―――!? ちぇっ?
なにがいったい「ちぇっ」なの?
私は自分自身の発言に驚いていた………


ある日曜日の午後、私は商店街へ買い物に来ていた。
アルバイトのお給料が入り、贅沢な気持ちになっていたせいか普段は入ったことのないちょっとお洒落なお店に思い切って入ってみることにした。
「…いらっしゃいませ」
店員は無作法な挨拶で私を迎えてくれた。
場違いな視線を少し感じつつも店内を見てまわる。
すると、店の奥の方から聞き覚えのある声がした。
「あ〜ら、あなたもお買い物?」

「あ、瑞希さん」
須藤瑞希さん―――同級生の彼女は、ちょっと高飛車な物の言い方をするけど、なぜか憎めない。
寧ろそんな口調が可愛らしくさえも感じる。
さすが大財閥のお嬢様だけあって、この高級ブティックにとても馴染んでいる。
瑞希さんは、こういうお店で洋服を買ってるのかな…
今日もいつもながら、私なんかが一生買わない(買えない)ような、上品な(高そうな)洋服を着ている。
「あ、うん。そんなところかな」
瑞希の問いかけに答える。
「わたしはねぇ……」
瑞希が、いつにもまして優越感たっぷりの表情で切り出した。
すると、店の奥の方から人影がこちらに向かって来た。
「須藤君、これはどうだね」
瑞希を呼ぶ男性の声に私は違和感を感じた。
瑞希のそばにいる男性と言えば、須藤家の執事であるギャリソン伊藤さんだとインプットされていたからだ。
この声は明らかにギャリソンさんの声じゃない。
声の主の顔を見て、私は驚きを隠せなかった。
「天之橋さん!?」

―――天之橋一鶴さんは、はばたき学園の理事長でとっても素敵な紳士だ。
理事長っていうと、もっと威厳があって近寄りがたいイメージがあったけど、この人は、学園の行事に自ら参加したり、放課後に声をかけてくれたり、ちょっとお茶目さんかもしれない。

驚いている私を見て、瑞希は更に満足げな表情で続けた。
「理事長にバッタリ会って洋服を選んでもらってるの」
「おや、君も買い物かな」
天之橋は、手に淡いピンクのブラウスを持ちながら私に話し掛けた。
「は、はい。そんなところです」
「Tre`s bien!(トレ・ビアン!)素敵!ミズキにふさわしいですわ」
二人の会話をさえぎるかのように瑞希は、ちょっと大きめの声を出した。
「そうかい。気に入ってもらえて嬉しいよ」
「ミズキ、試着してみたい!」
「では、次は君に似合うアクセサリーをお見立てしようかな」
「さ、行きましょう。理事長」
そう言って瑞希は理事長の腕を取って奥へ行こうとした。
瞬間、私をチラリと見て
「うふふ……A bientot!(じゃあね)」
と、言って店の奥に進んでいった。

な、なんかゴージャスでお似合いって感じだったな。
……ちえっ。

なんでだろう。胸のあたりがもやもやする。
このまま落ち着いていられない、でも、どこにも動けない。
ふらふらと店を出たまでは良かったが、店先で立ち尽くしている。
ショーウインドウを覗くと、奥の方に二人の姿らしき影が見える。
ちょっと視線をずらすと、ぽつんと一人きりの自分の姿がガラスに映っている。
………私って、ひょっとして、ひょっとして!?
瑞希さんのことを?…違う、違う、そうじゃない〜!!(た、多分…)
瑞希さんに…嫉妬?
ち、違うよ、うん、違う。
ゴージャスっていうのが羨ましいだけ!
お似合いっていう雰囲気に憧れてるだけ!
そう、そうよ、そうなんだ!
………そうじゃないよね、私…気になってるんだ。
天之橋さんは誰にだって優しいってこと。
瑞希さんじゃなくたって、バッタリ会ったらああやって付き合ってくれるんだろうな…
私だけに優しいわけじゃない。
それを思うとなんだか心が痛む。
何故だか急に恥ずかしくなって、駆け出していた。
早くここから逃げ出さなきゃ。
今ここで、また天之橋さんに会ったら、どうなってしまうかわからない。
このドキドキする鼓動が、走っているせいなのか、それとも別な気持ちのせいなのか、わかっているくせに決められなかった。

気づいてしまった、私の気持ち。

日曜の商店街には、一人の少女の駆ける足音が鳴り響いていた。
いつまでも…



                                   END

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