今回は今までの反省点を生かして、新たな手で攻めようと思う。
…と言うか、今までのほうが趣旨が間違っている気がする。
奴らを悩ませて、それを愉しむのが狙いだと言うのに『噴き出されたらかかる』というリスクまで背負ってしまっていた。
ハイリスク・ハイリターンという言葉があるが、リターンなどあったものではない。
見返りの無い危険など、くそくらえである。
…という訳で一から全てを計画しなおし、限界的に綿密かつ大胆な計画を練る必要がある。
今回のターゲットは舞だ。
「という訳だ。舞、サクランボ食べないか?」
「…? …どういう訳?」
相変わらず唐突なことには眼をつぶっておく。
自分でも「どこか綿密だ」とか突っ込みを入れたいところだが、そこのところは気にしない事にしよう。
と言うか、そんなことをいちいち気にしていては勝負にならない。
「いや、深い意味はない」
「………そう」
じーっと俺と皿に乗ったサクランボを交互に見る。
「………」
じー。俺を。
「………」
じー。サクランボを。
「………」
じー。俺を。
「………」
じー。サクランボを。
「………」
じー。俺を。
これがまた何度も続くと皿を持って見てる方には、けっこうストレスがたまる。
「…いい加減に返事せんかぁ!」
「……食べる」
最初からこうしてれば良かったかもしれない。
舞が一つ目のサクランボを口に放った所を見計らって…、
「知ってるか? 口の中だけでサクランボの枝…っていうのか? まぁ、それを結べる奴は…」
わざと一拍おいて、
「…キスが上手くできるんだそうだ」
どどーん。
そんな効果音がほしいくらい上手く印象付けるような言い方はできたはずだ。
…が。
「………そう」
すでに三つも食べていた。今四つ目。
「人の話を聞けっ」
「聞いてる」
今回のターゲットに舞を選んだ理由はここにある。
真琴やらあゆなら、たぶん簡単にこれをやらせることが可能だっただろう。
あえて茨の道を突き進むのが漢(おとこ)なのである。
神(暇)が与えた試練を乗り越えてこそ漢である。
とかなんとか思ってる内にサクランボの数がどんどん減ってる訳で。
「あっ、おい俺の分もいくつかで良いから残しておけっ」
「………」
ちょっと論点が違った。
だが、大した量ではないとはいえ出費をしたのは事実。
まだ餌にかかるかも解らないのに奢ってやる道理はない。
「聞いてたならわかるな?」
と、俺は枝の乗った皿をずいと舞の前に出す。
「やってみろ」
「………」
悔しいので俺も黙ってみる。
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「だぁっ、だから返事せんかぁっ!」
いい加減挫けそうになってきた。
だが、神(暇)の与える試練から逃げるのは、漢として最も恥ずべき行為である。
…その前に、なんかキャラ違うか?
「やらない」
言うと思った。
「なんで?」
「…別にできなくても困らない」
正論である。
「…じゃあ、できたら牛丼を奢ってやろう」
ぴくり。
揃いも揃って同じパターンである。やはり類友か…。
「はちみつクマさん」
かかった。
今回は目を光らせないように注意しておく。
…
……
………
うかつだった…。
今俺は、猛烈に自分を呪いたくて仕方がない。
「……………できた」
しかも、これで四つ目である。
これだから何でもできる奴ってのは…。
「参った、降参だ。次の休みの時にでも奢ってやるよ」
こくり。
三戦目にして初の敗北である。
もっとも、今までの二戦も似たようなものだったが。
「…四つできた」
「ああ、そうだな」
「四つ」
「…だから?」
まさか、まさかとは思うが…。
「牛丼、四杯」
何やら素敵な響きである。
「…何故に?」
「大丈夫、私と佐祐理に二回ずつ奢るだけ」
「だから、何故に?」
「四つできた」
この際、佐祐理さんの分も奢るのは仕方がないとしても、だ。
佐祐理さんの性格上、
「あははー、祐一さんも一緒に食べましょう」
つまり、牛丼三杯分。
それを二回。計六杯分。
サイフの中身と相談中…。
かなり素敵な結果になる、という結論が下った。
「却下だ」
「ぽんぽこたぬきさん」
「俺のサイフの事情も考えろ、一回ずつでも限界だ」
「大丈夫」
何が? 何を根拠にそんなに自信たっぷりなんだ。
「…じゃあ」
ずい、とサクランボの枝の乗った皿を出す。
「祐一も結んで」
なるほど、そういうことか。
確かに、このまま問答していても埒があかない。
かと言って、これが俺にできるだろうか?
ええい、何を弱気になってる俺。
キスの経験がない訳でもないだろう俺。
合計五シナリオ分の経験と言う奴を今発揮する時だ! ←問題発言
…
……
………
ごめん、俺、敗者。