財布がピンチである。
しかし、諦めの悪い男(自称)として、一度くらいは成功させたい。
…って言うか、なんか趣旨変わってないか?
「ということで、今度のターゲットは…」
「何の話です?」
「今度こそ、奴らに目にモノ言わせてやるんです! 三連敗の借りは返さないと漢(おとこ)としてけじめがつかないっ!」
「了承」
「…って、秋子さん!? いつからそこに…」
「『財布がピンチ』の辺りからです」
ほぼ全部である。
あれ? 『今度のターゲット』辺りまでは発音していない…はず。
しかし、これで下手に頭の中で作戦を練ることもできなくなった。
筒抜けである。
「それなら、自室でじっくりと考えてみたらどうです?」
なるほど。その手があった。
…と言うか『リビングで煎餅かじりながら』という点に無理があった。
やはり、作戦を立てるというのは秘密裏に行うのがセオリーであろう。
「そうそう、祐一さん」
リビングから出ていこうとする俺を秋子さんが引きとめる。
「物置の中身も自由に使って良いですからね」
この人には絶対に敵わない。
下手な好奇心を起こしたらシャレにならない。
本気で、そう思った。
俺は役立つものを探すべく、物置まで足を運んだ。
そう言えば、ここには木刀やら、なんに使うのか分からないものもあったな…。
「…っと、なんだ? これは」
小さいけろぴーだった。
略して、小けろ。
「使えないな、これは…」
と言うか、何故にここにけろぴー?
謎は尽きなかったが、「まぁ、秋子さんだし」で納得することにした。
ごそごそ…。
ごそごそごそ…。
まるっきり不信人物である。
「これは…?」
立派な白い箱。中身は…、タキシード?
誰が使うんだ?
持ち主はすぐに思い当たった。今はもう…、いない人。
名雪の、父親のものだろう。
俺は静かに箱のふたを閉めた。
「あら、違いますよ?」
突然に背後で声がかかる。
「ああああああああああああ秋子さんっ!?」
またか!
またこの人か!
って言うか、また心読まれてるし!
「それは私が祐一さんにプレゼントしようと思ってたんです」
これをですか。
そんで俺はこれをどうすればいいのだろうか。
まさか公共のど真ん中で着て歩けとでも?
「服は着るためのものでしょう?」
確かにそうだが方向性が違う。
「大丈夫ですよ、夏に着ろなんて言いませんから」
つまりあれですか。
俺は春と秋と冬はタキシードですか。
世間の目も俺に集まって今年のファッションリーダーは俺ですか。
ああ、その前に通報されるかもなぁ。
「冗談ですよ…ね?」
「あら、夏に着たいんですか? 蒸しますよ?」
違うッ!
そうじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!
「ふふっ、冗談ですよ。普段着に着ろなんて言いません」
「そうですよね…。さすがに、それは無いですよね…」
「さぁ、どうでしょう?」
アナタが言うと冗談に聞こえません。
願わくば、登校風景の半分がタキシードで埋まってない事を祈るだけである。
「それじゃあ、俺はもう少しここを探させてもらって良いでしょうか」
あえてタキシードに触れるのはやめた。
「ええ。構いませんよ。ここのものたちも、ただしまわれてるより祐一さんに使ってもらったほうが嬉しいでしょうから」
俺は捜索を開始した。
一つ一つのものを、じっくりと見て考える。
もしかしたら、ありきたりなもので凄まじいどんでん返しができるかもしれない。
…
……
………
「こけし?」
何に使うんだこれは。
却下。次。
「アルバム…だな、古い」
おお、小さい頃の俺が。隣には何故か泣いている名雪が。
…って違う。次。
「…トーテムポール、だな」
ここはどこの国だ。
「…ウサぴょん?」
なにやらスイッチがあったので押してみる。
『うっす、オレ、ウサぴょん!』
思わず壁に投げつけた。
…
……
………
「…。これだ!」
咽喉に付けられる指先大の小さな機械。
変声機である。
蝶ネクタイ型じゃないのが悔しい所だが。
しかし、本当に使用できるのだろうか。何しろ物置にしまわれてたくらいである。
とりあえず、テストをしてみることにした。
「だおー」
「うぐぅ」
「あうー」
「…はちみつクマさん」
「そんなこと言う人嫌いです」
「あははー」
「言葉通りよ」
「物腰が上品だと言ってください」
「企業秘密です」
完璧である。
もう、天は俺にこれを使えと言っているのと同義である。
協力者がもう一人いれば作戦も完璧であるが、この際はしょうがない。
夜まで待つことにした。
…
……
………
「おう名雪、ちょっと俺外出てくるわ」
「うにゅ、うん…」
眠そうである。
これなら俺を止めることはないだろう。
必要なものはテレホンカード。
あまり大きな出費にはしたくないのでお勧めの一品だ。
適当に近くの公衆電話を見つけて、そこに入る。
水瀬家の電話番号を押して、誰かが出るのを待つ。
このとき、秋子さんが出ればアウトである。
『もしもしっ、水瀬ですけどっ』
出たのは真琴。何故かちょっと慌て気味。
考えてみれば今は夜。あゆであった場合も、この作戦は失敗に終わっていた。
「あれ? 真琴か?」
『あっ、な〜んだ、祐一か』
「いや、そうじゃなくてだな。お前はそこにいるんだな?」
『祐一なに言ってるの? 当たり前じゃない』
「ちょっと外出てたらな、真琴がいたんだよ。ちょっと待ってろ、代わってやる」
ここで出るのがアレだ。変声機。
「あうーっ、真琴の偽者ーっ」
『えっ…』
「あたしの真似してどうするつもりよーっ、おやつの肉まん返せーっ」
『偽者はあなたでしょっ! ほんものの真琴はあたしっ』
「偽者は「私が偽者です」なんて言わないっ、とにかくマンガと肉まん返せーっ」
このあと、口論を繰り広げた結果…。
『あうー……』
勝った。
ついに勝ったぞ、俺!
ついでに言うなら演技力も誉めるべきじゃないか? この場合は。
「まぁ、そういう訳だ。残念だったな」
『ええ、残念でしたね。祐一さん』
はい?
何故に秋子さん?
いったいどういう訳なのだろうか。
『変声機を使ったのは確かに良い手ですけど、相手も持ってることも警戒しなきゃだめですよ。まあ、演技力も含めて及第点ですね』
「………」
つまり、俺の作戦は筒抜け&から回り。
…ダメじゃん!