どーん…。
どどーん…。
少し遠くから、豪快な音が耳をついた。
もう少し近寄れば、もっと大きな音が聞こえるだろう。
「…良かったな、一緒に見られたぞ。花火」
オレはおぶっている澪の顔を振り返る。
少し間を置いて、澪は頷いた。
『あのね』
不意に目の前に出されるのは、いつものスケッチブックの、いつものページ。
『はなび、きれいなの』
…と実際は書いてあったのだろうが、字がふにゃふにゃで読みづらい。
と言うか、読めない。
「ああ、そうだな」
ジュースに見せかけて酒を飲ませたのは失敗だったか。
少しだけそう思ったが、背中に当たる役得も考えるとイーブンだ。
見た目通り、むしろ見た目よりも更に重さはなかった。
「ん?」
急に背中に当たる感触が離れた。
別にたいした事じゃないのだが、ちょっと気になって振り向こうとした。しかし、
ぐいっ。
すぐに、前を向かされてしまう。
すすっ。
すすすすっ。
何やら背中がこそばゆい。
何かの悪戯のつもりだろうか。
「おーい、悪戯は止めとけよ?」
一度、手が止まる。
しかし、また指を背中の上に走らせる。
ようやく気が付いた。
粋な真似を。
「い、つ、し、よ、に…」
ぽかっ。
叩かれた。
読まれるのが恥ずかしかったらしい。
「読まないと解らないだろうが」
ぽかぽかっ。
また叩かれた。
どうやら「がんばって何とかしろ」ということらしい。
『いっしょにはなびをみられて、とっても、とってもうれしいの』
「…そうだな。全くだ」
オレ一人の声だけが聞こえる。
端から見れば、ひどく間抜けに映るのかもしれない。
どどーん。
どどどーん。
花火があがる。
赤に青に。黄色に緑色に。
大きく。小さく。
『あのね』
背中に、また指で文字を書かれた。
「なんだ?」
ささささっ。
速過ぎる。オレが解読できるはずがない。
「えっ、おい。もう一回、もう一回頼む」
すすっ。
今度は、ゆっくりと。
『ひみつなの』
ぽふっ。
オレがそれを読み取るのとほぼ同時に、背中に柔らかい衝撃が来た。
同時に、温もりも。
「うあっ、澪、少し離れてる間に重くなったな?」
ぽかぽかぽかっ!
今度は三発。だんだん増えてきている。
たいして痛くないから、どこまでいくか見てみたいとも思ったが、さすがにそれはやめておいた。
「元気だな、澪。降りるか?」
ふるふる。
首を振った際に髪が首筋に当たる。
そして、首に回した腕に、ぎゅっと力が込められた。当然、オレの首は絞められる。
はっきり言って、かなり苦しい。
「ぐぁっ、絞め過ぎだっ!」
一拍おいて、慌てて腕が緩められた。
危うく更に違う世界に行ってしまうところだった。
どどーん。
どどどーん。
花火があがる。
赤に青に。黄色に緑色に。
大きく。小さく。
『あのね、とってもしあわせなの
だいすき、なの』