三ヶ月。  もともと基盤となる知識を持っていたサクヤは、今やトゥスクルにとってなくてはならな
い存在となっていた。初めはサクヤの種族を下賎なものと蔑んでいた者たちや、それに付け
込んで皇と有益な関係を持とうとしていた臣下も、すっかりサクヤの手腕に舌を巻くほど。
 若くして皇の重臣となる例は珍しいものであった。が、トゥスクルはとにかく人手が不足
している。今はほぼこう着状態で沈静化してはいるが、いつ戦が起こるかもわからない。先
の盗賊の例もあり、内憂と外患はいつでも爪を研ぎ待っている。

 その盗賊を締め上げた次第では、素性の知れない何者かがもたらした秘術でトゥスクルを
乗っ取るというつもりであったらしい。まさか負けるとは思わず(加えて、誰一人殺されず
に生き残ったままで)盗賊たちはすっかり毒気を抜かれていた。
「……ですから、こちらの人員をそちらに回し、代わりに……」
 毒気を抜かれた野盗たちを労働に徴用してはどうか、と提案をしたのはサクヤだった。も
ちろん反対の声も多く挙がった。罪人に時間を与えるということはそれだけ時間を与える事
になる。特に今回のような盗賊どもは早々に首を刎ねてしまわねば安心できるはずもない。
 監視を付け、労働の結果と本人の改心の如何によってはその罪を軽くする、という機構を
組み、とりあえずは試行してみることとなった。


「さくや〜っ」
 自室に戻ったサクヤに、クーヤが勢い良く飛びつく。
 最近は随分と慣れたのか、不自由な脚でもよろけることも余りなくなった。
「今日も元気ですね」
 にこにこと笑うクーヤの淡い琥珀色の髪を撫でながら、サクヤも微笑む。
 クーヤは何も考えていないようで賢しい。サクヤが仕事があるというときは不満げな表情
を見せるが、決して邪魔になることはしない。
「そうだ、今日は久しぶりに街へ出てみませんか?」
 今日の仕事は思いのほか少なく、昼を回る今にはもう粗方片付いてしまっている。あとは
そう時間も掛からず終えることができる。
 魅惑に耐えられる幼子はそうはいない。
 サクヤからの提案に、クーヤは満面の笑顔で頷いた。



 一方、かの盗賊騒動が終結した山の奥。
 騎兵衆を引き連れ、ベナウィとクロウは自分らが死闘を演じた場所へと赴いた。
「こちらです。あれは、その時のままになっております」
 その時のままに、とは言うが怪我が完治する数ヶ月の間に様相は少し変わっている。
 液体を噴出した部分は腐食し、液体を浴びた甲冑の欠片が転がっているが、それも酷い錆
で原型を判別できない状態になっている。どうやら、液体が特殊であるらしい。
 倒れた怪物の胸から腹の辺りを二人は入念に調べる。何度か調査班を出して状態を報告さ
せてはいたが、実際に見たほうが何倍も分かりやすい。
「……やはり違うのでしょうか」
「コイツがあの化物じゃなかったらなんだってんですかい?」
 二人は顔を見合わせ、疑問を口にする。二人の戦ったアヴ・カムゥと二人の知っているア
ヴ・カムゥとは、相違点が幾つか見受けられた。
 例えば乗り手がシャクコポル族でなかったこと。シャクコポル族自体が先皇の時代の戦で
ほぼ全てが滅びてしまったのだから、ある種当然のことかもしれない。が、アヴ・カムゥは
シャクコポル族の、それも一部の上級兵士や臣下にだけ与えられる代物のはずだ。
「操っていた者が既に死んだ以上、我々だけでは何とも言えません」
 黒い甲冑の上から飛び降りながら、
「オンカミヤムカイに調査を依頼する方がいいのかもしれませんね」
 ベナウィの言葉に、クロウも頷く。もともと頭を使う作業は自分の分野ではない。



「きゃお〜」
「ちょっ、クーヤ様っ!」
 サクヤの手を引っ張りクーヤは勇み足。サクヤが倒れない程度に加減した速さではあるが
それでもはやる気持ちがやや勝っているのか時折サクヤは倒れそうになる。

 どんっ!

「おっ」
「えっ、わわっ」
 クーヤが何かにぶつかる。そのおかげで引っ張られていたサクヤも倒れそうになった。
 引っ張られる自分のことに意識が一杯で、サクヤは全く周りが見えていなかった。クーヤ
に至っては言うまでもない。
「す、すみませんで――――」
 顔を上げたその目の前に、ムティカパの鼻先がこんにちは。
 サクヤは固まった。
「ヴォフ?」
 目の前のムティカパが怪訝そうな(と言ってもサクヤに見分けられるはずが無いのだが)視
線を向ける。その背から、小柄な少女が身を乗り出した。
「………………」
 凍った表情のまま、ムティカパと少女の顔を交互に見る。

 ちっ、ちっ、ちっ、ちーん。

「アルルゥ、さん?」
 ささっ。
 名を呼ばれた直後、アルルゥは再びムティカパの背の方へと隠れてしまう。
 反応はともかく、サクヤは理解した。目の前のムティカパはかつて禁裏にいたムックルで
あり、人を襲いに来たわけでもなんでもなく、ただ街に赴いただけなのだろう。
「お〜」
 おかまいなしでクーヤはぺたぺたとムティカパに触っていた。ムックルの方も悪い気はし
ないらしく何やら得意げな鼻息をぶぉーと吹く。
 ムックルの鼻息に我に帰ったサクヤが恐る恐るアルルゥに声をかけてみる。
「あの、アルルゥさん?」
 ちらり、とムティカパの背中からアルルゥが顔を覗かせる。とりあえず無視はされないも
のだと自分に言い聞かせ、言葉をかける。
「なんでここにムティカパが?」
 トゥスクルの禁裏ならともかく、とどこかズレた考えを抱きながら。
 周りの人もすっかり引いてしまって、自分らだけが妙に目立った格好になっている。ムッ
クルの方もさぞかしいい気分で散歩できたことであろう。
「ん」
 ムティカパごと回れ右。
「――あ」
 行ってしまう、と思って小さく声を上げる。
 せっかく久方ぶりに会えた顔見知りなのに。
「乗る」
「え?」
 不意に言われた言葉にサクヤが戸惑っていると、クーヤは迷わずに飛び乗った。
 少し慌ててサクヤも小さく「失礼します」とアルルゥの誘いを受けることにした。

 と、一緒に散歩をすることになったのだが、きゃっきゃと喜ぶクーヤとは裏腹にサクヤは
内心落ち着いていられなかった。ムックルの乗り心地が悪かったわけではない。むしろふか
ふかとした毛皮は心地よい。アルルゥは口数こそ少ないが、ムックルの背に乗せてくれたこ
とから悪い感情は持ってないのだと思える。
 だというのに何が落ち着かないのかと言えば、異様に身を乗り出すクーヤとムティカパに
離れて注目する周りの視線が痛いことだった。

「うぅ……」
 恥ずかしいやら物悲しいやら人の親切を恨めしく思って情けないやら、とにかく色々な感
情が渦巻いていく。そんな中で堂々としているアルルゥやただ喜ぶばかりのクーヤを見てい
ると、逆に自分がおかしいのでは、とさえ思えてくる。

 そうした中、囁くような声が聞こえた。……笑っているような響きを含んで。
 クーヤの耳がぴくりと動く。そのあと、後ろのサクヤにもたれかかった。
「クーヤ様?」
 髪が口に入りそうになったが、なんとか声をかける。小さくクーヤは呻き声のような声を
上げた。
「っ! ……アルルゥさん、少し、速くしてください」
「ん」
 ちょっとだけ振り向いて視線を向けると、ムックルが一つ吼えて駆け出す。
 今度ははっきりと、サクヤにも聞こえた。
 「穴人」と言う言葉が。



 ザザザザザッ!
 森から戻ろうというところで、ベナウィたちは森に住まう敵の襲撃を受ける。
 深い体毛に長い腕。人間大のキママゥが、何匹も。
 クロウが刀を抜き、ウォプタルをいななかせて牽制する。ベナウィや付いてきた数人の兵
もいつでも攻撃に移れるように武器を構えた。
「チッ、前には隠れてやがったくせによ!」
「恐らく、我らが少数と見ての行動でしょう」
 クロウもベナウィも薄く笑った。
 所詮、敵は獣だ。
 僅かに差し込んだ日の光が、刃をきらりと煌かせた。



「ちょうちょ〜」
 アルルゥに連れてこられた野原で、クーヤは蝶を追いかけて駆け回る。禁裏の庭園よりも
遥かに広いこの場所をすっかりクーヤは気に入ったらしい。近くにあった切り株に腰掛け、
サクヤはほっとしてクーヤを見た。
 穴人、という言葉を耳にしたとき、確かにクーヤは反応した。自分や先皇のことを覚えて
いたのだから、心が壊れるよりも前のことを覚えていても不思議は無い。だというのに、他
の何をおいてもその言葉を覚えているのは……哀しかった。

 クーヤは皇だった。だから、他の種族からどう言われているかを誰よりも知っている。
 その殆どが滅亡したが故に他では見ない自分の種族のことを、決して疑問に思わない。
 小さな頃から見守ってきた大老のことを、クーヤは口には出さない。

「……どうして」
 たとえ心が壊れてしまった今であっても、記憶には過去がしっかりと根付いている。
 いつか、心を取り戻してしまう時が来たら。
 もし来なくても、記憶が意味することを理解してしまう時は来るだろう。
 その時、自分は。
「ん」
 ずい、と目の前に蜂の巣が。
「え、あ……」
「あげる」
 短く、アルルゥは言う。その向こうでは、クーヤが貰った蜂の巣を不思議そうに指で突い
ている姿が見えた。
「ありが、とう」
 受け取り、一礼。
 その仕草が気になったのか、僅かにアルルゥは眉をひそめた。

 うにょり。

 分けてもらった蜂の巣から幼虫が顔を出す。驚いて落としそうになるが、アルルゥの目の
前でそれをするのだけは避けられた。
「えと、これは……」
「たべる」
 聞き違えたのかと思ったが、目の前で一回り大きなもので実践している光景を見せられ、
聞き違いなどではないことを知る。ええい、ままよ――! とかぶりついた。

「…………おいしい、です」
 心底驚いた、と言う表情でぽつりと。
 アルルゥはその言葉に納得したようで僅かに表情を変える。
 クーヤもまたその味が気に入ったらしくアルルゥの周りをうろうろと歩く。
「行こ」
 アルルゥが短くそう言うと、クーヤは笑顔で頷いた。サクヤの方にも視線を送ったが、禁
裏にいるときにサクヤの脚のことを聞いていたのでクーヤだけを連れて行く。
 その結果。
「ヴォフ〜」
「……あ、あははははは」
 ムックルとサクヤだけがそこに残された。



「ふうっ、手間かけさせやがって」
「皆、大丈夫ですか」
 無事キママゥの襲撃を退けた一行は積み上げられたキママゥの屍の山を見遣る。数頭が逃
げてしまったようだが、こっぴどくやられた状況で再び襲ってくるほど馬鹿でもない。
「どうしたんですかい?」
 クロウが屍の山を見ているベナウィに声をかける。ははあ、と納得した様子でクロウは連
れてきた何人かの兵たちにその埋葬(とは言っても、片付け程度のもの)を命じた。他國の人
間にここの調査を依頼するのだから、そのころにはなくなっているとしても死体が積み上が
っていては神経質な聖上にとっては気分が悪いだろう。
「一応、道も作っときますかい?」
「ええ、……そうですね」
 うっしゃ、と気合の入った返事とともにクロウは部下を街へと遣わす。
 今は少数の騎兵衆しか手元にないが、街には労働の担い手が腐るほどいる。
 咎人という担い手が。



「今日はありがとうございます」
 恭しくサクヤはアルルゥに一礼。ムックルから降りた所は街の入り口からやや離れた所で
あったが、街の中まで送ってもらって周りの人間を驚かせるのも良くないだろうと考えての
ことであった。
「ん」
 小さくアルルゥも返事をする。一緒に蜂の巣取りに行ったクーヤと意気投合したらしい。
クーヤは随分とアルルゥを気に入ったのか帰りの道中で何度も声をかけていた。
 言語が不明瞭なクーヤと言葉数が少ないアルルゥというのはなかなかに変わった取り合わ
せではあったが、どういう訳かウマが合ったらしく会話らしき言葉の応酬をしていた。
「また来る」
「お〜」
 言うが早いがムックルは猛烈な勢いでヤマユラの方へと駆けて行く。十も数え終える頃に
はその姿が豆粒ほどにまで小さくなっていた。
「あたしたちも帰りましょうか」
 歩き出す。クーヤの手を握り、禁裏の方へと。

「すっかり予定が変わっちゃいましたね」
 あはは、と小さく笑いながらクーヤに声をかける。新しくできた友達と一緒に遊んだこと
が相当嬉しかったらしく、クーヤの表情は明るかった。
 よかった、とクーヤを見ながらサクヤは思う。
 クンネカムンの戦から保護されて以来、クーヤはほとんどの時間を禁裏の敷地内で過ごし
ていた。一緒にいてくれるサクヤの脚を気にして、という面もあったのだが、それはサクヤ
本人にとっては嬉しいことであったし、数少ない「穴人」が一人で出歩いていればどうなる
かを考えればどうもできなかった。
 信仰する神は違えど、友になることはできる。
 種族の壁など、友となったものの前では紙のようなものだ。
「また来てくださるそうですよ」
 分かってはいるだろうが、念を押すようにもう一度。
 サクヤはアルルゥのことを思う。父と呼んだ先皇、既に他界してしまったユズハとの思い
出。それらがあるここは、決して気安く来ることのできる場所ではないと思う。自分より年
下だというのにそれができるアルルゥを、改めて凄い人間だと思った。

「……お?」
 クーヤが足を止める。
 何かと思ってサクヤがクーヤの視線を追えば、そこには人だかりが出来ていた。
 まさか自分たちのように目立つ乗り物にでも乗ってきた人間がいたのだろうか。そんな好
奇心に近いような気持ちで人だかりに近づいていく。
 がやがやと騒がしい。よく聞き分けてみれば、それがほとんど罵倒の声だと気付いた。
 人の壁は思ったより厚く、ちょっと隙間をのぞいたくらいでは注目されている中心部を僅
かに覗くことすらも叶わない。シャクコポルの人間が近づいていけばいい顔はされないであ
ろうこともあり、下手に近づくことは出来なかった。
「あれ、兵隊さんですね」
 何やら人の波を抑えるようにして刃物をちらつかせている姿が見えた。中心の「何か」に
あまり好くない感情を抱いている人々が集まってきている、ということらしい。
「鎮まれッ!」
 街の人々はまるで兵の言葉を聞こえていないようだった。むしろ声が大きくなるばかり。

 石が一つ投げられた。
 それを皮切りに、飛ぶ石の数がどんどんと増えていく。
「鎮まれ、鎮まれェッ!」
 何度も声を上げるトゥスクルの漢。
 漢は投げられた石から「何か」を守っているようだった。
 罵声の中から、一つの単語を拾い上げる。その言葉で、原因が理解できてしまった。
「くーや、さま……」
 たどたどしく、クーヤの名を呼ぶ。握り締めた手は、いつの間にか汗が滲んでいた。
「おぉ」
 短く、クーヤの返事。
 サクヤは思わず人混みに向かって駆け出した。

 穴人と呼ばれてもかまわない。
 自分には多くの人に嫌われるに足るだけの所業があるから。

 突っ切った中、サクヤは輪の中心に辿り着いた。
「サクヤ、様」
 あっけに取られた顔見知りの衛士が見えた。
 それと、野盗の一人であったものの姿。
「……って」
 渦中を纏っているとはいえ、ほとんど無抵抗だった漢の頬には傷があった。
 身を守るものを何一つ持たない元盗賊は痣と傷だらけ。
「鎮まってください!」

 自分は恨まれるようなことは直接していない。
 けれど種族以外のことで蔑まれることが割に合わないとは思わない。
 誰かを恨んだりは絶対にしない。

 民の罵声と投げられる石は止まない。
「鎮まって――」
 むしろ、戦犯のシャクコポルが躍り出たのは逆効果だった。
 穴人ともども殺してしまえ。
 そんな言葉が耳に入る。
「貴様ら、この方を誰だと――――!」
 漢が腰に下げた刀を抜き放とうとする。
 いけない、とサクヤはそれを止めようとした。

 がくん。

 サクヤの頭が揺らされた。
 ぬらりと生暖かい感触が額のあたりを流れる。
 石が額を切り裂いたのだと、少し経ってからわかる。
「サクヤ様ッ!」
 盗賊を守っていた漢がサクヤに駆け寄る。
 もともと敵だったはずのシャクコポル族にトゥスクルの漢が寄る。その異様としか言えな
い光景は暴走する民の手を一瞬止めた。

「あたしの血、それにこの人や、あなたたちの血」

 傷口が、熱い。
 片方の手で兵の傷に触れ、もう片方の手で元盗賊の傷に触れ。
 どくん、どくん。
 心臓以外の場所からも鼓動が響く。

「何が、違うんですか」

 庇われている男は罪人である。
 けれど、それだからと言って誰かが傷つけていいなんて話はない。

「罪のある人を傷つけることも、同じことなのに――!」

 言い終える頃、サクヤは倒れた。
 意識が消える少し前に、クーヤのことを思った。


「あ、れ?」
 ぼやけた視界がだんだんとはっきりとしてきた。
 淡い琥珀のような色。それがクーヤの髪だと気付くまでに時間は余りいらなかった。心配
そうに覗き込むクーヤの瞳と目が合う。
 サクヤがゆっくりと微笑むと、クーヤはようやく嬉しそうに笑った。
「気付かれましたか」
 また別の方向から声がかけられた。胴を起こそうとすると、
「いたたた……」
 額がずきりと痛む。指で恐る恐る触れてみると、額には包帯が巻かれていた。あの場では
全く気に留めている暇はなかったが、もしかしたら深い傷なのかもしれない。これは傷跡が
残らないことを祈るばかりだ。
「……あ」
「疲れがたまっていたのでしょう」
 声をかけたのは、同じ場にいた衛士だった。傷の処置をしてくれたり気絶した自分を運ん
だりしてくれたのも彼なのだと理解する。
「クーヤ様も、あなたが?」
「ええ。ずっとサクヤ様を心配してましたよ」
 言い振りから診ていてくれたのかと思う。シャクコポルに対して礼節をわきまえたような
態度だったり、様付けされたりなどでいちいちこそばゆいが。
「あの」
「あの」
 言葉が重なった。サクヤは先に漢に譲る。

「こんなことを言うのは変ですが、自分はサクヤ様を尊敬しております。ゲンジマル様の孫
 だとか、そういうのは関係ありません。自分とそう変わらない歳であのように振舞うこと
 は、誰にでもできるわけではありません」

 サクヤはきょとん、とした表情になる。
 そして、一拍遅れて。
「そ、そんなことはないですっ。あたしはただ必死なだけで」
 早口でそこまで言ってから、そんなことが言いたかったわけではない、と本当に言いたか
ったことを思い出し、なんとか表情だけでもと落ち着ける。
「あの、ありがとう、ございます」
 たどたどしく、一礼。
 上気して真っ赤になった顔を見られるのが恥ずかしくて、余計に頭を上げにくい状況にな
ってしまった。
「あたしを運んでくれたり、クーヤ様を連れてきてくれたこともそうですけど。
 それより、あたしなんかの出した提案を守ってくれて」

 自分の回りは敵ばかりだと思い込んでいた。
 だから、慕ってくれる人がいたのは嬉しかった。ほんとうに。