宮津舞はいたたまれない気持ちで歩いていた。
(………)
 複雑な想いが舞の心を締め付けている。
(買い物になんか行くんじゃなかった…)
 少し気分を落ち着かせたい。
 でも、この気持ちは、そうやすやすとは静まる物ではないだろう。
 そう考えた舞は、とりあえず帰り道の公園で、涙を味わうことに決めた。

「あれ?」
 公園の花壇の前に、見覚えのある人物がいた。舞は、思わず声をかけた。
「有沢さん!どうしたの?」
「あ、宮津さん」

「ねぇ、花の色が残酷だと思ったこと、ある?」
 有沢が突然切り出した。彼女は時折、詩人になる。
その表現に舞は、有沢が本当に文学が好きなのだと実感する。
いつもなら、うわぁ…(色々な意味合いで)スゴイな…、と思うのだが、
今の舞には、その言葉が心の奥まで沁みこんだ。
舞の心はひび割れて粉々になっていたから。
「あるよ」
「えっ?」
 意外な言葉に有沢は、ポエムな自分だけの世界から現実に引き戻された。
「その花はね、気高くて美しい花。私はその花が好き。
 だから花の蜜を吸う蜂のように、その花に近寄りたい。
 でも、その花に魅せられているのは私だけじゃない。
 例え他の誰が近寄っていたとしても、私はその花を見つめていたい。
 もうこの気持ちから逃れられないみたいなの。
 …薔薇の色は残酷だね」
「薔薇って、宮津さん、あなたの好きな人って…」
 有沢の脳裏には、舞と英国風紳士が会話している姿を思い浮かべていた。
「そうだよ。私は…」
 舞は先程見た光景を思い出していた。

 ―――あれは同じ学年の女の子。
 自動車の助手席に座って、楽しそうに微笑んでいる。
 横にはあの人が同じように微笑んでいる。

 見かけなければ、よかった
 知らなければ今まで通りの有頂天のままの私
 恋をしているのは自分だけだと思い込んでいた私

「薔薇の紅って、こんなにも意地悪なんだね」
 舞の言葉に、有沢はどう答えていいか戸惑った。
自分が浸ろうとした世界に乗り込まれてしまったもどかしさもあったが、
何よりも舞の想い人を知ってしまった衝撃が大きかった。

「気にしなければいいのよ。あなたはあなたなんだし。
 ほら唄にもあるじゃない。NO.1じゃなくてオンリーワンになればいいって」
「有沢さんでも知ってるんだ、その唄」
「私だってテレビくらい見るわよ。」
 有沢は、前にもそう言ったじゃない、と思いながら軽くムッとして答えた。
でも実際のところは、バイト先の花屋、アンネリーの店長が、
薦めた唄だったので、有沢も知っていたのであった。
「………私はあの人のNO.1にも、オンリーワンにもなりたい。」
 舞の瞳が潤み出した。
「宮津さん…」
「私の心はこれ以上切ることが出来ないくらい細かく砕かれて…
 これが切ないってことなの?どうしてこんなに苦しいの?私はこれからどうしたらいいの?」
 とうとう舞は涙をこぼしてしまった。
「…今あなたが言った気持ちを、素直に表現すればいいんじゃないかしら。
 自信を持っていけばあなたなら大丈夫」
「有沢さん…」
「全く、泣く子とあなたには敵わないわ。」
 なんとなくほっておけない、舞にはそんな独特な雰囲気がある。
有沢は、舞に好かれて、嫌な感情を抱く男性なんていないだろうと思った。
しかし「好き」という感情だけは本人にしかわからないことだから厄介なものである。
「ありがとう…私、有沢さんを好きになればよかったな」
「!?な、何、馬鹿なことを言ってるのよ!
 そういう事にかまけて、受験のライバルが減ると思うと張り合いがなくなるから!だからよ!」
「うん、ありがと」

「ねぇ、ところであなた、その気持ちを詩で表現してみない?」
「詩?」
「そう、詩」
「私には無理そう」
「大丈夫。私が教えてあげるから。好きな人にいつか贈るつもりでノートにまとめるの。
 私も実は作ってるの。もう2冊目が終わるところ」
「難しそう…」
「よかったら、これからノートを買いに行かない?まずは形からって言うでしょ?」
「…うん、それもいいかも!」

 こうして「宮津舞メモリアル詩集」が2005年2月5日に贈られることになったのである。

                   
                          END