闇よ
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夜の 闇に 飲み込まれていく ひとすじの光も射さぬこの部屋で 闇の守護聖が私を奪い尽くそうとしている 彼は無言で その呼吸さえ乱さずに 私にのしかかっている 私は 正直 このときが 怖い 私の持つ 誇り プライド 強さ 美しさ 幸福 生きる喜び なにもかもが 私の中で まるで最初から あるはずがなかったような顔をする しかし それを口に出すと 彼が悲しそうな顔をすることを 私は 知っている 輪郭すらも見えないほどの闇の中で 苦しさのあまり 私自身が押し潰されそうになる 強大な 暴力的なまでの不安が この胸を壊してゆく ふいに 私に覆い被さるこの人物が 私のよく知る彼でないような錯覚に陥った 恐ろしくなり 彼の名を呼んだ 「クラヴィス……」 「……なんだ」 「顔を……見せてくれ」 「……いやだ」 それでは駄目なのだ お願いだ お前の顔を…… そう思い 彼を押しのけて起き上がろうとした 途端に 強い力で押し返され 私はまた 彼の下に押し込まれる 唇にやわらかいものが触れた 彼の 唇だ 彼には見えているのだ 私が しかし 私には見えない 「ずるいぞ、クラヴィス」 「……なにがだ」 次のセリフは出なかった 彼の手の動きに気をとられて 次第に 私の意識は 闇の中に溶けて 流されていく そうなって初めて 私は安心するのだ もう何も考えなくて済むのだから これは愛だろうか 私には彼が必要だ 彼がいなくては 息をすることも叶わないだろう なのに共にいると 辛くなり 寂しくなるのだ 彼の持つ 恐ろしいほどの闇が 本当は 怖くて 仕方がない この身をこの手で強く抱きしめて がたがたと震えてしまうほど 隣で寝息をたてる闇の主を確認し 私は起き上がった そろりと歩けば 柔らかな絨毯に足音は消え失せる カーテンをほんの少し開けた 眠る彼の顔を少しはずして光をあて 彼のそばへ歩み寄る そして ここで いつも ぞくり とする 褥で眠るその人は 生きているのに 死人のようだから 白すぎる顔は 白粉を塗り込めたようだから しかし私は目を逸らさない ここで一度でも目をそむければ最後 彼が この世からその存在を消してしまうような気がして カーテンを開けたまま また彼の隣へ潜り込む 朝がくるまで この寂しさに付き合う そして 明け方の青い光が差し込む頃 やっと許しがでる 次に意識がもどるときには 眩しい黄金の光の中 私の時間 |