「いいかい?オリオン座はわかるね」
「はい。あの3つの星が並んでいる星座ですよね」
天之橋と舞は、天之橋邸のバルコニーから星空を眺めていた。冬の夜空は冷え込むが、寄り添う二人は心の中から温まっていた。
「そう。3つの星の左上にある明るい星がベテルギウス。その横にあるこいぬ座のプロキオン、そしてその下にあるおおいぬ座のシリウス、この3つの明るい星をつなぐと大きな三角形ができる。これが「冬の大三角」だ」
「あ、ほんとだ!」
「この三角形の中にある暗い星々をつなげて出来るのが一角獣座。ちょっとわかりづらいかな」
「え〜と…難しいです」
「この一角獣の頭部付近にあるのが"バラ星雲"。肉眼では見ることは出来ないけれど、写真撮影をすると見事な赤い薔薇に見えるんだよ。今度写真を見せよう」
「一角獣座は薔薇を持ってる星座なんですね。ふふふ、一鶴さんみたい!」
二人は、流星群が今晩、一番多く流れるということで、深夜2時を過ぎているにもかかわらず、待機しているのである。
「一鶴さんは、星に詳しいですね」
「ちょっと勉強のようでつまらなかったかな。では子供の頃の思い出話をしようか…
子供の頃というものは、冒険が大好きだろ?一鶴少年も例に漏れず探究心が豊富でね。夜中に家を抜け出して、夜空の下を歩いてみたくなったんだ。その日は空気が澄んでいたのだろう。まるで街が星空に抱かれているかのようだった。そんなきれいな星空なのに、歩いている人は誰もいない。自分以外はどこかに消えてしまったのではないか、と思うような静けさだった。しばらく歩いて、当時子供たちの遊び場だった小高い丘、私はある男の子と出会った。その男の子は顔見知りの子だったが、それまでに話をしたことが一度もなかったんだ。いつも一人でいたその男の子は、本を読んだり、何かを書いたりして、いつも俯いていた。でもその夜、いつもは俯いている顔を銀河に向けていたんだ。 私はしばらくの間、その男の子の横顔に見惚れていた。どのくらいの時間が経っただろうか。男の子はそっと呟いたんだ。
「おおきくなったら、僕たち、あの星に手が届くのかな」
そして星空を抱えるように手を広げながら、続けた。
「ねえ、これだけ多くの星が空にあるなんて、君は気付いていたかい?間抜けな星の一つや二つはきっと落ちて来るよ。こうやって手を広げて待っていたら、星を受け止めることが出来る、僕にはそんな気がする」
「そうだといいね」
「さあ!君もやってごらん」
「こう、かな?」
「ほら!見て!!星が降ってくるよ!」
その時、空から本当に星が降ってきたんだ!いくつも、いくつも。その時はわからなかったけど、物心ついてから調べて、それは今日見られるような流星群だったということがわかったんだ。そんな貴重な体験をともにしたせいかな。その男の子とはかけがえのない親友になったんだよ。まあ、友達になったのは、もう少し大きくなってからだけどね。ただ、その夜以降、男の子は俯くことなく、いつも空を見上げていた。遥か彼方の遠い星を。まるで世界の全てを見つめているかのように。世界を見た今でもまだ高い空を臨んでいるよ…」
「その男の子って、花椿せんせ…」
「さ、お話はここまで。そろそろ流れ星が見え始めるかな」
天之橋が話をはぐらかしたので、舞も深く追求しなかった。舞は別の話題を振ることにした。
「私、流れ星というとハレー彗星しか知らなかったです。ハレー彗星って多分、私が生きている間にはもう見られないかも。一鶴さんは見たことありますか?」
「ああ、1986年の大接近の時にね。次は2062年か…君はなんとか見られそうだけど、私は無理かな、ハハハ…」
一鶴の力ない笑いが、静かな夜の闇に響き渡る。
「二人で一緒に見られたらいいですね」
「うん、そうだね。今晩流れ星にそれもお願いするとしよう」
「一鶴さんは他にも願い事があるんですか?」
「う〜ん、学園の発展も捨てがたいが、やっぱり君といつまでも一緒にいられますように、かな?そういう君はなんてお願いをするんだい?」
「私は、一鶴さんの願いが叶いますように、って」
そう言うと舞は夜空を見上げた。一鶴も、舞の横顔を一瞬見てから、視線を空に上げた。
そして二人が同時に声を発した。
「あ!」
了