まえがき


ある日 友人ニシオギから届いたメールにこんなことが書いてありました

彼には主人公が卒業した翌年
「先生!恋人はいますか?」
との質問に
「居る!以上!」
と答えて欲しいワタシである(笑)


これに激しく反応した私を見かねて(というか読みかねて……? チガウな……)
真木がこれを元に書くなら自分(ニシオギ)も書くと宣言してくれたため
喜びいさんで創作したのがこれからお送りする「新学期」です

最初にあるのが私が書いたもので
後に載せたのがニシオギ作です
どうか私たちと一緒に楽しんでいってください





新学期(by真木るい)


「先生!恋人はいますか?」
「居る!以上!」

少しの沈黙の後

キャー! ワー!

教室の中を埋め尽くすような歓声が上がった

1年E組 氷室学級
それまで 期待に満ちた眼差しを担任教師に向けていた生徒らは
簡単かつ簡潔なその返答に驚きつつ
その内に抑えていた興奮を表に出すチャンスとばかりに大騒ぎをした

「静かに!」

ぴたりと音が止む

「聞かれたから答えたまでだ。以降、このようなくだらない質問は受け付けないからそのつもりでいろ」


HR解散を告げ 氷室零一は教室を後にした

職員室に向かって歩き始めると 隣のクラスの担任教師が
いつの間にか隣に並んで歩いていた

「珍しく先生のクラスが賑やかでしたね。一体何がおありになったんですか?」

好奇心丸出しの顔が ひょこっと氷室を覗きこむ
昨年に引き続き 氷室と同学年を組むことになったこの男は
かなりの話好きで 時折氷室を辟易とさせた
だが 人は良いし 年齢も近いということで
氷室にしてはかなり仲良くしている部類の人間なのであった

「…面白がってるな? ……何でもない。入学したてで生徒たちは皆、興奮しているだけだ」
「何だその答えは。相変わらず変な奴だな」
「俺がか?」
「お前がだ」

むっつり黙り込んだ零一を 男はおもしろそうに見て ぽんと肩を叩いた

「安心しろ。お前は良い教師だ」
「…わかっている。そうである為に常に努力を惜しまない」

いつもの氷室節に 男はさらに笑顔になった

「まったく、こんなお前と付き合う彼女もエラいよ。俺は尊敬するね」
「…!! 学校でその話はするなと言ったはずだ!
「聞かれたら答えるくせに」
「俺は嘘をつくのは嫌いだからだ!」
「あ、さては……生徒たちに質問されたな?」
「………………」
「そしてバカなお前はあっさり答えた。そうだろ?」

アッハッハッハッハ!

廊下中に笑い声は響き渡り 周りの生徒たちが何事かと振り返る

「氷室先生、がんばってくださいね」

その口調とは裏腹に今度はからかうような調子でぽんぽんと氷室の肩を叩いて
彼は職員室とは別の方向へ足取り軽く曲がっていった


後に残されたのは 口をへの字に曲げた氷室零一29歳
昨年度まで自分の生徒だった”彼女”とは 付き合い始めて8日目のある春の日のひとこまである





新学期(byニシオギ)


「あ!氷室先生!!」 

昼休み、所は屋上である。
諸々の理由からやっとここに落ち着いていた氷室は、
勢い良くドアが開くと共に飛んできた声に内心頭を抱えた。

「………また君か……」
「はい!ジブ……いえ!俺、です!!」

氷室零一の目の前に駆け寄って来たのは……三学年の日比谷渉。
ついこの間迄は良くこうやって駆け寄って来たのは彼女であったのにと、
氷室は日比谷を眺めながら思うとも無しに思っていた。

ちなみに彼女が駆け寄って来た時には見詰めていたのものだが、彼にその差の自覚は無い。

「あ!弁当ッスね!やっぱせんぱ……いえ、彼女の手作りなんですか?」
「………どうでもよろしい」

氷室は彼女なりに一所懸命選んだシンプルな、
しかしそこは"雑貨屋"で選んだなりのシンプルな弁当箱の箱をさりげなく閉めた。
この上この中を見られたら何を言われるか解ったものでは無い。
まだ藤井の様な生徒で無かった事は幸いと自分に言い聞かす。

それにしても、これは今朝会ったばかりという事では無いか、
最早無自覚に、脳内物質の悪戯とやらを止めさせる気も無い氷室氏である。

「……はぁ、良いッスねぇ……あ!それで先生!聞いたッスよ!」
「何をだ……」

受け持ち学年で無いこの生徒と、何故かのように面識が有るのかと言えば、
去年、一昨年と彼が受け持つ学年の幾人かの男子生徒。及び限定された女生徒に付き纏っ……
いや、その、何だ。リサーチとやらをしていたらしいからだ。

「今日のHRッス!!『先生!恋人はいますか?』『居る!以上!』ッスよ!!」

(な……な………)

「くう〜〜〜〜〜っっ!!カッコイイッス!!」

握り拳を固めつつ、ご丁寧に口真似でそう言う日比谷に、氷室は蟀谷を引きつらせながら、
「何処で聞いた……」
と、一段トーンを落とした声で聞いた。
普段なら威圧的な響きを持つその声も、
内容が内容であるが故か相手が日比谷であるが故か思い切り威力を発揮しなかったようである。

「え?もう学校中の噂ッスよ!あーそれにしても先輩はやっぱ年上好みだったんスねー。はぁ……こんな身近にリサーチ漏れがあったとは。日比谷渉、一生の不覚ッス」

学校中の噂………

職員室でもやたらと見られていた気がしたのは、やはり気のせいでは無かったのか。
それにしても何の話をしていて異性の好みの話になる?
第一彼女の好みを熟知して一体どうする気だったのだ?!
年上好みの一言で片づけるのか!一体俺がどんなに!!

…………違う。今問題なのはそうゆう事では無い。

大丈夫だ。人の噂も七十五日というでは無いか。
七十五日と言えば二ヶ月と少し……二ヶ月?!そんなにか!!
いや、違う、これはものの例えだろう。この年頃の興味等次から次へと移るもの。
あれ以上の質問は受け付けないと釘を刺してある。大丈夫だ。

大丈夫と繰り返している時点で既に大丈夫では無い事に気付いていない氷室氏の前で、日比谷はまだ目を輝かして語り続ける。

「言ってみたいッスねー『居る!以上!』
「もうそれはよろしい……」
過剰に反応しては、却って事を大きくする。ここは軽く流した方が懸命だろう。
「これからは氷室先生を目指します!だからこれから自分はジブンじゃなくて『俺』ッス!」
「………別に目指さなくてよろしい……しかし何故私を目指して一人称がそうなるんだ」
「あれ?だって彼女と居る時はそうですよね?」
「な……」


沈黙は肯定に繋がる。落ち着くんだ氷室零一。


咳払いを一つした彼は、

「何を根拠にその様な事を言う?」
と、問いた。
「あ、尽くんに聞きました。彼の情報収集能力は感嘆の一言ッス!
はぁ、こんなだから『日比谷はまだまだ修行が足りないよ』とか言われちゃうんスよね」

君はくん付けで、中学生の尽からは呼び捨てか。
どうなのだ。それは。
いや、それはこの際どうでも良い。一度彼とはよく話し合わなくてはなるまい。

「あ!それじゃあ俺、これから部活の勧誘の打ち合わせなんで!失礼します!」

そんな時に何故わざわざ此処に。

慌ただしく去って行く後ろ姿を見送りながら、
溜息を付きかけて、思わず息を呑む。

"溜息を付く度に幸せが一つ逃げちゃうんですよ?"

笑顔と共に言われた、そんな言葉を思い出して。


◇ FIN ◇





あとがき


いかがでしたでしょうか
同じネタでも書く人によってこんなに違うという例を出してみました

ニシオギはお笑いバージョンを書くと言っておりましたが
なぜか最後で素敵シリアスになっているんですが
これはシリアスに書こうとしてちょっと逸れてしまった私への挑戦なのでしょうか?

そして当然のごとくちゃんとお笑いヒムロッチでわたくしは嬉しい限りです

>七十五日と言えば二ヶ月と少し……二ヶ月?!そんなにか!!

冷静に月に換算しておいて それに驚く彼が好きです
そしてきっと「そんなにか!!」では声が裏返ってるはずです
心の声ですが勢いとしてはそんな感じ 間違いありません

氷室先生の裏返り声は100万ボルトの憎いあんちくしょうです
ニシオギと二人 ときめき修学旅行のビデオを見ていたとき
裏返り部分で二人して「ぶはーっ!」と吹き出したことが
昨日のことのようによみがえります

知っていても笑えてしまうヒムロッチの裏返り声
裏返させたら日本一 子安さんに感謝状贈呈

まあとにもかくにも 氷室先生は素敵キャラということで
我々のヒムロッチへの溺愛ぶりをご堪能いただければ幸いです




アンジェ以外も万歳