恋人について。・後編
「・・・?」
「ここじゃいくら何でも話しにくいからな。そんなに大した話じゃねえし、あいつに
何吹き込まれたか知らねえが・・・聞く気があるなら話してやるよ」
「・・・何を?」
そう聞き返しながらも、ビセットは心の中で『お説教ならたくさんだ』と悪態を
ついていた。だから、ルシードの返答には心底驚いた。
「昔、あいつと俺に何があったか。・・・拗ねてる理由はそれだろう?」
「・・・・・・」
図星をさされ、ビセットには返す言葉もない。
「で、どうすんだ?・・・行くのか、行かねえのか、どっちだ?」
「・・・行く」
「よし。んじゃ、とりあえず離れろ。このままじゃお前も歩きにくいだろ?」
「・・・うん」
ルシードの方から話してくれるというのだ。迷う理由は何もない。
ビセットがためらいながらもくっついていた体を離すと、ルシードも掴んでいた腕を
放してくれた。
何だか急に寒くなったのが心細くて、自然と手がルシードの服の裾を掴む。それに
気付いたルシードは『ガキかお前は』と苦笑したが、手を振り払いはしなかった。
ルシードに連れられるまま会場を出て、廊下を挟んで丁度反対側のテラスに出る。
少し風が強かったが、ずっと人込みの中にいたのでかえって気持ちのいいぐらいだ。
「さて・・・話すっつっても何から話しゃあいいのか・・・お前、何から聞きたい?」
テラスの手摺に寄りかかりながら、ルシードが困ったように呟く。ビセットもその
隣に立ったが・・・何を聞いて良いのかわからず、黙ったまま外を眺めていた。
何を聞きたいと言われても、どこまで聞いていいのかわからない。もし聞いて、
お前には関係ないとか言われたら・・・そう思うと怖くて何も聞けなくなってしまう。
ビセットが黙っていると、ルシードはため息をつき・・・それでもしばらく
考え込んでいたが、やがて、ぽつりぽつりと話し始めた。
「・・・あいつに初めて会ったのは、保安学校に入学してからしばらくたった頃・・・
よく覚えてねえが、まだ夏にはなってなかったような気がする。
俺は魔法適正検査なんてモンは学校卒業するまで受けたことなかったが、お袋がそう
だったし昔から妙なモンは見てたしで、自分がそうだってことには薄々感じてた。
まぁ、でも他に・・・家族とか、結構他にそれっぽいやつらがいたからそれで孤独感
とか感じたことはなかったんだが、あいつはそうじゃなかったらしい。
・・・あいつから聞いてるかどうか知らねえけど、あいつ、孤児だったんだよ」
「孤児って・・・マリィさんが!?」
驚くビセットにああと頷いて、ルシードは話を続ける。
「・・・お前にもわかると思うが、俺たちには普通の奴には見えないものが見え、
聞こえないはずの声が聞こえ、触れられないものに触れられる。俺たちにはそれが普通
でも、他のやつらにとってはそれは異常なことに映る。それはしょうがないことだと、
俺は思うがな・・・わかんねー奴には何言ったってわかんねえんだし。
でもあいつはそうは思えなかったらしい。あいつには俺と違って誰も自分の力のこと
を理解してくれる人間がいなかった・・・直接聞いた訳じゃねえからよくわからんが、
いろいろと・・・魔力を持ってるってことで、相当嫌な目にあってたらしい。
親に捨てられたって事まで魔力のせいだって思い込んでるぐらいだったしな。
俺と会った時には半分人間不審と自己嫌悪の固まりみたいになってて・・・
そのせいだろうな・・・多分誰かから俺が魔力持ってるって噂を聞いたんだと思うが、
・・・俺に初めて会った時、あいつはすごくほっとしたような顔で泣いてた」
「・・・ちょ、ちょっと待ってよルシード!」
ルシードの話を遮り、ビセットは慌てて口を挟む。
「マリィさん・・・そういう話って、あんまりほいほい喋られたくないと思うよ。
オレなんかが聞いちゃいけない話だと思うんだけど・・・」
ビセットの言葉にルシードは一瞬眉を潜め、そして苦笑いを浮かべた。
「やっぱりあの話をしやがったか。・・・ったく、あいつは昔っから何でもかんでも
大げさに考えすぎるんだよな・・・」
「そういう問題じゃないだろ。・・・それに俺も、少し気持ちわかるし」
ビセットの呟きの、最後の方はほとんど聞き取れないような小声だった。だから、
ルシードの耳には届いていないだろう。
・・・そう、ビセットはマリアンヌに嫉妬もしていたが共感もしていた。いや、
むしろ共感するところがあったからこそ、嫉妬していたのかもしれない。
甘えたり、助けてもらったり、いつもルシードに頼りきりの自分。そんなお荷物の
ような存在からなんとか対等に・・・せめて彼が困っている時にくらい、何とか力に
なれるようになりたくて、がむしゃらにもがいている自分。
似ている、と思った。だからこそ悔しかった・・・羨ましいと思った。
彼女はもう、その思いを受け取ってくれた人がいる。
それなのにビセットの一番好きな人の・・・ルシードとの思い出まで・・・
それまでとても大事な宝物のように抱きしめたままなんて。
もしかしたら・・・ルシードの心さえ、まだひきつけたままかもしれないのに。
「そういう話は、ルシードとマリィさんの旦那さんだけ知ってればいいんだよ。きっと
オレなんかに話たことがわかったら、すっごく怒ると思うよ」
言いながら、何だか自分の存在の軽さを再確認してしまったようで涙が出てきた。
ごしごしと顔を腕に擦りつけるが、涙は止まってくれない。
「その心配はねえよ。・・・なにしろ、本人に了解もらってるからな」
「・・・嘘」
「嘘じゃねえよ。こんなことで嘘ついたってしょうがねえだろが。
ま、そういうことだから・・・心配しないで黙って聞いとけ」
ぽんぽんと、ルシードの手がビセットの頭をあやすように叩く。ビセットが顔を
伏せたまま小さくうんと答えると、ルシードは話を再開した。
「まぁ、そんなわけで・・・精神的に参ってたあいつは同じ魔法能力者だっていうだけ
で、俺を家族みたいなモンだと錯覚しちまったんだよ。俺もあいつの辛さが分からない
わけじゃねえから邪険にはできなかった・・・っていうより同情してたんだろうな。
だからわりとあいつの我儘とか甘えに結構つき合ってやってた・・・そういう余裕が
あったと思う。
はたから見りゃあ俺たちは『つき合ってる』ように見えてたらしいんだが・・・俺に
とってはデカい妹ができたようなモンだったな。たまに姉貴風吹かして世話焼いてくれ
ることもあったが、大体お節介の域を出なかったし。
最初のうちは・・・いや、ほとんどそういう付き合いだったんだ。
・・・それが壊れてきたのは・・・」
そこで不意にルシードの言葉が途切れ、大きく息をつくのが聞こえた。
まるで、ためらいを吐き出すかのように。それが気になって、ビセットが目を擦りな
がら顔を上げると・・・ルシードは、空を仰ぐように見上げていた。
「・・・確か、話したことなかったよな?俺んち、兄弟多いんだ・・・二つずつ離れて
双子の妹と弟が三人ほど。俺を合わせて六人兄弟・・・だった。
・・・今でもよく覚えてる。年が明けてすぐ、寮に実家から連絡があった。
妹が・・・双子の片割れが、死んだって・・・」
「・・・・!」
驚きのあまり、ビセットの目が大きく見開かれる。
ルシードのこんな弱々しい無感情な声は今までに聞いたことがない。
それだけ、彼にとってその出来事は重く、衝撃的だったことはわかるのだが・・・
ルシードになんて言葉をかければいいのかわからず、ビセットに出来たのはただ
彼の言葉に耳を傾けるだけだった。
「・・・それからはもう、ただの傷の舐め合いだ。一緒にいる時間は長くなったが、
俺にもあいつにも相手に構ってやる余裕なんてなかった。俺は妹の死という傷、あいつ
は孤独という傷・・・その傷から逃げてるためだけに、それだけのために一緒にいた。
結局俺たちは、傷を忘れるためにお互いを利用しあってたんだよ。
だが、そんなことをしたって結局傷をより深くするだけ・・・より救われない気分に
なるだけだった。
・・・癒されるどころか、逆にどんどん新しい傷が負うばかりで・・・」
そこでルシードは言葉を切り、深く息をついた。
ビセットは目を逸らすこともできず、ただじっとルシードを見つめていた。
空を見上げるルシードの表情は全くわからない。きっと辛い、苦しい顔をしているに
違いないが、彼のそんな表情をビセットは見たことがなかった。
・・・胸が痛かった。痛みに押し潰されそうなほどに。
何も知らない自分が、かける言葉すら見つからない自分が情けなかった。
「・・・そのうちだんだん一緒にいるのが苦痛になってきて、つまんねえことで
大ゲンカして、そのまま・・・謝る前にあいつは卒業しちまった。
もちろん着任先なんて聞いてねえし、もうどうしようもねえって正直諦めてた。
・・・だが、しばらくたってからあいつから手紙が来た。
離れてみてやっと冷静になれた、今までさんざん迷惑かけてきてごめん・・・そして
出来たら、最初の頃のような・・・家族のような関係に戻りたい。戻れなくても、俺の
ことをやっぱり俺を家族のように思うことを許してほしい・・・
そんなことが書いてあった。
・・・俺は、返事が書けなかった。今更戻れるわけない、許されるわけがない・・・
そう思っていた。いや、そう思い込もうとしてたんだろうな・・・本心じゃ同じことを
考えていたくせに、長いことそれに気付かないフリをし続けた。
・・・だけどあいつは、俺からの返事がなくても手紙を書き続けた。
昔の、兄弟みたいにバカ話ばっかしてた頃と全然変わらない・・・いや、少しだけ
姉貴っぽく俺に説教たれやがるんだ。
お得意の夢見がちな言葉で、『取り戻せない過去はない』って・・・。
・・・そのうち、俺も気付いたんだ。確かにどんなことをしても、どんなに頑張って
も過去の間違いは消せない。でもその前の・・・まるで家族のように過ごしたあの頃の
ことも、同じように・・・例えどんなことがあっても消えはしないんだってな。
・・・それに気付かせてくれたのは、間違いなくあいつだよ。他にもいろいろ・・・
おかげで俺は自分の傷をふっきる事もできたし・・・大切なものを見失わずにすんだ。
・・・もっとも、俺があいつにやっと返事を書けたのは・・・情けねえことに、
この町に着任してから・・・っていうか、つい最近なんだけどな」
長い長い話に終わりを告げるように、ルシードは空を見上げていた視線を下に落とし
た。言葉の最後の方も、口調がいつもの調子に戻っている。
「・・・つーわけで、あいつと俺はもうお前らが誤解してるような関係じゃねえ。
いろいろあったけど、あいつは俺のし・・・いや、親友っていうよりは、やっぱり
今でも手のかかる姉貴って感じだな。
結局、なんだかんだいってあいつの保護者みたいなもんだったからな、俺は。
・・・でも、もう俺の役目も終わりだ。これからは俺があれこれ心配しなくても、
ちゃんとあいつを見て、守ってくれる奴がいるんだからな。
今日は、それを見届けに来た・・・それだけだよ」
ルシードは何かをふっきったように晴れ晴れとした顔をしていたが、その表情は
ビセットを見て苦笑に変わった。
「・・・バカ。なに泣いてんだ?お前は」
「・・・ご、ごめっ・・・」
ビセットは慌ててごしごし・・・というより力任せにがしがしと目を擦るが、
泣き止もうと思えば思うほど涙はどんどんと溢れてくる。
・・・何も知らなかった自分が情けなくて、苦しくて、胸が痛かった。でもルシード
が隠さずちゃんと話してくれたことが嬉しいし、ほっとしているのも確かで。
いろいろな感情が混ざりすぎて、何で泣いているのかもうわからなくなっていた。
「あやまんなくてもいいけどな・・・おいそんなに擦るな!目え痛めたらどうする!」
見兼ねたルシードがビセットの腕を掴んで止めさせるが、涙はまだ止まらない。
それが恥ずかしくて、腕を押さえられたビセットは今度は肩で目を擦ろうと
身を捩る。・・・泣き止みたいのに、涙が全然止まらないのだ。
「だから、擦んの止めろっつってんだろーが!」
「・・・だって・・・」
「だってじゃねえ!・・・ったく、ホントにしょうがねえやつだな!
ほら、顔洗いに行くぞ!そうすりゃ少しは頭が冷えんだろ!」
ルシードはビセットを引きずるようにして化粧室まで連れていき、顔を洗わせた。
確かにひんやりした水は火照った顔に気持ちがよく、少しずつ冷静さを取り戻して
くれる。
・・・テラスに戻る頃には、混乱した感情もだいぶ落ち着いていた。
「・・・少しは落ち着いたか?」
ルシードの言葉に、ビセットは黙って頷いた。が、まだ顔を上げてルシードの顔を
見ることは出来なかった。まだ、何よりも言わなくてはならない言葉が残っている。
「・・・ごめんね、ルシード・・・」
俯いたまま呟くように言うと、ルシードは少し意地の悪そうな笑みを浮かべ、
ビセットと目線を合わせるように身を屈めた。
「人に謝る時はちゃんと顔を見て謝れよ。・・・で?その『ごめん』はいったい何に
対しての『ごめん』なんだ?」
ルシードの言葉に、ビセットは思わずうっと呻いた。
勝手に誤解して落ち込んで迷惑をかけたのだから、謝るのは当然としても・・・
(・・・わざわざこんな意地悪することないじゃないか〜〜!!)
・・・すぐ近くにルシードの顔があるせいで顔はこれ以上ないぐらいに赤面して
いるし、心拍数も上がりっぱなしだ。・・・体は緊張のあまりカチンコチンに硬直して
しまって逃げるどころか顔を動かすことだって出来るかどうか。
「る・・・ルシードの気持ちも知らないで・・・勝手に拗ねてて、ごめん・・・」
観念して喉から絞り出すような声で答えると、ルシードは満足げな顔をして頷いた。
やっとルシードの顔が離れてくれたので、ビセットは思わずほっとため息をつく。
「よし。・・・ま、今まで黙ってた俺も悪いんだけどな。お前がへこむっつーのも予想
はついてたし・・・本当は招待状受け取った時に話してやるつもりだったんだが、
なんか知らんがお前に逃げられたんでタイミング逃しちまった」
・・・『それとも・・・ただタイミングがつかめてないだけなのかなって』・・・
「えっ・・・?」
驚いたビセットが思わず顔を上げたのと、ルシードの手がビセットの目もとに
触れたのはほぼ同時だった。
「あ〜あ、すり傷になってるぞ、ここ。だから擦んなっつったのに・・・」
「・・・だ、大丈夫だよ、これくらいっ・・・」
「まぁ、また大泣きでもしない限り、痛まねえとは思うが・・・」
言葉と一緒に、ルシードの左手が顔に近づいてきて・・・顔を包み込むように、
ルシードの両の手がビセットの両頬に添えられる。
・・・また、心臓が跳ね上がった。
「まったく・・・自分のことでもねえのに、なんでこんなに泣けるんだか・・・でも」
どこか照れ臭そうな、嬉しげな笑みを浮かべてルシードが呟く。
「・・・人にそうやって痛みをわかってもらうってのも・・・悪くないモンだな」
半ば、独白に近い呟きだったが・・・これだけ近ければ聞き逃せるわけがない。
その後すぐに手は離れていってしまったが・・・まだ温もりが残っていた。
「あ、あのさルシード・・・聞いてもいい?」
「ん?何だよ、まだ聞きたいことがあんのか?」
「さっきの話・・・どうして、オレに話してくれたの?」
意を決して尋ねると、ルシードは一瞬ぎくっとして・・・難しい顔して腕を組んだ。
「あ〜・・・それはだな、その・・・なんだ。前にお前、感動秘話とやらを話してくれ
ただろ?そのお返しというか・・・お前、人に隠しごとされんの嫌いだし、お前にばか
り話させてるのもフェアじゃねえからな。・・・たまにはいいかって思ったんだよ」
「な〜んだ、それだけかぁ・・・」
しばらくたって返ってきた言葉に少し残念そうに呟いて、ビセットはくるりと回る
ようにして後ろを向いた。そして、そのまますたすたと廊下に向かって歩き出す。
「な〜んだって・・・おい、ビセット?」
少しだけ慌てたようなルシードの声にビセットは足を止めたが、そのまま動かない。
「・・・ビセット?」
「な〜んてね!どきっとした?」
ルシードの方に振り向きながら、ビセットはにかっと笑う。
「・・・あのな・・・」
思わず頭を押さえるルシードに駆け寄って、ビセットは彼の服の裾を掴んだ。
「本当に・・・ありがとね、ルシード・・・大好きだよ」
注意していなければ聞き逃してしまいそうなほど小さな声で呟いて、
ビセットは伏せていた顔を上げた。
「そろそろ戻ろ?もしかしたら、ルーティたちが探してるかもしれないし」
「あ、ああ・・・」
答えるルシードの顔は、少し赤くなっていた。
「・・・戻るのはちょ〜っと待ってくれないかしらね?お二人さん?」
テラスから出た途端、不意打ちのように突然声をかけられた。・・・全く気配を感じ
なかったのにいきなり後ろから抱きしめられて、ビセットは思わず息を飲んだ。
・・・ルシードではない。だって、この感触は・・・
「な・・・ってマ、マリィ!?」
「は〜い?なにそんなに驚いてんのよ。・・・何かやましいことでもしてたの?」
からかうようにそういったのは本日の花嫁、マリアンヌだった。
「す、するわけねえだろ!それよりなんでお前がこんなとこに・・・!?」
「そろそろお開きだから呼びにきたのよ。それにビセット君に話したいこともあるし」
「へ、お、オレに・・・?」
マリアンヌの腕の中で、赤面しながらビセットが呟く。
「・・・おいマリィ、いい加減離れろよ」
「あらぁ?ヤキモチ?」
ふふっと笑って、マリアンヌはビセットの耳元に口を近づけた。
「さっきね・・・ルシードったら貴方が落ち込んでたのを見て、血相変えて私のとこに
来たのよ?いったいあいつに何しやがったって・・・」
思いも寄らない言葉に、ビセットは顔がさらに熱くなるのを感じる。
耳元でないしょ話をするように囁かれたのがくすぐったくて思わず身を捩ると、
ただでさえ不機嫌そうな顔をしていたルシードの目がさらに釣り上がった。
「おいっ!」
「ふふふっ・・・とにかく、私はビセット君に用事があるの。貴方は先に戻っててよ。
・・・でないとこの子に悪さしちゃうわよ?」
言いながら顔を近づけてくるマリアンヌは、明らかに先程までとテンションが違う。 ・・・あの時は式の前で緊張していたのだろうか?あまりの違いに茫然とするビセットは置いて、話はどんどん進んでいく。
「ぐ・・・」
「ほら、行った行った!・・・すぐ返すから、下のところで待ってて」
「・・・わかった。行きゃあいいんだろ、行きゃあ・・・」
愚痴をこぼしながら、ルシードは会場の方に歩いて行く。
その後ろ姿が見えなくなってから、マリアンヌはビセットから手を放した。
「・・・いきなりごめんね?苦しくなかった?」
「は、はい・・・マリィさん、オレに用事って・・・?」
マリアンヌはにっこり微笑んで、少し声を落として答えた。
「貴方に頼みたいことがあるの。・・・貴方にしか、頼めないの。
誰にも秘密にしておいてもらいたいんだけど・・・引き受けてもらえるかしら?」
深刻な様子に飲まれ、ビセットは緊張した面持ちで頷いた。
「ありがとう!それじゃあ、この後・・・」
レストランの入口では新郎新婦を見送る参列者が両脇に並んで、
彼らが出てくるのを今か今かと待っていた。
「結婚式と言えばブーケトスよね!がんばらなくっちゃ!」
ルーティはそう言って、列の一番前を陣取りに行った。
フローネは周りの剣幕に押されて諦めたのか、遠くから見物することにしたようで
人の輪から離れた所に立っている。
「そういえばセンパイ、ビセット君はどこいっちゃったんですか?」
「・・・何か知らんが、マリィに連れてかれた。そのあとは知らねえ」
不機嫌そうに答え、ルシードはもう一度人ゴミに目を向けた。まさかマリアンヌたち
と一緒に出ては来ないだろうから、ビセットはこの人だかりのどこかにいるはずだ。
「・・・?」
ほんの一瞬だったが、今ルシードがいる場所のちょうど反対側・・・ブーケを狙う女
性陣から少し離れた植え込みの辺りで、見覚えのあるピンク色の服が見えた気がした。
いや・・・あの服の形は見間違えようがない。ビセットだ。
「あ、センパイ!どこ行くんです?」
「探しモンを見っけたんだよ」
「?」
首を傾げるフローネを残し、ルシードはビセットらしき姿を見かけた辺りに走る。
・・・ビセットは少し退屈そうに、新郎新婦が出てくるはずの門を見上げていた。
「ビセット!」
近づいて肩を叩くと、ビセットはびくっと肩を震わせ、ゆっくりと振り返った。
その顔はまるで町中でいきなりモンスターに出会ったかような、信じられないものを
見たという表情をしている。
「げ、ルシード!・・・やば、見つかっちゃったよ・・・」
「なにが『げ』だよ、このバカ・・・心配したろうが!」
「い、いや・・・これには深〜いワケが・・・」
・・・その時、不意に歓声が上がった。新郎新婦がレストランから出てきたのだ。
マリアンヌは幸せそうに微笑み、持っていたピンク色の花のブーケを高く挙げる。
そして・・・
「あっ!!」
花嫁のブーケは、勢いよく高く放り投げられ・・・
「・・・へっ?」
狙い澄ましたように落ちたのは、ビセットの頭の真上。
反射的に手を伸ばして受け止めたものの、バランスを崩して倒れかけたビセットを
ルシードの腕が抱きとめる。
「ふふっ。狙い通りだわ!」
「・・・やっぱり狙って投げてたのか。で、誰に投げたんだ?」
「不肖の弟の未来の恋人へよ」
「・・・ルシード君の?」
「そう。私、今とっても幸せだから・・・少しぐらい、分けてあげようかなって思った
の。 ・・・ちょっと、イジワルしちゃったしね」
「・・・大丈夫か?」
「う、うん・・・ありがとルシード、助かった・・・」
ルシードの腕に掴まって立ちながら、ビセットは困ったようにブーケを見つめる。
「いいのかな、これ・・・もらっちゃって」
「・・・いいんじゃねえの?取ったのはお前なんだし」
「でもさ、この花・・・」
「・・・?!あ・・・」
そして、ルシードも気がついた。
遠目に見ていた時には気づかなかったが、このピンク色の花は自分たちがプレゼント
したあの花と同じ花。・・・つまり・・・花言葉は・・・。
「・・・やっぱ、気になるか?」
「気になるっていうか・・・ちょっとフクザツかな・・・」
「ま、受けとっちまったからにはもらっとけ。・・・結構似合ってるぞ、それ」
ルシードの言葉に、ビセットは真っ赤になりながらブーケを見つめた。
「・・・ルシードがそういうんなら、もらっとこうかな・・・」
・・・幸せな花嫁の持っていたブーケ・・・次に幸せになる人に投げ渡される、
幸せの象徴。彼女がどういう意図でこれを自分に渡してくれたのか・・・少しだけ、
わかったような気がした。
・・・貴方にしか、頼めないの。
さざえのたわごと
どうもここまでご苦労さまでした!この話は元々最初にゲームをクリアした時に、
どどどどど〜っと考えついた話です。ラストイベントでルシードに惚れ直した直後に
考えついたせいか、大変夢を見ているようで。現実はこんなに上手くいくかよと、
自分で自分に悪態つきつつ、妄想の中ぐらい夢見ても良いだろうとさらにツッコミ
いれたりして・・・何やってんだかなぁ・・・
とりあえずこの話、懲りずにまだ続きます(死)
かなりオリジナル色強いんで、それを許せる心の広い方はまた見てやって下さい。
・・・ちなみに設定作りの鬼さざえは、ルシードの弟妹5人全員の名前、両親の
なれそめ話その他諸々いろいろ勝手に作っております(苦笑)
そのうちどこかで語ることがあったら、温かい目で見てやって下さいませ。
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