5「先輩宅」
1戸建ての綺麗な先輩の家の前。
「ありがとうございます。」
私はやっと「アップルパイの作り方」の本を貸してもらった。
「弟君におししいアップルパイを作ってあげてね。」
「はい。」
などと家の前で、話していると、家の玄関の戸が開いた。
先輩のお母さんのようだ。
にっこりと微笑んで手招きをしている。
「浜松さん。せっかくいらっしゃったのだから上がっていきなさい。」
「母さん!」
「だって、今美味しいクッキーが焼きあがったところなのよ。」
そういうと、また手招きをする。
一人で帰らせてしまった翔のことが少し気になっていた。
私は早く家に帰りたかったが。
正直、先輩のお母さんが作ったクッキーを食べてみたいと思った。
私は先輩のお宅にすこしお邪魔させてもらうことにした。

テーブルについた私の前に、すばやく3人分のクッキーと紅茶を用意すると。
お母さんは私の前にイスに座る。
「それじゃぁ、頂きます。」
パクリ。
美味い。なんて上品な味なのだろう。
「先輩のお母さんもお料理が上手なんですねぇ」
少し羨ましい。
私の家庭は今母親がタクシー運転手をやっているので、
いつも帰ってくるのは夜の11時以降。
朝は私達よりも早く、顔を合わせている時間は少ない。
作り立ての母の料理なんてここ数年食べていない。
翔だってそうだ。翔はまだ小学生なのに・・・。
その分私が翔に出来るだけ喜んでもらえるような料理を作ってあげたいと思った。
だから、私は高校に入ってすぐ「調理研究部」に入部した。
ときどき翔に料理を作ってあげるが、すぐ料理を平らげてしまう。
食べているときの表情もカップラーメンを食べている時と同じ。
翔は、私の料理に満足してくれているのだろうか・・・
「浜松さん?どうしたの?」
つい、翔のことまで考えが飛んでしまった。イカンイカン。
「ごめんなさい。このクッキーが美味しくて、特別な材料でも使ってるのかなって考え込んでしまって」
私の言葉にびっくりした先輩は、頭を抱え込んでしまった。
何か私いけないこと言ったかしら?
「ふふふっ。実はね、今回のクッキーは特別にこの・・・」
そう、確かにいけない言葉をいってしまったと、このあと後悔した。
先輩のお母さんのクッキー作りの話は延々と1時間近く続いてしまったのだ。
どうやら、おしゃべりの好きなお母さんだったらしい。

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