「坊ちゃん・・・さよ・・・う・・・なら・・・・・・」
「ライト・・・元気でな・・・」
耳元で何度も同じ言葉がざわめく。
耳鳴りのように。
いつまでたっても消えやしない。



「ライト様だ!ライト様がお帰りになったぞ!」
「お帰りなさい、ライト様!」
「お帰りなさい!」
シークの谷、そして竜洞騎士団から城へと戻ってくると、たくさんの人達が出迎えにやってきた。
「ライト様ご無事でなによりです」
人ごみをかきわけて、クレオがを笑みを浮かべながらやってきた。
「ああ、ありがとう・・・」
にっこり笑える状況ではなかったけど、無視をするのもクレオに悪いと思って
とりあえず笑って「ありがとう」と言っておいた。
「とりあえず、みんな今は休んでください。次の事は、また後で連絡しますから」
そうみんなに告げると、不思議そうに見つめるクレオを背に、そそくさと部屋に戻った。
歓喜にあふれるその場所に、いつまでもいたくはなかったから。



扉をきっちりと閉める。
やっと一人になれる空間にきて、扉にもたれかかり、ため息をひとつ。
「すみません、坊ちゃん」
突然、扉の向こうで声がした。
「なっ!?」
驚きのあまり、思わず扉から離れる。
今のは・・・今のはグレミオの声だ!
すると、「あの時」の光景が目の前に現れる。
「坊ちゃん、早くお逃げなさい」
「扉を開けるんだ、グレミオ!早く!早く開けるんだ!」
「私の事はいいですから、さあ早く」
怖いくらいにあの時の光景が生々しく映る。
やめろ、やめろ、やめろ・・・
「やめろおおっっっっっっ!!!」
そう叫びながら窓の方へと走っていった。



はあっ、はあっ、はあっ・・・
荒く息をしながら、額からこぼれる汗もそのままに、僕は窓の外へと顔を出した。
風が顔を包み込む。目をつぶりながら、そのひと時を味わっていた。
「ごめんな、ライト・・・」
と、また声がした。
瞬間、目を開くと僕の顔を包み込んでいたはずの風が、テッドの手へと化していた。
「ひっ!?」
思わず後ずさりをすると、今度は「あの時」の光景が現れた。
「ソウルイーター!今度は俺の魂を盗み取るんだ!」
「テッド!!!!!!」
「・・・・・・ライ・・・ト・・・」
なんで、なんで、なんでこんな・・・
「き、消えろおおおっっっ!!!」
そして僕はベッドに顔をうずめた。
もう何も聞きたくない。
もう何も感じたくない。
何もしたくない、何も、何も・・・。
二人と過ごした時間は、もう二度と戻ってはこない、二度と。
そして二人と過ごした思いでも、いつかは色褪せていくのかもしれない、セピア色の写真のように。
どうしたらいい?どうしたら・・・
すると扉をたたく音がした。
「クレオです・・・ライト様、入ってもよろしいでしょうか?」
僕は少し沈黙をした後、袖で涙をぬぐって扉を開けにいった。
「ああ、入ってもいいよ」



僕が窓のところまで行くと、クレオは扉のところで話し始めた。
「同行なさったフリックさん達から聞きました・・・今回のこと・・・」
「そう・・・」
窓辺に片手をかけながらそう答えた。
ただ、今はこの風にあたっていたかった。
「本当になんと言ったらいいか・・・」
そう、クレオの言う通りさ。
僕だって、何て言ったらいいかわからないさ。
この状況をただ「残酷」とでも言ってしまえば、それで終わりか?
いや違う、そんなはずはない。
そんな言葉で片付けられるような事じゃないんだ・・・。
いつの間にか頬をつたる涙。
「ラ、ライト様!」
クレオが慌てるのをよそに、僕は声に出した。
「本当に・・・本当にわからないんだ・・・・・・どうしたらいいのか・・・」
どっとあふれる感情。
胸をえぐるヴィジョン。
このまま僕には闇しか見えないのか・・・?
「ライト様・・・」
心配そうにクレオが見つめる。
だがしばらくすると口を開いた。
「ライト様は信じる事をつらぬけばいいんです」
クレオの凛とした声が僕の心に響いた。
何かを忘れていた事に気付いた。
「お忘れになったのですか?グレミオが最後に言った言葉・・・」
記憶がよみがえる。
グレミオが残した言葉。
「坊ちゃんは、信じる事をつらぬいてください・・・」
そうだった。
グレミオはそう言ってたじゃないか。
「テッドは・・・テッドは何と言っていました?」
「そんな顔するな、俺の分も生きろって・・・」
そうだ、そうだよ。そう言ってたよ。
「ライト様はそう生きればいいと私は思うのです」
いつのまにか、クレオがそばにいた。
「ライト様の大切な人が残した言葉を忘れないでおくのも、またひとつの生き方でありましょう」
心の中を暖かいものが満たしていく。
あふれる涙を抑えきれない。
「ありが・・・とう・・・クレオ・・・・・・」
もう迷う事はないだろう。
もう死のうとも思わないだろう。
解放軍のリーダーがこんなに、子供みたいに泣きじゃくって
笑われるかもしれない、怒られるかもしれない。
でも、それでもいい。
今だけは、こうしていたい。
明日からは前を向くから。
明日からは前を向くから。
 


・・・初めての幻水ショート・・・やっと終わりました。
やっぱり最初は坊ちゃんかな、なんて勝手に思ったもんで坊ちゃんにしました。
結構ありきたりな話なんですけど、でも二人を失った時の坊ちゃんというのを書いてみたかったのです。
坊ちゃんがそういう意味での、越えなければならない「丘」というものを越える時を。
ただ、パーンを出すのを忘れてました(^_^);
「何故クレオがでているのに俺は出ていないんだー!」とか言ってたりしてね・・・。
ごめんよ、パーン・・・。


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