『夢見る子供じゃいられない』
12月24日・・・雪の散らつく極寒のクリスマス・イヴ。
雪が降るだけあって気温はかなり低かったが、そんな寒さもものともせず
シープクレストの町中はいつも以上の活気で賑わっていた。新婚夫婦に親子連れ、
友達同士から恋人同士・・・大人も子どもも誰もが年に一度の聖夜の訪れに浮かれ
きっている。
しかも恋人たちにとって都合のいいことに、今年は滅多にないホワイトクリスマス。
これ以上ない自然の粋な演出に、何組の恋人たちが感謝していることだろう。
・・・だがこんなおめでたい日にもため息をつき、吐く息が白くなるほどの寒さが
身に染みている人間も少なからずいる。
クリスマスだろうが何だろうが、犯罪はお休みになんてなってくれないのだ。
・・・特に、魔物なんかは。
保安局員には盆や正月、ましてやクリスマスなんて関係なく仕事があることは
わかっていたし、それについて不満がある訳じゃない。
クリスマス・イヴである今日も出動がかかったけれど、その間にティセが頑張って
パーティの準備をしてくれたし、リーゼや更紗がケーキや料理を差し入れてくれた
おかげもあってささやかながらクリスマスパーティをすることができた。
だけど・・・今までだってあんまりいい思い出はなかったけれど・・・今年は
絶対に人生最悪のクリスマスだ。
包帯でぐるぐる巻きにされた右手を見ながら、ビセットは盛大にため息をついた。
任務で怪我をするなんて今に始まったことじゃないけれど、利き腕を負傷したのは
迂闊というか失態というか・・・とにかく困った。こんな時に限って魔法の使用許可
が下りておらず、回復魔法による治療ができなかったのは不運としかいいようがない。
注意一瞬怪我一生とはよく言ったものだが、傷自体は動かすと痛みはするが激痛と
いうわけでもなく、出血が酷かったが筋も痛めておらず傷痕も残りそうにない。
・・・とはいえ利き手が使えないことには変わりないわけで、せっかくのご馳走を
好きなだけ食べたくても、痛みと包帯のせいでフォークが握れず不慣れな左手で
食べていたために思うように食べれない。
フローネが気を使ってビセットの分を小皿に取り分けてくれたので食いっぱぐれる
ということはなかったが、食べるのに時間がかかってしまい・・・みんなが食べ終わっ
たのに自分一人だけまだ食べているのは、何だか取り残されたようで寂しかった。
実際ビセットがやっと食事を終えた今、ルシードは始末書作成のために部屋に引っ
込み、フローネとルーティはクリスマスの特番を見に談話室に、メルフィとゼファー
は細々した仕事を片付けにとほとんどお開き状態で、いっそう寂しさが増す。
おまけに一番楽しみにしていたリーゼのケーキ・・・クリスマスならではのブッシュ
ノエルに赤い苺が可愛いショートケーキと2種類あったのに、メインを食べている間
にチョコ好きのティセにブッシュノエルを全部食べられてしまい、残ったのは
ショートケーキだけ。ショートケーキが嫌いなわけじゃないが、両方食べたかった
ビセットにとってはまさに踏んだり蹴ったりだ。
何だかどっと疲れてしまって、あれだけ楽しみにしていたケーキを食べる気にも
なれず、ビセットはまたため息をついた。
「な〜にクサってんのよ、ビセット」
「別に・・・」
一人でワインの瓶を抱えてすっかり上機嫌のバーシアに肩を叩かれ、ビセットは
ふて腐れながらそっぽを向く。普段のバーシアならそこであっそと引き下がるところ
だが、今日のバーシアはとにかく本当に機嫌が良かった。
「なんか珍しく元気ないわねぇ。ケーキ、食べないの?まだ食べてないんでしょ?」
バーシアは笑いながらあやすようにビセットの頭を撫で、その隣に腰を下ろした。
途端にアルコールの匂いが鼻をつき、ビセットは小さくため息をつく。
・・・どうやらもう相当『できあがって』いるようだ。
「うん・・・食べれないワケじゃないけど、何だか疲れちゃって。一人で食べるのも
空しいし、明日にしよっかなって考えてたトコ・・・」
「アンタ・・・目の前にアタシがいるってのに『一人』だなんて、言ってくれんじゃ
ないの。ま、気持ちはわからなくもないけどね」
気落ちした声で答えるビセットに、バーシアは微かに顔をしかめた・・・が、すぐ
ににやにやとした笑いを浮かべ、怪訝そうな目をしたビセットの耳元にそっと囁く。
「せっかくのクリスマスだもんねぇ・・・大好きなルシードと一緒がいいんでしょ?
アタシにまかせときなって!」
「えっ、な、な・・・何でそうなるんだよ!オレは別に・・・!!」
「照れない照れない!あ、ティセ!ケーキとお茶二人分用意してくれる?」
図星らしく上ずった声で狼狽するビセットを見てケラケラと笑いながら、
バーシアは台所で片付けをしているティセを呼びつけた。
「はいですぅ!」
「ちょっと、バーシア!いったい何企んでんだよっ!」
ビセットは顔を真っ赤にしながら問いつめたが、バーシアは全く気にしていない
ようで、ほのかに赤い顔でにまにま笑うだけ。
「そーねぇ、たまには後輩の面倒見てやるのも先輩の務めってゆーか・・・ささやか
なクリスマスプレゼントってトコかしら?・・・あ、一個は大きめて切ってやってね。
ビセットの分だから」
のらりくらりと質問をかわしながら、ティセが包丁を持ったのに目ざとく気づき
すかさず注文をつける。
「了解ですぅ〜!バーシアさんのはどれくらい切りますかぁ?」
「ん?ああ、もう一個はテキトーでいいわよ。食べんのアタシじゃないし」
「ほぇ?・・・じゃあ誰が食べるんですかぁ?」
ティセの問いに、バーシアはこれ以上ないくらいにっこりと嫌味なぐらいの笑顔を
浮かべて答える。普段もあまり見ることがない表情だけに・・・悪寒が走った。
「クリスマスなのに仕事してるルシードに、ビセットが差し入れするんだってさ」
「い!?そんなこと一言も・・・!」
言いかけたその時、言葉を遮るようにティセが歓声を上げた。
「そうなんですか〜!?ビセットさん優しいですぅ〜!」
ビセットの呟きはティセには届かず、彼女はすっかりバーシアの言葉を信じて
感動している。褒められた手前何となく違うとは言い出せず、ビセットはティセに
聞こえないように小声でバーシアに抗議した。
「いったいどういうつもりだよ、バーシア!だいたいルシード、今仕事中だろ!?
邪魔したら怒られるじゃんか!!」
「な〜に言ってんの、アイツがアンタのこと怒るわけないじゃない!だいたい今日は
クリスマスなんだから、特別よ」
お気楽なバーシアの笑いに、ビセットは思わずため息をつく。
・・・別に差し入れに行くこと自体が嫌なのではない。
ただ、今書いている始末書は今日の任務でルシードが許可なしに魔法を使ったこと
に対するもので・・・なんでそんなことをしたかと言えば、自分が傷を負ったのを
見てキレたからだ。つまり遠回しながらその原因は自分がヘマをしたせいでもある
わけで、正直なところ顔を合わせづらいというのが本音だ。
だいたい食事を終えたらすぐに部屋に引っ込んでしまったし・・・何も言わない
けれど、もしかしたら怒っているのかもしれない。
・・・なんて思っているから、反論にも思わず力が入る。
「クリスマスだろーが何だろうが、オレたちには関係ないだろ?ルシードって
あんまりそういうのこだわらない方だし、絶対怒るに決まってるよ!
・・・それにオレ、もう寝ようって思ってたのに・・・」
ビセットは呆れたようにそう言ったが、呆れたのはバーシアの方も同じだった。
「寝る〜!?何言ってんの、まだ9時よ!?」
「だって早く寝ないとサンタさん来てくんないじゃん!!」
冗談のカケラもなく本気で答えるビセットに、バーシアは一瞬呆気に取られた。
「サンタって・・・な〜に寝ぼけたこと言ってんのよ!下手な冗談言ってないで
ほら!つべこべ言わずに立った立った!!」
「冗談なんて言ってな・・・って、うわぁっ!」
煮えきらない態度に焦れたバーシアは勢いよく立ち上がり、ビセットの腕を
掴んで立ち上がらせる。
そこにタイミングよくティセがケーキとお茶をお盆に乗せて運んできた。
「おまたせしました〜!どうぞ持ってってくださいですぅ〜!」
「ん、ありがとティセ。・・・ほら、行くわよビセット!」
笑顔で礼を言いながらバーシアはそのお盆をひょいっと片手で受け取り、
反対側の手で逃げようとしたビセットの服の襟首を掴む。
「ちょ、ちょっと待ってよ・・・わっ!急に引っ張んなよぉ!!・・・ぐぇっ!」
上がった悲鳴に耳をくれず、バーシアはずるずるとビセットを引きずっていく。
・・・そんな光景を見ていたティセは戸惑いがちに呟いた。
「はや〜?ご主人様に差し入れに行くの、ビセットさんじゃなかったんですか〜?」
その答えを知る人物はその呟きを無視し、ドアの向こうに消えていった。
取り残されたティセは、わけがわからず一人首を傾げる。
・・・はたから見ていたら、あれはどう考えてもバーシアがビセットごと
差し入れに行くようにしか見えなかったのだ。
・・・最後に自分の名前をサインして、完了。
ペンを放り出し、ルシードは大きく伸びをした。
何回も書いているせいか、急いで書き上げた割にはマトモに書けている。
とりあえず今日中にダメ出しをくらって書き直し、ということはないだろう。後は
これをメルフィに渡せば今日の業務は終了だ。キッチリ仕事を終えさえしていれば、
もう時間も時間だし厄介ごとを押しつけられてるようなことはないだろう。
そう思ってため息をついた瞬間、それはやって来た。
ドンドンドン!!
不意に背後に響いた乱暴な、とてもノックと言えないような音に無償に嫌な予感を
感じつつ、眉を潜めながら立ち上がる。
「・・・誰だ?」
「アタシよアタシ!さっさと開けてよ、両手塞がってんだから!!」
ドアの向こう側から聞こえてきた声に、ルシードは思わずため息をついた。
・・・どうやら来訪者は事務所一の酔っぱらいらしい。
また何か面倒なこと押付けに来たんじゃないだろうな・・・。
足取り重くドアを開けに行くと、突然ドアが蹴飛ばされたように勢い激しく開いた。
・・・いや、実際蹴飛ばしたのだろう。どうやって開けたのかは知らないが、
不自然な高さに上げられている足が雄弁にその事実を物語っている。
「な〜にチンタラしてんのよ!ったく・・・せっかく人が差し入れにきてやったのに」
「差し入れぇ!?・・・お前がかよ?」
不満げに言い捨てるバーシアに、ルシードは思い切り訝しげに聞き返す。
確かにお盆にケーキとお茶を乗せて持ってはいるが・・・あのバーシアがと思うと
にわかに信じがたい。しかも、何故か二人分。
「そ〜よ。・・・はい、コレ持って」
普段のバーシアだったら確実に怒りそうな質問だったにもかかわらず、彼女は全く
顔色を変えずお盆を手渡してきた。
・・・これは何か企んでるなと、警戒しながらお盆を受け取る。
まさか何か薬でも盛っているのだろうか?
まじまじとケーキとお茶を見ていると、バーシアがにたりと笑った。
「・・・それからもう一つ、コレもちゃんと受け取りなさい!」
そう言ってバーシアは勢いをつけて何かを引っ張った。その途端、ぐぇぇっという
くぐもった悲鳴が上がる。
「な・・・ビセット!?」
部屋の前に引っ張り出され涙目で咳き込んでいるビセットの背を、バーシアがまた
容赦なく力一杯ルシードの部屋の中に押し出した。
お盆を片手に持ち替え、咳をしながら危なげにふらつくビセットを慌てて受け止め
る。その衝撃でお盆の上で食器ががちゃがちゃと音を立て、お茶が少しこぼれた。
「まったく、クリスマスに可愛い恋人ほったらかしにして仕事なんて、アンタも野暮
なことするわね〜・・・可哀相に食堂でぽつんと一人でしょげてたから、わざわざ
連れてきてやったわよ。・・・で、始末書書きは終わったの?」
「あ、ああ・・・一応・・・」
意外な言葉に呆気に取られながら頷くと、バーシアはずかずかと部屋の中に入り
・・・さっき書き終えたたばかりの始末書を片手に戻ってきた。
「じゃ、コレは私が出しといてあげるから。せいぜい仲良くやんなさいな」
そう言い残し、バーシアはバタンと勢いよくドアを閉めた。
「出しといてって・・・いったいどういう風の吹き回しだ?こりゃ明日は雪・・・
って、もう降ってるか」
信じられないものを見たような思いため息をつきながら視線を落とすと、自分を
見上げていたビセットと目が合った。ビセットはばつが悪そうに慌てて顔を伏せたが、
確かにバーシアが言っていた通り何だか少し元気がないようだ。
怪我のせいでただでさえ気が滅入っているのに、理由も告げずに一人にしておいた
のはやはりまずかったかもしれない。
「とりあえず・・・食うか?コレ」
努めて優しくそう言って、肩に手をかける。
ビセットは何も答えなかったが、ためらいがちに顔を上げたので一応そのつもりは
あるのだろうと思い、とりあえずお盆を置きに部屋の奥へ入る。
すると、後ろから不安げな声が耳に届いた。
「・・・いいの?オレがいたら邪魔じゃない?」
ドアの前にぽつんと立ちつくしながら、ビセットは居心地が悪そうに視線を
さまよわせている。
いったいどうやったらそういう発想になるんだと少し呆れながら、とりあえず机に
お盆を置いてから引き返し、咳き込んだために少し潤んでいる目許に口づけを落とす。
いつまでたっても慣れないのか、ビセットの顔が見る見るうちに赤くなっていく。
そんな反応がまた可愛くて、ルシードは思わずビセットを抱き寄せた。
「バカ、当たり前だろ。・・・何のためにさっさと仕事終わらせたと思ってんだよ」
「何のためにって・・・なんで?」
やっぱりわかっていないらしく、ビセットがおずおずと聞き返してくる。
照れ臭いので言うつもりはなかったが、こういう状況では仕方がない。
「・・・お前と二人でいる時に、あんなモンのせいで邪魔されたくねえからだよ。
さっさと書いておかねえとメルフィがうるさいだろ?
せっかくのクリスマスだからな・・・やっぱ邪魔されたくねえし」
悪あがきのようにビセットの頭を抱き込み、表情を見られないようにして呟く。
「だ、だったら最初からそう言ってよ!オレ、ルシードが怒ってると思って・・・」
胸に顔を埋めたまま、ビセットが拗ねたように呟く。そんなビセットの髪を撫で
ながら、ルシードは少し自嘲気味に笑った。
「ああ、怪我のことか?・・・怒ってなんかいねえよ。
お前のこと守ってやれなかった自分にゃちっと腹が立つがな」
「ルシードのせいじゃないよ!俺が勝手にヘマしただけ・・・っ!」
弾かれたように顔を上げ慌てて否定するビセットが可愛くて、ルシードは言葉を
遮るように唇を塞いだ。
「・・・何か今日のルシード・・・変。もしかして酔ってんの?」
唇を離すと、顔を真っ赤にしたビセットが上目使いに睨んでくる。もっとも、
あんな表情で睨まれても可愛いだけなのだが。
「酔ってねえよ。でも・・・まぁ浮かれてはいるかもな」
「浮かれてるって、ルシードが?全然そういう風には見えないけど・・・ま、いいや。
ケーキ食べよっか?お茶冷めちゃうもんね」
「おう、そうするか」
頷いて歩き始めると、ビセットが甘えるように腕を絡めてきた。
「・・・ねぇ、ルシード。ちょっとだけ甘えていい?」
「ん?なんだ、言ってみろよ」
「うん、あのね・・・左手じゃ食べにくいし疲れちゃうから、ルシードが食べさせて
って言ったら・・・怒る?」
小首を傾げての問いに、答えの代わりに返ってきたのは唇へのキスだった。
「しょうがないヤツだな・・・でも、あとで後悔すんなよ?」
そう言ってルシードは悪戯を思いついたような顔をしたが、ビセットは何を後悔
するのかわからずに首を傾げた。
・・・が、しかし。『後悔すること』は意外に早く起こった。
「あ、そうだ。イス持ってこなくちゃだね」
食べさせてもらうのでは、さすがにいつものようにベッドに座ってでは無理だ。
そう思って取りに行こうとすると、ルシードの手がそれを引き止めた。
「・・・いらねえよ、んなモン」
「へ?じゃあどうすんのさ?」
「俺の膝の上に座ってろ。その方が食わせやすいしな」
「え〜っ!?」
返ってきた答えに、ビセットは思わず絶句する。・・・予想通りの反応に、
ルシードは苦笑を隠しきれなかった。
「・・・だから後悔すんなっつっただろ?ほら、さっさとこい」
何か嫌な予感でも感じたのか、少し警戒しながら表情を伺っているビセットを
促すように、ルシードは椅子に座って手招きをする。
ビセットはしばらく迷っていたが、やがてためらいがちに頷いた。
満足げに笑いすっと手を差し出すと、ビセットはおずおずと手を置いた。
「う〜・・・なんか赤ちゃんみたいだよ・・・」
言われるままに膝の上に腰掛けたものの、何だか居心地が悪そうだ。
「そうか?・・・ほら、口開けろ」
フォークを口の側に持っていくと、ビセットは真っ赤な顔で口を開ける。
「・・・美味しいぃぃ〜〜っ!さすがリーゼさんのケーキ!」
一口食べた途端、ビセットはこれ以上ないくらい幸せそうな顔でため息をつく。
どうやら、恥ずかしいとかそう言うことは頭の中から消し飛んだらしい。
「次イチゴ!イチゴ食べたいっ!」
「わかったわかった。・・・ほれ」
リクエスト通り苺を口に持ってってやると、ビセットは待ちきれないといった
様子で、自分からぱくんとフォークに食いついてきた。
大きめの苺だったので一個口に入れただけでいっぱいいっぱいといった感じ
だったが、ビセットはこの上なく幸せそうに口をもごもごと動かしている。
色気より食い気という言葉が頭に浮かび、ルシードは思わずため息をつく。
・・・たぶん、今自分はまるっきりビセットの視界から外れているだろう。
何となく面白くない気分でビセットの横顔を見つめていたが、ふと口の端に
入り切らなかったクリームがついているのに気づいた。
それがルシードの悪戯心に火をつける。
「・・・ビセット」
「ん?なに?」
ビセットの顔が自分の方を向いた瞬間、ルシードはクリームを舌で舐め取った。
「〜〜〜〜っっ!!」
耳まで真っ赤になりながら口を押さえ、無言で『何すんの!?』と訴えてくる
ビセットに、ルシードは意地の悪い笑みを浮かべる。
「・・・クリームついてたから取ってやっただけだろ。何赤くなってんだよ?
ほら、まだ食うんだろ?そのまんまじゃ食べさせてやれねえだろが」
ビセットは何かいいたげな顔をしていたが、ケーキの誘惑に負けたのか黙って
また口を開けた。そこにまたフォークを運びながら、ルシードはビセットの服の
ベルトに空いた方の手を伸ばす。
「ルシードは食べないの?」
「ん?俺は後でいい。お前乗っけたままじゃ食いにくいし」
「そっか・・・ちゃんと手が動かせたら、オレが食べさせてあげれるのにね。
・・・ってルシード、何やってんだよっ!」
少し赤みの引いた頬をまた真っ赤に染めて、ビセットは胸元に伸びた手をぺしっ
と叩いた。やはり、上着のベルトを気づかれずに外すのは無理があったようだ。
・・・バレてしまっては仕方ない。ルシードはフォークを置き、ぎょっとして
逃げようとするビセットを両手で抱き寄せ、首筋に唇を這わす。
その途端、ビセットの体がびくりと大きく震えた。
「ちょ、ちょっと・・・やめっ・・・」
「・・・だから最初に言っただろ?『あとで後悔すんなよ』って」
笑いながら耳元に囁くと、ビセットは非難めいた目で睨んでくる。
はだけた上着の間に手を入れると、押し殺した嬌声と甘い吐息が漏れる。
肌がいつもより熱く感じるのは手が冷えているせいだろう。その温もりを
楽しむように脇腹を撫で上げ、再び首筋に唇を落とし強く吸い上げる。
「あ・・・やっ、ダメっ・・・!」
敏感な体はすぐに思ったとおりの反応を返すが、当の本人はその感覚から
逃れようとするかのように身を捩る。
「・・・暴れると落ちるぞ?」
からかうようにそう言って、ルシードは食べかけのケーキに手を伸ばし、指で
クリームだけを掬い取った。
「・・・な・・に・・するの・・・?」
不安げな声に答えず、ルシードはクリームをビセットの胸に塗りつけ、肌に
擦り込むように撫で付けた。
「あっ・・・!」
少し冷たいぬるりとした愛撫にビセットの体じゅうに震えが走り、今まで
堪えていた嬌声がこぼれる。今まで感じたことのない感触に戸惑い、ビセットの
手は小刻みに震えながら無意識に縋るものを探す。
ぬめった指で胸の突起弄られ、ともすれば口から漏れそうになる甘い声を
必死に押さえ、ビセットは快感を振り切るように頭を振った。
「ルシード・・・お願・・・い・・・やめっ・・・」
頭では流されまいと必死で理性を繋ぎ止めているのに、体の方は勝手に
快感を追ってしまっていて、自分で自分を支えることもできずルシードに体を
預けきっている。悔しいのだが、もう体が思うように動いてくれない。
「・・・何だか今日はずいぶんと嫌がるな」
涙で潤んだ顔を自分の方に向けさせ、ルシードは強引に唇を奪った。逃げよう
とする頭を押さえつけ、舌を絡めて。呼吸をする暇もないくらい追い立てる。
・・・じたばたと最後の抵抗を見せていた体が大人しくなるのに、さして時間
はかからなかった。
「何でそんなに嫌がるんだか、言ってみろよ」
唇を離しからかうような口調で尋ねると、惚けていた顔がはっと我に返る。
「・・・だってっ・・・!こんなトコ・・・見られたら・・・」
「あ?・・・部屋の鍵ならさっき閉めたから心配ねえぞ」
答えながらも、ルシードの手はビセットの胸を弄っている。ビセットは絶え間
なく与えられる快感に震えながら何とか言葉を紡ごうとするが、喘ぎ声に邪魔を
されてなかなか伝えたいことが言葉にならない。
「あっ・・!っそ・・じゃなくて・・・!・・・たさ・・・に見られたら・・・」
「・・・なんだって?」
微かながら耳に届いた声があまりに意外で、ルシードの頭の中が一瞬真っ白に
なる。聞き間違いかと思って聞き返せば、まったく同じ答えが返ってきた。
「だ、だからっ・・・サンタさんに見られたら恥ずかしいからヤダってば・・!」
「お前・・・それ、本気で言ってるのか?」
「当たり前だろっ・・・!こんなコトしてるの見られたらプレゼントもらえなく
なっちゃうじゃんか・・・!」
そう言って睨んでくる表情も目も、まるっきり真剣だ。
子供っぽい性格なのは知っていたが・・・まさかここまでとは。
普段なら「可愛い」とか思ってほだされていたかもしれないが、それが原因で
拒否されるとなれば笑うに笑えない。
「!」
思わず呆気にとられて緩んでしまっていた腕の中から、ビセットがチャンスと
ばかりに逃げ出した。転がり落ちるように膝の上から降り床に着地するも、足に
力が入らずバランスを崩して机の上に倒れこむ。
そう・・・丁度、置いてあった食べかけのケーキの上に。
これじゃ、自分から誘っているようなものじゃないか・・・
「・・・な〜に逃げようとしてんだよ」
意地悪く呟いて、また耳まで赤くなっているビセットの腕を掴んで引き寄せる。
「や・・・やだ!やだってばっ!」
「自分からクリームまみれになっといてよく言うぜ・・・ま、ヤダっつーんなら
それでもいいけどな。だが・・・逃げんならお前、今日は一人で寝ろよ」
「えっ・・・」
『一人で』という言葉を聞いた途端、ビセットがぴたりと暴れるのを止める。
「・・・つーわけで、諦めて大人しくしろ」
「あっ・・・!」
意地悪く笑い、逃げられないように両腕を掴んで・・・胸元のクリームを舌で
舐め取る。反り返る背中に手を回しながら、ルシードはぴちゃぴちゃとわざと音
を立てて舌を動かした。その音が余計にビセットを追い立てることを知っていて。
自分の意思とは裏腹にどんどん熱くなっていく体の熱を持て余し、ビセットは
だだっこのように首を振り身を捩る。だが、ルシードはそんなことお構いなしに
ビセットの熱を煽り続けた。
「甘ぇな、このクリーム。・・・おまけにお前、苺潰しただろ」
からかうように呟いて弄んでいた突起に歯を立てれば、一際高い嬌声が漏れた。
震えながら必死に体重を支えていた膝がかくんと折れ、ルシードの腕に
助けられる。・・・もう、理性を保っていられるのも限界だった。少しだけ
距離が近づいたルシードの顔を見据え、ビセットは最後の抵抗を試みる。
「・・・やぁっ・・・!ん・・・も、もう・・・離してよぉ・・・!
ルシード・・・も、プレゼント・・・っもらえな・・・の・・ヤでしょ!?」
快感を煽られながら、何とかそれだけが言葉になった。だがそれでもルシード
は呆れたような困ったような、複雑な表情をするだけだ。
「プレゼントっていってもな・・・あいにく、俺のトコにはもう何年も前から
来てねえよ。・・・それに、一番欲しいものはもう貰ってるしな」
苦笑まじりに答えながら、ルシードはビセットの表情を伺う。
・・・あの表情を見る限り言葉の意図は、どうやらちゃんと伝わったようだ。
「じゃ・・・あっ・・・!オレの・・・はどうな・・るのっ・・・!」
「俺からじゃ不服かよ?それに、今止めたらお前だって困るんじゃねえの?」
言いながら、今まであえて触れなかった・・・服の上からでも硬くなって
いるのがわかる中心を撫で上げる。
「あんっ・・・!」
「ほら、もうこれだけじゃ足らねえって顔してるぜ?・・・いい加減観念したら
どうだ?このまま部屋に帰れるっつーなら止めねえぞ?」
「い・・いじわ・・・るっ・・・っあ!」
駄目押しするようにルシードが服の中に手を差し入れ、今度は直接中心に触れ
た。そのままきゅっと握り締められ、焦らすように先端を刺激される。
・・・耐え切れなくなったビセットは、ルシードの肩口に顔を押し付けた。
「る・・・ルシード・・・!」
「ん?」
「・・・立ったま・・・なんて、絶対・・・嫌だ・・から・・ね!!」
「わかったよ。でもベッドにゃ行けねえぞ。悪ぃけど床で我慢してくれ」
ぽんぽんと背中をあやすように叩くと、ビセットは顔を押し付けたまま小さく
うんと頷いた。
寄りかかる体を支えながら立ち上がり、足で椅子を後ろに蹴飛ばす。そのまま
ゆっくりとしゃがみ込むが、暖房がついているとはいえ床は冷たかった。
少し考えて、ルシードはビセットと壁に寄りかからせて座らせ服を脱ぎ始める。
「ルシード・・・?」
「こんなモンでもないよりゃマシだろ。・・・ほら、来いよ」
本当はシーツか何かを持ってくればいいのだろうが、あまり替えがないし
何より面倒くさい。脱ぎ終わった上着を下に敷き、ルシードはビセットを
抱き寄せその上に押し倒した。
そしてズボンと下着を一緒に脱がせ、露になった下半身に胸元からクリームを
掬い取って塗りつける。
わざとやっているのか、くちゅくちゅという音がやけに大きく聞こえた。
「・・あ・・・やだっ・・・!」
「まだそんなこと言ってやがんのか?・・・イイって顔してるくせに」
ルシードの手は中心だけでなく、奥の方にまでクリームを伸ばしていく。
それだけの、ただ触れられているだけなのに体がどうしようもないほど熱く
なっていくのはクリームのせいだろうか?
いつもと違うぬめった感触。絶え間なく聞こえてくる濡れた卑猥な音。
たまに耳に届く、ルシードのいつもよりイジワルな囁き。
そのすべてが、ビセットの意識を白濁の中へと誘ってゆく。
だけど、待ち望んでいるのはもっと・・・
「る・・しーどっ・・・もぉ・・・っ!」
熱を煽ってばかりのルシードに焦れて、ビセットは潤んだ瞳で抗議する。
多くは言葉にならなかったが、熱を持て余し惚けた表情が代弁してくれる。
ルシードは笑って、小さくわかったと呟き瞼にキスを落とした。
たっぷりとクリームを塗りつけ終わると膝の間にルシードの体が割って入り、
さらに大きく開かされる。何をされるのかわかったビセットは、左手で手近な
服を握り締めぎゅっと目を閉じた。
ルシードの唇が内股を伝い、時折強く吸い上げる。それだけで、蕩けそうな
快感が体を走り抜ける。
そして・・・
「あぁっ・・・!」
自身を口に含まれ、舌で舐め上げられる。散々焦らされていた体はそれだけ
でもくらくらするほど感じてしまう。
ものすごく恥ずかしいし、せっかくのケーキのクリームでこんなことをする
なんてという罪悪感もあるのに・・・でもルシードの言う通りどうしようも
なく気持ちよかった。強弱をつけられて刺激され、なけなしの理性も完全に
飲み込まれて、残ったのは暴走を続ける熱だけだ。
その熱も先端に歯を立てられて、開放へと追い立てられてゆく。
「あっ・・・だ、ダメ・・・もっ・・・ああぁっ!」
散々煽られた熱を吐き出して、ビセットははぁはぁと肩で息をついた。
達したショックで半ば放心状態のビセットに見せ付けるように、ルシードは
口からこぼれた白濁した液を舐める。
艶かしい仕草に羞恥心を煽られ、思わず視線をそらしたビセットを見て、
ルシードが意地の悪い笑みを浮かべる。
「・・・じゃ、次はこっちだな」
言葉とともに、ルシードの指がビセットの中に侵入する。
「え・・・あんっ・・・!」
脱力した体に急に強い刺激を与えられ、ビセットの体が大きくしなる。
クリームのおかげでさほど痛みはなく、そのまま内側で蠢き続ける指を難なく
受け止めている。再び体が熱くなっていくのを感じながら、ビセットはぎゅっと
手にした服の裾を握り締め、ルシードの与えてくれる快楽に酔った。
「・・・いつもより熱くなってるな、お前の中。おまけにキツいし・・・」
意地悪く囁かれる声にも反応してしまう。思わず体を強張らせてしまった
ビセットに、ルシードはそれじゃ指動かせねえだろと苦笑する。
慌てて力を抜こうと息を吐いた途端、指が二本に増やされる。
「あっ!・・・んぁっ・・・あぁん・・・!」
ばらばらに動く二本の指が、意識も体も柔らかく溶かしていく。感じる場所が
どこかなんて、ルシードは当に知り尽くしている。執拗にそこばかり攻められて、
ビセットは堪らず体をくねらせる。
・・・その刺激に慣れてきた体が、更なる刺激を求めて疼き始めた。
「ルシード・・・っぁ・・・も・・ダメ・・・」
「ああ、大丈夫みたいだな。・・・っと!」
身を起こしたルシードの肘が、机の脚に激突する。
ごっという机が動く音と・・・何か軽いものが床に落ちる音がした。
「痛ってぇ・・・ん?」
ルシードが肘をさすりながら、上から降ってきたモノを拾い上げる。落ちて
きたのは、ケーキについていたサンタの砂糖菓子だった。
「・・・そういえばお前、サンタに妙に執着してたよな・・・」
明らかに何か良からぬことを企んでいる声に、ビセットはものすごく嫌な
予感を感じた。だが先手を打って起こそうとした体は逆に押さえつけられ
覆い被さってきたルシードが意地の悪い笑みを浮かべる。
「逃げんなっつっただろ?」
不安げな表情で見上げてくるビセットに、ルシードは誤魔化すように口付ける。
・・・硬いモノを押し込められたビセットの悲鳴を飲み込んで。苦しげに
歪められた双眸からは、快楽からくるものではない涙が流れ始めている。
「・・・いた・・い・・!・・・ヤダぁっ・・・やめてよぉ・・・!」
唇を離した途端、ビセットは泣きながら悲痛な声で訴えた。
「なんでだ?・・・待ってたんだろ?」
優しい声音で意地悪く囁きながら、ルシードはビセットの中に入れた砂糖菓子
を少しずつ動かす。内壁を圧迫するそれが快感も引き出しているのか、それとも
痛みだけしか与えていないのか・・・混乱したビセットにはわからなかった。
「ちがっ・・・んぁっ・・・おねがっ・・・ぬい・・て・・・!」
何度も何度も訴えると、ルシードはため息をつきながら砂糖菓子を引き抜く。
「あぅっ・・・!」
「嫌がる割には感じてるように見えるがな・・・痛いだけならココがこんなに
なるはずないよなぁ・・・?」
クックッと笑いながら、ルシードの手がまた硬くなっているビセット自身を
捕らえる。感じている自分が信じられなくて、ビセットはしきりに首を振る。
「信じられねえって顔してるな。・・・なら、もう一回試すか?」
言うが早いか、ビセットが口を開く前に再び砂糖菓子を埋め込まれる。
声にならない悲鳴が上がり、ビセットの体が大きく仰け反った。
「・・・やだよぉ・・・こ・・なの・・・ど・・して・・・?」
なんでルシードはこんなに酷いことをするの?
体への衝撃よりも、むしろこっちのショックの方が大きい。
どうして?何かしたの?怒ってるの・・・?
「・・・ごめ・・・なさい・・・」
理由もわからないまま、謝罪の言葉がついて出る。体の震えが、だんだん
大きくなってきた。
「・・・ごめん・・・なさ・・・ゆる・・・て・・・」
目を瞑ったまま、震える声で訴える。
すると、前触れもなく砂糖菓子が体からすっと抜かれた。
「・・・あ・・・」
「悪い・・・ちょっとふざけすぎた」
その声はいつもの優しいルシードの声で・・・あんなことをされたのに、
それだけでもう大丈夫だと安心している自分がいる。
震える唇に、潤んだ瞳に。謝るように優しく、順番に口付けられていくうち
にだんだんと落ち着いてきて・・・深い口付けもすんなりと受け止めてしまう。
「ルシード・・・」
少しばかりばつが悪そうに、ルシードはまたビセットの頬の涙の跡を唇で
たどり、まだ潤んでいる瞳に口付けた。
「ビセット・・・いいか?」
耳元で囁かれ、ビセットはためらいがちに頷いた。
正直あんなことをされた後だし、まだ少し不安だけど・・・でも、それ以上
にルシードが好きだから・・・このことで気まずくなってしまうのは嫌だから。
「・・・ごめんな」
謝罪とともに降ってきたキスを、ビセットは笑顔で受け止めた。
「いいよ・・・もう・・・」
呟いて、今度は自分から口付ける。・・・たったそれだけで、体の奥の疼きが
戻ってきたような気がした。
そして、それが合図となって・・・ゆっくりと熱い塊が体の中に入ってくる。
「・・・っ・・・はっ・・・あぁっ・・・!」
細い体を大きくしならせ、ビセットは圧迫感と強すぎる快楽に耐える。
荒い息が少し落ち着いたところで、ルシードはビセットの体を抱え込むように
抱き起こした。固い床で背中を痛めないようにという配慮だが、そんなことを
察する余裕などビセットにはなかった。
繋がっている部分に体重がかかりより深くまで侵入され、ビセットは堪らずに
怪我も忘れてルシードの首に縋り付く。思い出したように傷口が微かに痛んだが、
そんなものは気にならない。
・・・何だか、いつもより敏感にルシードの熱が感じられる。しっかりと体を
支えている腕の、密着した体の熱さが、すべてを忘れさせてくれそうだった。
「ビセット・・・」
耳元で、ルシードが熱っぽく囁いた。惚けた表情のまま、ビセットはほぼ
無意識に頷いて先の行為を促す。
「あっ・・・は・・ぁ・・・っ!」
強く腰を打ち付けられ、呼吸をすることすら苦しくなる。体を駆け巡る熱が
頭の中まで焼き尽くし・・・だんだん早く激しくなっていく動きに、ビセットの
体もそれに答えるようにねだるように揺れていた。
「・・・っ・・・ルシード・・・ぉ・・・・っ!」
熱に浮かされたように名前を呼ぶ声にも、甘える様な響きが混じる。答える
代わりに口付けられて、熱い体はさらに加速する。
「・・・ルシ・・・ド・・・だいすき・・・」
蕩けるような快感の波に飲まれながら、何度となく口にしたお決まりのセリフ
が口からこぼれる。・・・ルシードにも、そう言って欲しくて。
「ああ・・・好きだ、ビセット・・・」
耳元で優しくそう囁かれただけで、達してしまいそうなぐらい感じてしまう。
・・・お互いにもう、絶頂が近い。
「っ・・・ぁ・・・あああぁぁっ!」
「くっ・・・」
同時に体を引きつらせ、熱い欲望を吐き出した。
荒い息が落ち着くまで、抱き合ったままで。肩口に顔を押し付けて息を整えて
いると、ルシードがいたわるような優しいキスをしてくれる。
恥ずかしいけれど・・・でも、とても満たされた気分だった。
頭にタオルを被りながら、ベッドの上に腰を降ろす。・・・少しだけ腰に鈍い
痛みを感じ、思わず顔が赤くなる。
あのあと、ルシードに服の後始末や着替えの準備をしてもらっている間にべと
べとになった体を洗うために風呂に入り・・・怪我のために自分で洗えないので、
用事を済ませたルシードに洗ってもらったりしたものの、一緒には入らなかった。
ビセットは別にもう構わなかったが、一緒に入るとまた襲いたくなるからと
いって半ば追い出されるような形で上がってきたのだ。
・・・多分、怪我のことを気にしているのだろう。風呂なんかで抱かれたら、
間違いなく包帯もびしょ濡れになってしまう。
そんな気づかいが嬉しくて、知らず知らずのうちに顔に笑みが浮かび、
剥き出しの足がぱたぱた揺れる。借りたパジャマはわかっていたけど笑える
ほどにぶかぶかで・・・あんまり裾が邪魔なので、ズボンは穿かずに置いてきたのだ。
自分でもなんて格好してるんだかと思うが、どうせ見られるのはルシードだけ
だからこの際だと開き直っている。
ふと時計を見れば、なんだかんだでもう11時を回っていた。もうあと一時間
足らずで24日が終わってしまう。
・・・イヴの夜にこんなに遅くまで起きてたこと、今までなかったよな。
『今まで』のことを思い出し、自然と苦笑いが浮かぶ。
クリスマスでも大晦日でもお正月でも・・・毎年毎年、いつも一人で。
楽しそうに、嬉しそうに・・・幸せそうに祝っている人々を見るのも嫌で、
TVも消して一人でベッドに潜り込んでしまうのが習慣になっていた。
特にクリスマスはサンタさんから貰えるプレゼントだけが楽しみで・・・早く
24日から25日にしたくて、やたらと早く寝てしまっていたっけ。
きっとこんなに遅くまで起きてたら、サンタさんはもう他の人の所へ
行っちゃっただろうな。そんなことを思いながら窓際に立ち、そろそろと少し
だけカーテンを開けてみる。
部屋の明かりに照らされて、闇夜を舞う真っ白な雪がきらきらと輝いている。
幻想的な光景にビセットは思わず息をするのも忘れて見入っていた。
・・・何だか、今にも鈴の音が聞こえてきそうな・・・
でも・・・もし今この上を通ったとしても、多分もう自分の所にはこない。
砂糖菓子の人形とはいえ、あんなことをしてしまったし・・・
ビセットの顔に少しだけ寂しげな表情が浮かぶ。
『プレゼントっていってもな・・・あいにく、俺のトコにはもう何年も前から
来てねえよ』
不意にルシードの言葉が思い出され、ビセットは「ん?」と首を傾げた。
そういえば、何でルシードの所には来なかったのだろう?サンタさんから
プレゼントを貰ってないなら、誰にプレゼントを貰っていたの?
・・・もしかして、もう何年もクリスマスのプレゼント、貰ってないの?
それって、一人でクリスマスを過ごすのと同じくらい寂しくない?
何だか急に切ない気持ちがこみ上げてきた。そういえば、ルシードはこうも
言っていたじゃないか。
『・・・それに、一番欲しいものはもう貰ってるしな』・・・って。
どう考えても、それは・・・一番欲しいものはビセット自身ってことだって
言われているようなもので、思い出しただけでも顔が熱くなる。
・・・そこで、ビセットははたと気づいた。
もしかして・・・まさかとは思うけど、もしかして・・・浮かれてるって
言ってたのも、何だか妙に意地悪されたような気がするのも・・・そのせい?
せっかく二人でクリスマス過ごしてるのに、サンタさんのことばっかり気に
してたから・・・もしかして嫉妬してたの?
あの、ルシードが?嫉妬しからいじめるなんて子どもじみたことを?
・・・笑っちゃいけないと思いながらも、止めることは出来なかった。
なんだ、怒ってたわけじゃないのか。笑いながら、今更ながらほっとする。
「・・・なに一人で笑ってんだよ、気味悪ぃ」
急に声をかけられて、びっくりして振り返る。
「わっ!!・・・ルシード、脅かさないでよ!」
「俺は別にフツーに声かけたつもりだったんだがな。・・・しっかし、何つー
格好してんだよ・・・そんなんでふらふらしてたら風邪ひくぞ」
タオルで髪を拭きながら、ルシードは呆れたように呟いた。
「・・・っと、忘れるトコだった。ビセット、そこの一番下の引き出し開けて
みな」
「えっ?うん」
言われるままに引き出しを開けると、そこにはクリスマスらしい赤と緑の
リボンでラッピングされたプレゼントの箱が入っていた。
「これ・・・」
「サンタじゃなくて俺からやるって言っただろ。・・・一応、日付変わらない
うちに渡しとく。ま、大したもんじゃねえけどな」
「え!?いいの!!?」
そういえばさっきそんなようなことを言っていたけれど、まさか用意して
あったとは思わなかったので、ビセットは本当に驚いた。
・・・何しろ、今までクリスマスプレゼントはサンタさんから貰うものだ
とばかり思っていたし、誰かにクリスマスプレゼントをするという発想も
全然なかったのだから。
「いいも何も・・・そのために買ったんだから当たり前だろ」
ルシードは苦笑ながら、目を輝かせてプレゼントの包みを見つめている
ビセットの頭を撫でた。
「あ・・・ありがとルシード・・・!すっごく嬉しい・・・」
ぎゅっと箱を抱きしめながら、ビセットはものすごく幸せそうに微笑んだ。
こんなに嬉しいクリスマスプレゼントは初めてだ。
今までずっと、サンタさんからのプレゼントだけを楽しみにしてたけれど。
でも、もう・・・早く寝なくちゃいけないクリスマスはおしまい。
「・・・じゃあ、ルシードにもオレからプレゼントあげるね?」
言いながら、ビセットは悪戯っぽく微笑んで・・・足元にプレゼントの
箱を置き、何だ?と訝しげな顔をするルシードに、ちょっと背伸びをして
キスをする。
「・・・ビセット?」
「だって、ルシードの一番欲しいものでしょ?・・・さっきもしたけど、
プレゼントって言うからにはこっちから誘わないとらしくないじゃん?」
さすがに顔を直視できず、目を伏せながらルシードの首に手を回す。
「オレ、今まで誰かにクリスマスプレゼントあげるなんてコト考えて
なかったから・・・何にも用意してないし。
プレゼントの代わりに・・・なる?」
上目遣いにルシードの顔を伺うと、ルシードは笑いながらビセットの体を
抱き寄せた。
「・・・最高のプレゼントだな」
俯いた顔を上向かせられ、ビセットは自分から目を閉じた。
ルシードの唇がだんだん近づいてくる気配を感じながら。
最悪のクリスマスが大ドンデン返しで最高のクリスマスに変わって。
ビセットは初めて、クリスマス・イヴを一晩中起きたまま過ごした。
・・・そして、翌朝の25日の朝。
ルシードの腕に抱かれて幸せそうに眠るビセットの枕元に、小さなピンク
色のプレゼントの箱がちょこんと置かれていた。
もちろん昨夜眠りについた時にはなかったものだ。
それは、サンタクロースからの最後のクリスマスプレゼント。
この幸せがいつまでも続くようにと、願いとお別れの気持ちを込めて。
これからは、いつも二人で聖夜を迎えられますように・・・
そのプレゼントにビセットが気がづくまでには、まだ少し時間がかかり
そうだった。
さざえのたわごと
あと8分で電車乗らなきゃ!!・・・てもう、何やってんだか私!!
クリスマスに何ちゅーモノを書いてるんだ・・・しかも徹夜で!!
おまけに翌日お説教受けに行く身だというのに!!
・・・とりあえず、恥だけは今世紀最大級のものが書けたかと思います。
宣言通り書き捨てますので、お納めください、陛下。できたら心の奥に
しまっておいて欲しいと思いますが・・・(自殺)
それにしてもあほなモノを書いたもんだ。タイトルからしてふざけきって
るし・・・あーあ。もう何も言うまい・・・
一応、一度どうしようもなく暗い話になりかけたんで慌てて書き直したん
だけど・・・ラブラブっていえますか?どうですか??
とにかく、各方面の皆様ごめんなさい。(どの方面やら)
・・・・・・・・・・・とくにイエス様とサンタクロース様(死)
<戻る>