいらぎこぞうは即死…。青汁を手に入れた。
<むささび5攻撃:90%の確率で敵一体に即死効果>
「お、お前らム…」
ムクムクの前にはかつての仲間がずらりと並んでいた。
「遅かったじゃねえかマ、ムクムク」
マクマクがとがって言った。しかしその直後、ニッと笑顔を見せた。
「すまなかったム。お願いがあるんだム。オイラと一緒に、新同盟軍に参加してほしいム。しばらくこの森には戻れないけど、この地に平和がおとずれたら、また戻れるム!」
するとミクミクが抱きついてきた。
「ム、ムムー!?」
「もちろんミ、ムクムク。私たち、また一緒にいましょうミ。だってそうじゃなきゃ、むささび5じゃないミ」
「ミクミク!」
ムクムクはアクアを見た。アクアは一言「素敵な仲間だね」と言った。
それをマクマクは涙をこらえながら見ていた。
「それより、モクモクが大変なんだメ!どうにかしてくれメ〜!」
ムクムクは仲間から様子を聞くと、先程手に入れた青汁を取り出した。
「これを飲むム」
無理やり飲ませると、しばらくしてモクモクは大人しくなった。
「さすがミ!」
「やっぱりムクムクがいないとマ!」
こうして、むささび5は新同盟軍の仲間になった。
<むささびを仲間にする条件:グリンヒル周辺の森をパーティー5人以下で歩いていると、いつのまにか仲間になっている>
その後―――――本拠地レストランにて。
ご飯を食べようとしていたむささびたち。
「あーっ!お前、この間ライスカレーを何皿もタダ食いしてったやつねー!許さないねー!」
ハイヨーがフライパンを持ってモクモクに向かってきた。
「どういうことム?…もしかしてこの間よろよろになって帰ってきたのは、これを食べ過ぎたとか、そういうことじゃないよねム?」
「い、いや…そのモ…そうなんだモ…」
「ムムムーーーッッ!!」
ムクムクの怒りが響いた。
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