「……暇だ」
 とりあえず、その辺をごろごろ転がってみる。
 ごろごろごろごろごろごろころごろごろごろごろごろごろ…………。
 暇が解消できるはずがなかった。

Laze And Meditation
1st

「…名雪でもからかうか」
 俺の中で一切依存は無かった。
 ちなみに、こういう時に限って脳はフル回転するものである。
 からかい方はすぐに思い浮かんだ。

 必要なものは、紙コップと食塩。下手な三分間クッキングよりも手軽でおトクだ。


「名雪、突然だが簡単なゲームをしないか?」
「ゲーム?」
「そうだ。お前が勝ったらイチゴサンデーを奢ってやろう」
 名雪の目が輝いた。
 俺はあらかじめ用意して、後ろ手に隠しておいた紙コップを取り出す。

「二択だ。ちなみに片方はしょっぱい」
 あえて「飲め」といわないところがミソである。

 …五分経過。
「うー」
「そこまで悩むほどのことか?」
 俺なら諦めて自分で買いに行くが。
 880円のために脳をフル回転させられるこいつは、ある意味偉大だと思う。
 せっかく高まった集中力だ。もっと高めてやろう。
「なぁ、名雪」
「え?」

「しょっぱい方が実は俺の汗だったらどうする?」

 名雪が固まった。
 実際、汗である訳がない。
 コップ一杯に汗をためてる奴がいたら、まず近付けない。

「あ、汗なわけないよ。だってそれならにおいとかあるし…」
 慌ててる慌ててる。
「日頃の食生活のバランスがよければ、汗の臭いも最大限抑えられるんだ」
「えっ!」
 もちろん冗談だが、名雪は普通に驚愕していた。
 信じてるに違いない。


 名雪の顔は真剣だ。
 テスト前でもこんな顔は見たことがない気がする。
「うーっ」
「…悩んでも確率は変わらないぞ」
「くー」
「寝るなっ!」
「…祐一、反応が同じ…」

 むむ、ギャグの基本である繰り返しを使うとは、成長したな。
 しかし、名雪は未だに気付いていない。
 俺は「どちらが当たりか」という一番大事なことを伝えていない。
 つまりに、俺は結果次第でいくらでも名雪を丸めこめるのだ。

「…できることなら、しょっぱい方を引いて欲しいんだがな……」
 そっちの方が面白そうだ、リアクションが。
「え? 祐一何か言った?」
「いやいや、真剣な名雪も可愛いな、と」
 名雪の顔が真っ赤になる。
 …今のは自爆じゃないよな? 俺。

「…でも、祐一」
「なんだ?」
「どっちを取ったら奢ってもらえるのかな?」
「…お前、聞こえてたな?」
「えっ、何が?」
 これだから天然は怖い。
 落とし穴にはかかりやすいが、意味もなく横道にそれて行く強者だ。
 いっそ両方とも塩水にしてしまった方が楽だったかもしれない。

「考えてなかった」
 正直に言ってみた。
「…祐一」
「冗談だ。普通の水を取ったら当たりだぞ」
 ちなみに今のは思い付きだ。
 期待値はどちらにしても変わらない。こだわらない方がベストだろう。
「ホントに?」
「嘘ついても確率は変わらないぞ」
「祐一なら両方ハズレにしてるかもしれないもん」
「残念ながら、そこまでは考えなかった」
 名雪は少し安堵したような表情を見せる。だが、
「うー」
 振り出しに戻った。
 この場面を録画して上手に編集すれば、一生楽しめること間違い無しだ。

「…こっちっ!」
 名雪が、左側を選んだ。
「………………ちっ」
「祐一、今舌打ちしたよね? ね?」
 いつもなら気付かないだろう。そんな事は。
 滅茶苦茶嬉しそうである。
「ヒントはやらん。さっさと飲んでしまえ」
「うんっ」

 確かに名雪は当たった。
 俺の期待していた方に。

 想像してほしい。
 目の前で、口から水を思いっきり吹かれるさまを。
 しかも、フロントから。…つまり、顔面から噴水がかかったのだ。

「下手な演技はするんじゃなかった…」
「祐一、ひどいよ〜」
 ダブルスで後悔した。
「ひどいよ〜、偽善者だよ〜」
 何やらわめいているが、とりあえず無視することにした。
 しかし、この手は使えないこともない。
 創意工夫によっては、こんなことやあんなことも可能だろう。
 さて、次は…。