恋人について。・前編
ある日、ブルーフェザー事務所に一通の手紙が届いた。
「ニュース!ニュースよ、大ニュース!!」
ばたーんと、音も盛大に新聞を小脇に抱えたルーティが食堂に飛び込んできたのは、
メンバーの誰もが休息を取る三時頃。
当然食堂でも何人かがお茶を飲むなりおやつを食べるなりして休憩していて
・・・その場にいた全員の視線がルーティに向けられる。
「何なのルーティ、そんなに慌てて?」
タバコの煙を燻らせながらバーシアが問いかけるが、全力疾走でもしたのか、
ルーティは呼吸を整えるのに必死で答えられない。
彼女がこんな風に騒ぐのはなにも珍しいことではなく、
おまけにその「ニュース」の内容はほとんど大したことのないものばかりだ。
ルーティに声をかけたバーシアもあまり期待しているわけではないようで、『どうせヒマだし聞いてやってもいいか』
ぐらいの気持ちらしく、急かすことはしなかった。
「ル、ルーティちゃん、お水でも飲んで、落ちついて。ね?」
見兼ねたフローネが、台所から水を持ってきた。
「あ、ありがと・・・・・はぁ」
「大丈夫ですかぁ、ルーティさん?」
コップの水を一気に飲み干し、一息ついたルーティの顔を覗き込んだのは、
口の周りにチョコレートをつけたティセ。どうやら彼女はおやつを食べていたらしい。
食堂にいたのはこの三人で、残りのメンバーは二階か自分の部屋で休憩しているようだ。
「うん、ヘーキだよティセ。それより大ニュースなのよ!」
「だから、そのニュースってのは何なのよ?」
「それが・・・」
話の本題に入ろうとしたちょうどその時、廊下側のドアが開いた。
ただドアが開いただけ・・・あれほど大きな音を立てたのだから、誰かが食堂に様子を見にきたって
おかしくないのに、ルーティはオーバーなほど驚いてドアの方に目を向けた。
「何か騒がしいけど、何かあったの?」
ドアの影から顔を出したのは眠たそうな顔をしたビセットだった。
おそらく部屋で昼寝をしていたところを、ルーティの大声で起されたのだろう。
ビセットの姿を確認するや、ルーティはほっと胸をなでおろしてため息をついた。
「な〜んだ、ビセットか。脅かさないでよ」
「脅かすって・・・ルーティが勝手に驚いただけだろ!?」
「い〜からい〜からビセットも聞いて!もう、すっごい大ニュースなんだからっ!」
言いながら、ルーティはポケットの中から一通の手紙を取り出した。
「何それ・・・手紙じゃない。アンタの?」
「違う違う、いいから見てみてよ!」
ルーティがテーブルの上に置いた手紙を、みんな一斉に覗き込んだ。
少し緑がかった白の趣味のいい封筒に、流麗な文字で宛名と差出人の名前が書いてある。
そして、それを読んだ瞬間一同は言葉を失った。
ただ一人、ティセだけが事態を把握できずに首を捻っている。
宛名はルシード・アトレー・・・『第四捜査室室長』ではなくルシード個人に宛てられた手紙のようだ。
彼に仕事関係以外のプライベートな手紙がくることは滅多になく、そういう意味ではこれも確かに珍しい。
・・・が、それよりむしろ問題なのは差出人の方だ。
差出人の名前はマリアンヌ・ソレイス。どこからどう見たって女性の名前だ。
「る、ルーティ・・・これってもしかして・・・!」
「そう!これって絶対ラブレターよ!あたしのカンがそういってるわ!
だってこれこの町の消印だし、知らない名前だし・・・ルシードってば、トラブル起こしてばっかだから
わりと有名人じゃない?だから絶対ラブレターよ!」
「うわーっ、マジかよぉ!くそー、ルシードってば女の子のこととか『興味ねぇ』とか言ってるくせに
妙にモテるんだよなぁ・・・」
ビセットとルーティは二人で勝手に盛り上がっている。
その会話の中の『ルシード』の名前を聞いて、茫然としていたフローネがはっと我に帰った。
「ルーティちゃん、これセンパイの手紙じゃない!こんな風に見世物にするなんてよくないわ!
・・・それに、センパイに見つかったら・・・」
「そんなこと言って、アンタもしっかり見てたじゃないの、フローネ。・・・アンタも気にはなるんでしょ?」
「そ、それは・・・まぁ・・・」
バーシアの言葉に、フローネは返す言葉がない。
「ま、確かにあんまりいいこととは言えないけどね。・・・気になるのは仕方ないじゃない。
別に今ここで開封しようってわけじゃないんだから、ほっときなさいな」
「それは、そうですけど。でも・・・」
「それにあのオコサマたち、アンタの話聞いちゃいないし」
腑に落ちないと言った表情のフローネに呆れた顔でそういって、バーシアは灰皿にタバコを押しつけ、
新しいタバコに手を伸ばした。
「・・・いいんでしょうか、止めなくて。センパイ絶対怒りますよ?」
「いいんじゃないの?アレがアイツらの想像してるモンとは限らないし。
・・・ただの友達とか、同窓会とかの誘いかもしれないじゃない?保安学校のさ」
「それでも怒ると思いますけど・・・」
未だ心配そうな表情をしているフローネをよそに、ビセットとルーティはまだまだ盛り上がっている。
「・・・でも、ラブレターじゃないかもしれないだろ?ほら、何かのお礼とか!」
「なに言ってんのよ!これ香水まで付けてあるのよ!?お礼の手紙にこんな気合いの入ったマネすると思う?」
「えっ?・・・ホントだ、いい匂いがする・・・」
「でしょ?でも・・・そうだね、ラブレターじゃなかったら、きっと昔のオンナだよ!」
「むっ・・・昔のオンナ・・・!?」
「そうそう!でも、ハッキリしたことはルシード本人に聞いてみないとわかんないけどね。
・・・ってワケで、行くわよビセット!」
「わっ!ま、待ってくれよ〜!」
そう言って廊下に向かって駆け出した二人に、ティセが慌てて声をかける。
「あ、ルーティさ〜ん!ご主人さまなら、二階ですぅ〜」
「えっ?今休憩時間でしょ?まだ訓練やってるの?」
「違いますぅ〜。二階の、階段の横の椅子でお昼寝してますぅ〜」
「え〜っ!なんでそんなとこで・・・まぁいいや。ありがと、ティセ!」
ルーティは少しだけ不思議そうな顔をして首を傾げていたが、すぐに進路を変更し階段に向かって走り出した。
その後を、慌ててビセットが追いかける。
「そういえば、センパイってよくあそこで寝てますよね。あの椅子じゃセンパイにはちょっと窮屈そうですけど・・・
部屋に戻るの、そんなに面倒なのかしら・・・?」
階段を上っていくルーティたちを見ながら、フローネが思い出したように呟く。
「さぁねぇ?イロオトコには部屋で寝れない理由があるんじゃないの?」
にやにや笑いながら、バーシアは新しいタバコに火を付けた。
その言葉の意味することが分からずに、フローネが首を傾げる。
バーシアは見ていたのだ。『ニ階の椅子でお昼寝』とティセが言った途端、
ビセットがばつの悪そうな顔をして二階を見上げたのを。
・・・いつもより階段が長く感じた。
まだ、さっきの手紙の香水の匂いが残っている気がする。
甘い、けれどお菓子のような甘さとは全然違う・・・大人っぽい香り。
それだけで、たったこれだけでこんなにも動揺してしまう。
「あ、いたいた。ホントに寝てるよ、あんなトコで!」
ルーティの言葉は、ビセットに届いていなかった。
胸の中のもやもやした気持ちのことで頭がいっぱいで、返事をしている余裕なんてなかった。
なんでこんなに不安で、何がそんなに不満なのか・・・感情が入り交じりすぎてわからない。
本当は行きたくなかった。これ以上進みたくなかった。
結果が怖いから。手紙を受取った瞬間、ルシードがどんな表情をするのか・・・。
それでも足が動いているのは、きっと心のどこかで違う結末を期待している証拠。
・・・もうすぐ、階段を上りきる。
すぐ横を向けば、椅子の上でルシードが眠っているのが見えて、なんだか急に切なくなった。
どうしようもなく胸が・・・痛い。
・・きっと、ルシードは知らない。みんな、誰も知らない。
オレがこんな気持ちでいることを。オレが、ルシードのこと・・・ ・・・・・
「ほらっ!ルシード起きて起きてっ!」
つい先程まで静かだった空間が、唐突にやかましくなった。
おまけに乱暴に身体を揺すられ、ルシードはあまり快適ではない眠りから無理矢理引き戻された。
目を開けて最初に目に入ったのは・・・にやにや笑うルーティの顔。
「・・・んだよ、うるせーな・・・何か用か?」
ルシードは欠伸をしながら上体を起こし、足を床に下ろした。
見てみれば騒音のモトのルーティだけでなく、その横にどこか沈んだ表情のビセットがいる。
この二人がつるんでいるのは珍しいことではないが、雰囲気がいつもと違う。
「二人揃って・・・いったい何だってんだ?」
「ふふふふ・・・ルシード、コ・レ!」
怪訝な顔で尋ねるルシードに答えたのはルーティの方で、何故かわからないがやたら得意気に、
手に持った何かを鼻先に突き出してきた。
・・・懐かしい香りが鼻孔をつく。顔を離して見てみれば、それは一通の手紙だった。
宛名を見なくても、ルシードにはそれが誰からの手紙だか見当がつく。
「これ、ルシード宛でしょ?わざわざ持ってきてあげたんだよ?」
「ああ・・・」
生返事をしながら手紙を受取り、差出人の名前を確認する。間違いない、アイツだ。
・・・ルシードは、自分が険しい表情をしていることに気がつかなかった。
その表情を見てルーティがにまっと笑い、ビセットの顔がさらに曇ったことも。
「ねえ、その人って知り合い?」
「ああ・・・?」
ルーティが興味津々といった目で自分の表情を伺っているのに気づき、ルシードは顔をしかめた。
・・・何となく、彼女の魂胆が読めたのだ。
「・・・お前にゃ関係ないだろが。用がすんだんならさっさと戻れ」
ルシードは思わずため息をつき、手で追い払うような仕種をしながら言った。
「何よその言い方ーっ!それがわざわざ手紙を持ってきてあげた恩人に言うこと!?」
「俺は頼んでねえ。・・・それに、それくらいの恩で人のプライバシーに足突っ込んでいいと思ってんのか、
お前?」
「うっっ・・・そ、それはそうだけど、もっと言い方があるでしょ!?」
「ほーお、そうくるか。じゃあ俺の率直な感謝の気持ちを語らせてもらおうか・・・?」
「うううっっ・・・い、いいわよもう!ルシードのケチっ!」
問答の末、負けたのはルーティの方だった。
捨て台詞を残して走り去る彼女の後ろ姿を見ながら、ルシードが勝ち誇ったように呟く。
「ふん・・・俺に勝とうなんざ十年早えんだよ」
我ながら大人げないと口に出してから気がついて、ルシードは苦笑した。
同時に、ちょっとした違和感を覚える。・・・何かが足らない気がするのだ。
それが何なのか、答えはすぐに出た。
いつもなら絶対にチャチャを入れてくるビセットが、
いつになく沈んだ表情で視線を足元に落としたままずっと黙っている。
いつも必要以上に忙しなく動いている口が、今はきゅっと結ばれたまま動かない。
「・・・おい、ビセット。どうしたんだ?」
ルシードが声を掛けると、ビセットはびくっと肩を震わせ弾かれたように顔を上げた。
「えっ?な、何?」
「何って・・・大丈夫か、お前?様子おかしいぞ?」
「そ、そんなことないよ!いつも通りいつも通り!このビセット様が簡単にダウンするわけないだろ!?」
慌てて言い訳するビセットの顔には、ぎこちない笑いが張り付いている。
普段が笑ってる顔ばかりなので、その辺の違いはすぐに気づける。嘘も、見抜けてしまう。
だが、ルシードにあまり深く追求する気はなかった。
何を悩んでいるのかは知らないが、ビセットは本当にどうしようもなくなった時はちゃんと自分から相談しにくる。
そしてその相談相手はだいたい自分であることを、ルシードは今までの経験で学んでいた。
(なにせ『保護者』だもんな・・・)
心の中で呟いて、ルシードはため息をついた。
「・・・まぁいいけどよ。で?お前はなんの用なんだ?」
「へ?」
「・・・ルーティが話し終わるの待ってたんじゃないのか?」
「そ・・・そうそう、そうなんだよ!あんまりルーティが長話してたから、忘れちゃうとこだった!あは、あははは・・・」
普段のお前なら待ってないで割りこんでくるだろうが・・・そうツッコミたいところだったが、
今のビセットにそんなこと言ったらへこみそうなのでやめておく。
「確かにお前の頭じゃ忘れてもおかしかないな。・・・で、何なんだ?」
「え、え〜っと・・・その・・・あの・・・」
気を利かせて聞いてみたのだが、どうやら逆効果だったらしい。
ビセットは明らかに迷い、何を言おうか言葉を探しているように見えた。
いったい何しにきたんだと聞きたいところだが、それこそ逆効果だ。
辛抱強く待っていると、ビセットは言い難そうに口を開いた。
下手すれば聞き逃してしまいそうなほど小さな声で告げられたその言葉は、
少なくともルシードにとっては意外な言葉だった。
「・・・ルシードのベッド、勝手に使ってごめん・・・」
「・・・あ?」
ビセットがルシードの部屋で昼寝をするのは相当前からで、今に始まったことではない。
最初のうちは叩き起して追い出したりもしていたが、最近はもう諦めたというか・・・
あんまり無防備に、気持ち良さそうに寝ているので、起こせなくなったというのが現状だ。
本人も起こされなくなったことをいいことに、毎日のように人の部屋に入りこんでは昼寝をしている。
・・・だから、今更謝られるなど思ってもみなかった。
何か迷っているように見えたのも、謝罪の言葉を探していたのだろうか?
思わず考え込んでしまい二の句の告げないルシードを見て、
自分の言った言葉の意味が分かっていないのかと思ったのだろう、ビセットは俯いたままもう一度言葉を紡ぐ。
「だから・・・勝手に部屋で昼寝してごめん。オレのせいでルシードがこんなとこに寝るハメになってるなんて、
考えてなかったから・・・」
「い、いや別に気にしてねえよ。お前みたいに毎日昼寝してるわけじゃねえし、
今日だってたまたま寝る気になっただけだ」
ルシードは慌てて首を振った。
気にしてない訳ではなかったが、ビセットの口調があまりにも殊勝だったので
そう言わずにはいられなかったのだ。
「もしかして、誰かに言われたのか?俺に謝ってこいとか・・・」
そういうことを言いそうな人物で、かつビセットが落ち込みそうな人物といえば
・・・と、つい考えを巡らせてしまったが、ビセットは無言のまま首を振り否定した。
「そ、そうか・・・なら、いいけどよ。俺は気にしてねえから、お前もあんまり気にするな。
もし本当に部屋で寝る気になったら、お前を叩き起してでも場所取り返すしな」
「・・・・・」
ビセットはわずかに顔を上げ、無言のままじっとルシードを見つめている。
「な、何だよ?俺の顔に何か付いてるか?」
ビセットはしばらく黙ったままだったが、やがて小さくため息をついた。
「・・・ルシードって口も目付きも悪いけど、でも誰にでも優しいよね・・・」
「・・・・。お前、ケンカ売ってんのか?」
「そういう訳じゃないけど・・・」
そう言ったきり、ビセットはまた黙りこんでしまう。
ルシードもため息を付き、何を考えているのかわからないがこうなったらとことんつき合ってやろうと心を決め、
椅子に座り直した。
その拍子に、さっきルーティから受け取った手紙が床に落ちる。
「・・・!」
「・・・ん?」
明らかにビセットは落ちた手紙に反応していた。
手紙を拾ったルシードは、それを見て苦笑いを浮かべ、拾った手紙をひらひらと振る。
「なんだ、お前もコレが気になってかのか」
「いっ、いや、その・・・ごめんっ!」
「あ?・・・おい、ビセット!」
ルシードが声をかけた途端、ビセットは二、三歩後退りして
・・・そのまま逃げるように廊下の方に走り去っていってしまった。
「何なんだ・・・いったい?」
取り残されたルシードは、そう呟くしかない。
(・・・コレに興味があったってのは間違いねえよな。一体何しに来たんだ、あいつは?)
改めて手紙を見ながら、思わずため息を付く。
手紙に興味があった割に、ルーティと話していたことは聞いていなかったようだった。
差出人が女の名前というだけで手紙の内容は恋愛関係と見られるだろうし
(実際ルーティは完全にそうだと思い込んでいた)、ナンパに付き合えだの告白の練習させてくれだの、
やたらと色恋沙汰に興味を示すビセットが、話を聞きたがらない理由はない
・・・ルシードも、手紙を見られた時点でその辺りのことは覚悟していた。
なのに、どうして逃げたのか?なんであんなに落ち込んでいたのか?
ビセットが逃げる理由も、落ち込んでいる理由も思いつかない。
謝る気持ちは嘘ではないだろうが、昼寝場所のことがそんなに気になっているとはどうしても思えないし、
他の原因もあまりピンとこない。
唯一思い当たるとすればね『隠れて何か後ろ暗いことでもやった』ということぐらいだが、
その割には何の被害も被ってない気がする。
無論、これから起こるのかもしれないが。
それとも、どうせ聞いても話すわけない、逆に怒鳴られるかもと思って逃げたのか?
(・・・そんなタマじゃねえな、あいつは・・・)
実際問題、手紙に聞かれたら答えに困っただろうし、隠しておきたい過去の話であることも事実だ。
聞かれなくて良かったと、ほっとしていることも。
・・・ルシード本人がどう思っていようが・・・もう終わって、ケリがついていることだろうが、
第三者から見れば『恋愛話』には変わりないのだから。
(・・・それにしても、話が出てからずいぶん時間がかかったな。
やっぱりあいつ、なんかしくじったんじゃねーだろーな・・・)
思い出したように、ルシードは手紙の封を切り封筒の中身を取り出した。
以前、偶然シープクレストに来ていた彼女に会った時に話を聞いていたので、
手紙の内容は開けるまでもなく知っていたが、日時と場所だけは確認する必要がある。
(ま、もう俺が心配することじゃねえか)
中に入っていたのは、二つ折のカードと便箋が一枚。
・・・それは、結婚式の招待状だった。
・・その日の夜。
夕食後のミーティングが一通り終わる頃、ルシードは少し言い難そうに付け足した。
「・・・それから、今度の土曜だがな。俺、ちょっと抜けるぞ」
「抜けるって・・・出かけるってこと?いったい何の用事なの、ルシードさん?」
すかさずそう聞き返したのはメルフィだ。
責めるような口調なのは、前に用事があるといって訓練をサボった前科があるせいか・・・
自業自得なのだが耳に痛い。
「いっとくが、サボりじゃねえぞ。・・・コレだ」
そう言ってルシードがテーブルの上に置いたのは、一枚のカードだった。
「ほう・・・結婚式か」
カードを一目見たゼファーが、納得げに頷く。
・・・なんであの距離から見ただけで内容がわかったんだと、メンバーの誰しもが思ったが、
みんな口には出さずカードを覗き込んだ。
(・・・あれ?この香り・・・?)
覚えのある香りに、ビセットははっとしてルシードを見た。
・・・ルシードは苦笑いを浮かべて、ビセットの方を見ていた。
目があってしまい、ビセットは慌てて顔を伏せる。
「新婦の方が保安学校の先輩でな・・・前に会った時、絶対来いってクギ刺されたんでね。
会場はこの町だし、通信機も持ってく。いいだろ、メルフィ?」
「え、ええ・・・そういうことなら」
少しばかりばつが悪そうに、メルフィは頷いた。
「ついでに他にも何人か連れてこいとも言われてんだが・・・行きたい奴いるか?」
「え?」
意外なルシードの言葉に、メンバーの誰もが一瞬返答を迷う。
「はいっ!アタシが行ったげる!」
最初に手を挙げたのはバーシアだ。彼女の目的が何なのか・・・それは言うまでもないだろう。
ルシードはため息を付きながら言った。
「・・・バーシア。さっき言っただろ?『保安学校時代の先輩だ』ってな。
・・・確か仲人が上司だとか言ってたし、無礼講ってワケにはいかねえぞ」
「う・・・じゃあ行かない」
返ってきた答えは、予想通りの答えだった。
「ご主人さま、ティセも行きたいですぅ」
「お前は留守番だ。掃除と洗濯と・・・いろいろ仕事があるだろが」
「あぅ〜」
ヘザーであるティセのことを案じてと言うのもあるが、結婚式なんていう人の集まる場で
『ご主人様』などと呼ばれたらたまったものではない。
ルシードに即座に留守番宣言をされ、ティセは残念そうに挙げた手を下ろした。
「じゃ、あたしは?あたしはお酒飲まないし」
次に手を挙げたのはルーティだ。
「結婚式って行ったことないから、すっごく興味あるのよね。いいでしょ、ルシード?」
「あ・・・じゃあ私も。いいですか、センパイ?」
続いておずおずとフローネも手を挙げる。
二人とも女の子だけに、結婚式というものに少なからず憧れを持っているらしい。
「ああ、そうだな・・・お前らなら大丈夫だろ」
バーシアが一瞬『どういう意味よ!?』というような表情でルシードを睨んだ。
「残りの奴はどーすんだ?」
「私は残るわ。連絡役がいないと大変だし」
「せっかくだが、俺も残らせてもらう。・・・見たいテレビがあるんでな」
メルフィとゼファーが代わる代わる答える。
二人の答えに頷くと、ルシードは最後にどこか惚けた感じのビセットに声をかけた。
「・・・で、ビセット。お前はどうする?行くか?」
「へっ?」
ビセットは訳のわからないといった顔でルシードを見た。
実は、さっきまで全然、周りの話を聞いていなかったのだ。
(良かった〜。あの手紙、ラブレターでも、昔の彼女からの手紙でもなかったんだ!)
・・・などと、心の中でずっと喜んでいたから。
「なんだよ、聞いてなかったのか?他の奴も式に連れてこいって言われたから、お前も行くかって聞いてんだよ。どうする?
あと一人ぐらいならまだ平気だぞ?」
ルシードの言葉に、ビセットは迷う事なく答えた。・・・もう悩む理由なんて何もない。
「行く行くっ!結婚式ってことはごちそうもでるんだろ?ごちそう!」
「あのな・・・頼むから、式場の食いモン全部食いつくすなんてマネはするんじゃねえぞ」
ビセットの、昼間の落ち込んだ様子とは正反対の明るい笑顔を見て、ルシードは呆れながらもほっとした。
『泣いたカラスがもう笑う』というのは、こういうことを言うのだろう。・・・いや、泣いてはいなかったが。
「やだなぁルシード。いくらオレでもそんなん無理だって!」
「どーだか。・・・まぁ、バーシアが酒飲み尽くすよりはマシか・・・」
「ちょっとルシード!さっきっから、それはいったいどういう意味よ!」
ルシードの繰り返しの暴言に、バーシアがとうとうキレる。
「どういう意味って、そのまんまの意味だよ。悔しかったら少しは禁酒しろ。
・・・んじゃ、解散!」
「・・・待って、ルシードさん」
ミーティング終了に、メルフィが厳しい表情でまったをかける。
「んだよメルフィ、まだ何かあんのか?」
「・・・ルシードさん、今日の倉庫整理当番、あなたじゃなかったかしら?」
一瞬、時が凍りついた・・・ような気がした。
「ルシード!」
当番をサボったルシードが何を言われたのか・・・それは、ご想像におまかせしよう。
「・・・くそ〜、バーシアの奴、ここぞとばかりにボロクソ言いやがって・・・」
「しょうがないじゃん、ルシードが当番サボるのが悪いんだからさ」
「お前にだけは言われたくねえな・・・って、ビセット。なんでお前がいるんだよ?」
一人言に相づちを打たれて驚いたルシードが振り向いてみれば、
満面に笑みを浮かべたビセットが立っていた。
「なんでって、罰当番の手伝いにきてあげたんだよ。見ればわかるだろ?」
言いながら、ビセットはルシードの隣に立って倉庫整理を始める。
「・・・どういう風の吹き回しだ?」
「べっつに〜?今機嫌良いからさ、手伝ってあげよっかな〜って思っただけ」
ふんふんと鼻唄を歌いつつ倉庫整理に勤しむビセットには、昼間のような沈んだ表情は影も形もない。
何が原因で落ち込んでいたのかはわからないが、完全にふっきれたようだ。
「・・・そうか。悪いな」
調子が悪いようならさっさと寝るように言おうと思っていたが、ルシードはビセットの好意に甘えることにした。
「いいっていいって。それよりちゃちゃっと片付けちゃおーぜ!」
「おう!」
二人はしばらく黙々と整理に集中していたが、やがてビセットがおもむろに呟いた。
「・・・ね、ルシード」
「何だよ?」
「楽しみだね、土曜日」
ルシードは、一瞬・・・ほんの一瞬だけ複雑そうな表情をし、答えた。
「ああ・・・そうだな・・・」
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