水晶球の向こう側
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私は毎夜毎夜 お前のことを想う 黒く大きな穴の淵に手を添えて そこから身を乗り出し 存在するのかわからぬその穴の底を 目を凝らして見つめている ちょうど そのような気分で お前のことを想っている 失ってから気づくことが多いということは知っている 知っていることと わかっていることと 双方のその隔たりは 私の知るこの宇宙の広さにも匹敵するのではあるまいか しかも この宇宙は今も尚 その範囲を広げていると聞く 時が経つほど わかっていなかったということを 知る 私はお前の髪を知っている 重そうに見えるそれが いかにさらさらとこの手の中からこぼれてゆくか 私はひとりで生きてきたし これからもそうだ 私の一生を 誰かと分かち合うなど ありえないことだと思っている しかし 気づかぬことが多すぎる 私の唇はこの肩を知っている この腰を この足を 今も黒衣に包まれているこの体を 私はこんなにも覚えていて 私の金の髪とあの者の黒い髪が交じり合うさまを こんなにも よく 覚えていて 忘れられぬ 忘れられぬのだ ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
幼き頃から共にいた 瞳に強い光をたたえて ひとりきりで立つあの者に 羨望の眼差しを注ぐようになったのは いつの頃からだろうか 自分とは相容れない性質を持つあの男は 放っておけばいいものを ことあるごとに私の元にやってきて 「職務怠慢」と お決まりのセリフを言っては去っていく 幼き頃から共にいた 私はあの者が転んで涙を滲ませた時のことを覚えている 目元を赤く染めて 涙を零さないように耐える姿に 思わずその肩を抱いて頭を撫でてしまった そうしたら 突き飛ばされた 今となればわかる あの男がどんなに必死の思いで あの聖地で生きていたか 幼き頃からひとりきりで生きていたあの者を 今の私なら きっと………… 埒も無いことを考えるものだ きっと などと空想することによって 己を慰めようとしているのか どちらにせよ こうなる運命であることに変わりない 道は隔たれたのだ 長きにわたってこの身にあったサクリアが 次代の者に宿主を変えてしまったのだから この力をどれほど疎ましく思ったかしれないというのに 晴れて自由の身になって 私の側には 光を持ち主であるあの者はいない その姿を見ることもできない 遠い昔 母から譲り受けた「遠見の水晶」 幼き頃 その水晶球を通して 私は母の一生を見届けた その後も 常に傍らにあったその玉 それを私は 彼に渡して聖地を去った 私を見ろ と 私を忘れるな…………と あれを通じて 今宵もあの者は私の姿を見ているだろうか 私は忘れない たとえこの声が届かなくてもいい 「愛している」 私を覚えていろ ジュリアス せめて私が死ぬまでは |