闇の企み



「そなたはそれでよいと思っておるのか!?」

リュミエールはジュリアスにそう問い詰められ 答えに窮した
それを見て 更に首座の守護聖の吐き出す言葉に怒りが混じる

「クラヴィスの職務怠慢ぶりにはあきれてものも言えぬ。
そなたもそなただ。なぜあのような男のためにそこまでするのだ。
甘やかせばつけあがる。ただ怠惰なだけなのだ。クラヴィスは」


クラヴィスは今朝も 執務室に来てはいなかった
たいがい 午後になってからのっそりと姿を現す
それまでリュミエールは クラヴィスのやりやすいように書類の整理をしたり
自分でもできる部分は 処理してしまっていた

今までは そのことを誰に咎められることもなく
ジュリアスも黙認しているとばかり思っていた


しかし今 ジュリアスは責めている
リュミエールは恐る恐る口を開いた

「お言葉ですがジュリアス様……。クラヴィス様は毎夜の星見でお疲れでいらっしゃいます。
お起きになるのが遅くなるのは仕方のないことかと……」
「なぜ、そう庇い立てをする!」

ジュリアスはリュミエールの言葉を遮るように強く言い放った

「クラヴィスはそなたのなんだというのだ。
星見は代々闇の守護聖に受け継がれた仕事だ。当然のことであろう。
だからといってそなたがあの者の代わりに執務をしなければならぬということではないのだぞ」

リュミエールはうつむいて 落ちる雷に耐えていた
自分でもこのことがけして良いことだとは思っていない
しかし 執務にやる気を見出せないクラヴィスの気持ちを思うと
こうやって 何かせずにはいられないのだ


「答えよ……リュミエール」

ジュリアスの押し殺したような声に リュミエールははっとなって顔を上げた
目に ジュリアスの苦しいような 辛いような顔が飛び込んできた
先ほどまでの表情とは違う どこかしら弱々しい印象を受けた

「ジュリアス様……?」

驚いて声をかけた

「……もうよい。下がれ」
「はい……」


リュミエールは一礼し 退室した

ジュリアスの視線はそのたおやかな姿を見送る
彼が扉の向こうに消えた後 机に右肘をつき 掌を額に当てて 瞳を閉じた



光の守護聖の執務室を出ると リュミエールは小さく息を吐いた

(ジュリアス様はなぜ、クラヴィス様をわかってくださらないのでしょうか)

この聖地に来てからというもの それが最大の疑問であり 悩みでもあった


クラヴィスの司る力は闇
死と安らぎ
相反する力を持つ光の守護聖ジュリアスが理解を示してくれれば
クラヴィスはもっと楽に生きられるはずなのに

二人が仲良く……とまではいかなくても 対立しなくなれば
聖地はもっと安定するはずなのに

女王の力が衰え始めている今
筆頭の二人がいがみあっている場合ではないことは
ジュリアスも クラヴィスも よくわかっているはず


それにしても
リュミエールは思った
あのときのジュリアスの瞳
クラヴィスの負担をできるだけ軽くしようと思ってしたことが
逆にジュリアスを苦しめてしまったのだろうか
思い出すと 胸がチクリと痛んだ

自分のせいであのような顔をさせた
ならば もう一度 ジュリアスと話し合いができないものか
先ほどは 満足に答えることができなかった
こういうことは早い方がいい

(できるならこの手で、ジュリアス様を癒して差し上げたい。
あの方はハープはお好きだろうか……)

そう考えたとき それが思った以上にリュミエールの心を支配した
ジュリアスを癒す……

今まで考えもしなかったことだった
彼は常に 首座の守護聖らしく堂々と振舞っていた
その姿はどこまでも強く 神々しい

そして彼の後ろには いつも炎の守護聖オスカーが控えていた
光の守護聖の最高の右腕であり 唯一だと自負している自信家の彼

リュミエールは正直 オスカーが苦手だった
いつも人を小馬鹿にしたような笑みを投げつける
その彼がいつもジュリアスについているため
ジュリアスと個人的に話をしたことは 今まで数えるほどだ


リュミエールは 元来た道を引き返した
再度 光の守護聖の執務室を訪問する
瞳を見開くジュリアスに 今夜の約束をとりつけると
気が変わるのを恐れるように 素早く部屋を出た

我知らず 心が躍った





ジュリアスとの晩餐はリュミエールにとっていささか気疲れするものだった
ナイフとフォークの扱いに慣れていないわけではないが
対面にいる彼の手つきの優雅さと比べると
何か失敗をしやしないかとそればかり気になる

静かに進む夕食の席
リュミエールは心労で倒れそうだった
自分が食べ物をごくんと飲み込む音がやけに大きく聞こえる

(勢いだけで来てしまいましたが、良かったのでしょうか……
ジュリアス様は退屈されているかもしれません。
オスカーも連れてくればこのような心配をする必要は…………
いえ、今日のわたくしは、クラヴィス様のことをお考えいただけるよう、
ジュリアス様にお話をするためにここに来ているのです。
それから、ジュリアス様を癒して差し上げようと……
でも、そのようなこと、おこがましかったかもしれません……)


リュミエールが目の前の皿を見つめながら微動だにしないのを見て
ジュリアスが声をかけた

「どうした、リュミエール。体の具合でも悪いのか?」

ジュリアスは手を止めて 真っ直ぐとリュミエールを見ている

「あっ、いえ……申し訳ありません……」

突然のジュリアスの声に驚いて顔を上げたが すぐにまた俯いてしまった

「気にせずとも良い。そなたは食が細いのではないか? 無理をしては体に毒だ」

そんなリュミエールにかけられた声は思いのほか優しかった
恐る恐る見上げると ジュリアスの青い瞳にぶつかって
なぜかリュミエールは赤面した


柔和な表情のジュリアスに あまりにも惹きつけられた
室内のライトに照らされてきらきらと輝く瞳
笑顔になる一歩手前のような微妙な風情の唇
豪奢な金色の髪も今は柔らかくうねり 彼のまわりを優しく覆っている


リュミエールはしばらく見惚れてしまっていた
なので それをごまかすかのように 慌てて口を開いた

「あ、あの……クラヴィス様のことなんですが……」

途端に ジュリアスの眉はひそめられた
しかし その動きすらも 今のリュミエールの興味をそそった
もっとジュリアスのいろいろと変わる表情を見てみたいと思った

「クラヴィスのことは後でもよいではないか。料理が冷める」

拗ねたようにムスッとし それだけ言うと ジュリアスは食事を再開した
話がクラヴィスのことになったからだろうか
初めて見る 彼の子供のような顔
リュミエールも仕方なく ナイフとフォークを手に取った



ジュリアスの私室は 余分なものがあまりない シンプルな部屋だった
豪華絢爛な場所を思い描いていたリュミエールは
それを意外に思いながら 勧められた椅子に座った

「そなたとこうして話をするのは初めてではないか?」
「ええ、そうだと思います」
「私は今日、そなたが来てくれたことをうれしく思っているぞ」


(ああ、また……)

リュミエールはまたも ジュリアスに視線を奪われていた
食事中にアルコールを口にしていたため
本来は白いその皮膚はかすかに色づき 唇までも赤く染まっている

こうして柔らかい眼差しを向けられて リュミエールは天にも昇る気持ちとは
こういうものではないかと考えていた

普段 オリヴィエから綺麗だ天使のようだと自身の容姿を褒められていたが
ジュリアス様こそ天使のようだと この瞬間 彼は真剣に思った
でなければ 姿を見ているだけでこんなに幸せな気持ちになるはずがない

普段のジュリアスは そのような考えをおこす間も与えないほど
厳しくて 威厳があり その印象は苛烈ですらあった
それが 今日はまったく違う


「体の調子はどうだ?」

聞かれてなんのことかわからずリュミエールは
首をかしげて疑問符を表した

「先程、具合が悪かったように思ったのだが……」

あの態度をジュリアスが勘違いしているままだったのだ
しかし あのとき考えていたことを言うのははばかられた

「大丈夫です。ご心配いただき、ありがとうございます」

少し後ろめたかったが そう答えるしかなかった

「では、ハープを弾いてくれないか。リュミエール」
「はい!」

つい大きな声が出てしまい 口を覆った
それをジュリアスが楽しそうに見る

体中から うれしい という感情が湧き出る感覚
それをそのままに リュミエールはハープを手にした
その音色は 窓をすり抜け 遠くまで運ばれていった


ジュリアスは目を閉じて 自分の奏でる曲に聞き入っている
青い瞳が見られないのは残念だったが
閉じられた瞼に 新たなジュリアスの姿を発見する


リュミエールはこの瞬間 ジュリアスに恋をしていた





リュミエールの心の中は 次第にジュリアスで一杯になっていった
あれから幾度か ジュリアスの私邸で夕食を共にし
また ジュリアスを招待することもあった

初めて光の守護聖が水の館に現れたときの
執事やメイドの慌てぶりといったらなかった



その日も最初は 光の館に行く予定であった
しかし突然 ジュリアスが水の館に行きたいと言い出し
急遽予定を変更してリュミエールの私邸にジュリアスを招き入れた

扉を開けた先に首座の守護聖の姿を認めた水の館の執事は
一瞬動きを止め そして大げさといえるほど頭を下げた

「こ、こ、これはジュリアス様……」

そう言う彼が常に無く動揺している様は
なぜかリュミエールを楽しませた

そして 館の者全員が必要以上に緊張している中
そのようなことは慣れているのか
堂々といかにも首座という態度で振舞うジュリアスが好もしかった
自分は到底このようにできはしないだろうという
あこがれのような気持ちが支配する

少し前まで 自分はこの執事のような対応をジュリアスに対してしていたのだ
それが今は違う 今は彼の優しい眼差しを知っている

彼が 公的な立場と私的な立場をきっちり分けているだけだということを
そして今の彼は「首座の守護聖ジュリアス」なのだということを

リュミエールはそんなジュリアスを伴い 館の中を案内してまわった


光の守護聖が水の館にいる間
ジュリアスの厳しい視線に射抜かれた憐れな者たちはおどおどし
皿を落として大きな音をたてたり 声がうわずって言葉にならなかったり
リュミエールがその度に相手を安心させるのに骨が折れるほどだった

かすかにむっとしているジュリアスに気がつきながらも
それすら なにか快くさせる媚薬のように感じたものだった



そして今日は ジュリアスを水の館に招待していた
先日ジュリアスから贈られた古い楽譜
その曲を初めて贈り主に披露する約束だった


瞳を閉じて聴き入るジュリアス
その閉じられたまつげにくちづけしたい……
最近のリュミエールはそのような衝動を自覚するようになっていた

しかし 実行に移すのは百も 千も それ以上の勇気がいる
拒絶されたら
あの青く光る瞳が怒りに燃えて自分を見たとしたら……
考えただけで 息が苦しくなってしまう

だから 思いのたけを全てハープの音色に託した

穏やかになる鼓動
いつしか演奏に夢中になり 無心になってゆく
ゆらゆらとした甘い波に 恋する気持ちが漂う


曲が終盤にさしかかった頃 ジュリアスがその目を開けた
うつむき 何かに魅入られたように演奏するリュミエールが見えた

長い水色の髪が半分顔を覆っている
だから尚更 その細い顎はリュミエールを儚く見せている
弦を辿る指先は病的に白く つかんだら ぽきぽきぽき と
音をたてて折れてしまいそうだ

ジュリアスは眉根を寄せた
その想像に体がぶるりと震える
自ら描いたその映像を振り払うように きゅっと瞳を閉じた
リュミエールの奏でる曲は そんなジュリアスを優しく迎え入れた


演奏を終えて リュミエールはジュリアスを見た
彼はなかなかその目を開こうとしない

「どうされましたか? ジュリアス様」

心配になって訊ねると ようやっとそのまぶたは開けられた

「……なんでもないのだ」

そう言って ジュリアスは立ち上がった
つられて リュミエールも腰を上げる

「良い演奏だった。礼を言う。……夜も更けた。私はこれで失礼する」
「あ……ではお見送りを……」

ジュリアスは 一歩足を踏み出したリュミエールを手で制した

「それには及ばぬ。そなたも疲れたであろう。ここでよい」


「よく休むのだぞ。リュミエール」

固い調子でそう言うと ジュリアスは部屋を出て行った
扉のぱたんと閉まる音が リュミエールの空っぽな心に虚しく響く
追いかけようと思ったが できなかった
突然去っていった理由をつかみかねて リュミエールは呆然と立ちすくんだ



その翌日から ジュリアスはリュミエールを避け始めた





「……最近、ジュリアスと仲がよいようだな……リュミエール……」

闇の館のクラヴィスの私室で いつものようにハープを演奏した後
おもむろにそう言われて リュミエールは体を固くした

「フッ……そう緊張せずともよい……責めているわけではないのだ」

そう言っておもしろそうに口の端を上げるクラヴィス
なにもかも見透かされているような気がして
リュミエールの指の先が 落ち着きなくハープの上を彷徨う


「……かわいいものだな……」
「はっ? 今何とおっしゃったのですか?」

よく聞き取れなくて リュミエールは問い返した
クラヴィスはそれには答えずに違うことを口にする

「最近……ジュリアスが私に説教をしなくなった……。
それどころか、この前なぞこう言ったのだ……」


そこで言葉を切り 相手の反応を確かめるように
クラヴィスはリュミエールを見た
リュミエールが身を乗り出しているのを確認すると
クラヴィスの目には自然と笑いが滲んだ

私はそなたを誤解していたようだ。
突然で驚かれることは承知で言うのだが、私はそなたと親交を深めたいと思っている。
今度そなたを光の館に招待したいと思うがどうか?
 ……とな」

少しだけ ジュリアスの口調を真似て クラヴィスは言った

「ジュリアス様が……?」

近頃自分の誘いに応じなくなったジュリアス
なのにクラヴィスを誘っていたという事実にリュミエールはショックを受けていた
そして ジュリアスのことを話すクラヴィスの口調も心をざわめかせる
なんと楽しそうなことだろう……

「あの……それで、クラヴィス様はどのようなお返事をされたのですか?」


不安げなリュミエールに この返事は喜びをもたらすか
または 悲しみだろうかと思いながら クラヴィスは答えた

「むろん……『行く』と言った」
「それはようございました……」


リュミエールは 笑顔をつくった
クラヴィスは 笑みを深めて続ける

「フッ……もう既に親交を深めてきたがな……」

目を見開いて 口を小さく丸く開けたリュミエールの顔は
クラヴィスを更に愉快な気持ちにさせた

「……先日、光の館に行ったとき……素晴らしい歓待を受けた。
……特に、なにくれとなく、私の世話をやくジュリアスを見るのは楽しいものだ……。
あの者は美人だしな……そう思わぬか……? リュミエール」


リュミエールは言葉を失っていた
ジュリアスとクラヴィスに仲良くなってもらいたいと思っていたことは事実であり
だから 機会あるごとにジュリアスにクラヴィスのことを話してきた

ジュリアスがどのような世話をやいたというのだろうか
どのようなことにせよ 今までその類のことをジュリアスにしてもらったことはない
恐れ多くて 考えもつかない

改めて知る
ジュリアスとクラヴィスは対等の立場にいるのだ
だから「美人」などという言葉で表現することもできる
未だに 服の先にさえ触れることも叶わぬこの身を悲しく思った


「……どうした? リュミエール……顔の色が優れぬようだな……」

クラヴィスの言葉に はっと我に返った

「少し考えごとを……申し訳ありません……」
「……お前のお陰だ」

うつむくリュミエールにクラヴィスは言った
リュミエールはその言葉に顔を上げる
クラヴィスの顔からは 彼が何を考えているか読めなかった

「思いも寄らぬ楽しみが見つかった……」

続く言葉にうちのめされた
クラヴィスはジュリアスに興味を抱いているのだ
リュミエールは再びうつむいた

「……お前はジュリアスに、私のことを考えてくれと、言ったそうだな……」
「はい……」
「お前は……司る力のまま、優しいのだな……リュミエール」

うつむいたまま 大きく首を横に振った
ジュリアスとクラヴィス
今後 この二人の間には 割り込めなくなるかもしれない
そう思っただけで身体がちぎれそうだった



クラヴィスに暇を告げたときにはすでに 夜の12時をまわっていた
闇の館を出た途端 強い風がリュミエールに吹きつける

(優しくなど……わたくしは……)

煽られた髪を押さえながら 暗い闇の向こうを見据えた

「ジュリアス様……」

声に出すと 想いが募る

初めにジュリアスの館へ行った時の自分の気持ちを考えると
なんと遠い所へ来てしまったのだろうか
当初の目的は果たされたも同然なのに
吹く風がこんなにも冷たい


いつまでもそうしているわけにもいかず 待機していた馬車に乗り込んだ
己のしてきたことに対する 激しい後悔がリュミエールの身の内を苛んでいた





リュミエールの悪い予感は的中した

あれから ジュリアスとクラヴィスが二人でいる所が
聖地の人々に幾度も目撃されていた
そしてそれは悲しいことに リュミエールの身の上に一番多く起こっていた


例のごとく リュミエールが闇の執務室にいると 決まってジュリアスが顔を出す
このところ クラヴィスは朝から出仕しているので
ジュリアスの機嫌はすこぶる良いようだ
したがって 二人が仲良さげに会話を交わすのを いつも側で見ることになってしまった


驚いたことに クラヴィスはジュリアスの前では饒舌になった
初めはそのことに戸惑いを覚えていたが じきに慣れた
もう 痛みを痛みとも思わない
閉ざした心の中で 傷が癒えるのを静かに待っているのが
今のリュミエールの唯一の対処法だった


盛り上がる二人を置いて 静かにその場を去る
ジュリアスがちらとこちらを向いたが クラヴィスが話しかけると
その顔は再びクラヴィスへと向けられた



闇の執務室を出て行くと
目の前に腕を組んで俯いて立っているオスカーがいた
側に立つと その顔がゆっくりと上げられて

リュミエールは驚いた
これは本当にオスカー本人なのだろうかと

「オスカー……」
「……リュミエールか……」

話をしたことがそれほどないとはいえ
長い間聖地で共に職務に励み その姿を目にする機会はこれまでに充分あった
大柄な体にふさわしく 堂々とした振る舞い
それは常に他者を圧倒し 特にリュミエールにとっては脅威ですらあった

その顔はいつ見ても どんなことも思い通りになると確信しているかのようだったし
常に自信に満ちた態度は 強引にでも物事を望む方向へ持っていくという強さを思わせた
司る力故か 彼自身の性格が元からそうなのか
そのどちらでもあるのだろう とにかく自分とは相容れない 理解できない相手
それがオスカーであり そんな彼しかリュミエールには覚えが無い

なのに そのオスカーが今 目の前で すがるような視線を向けていた
もうどうしようもないと放棄して 小さく 諦めていた


年長二人が親密になって 一番荒れているのがオスカーだった
リュミエールが暗い気持ちをひたすらに隠しているのに比べて
オスカーの開け放しようは 見事というほかなかった

「ジュリアス様はどうしている?」
「クラヴィス様とお話をされていますよ……」
「そうか……」

目に見えるほどがっくりしている炎の守護聖
そういえば 近頃は会っても あのこちらを見下すような 馬鹿にしたような
挑戦的な視線を投げてくることがまったくない

(オスカー……可哀想に……)

まさか 自分がオスカーを憐れに思う日がやって来るとは……
信じられない気持ちで 燃えるような赤い髪を見つめた


聖地に来てから現在に至るまで オスカーは常にジュリアスと共にいた
それがこのところ 彼は単独で行動している

この憔悴ぶりからして 彼もきっとジュリアスを好きなのだ
それは 自分の抱いている感情と同じ種類のものではないかと
リュミエールは予測していた
それでなければ オスカーがこのような顔を自分に向けるはずがない
それは確信に近かった


「お茶でも飲みに行きませんか? オスカー」

オスカーはその誘いを ぼんやりとしたまま受け止めていた
きょろきょろと動くその水色の瞳は逡巡を表している

しばらくして 彼が「ああ、そうだな」と承諾すると
リュミエールはオスカーと連れ立って 聖地にあるカフェテラスへ向かった
傷を舐めあうだけだとしても 彼を放ってはおけなかった



ジュリアスとクラヴィス
リュミエールとオスカー

どちらも 聖地内では犬猿の仲で知られていた二人組だった
それが 短期間であっという間に仲良くなってしまい
他の守護聖たちは皆 この四人に何があったのかと首をかしげた

オリヴィエは 普段から仲の良いリュミエールに
毎回形を変えつつ 事の真相を尋ねるのだが それはいつも軽くかわされた

年少の守護聖三人組にいたっては 面白半分にそのことをネタにして
きゃいきゃいと騒ぐ始末で
その現場を見たルヴァにたしなめられた

ルヴァも 一連の出来事に興味を惹かれないわけではなかったが
その話題がでるたびに まあ 良いことなのだから と
率先して 騒ぐ守護聖たちをなだめる方にまわった
心配ごとは減るに越したことはない

ルヴァもまた 仲の悪い二組に常日頃から心を砕いていた
リュミエールと違ってその数が多い分 その心労は大きいといえるかもしれない

やがて 次第に皆落ち着いてきて そのことを口にする者はいなくなった


そして その違和感は 聖地においてなくなりつつあった





元気の無いオスカーは オスカーではない


リュミエールの私室で 彼は窓際に持っていった椅子に腰掛け
ぼんやりと外を眺めていた
もうかれこれ 一時間もそうしている


ここ最近 さすがに執務時間中はしっかりとした姿を見せているオスカーだったが
夜になると リュミエールの前では いつもこんな調子でいた
なんの力にもなれないことが リュミエールにはとても悔やまれる
せめてもの慰めにと 彼が来るたびに得意のハープを奏でた


オスカーと密に接するようになったリュミエールは
今まで彼のことをまったく知らなかったのだと 今更ながらに驚いていた

公私のけじめをつけているのはなにもジュリアスだけではなかった
彼 オスカーもそれは同じで
荒れていたあの時期も 執務だけはしっかりとこなし 誰にも迷惑をかけることはなかった

ジュリアスもオスカーも 守護聖という仕事に甘えを持ち込んでいない
与えられた職務は忠実にこなす
それは彼らにとって当たり前の 最低限のプライド
それを継続しているからこその自信

リュミエールは己のしてきたことを振り返った
それまでよかれと思ってしてきたこと
クラヴィスの仕事を肩代わりし 彼を助けた気になっていたそれまでの自分を

優しさとはなんだろうか


「オスカー。今日はよく見えますか?」

反省の気持ちが 柔らかい声となり
昼間とのギャップがここのところ更に激しい 彼の小さな後姿に語りかけた

「ああ」


もうひとつ リュミエールは彼について知ることになった
オスカーは 気が付くといつもこうして外を眺めていた
何を見ているのかと聞くと 「月」だと言う
あまりにオスカーのイメージにそぐわないために最初は信じられなかったが


オスカーの後ろ姿を 演奏をしながら見るともなしに見ていると
物思いに耽っているとばかり思っていた彼に 背中を向けたまま 問いかけられた

「なあ……リュミエール……」
「なんでしょうか?」

ハープの弦に触れていた指を止めると
しんとした部屋に その後に続いたオスカーの低い声が響く

「クラヴィス様は、お前の部屋に来てここから月を眺めることがあったか?」
「ええ……たまには…………それが何か……」


なぜクラヴィスのことを聞かれたのかわからず
リュミエールの返答は歯切れの悪いものになってしまった

「俺はな……月を見ると、クラヴィス様を思い出すんだ。
俺の部屋の窓にこうやってもたれ、月を見る後ろ姿を……」

オスカーは振り向いて リュミエールを見た

「お前と俺は、同じ人に振られたんだよ。リュミエール」


「なんですって……? あなたはジュリアス様をお好きだったんじゃ……」

リュミエールは心底びっくりして 素っ頓狂な声を出した
頭の中がこんがらがり 思ったことが全て口からぽろぽろと出て行く

「ちょっと待ってください。わたくし、ええ、そうです。
てっきりあなたはわたくしと同じ人を好きなのだとばかり……
慰めあうなど、あなたの性に合わないでしょうが、
辛い気持ちが少しでも軽くなればと、そう考えてこうしてお誘いをしていたのですが……
そうだったのですか……クラヴィス様を……
わたくしは早とちりをしていたのですね、お恥ずかしいです……それにしても」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

ひとりでしゃべり続けるリュミエールを オスカーは強引に止めた

「俺は、お前の言っていることがわからないんだが、説明をしてくれないか?」
「……なんのことでしょうか?」
「お前は誰が好きなんだって?」
「ジュリアス様ですよ」


当然のように言い放ったリュミエールに オスカーはしばしぽかんと口を開けたままだった
しかしその一瞬後

「アッハッハッハッハ!」

オスカーは腹を抱えて 大げさに笑い始めた
リュミエールもなんだかおかしくなってきて 一緒に声を出して笑った


しばらく その笑いはおさまることなく 二人は笑い続けた
鬱屈したものを吹き飛ばすように その発作は止まらなかった

なので 二人とも気がつかなかった
階下で ばたばたと揉めるような音がしていたのを



突然 バタン! と部屋の扉が勢いよく開いた
腹を抱えた二人が 音に驚いて振り返ると そこには
憤怒に耐える といったふうのクラヴィスが大きな身体をいからせて立っていた
いきなりのことに 水と炎 二人の動きが止まった

「……いつまでこうしているつもりだ、オスカー……」

そう言って クラヴィスはずんずんと室内に侵入してきて
オスカーの腕をむんずとつかみ 部屋から引きずり出そうとする
リュミエールはその尋常じゃない様子に 慌ててクラヴィスを止めた

「クラヴィス様! お止めくださいっ、オスカーはわたくしの客人です!」

意地のようなものも手伝って 必死にクラヴィスに反発をした ところが

「オスカーは私の恋人だ……それならば文句はあるまい……?」

クラヴィスの言葉とは思えなかった
それになにより ジュリアスはどうしたのだろうか?


リュミエールの煩悶をよそに クラヴィスとオスカーは二人の世界を築いていた

「恋人と……この俺のことをそう言ってくださるのですね、クラヴィス様」
「……お前がいつまでも他の女にうつつを抜かしているからだ……。
それに今度ときたら、リュミエールをどうするつもりだったのだ……答えよ」
「リュミエールは関係ありません! あなたがジュリアス様とばかり一緒にいるから……。
それに、女性のことも本心からでないことは、あなたが一番よくご存じのはずだ」
「ならば、なぜひとこと謝りに来ない……もう少しでジュリアスと……」
「ジュリアス様となんですか!」
「フッ……」
「クラヴィス様!」


オスカーの問いには答えず クラヴィスはオスカーを捕まえたまま
リュミエールを振り返った

「邪魔したな……その代わりといってはなんだが、お前に新たな客人だ」

クラヴィスの視線の先を辿ると そこには
めったに見られないイベントにあ然としているジュリアスが 部屋の入り口に立っていた

「ジュリアス様……」

リュミエールが口にしたその時
素晴らしい見世物を披露した二人が 見つめあう光と水の前を横切っていった

クラヴィスに連れられていくオスカーは去り際 リュミエールにウインクをひとつして
ばたばたと 慌ただしく階下へ降りていった


そして ジュリアスとリュミエールは 二人きりで後に残された


「入ってよいか?」
「あ、申し訳ございません……」

リュミエールは慌てて扉まで行き ジュリアスを招き入れた
ジュリアスはそれを見て苦笑する
部屋の中央まで進んだ後 くるりと振り返った

「リュミエール、私はそんなに怖い存在であろうか……」
「いえ、そのようなことは……申し訳ありません……」
「……なぜ、そう固くなるのだ……」

ため息と共にそうつぶやいて ジュリアスはゆっくりとリュミエールに近づいた
リュミエールは 段々と距離が縮まるのを 恐れと歓喜の中で受け入れた

「扉を閉めるのだ」
「あっ……」

ジュリアスに気を取られるあまり うっかりしていた
そんなリュミエールの手によって パタン と扉は閉じられた
しかし その後 振り返ることができなかった
リュミエールはドアのノブをつかんだまま 息すらも自由にできない気がしていた


自分のすぐ後ろにいるジュリアスの気配
いけないと思いつつ 期待に高鳴る胸が止まらない

「私が好きか? リュミエール」
「……はい……」

ものすごい緊張の中 それでも自然に声が出た

「ならば、こちらを向くのだ」

意を決して 振り向く

うつむく顎に ジュリアスの指が触れた
そのまま上を向かされる
ジュリアスの青い瞳

「私はずっと前から、そなたが好きだった……」
「えっ?」

更に顔を近づけようとするジュリアスを両手で制した


興が削がれて あきらかにジュリアスは不機嫌を露わにした
それにも構わず リュミエールは言う

「す、少しお待ちください、ジュリアス様……
わたくし、なにがどうなっているのかよく解りかねるのです」
「なにがだ」


リュミエールは動揺する頭を抱えて 懸命に聞きたいことを整理した
その間 ジュリアスは辛抱強く彼が口を開くのを待った
ジュリアスにとって我慢の限界だと思われたのと同時 リュミエールが話し出した

「ずっと好きだった……とおっしゃってくださいましたが、
それはいつ頃からですか……わたくしが聖地に上がったときからでしょうか?」

さっきまでの態度と違って ストレートなことを問うリュミエールに
正直言って面食らったジュリアスだったが その質問に正確に答えようと務めた


「いつからか……定かではないが、
恐らくそなたが聖地に来てすぐだったように記憶している」
「でしたらなぜ、もっと早く言ってくださらなかったのですか?」

リュミエールは興奮のあまり 両の手がジュリアスの服をつかんでいた

「私にもよくわからなかったのだ。最初のうちは。
この目が、常にそなたを見ようとしているなぞ、認めたくはなかった。
私の想いで、そなたを壊したくなかったのだ……」

ジュリアスの告白は続く

「そなたは、私が声をかけるといつも肩を震わせて、
恐れられているのだとすぐにわかった。それなのに、クラヴィスは……」

ここで ふうっと息を吐いた

「思うまま、そなたと共に行動し、そなたを独占していた……
うらやましいと思った。……時には憎いとさえ……」
「ジュリアス様……」


ジュリアスがそのようなことを思っていたとは

視線を逸らした彼は苦しげで それはリュミエールにある感情を起こさせた
いつもの「助けたい」ではなく「喜び」である

ジュリアスにとって個人的な理由で人を憎いと思うことは
彼の生き方 司る力からしても主義に反することだろう
そう思うと リュミエールは申し訳ないという気持ちになる
それでも 胸の奥から湧き出でる歓喜の波はそれを飲み込んで 何度も何度も押し寄せた

そして今のジュリアスを苦しみから解放できるのが
自分ただひとりだということに更なる喜びを噛み締めていた

「申し訳ありません…………わたくしなどの為に……」

ジュリアスの肩に軽く頭をもたせる
そっとまわされた両腕を背中で感じた

その瞬間 何かが体の中でかちりとはまったような感覚を覚えた
安心感とでもいうのか それに身をゆだねながらリュミエールは言う

「わたくしは……クラヴィス様のお役に立ちたかったのです。
いつも辛そうにしていらっしゃるあの方をお慰めできたらと……」
「そなたは、優しいからな……」


優しい

リュミエールは 冷たい水が駆け抜けたかのように背中を震わせた
つい先ほどまで感じていた 心地よい温かさは瞬時に消え去った

「リュミエール?」

ジュリアスの声がいぶかしげに降りてくる
それはリュミエールに届かず 彼はゆっくりとジュリアスから離れた

「わたくしは優しくなどありません。ジュリアス様やオスカーや、
そしてクラヴィス様に対して勝手な優しさを押し付けてひとりで満足しているだけです」
「一体どうしたのだ?」

リュミエールはジュリアスの質問には答えず
下を向いたまま先を続けた

「今だって、ジュリアス様が苦しんでいらっしゃるというのに、わたくしは『嬉しい』と、
思ってしまいました。あなたが苦悩する姿を見て喜んでいたのです。
わたくしの為に、誇りを司る貴方が、クラヴィス様を憎いとおっしゃった。
それをよくないことだと言いこそすれ、嬉しいなどと…………。
わたくしは、わたくしがわかりません」
「リュミエール、それは……」
「いいえ! 聞いてください。ジュリアス様!」

止めようとしたジュリアスも その勢いに口をつぐんだ
こんな激したリュミエールを見るのは初めてだった
正直驚いたが それを表面に出すようなことはせず
必死な顔をする彼に ジュリアスは頷いた

「わかった。話してみよ」
「はい……」

リュミエールは呼吸を整え 今度は視線をジュリアスにきちんと合わせた

「クラヴィス様のことも、確かにジュリアス様のおっしゃった通りです。
わたくしが手を出さなければ、クラヴィス様はきちんとご自分のお仕事をされるのでしょう。
なのに、クラヴィス様のそのような機会をわたくしが奪ってしまった。
『優しさ』を履き違えて、でしゃばったことをして、
クラヴィス様が何もおっしゃらないのをいいことに、それをずっと続けていただなんて
わたくしはなんと恥ずかしいことをしていたのかと、今、とても反省をしております。
ジュリアス様。申し訳ありません。
わたくしは、優しさを司る水の守護聖として行き届かないことばかりで、
本当に申し訳ありません」


深く深く礼をしたリュミエールが再び顔を上げると
困った顔をして笑うジュリアスが目に入った
今度はリュミエールが驚く番だった

「あの……わたくし何かおかしなことを……?」

「いや」と言ってジュリアスは困り顔のまま首を左右に振る そして

「こっちに来るのだ」
「え…………」


背中が弓なりになるほど きつく リュミエールは抱きしめられた

「そなたが欲しかった。ずっとずっと欲しかった。
私にもどのような優しさが本物かなどわかりはせぬのだ。
ただ知るのは……私がどんな優しさを求めているかだ…………。
そしてリュミエール。私が欲するのはそなたのような者。
ひたすらに相手を思うその心……。
リュミエール。私を好いてくれるか? 私を愛してくれるだろうか?」

苦しいほどの拘束と愛の言葉に リュミエールは眩暈を覚えた
このまま気を失ってもよいが その前にこれだけは言っておかなければいけなかった

「はい。ジュリアス様……愛しております」



「ひとつ、お聞きたいことがあるのです……。なぜ、あのとき、
わたくしと会ってくださらなくなったのですか? なぜ、クラヴィス様とばかり?」


激情の後 我に返ったジュリアスはそこで初めて己のしたことに赤面した
逆に リュミエールはまったく平気な様子で
こうして椅子に隣り合わせで座って いつものようなにこやかな笑顔をジュリアスに向けている

「それは……クラヴィスのせいだ」

いまいち調子の戻らないジュリアスはこほんと咳をして
なりたてほやほやの恋人ではなく 真っ直ぐ前の小さなオブジェを見ながら話していた

「あの男が、リュミエールと会うなと言ってきた。きっかり二週間、それができれば、
以後、きちんと執務を行うと宣言したのだ。そのときは何を企んでいるのか
まったくわからぬまま、あの者の勢いに負けてつい、承知してしまった。
なんと愚かな……と思われるであろうな……。
たしかに、あのときの私はどうかしていた。そなたに謝らねばならぬ……」

謝らねば と言いながら やはり視線は違う方向を向いていた
その代わり ジュリアスはリュミエールの頭をぐっと引き寄せ
頬でひと撫でした後

「すまぬ」

と言い おもむろに唇を合わせた


その「すまぬ」には二つの意味があるのだろう
ジュリアスの欠点は謝りベタなところだ そう思いながら優しい唇を受け止める
今度はリュミエールも抵抗をしなかった

「リュミエール……私がそなたに贈ったあの曲を、今度私がピアノで弾いてみせよう。
あれにつけられている題名をまだ言っていなかったな」
「ええ。教えてくださいますか?」
「私の愛しい人よ…………だそうだ」
「ジュリアス様……」



一方 クラヴィスの私室では……


「クラヴィス様、なぜそのような小細工をなさったのですか?」

オスカーはソファに座ったクラヴィスに後ろから抱きしめられていた

「……知らぬ……思い付きだ……」

私邸に帰ってからずっと クラヴィスはふて腐れていた

「俺はいいとして、リュミエールが可哀想だとは思わなかったのですか?」
「……なるようにしかならぬものだ。どのようなこともな……
あれしきのことで壊れるようなら、初めから縁がなかったのだ……」
「しかし、こうやってあなたが俺を連れ帰ってくださらなければ
いつまでも俺達はあのままでしたよ。それも縁がなかった、で済ませるおつもりですか?」
「だから……」

クラヴィスの右手は オスカーの左頬を捉えた
こちらを向かせると その唇に 触れるか触れないかの距離で言葉を続けた

「リュミエールの所で浮かれ騒ぐお前を迎えに行ったのだ……。
なぜ、私のいないところで楽しそうにしている……そんなことは許さぬ……」
そう言って オスカーの唇に己のを重ねた


しばらくの後 その唇が離れた
すかさず オスカーがクラヴィスを攻撃する

「嫉妬するクラヴィス様っていうのも、なかなか良い眺めですね」

クラヴィスは至近距離で ギッ とオスカーを睨んだ
しかし そんなことで強さを司る炎のオスカーは動じない
クラヴィスの気持ちさえ自分にあれば どこまでも強くなれる

「そのような生意気な口なぞ叩けないようにしてやる……」

クラヴィスはソファの上にオスカーを押し倒した

「泣いて叫んでも知らぬからな……」
「泣いて、叫ばせてください。クラヴィス様」



聖地を騒がせた四人 それぞれがそれぞれの望む場所におさまり
幸せな夜は更けていった





この夜を越えた次の日 早速クラヴィスは大遅刻をした
それから以後 クラヴィスがジュリアスとの約束を守った日は一日としてなかったという


「リュミエール。ひとつ頼みたいことがある」
「なんでしょうか。ジュリアス様」
「クラヴィスはやればできる男だが、まず自分からやろうとはしない」
「……ええ」
「すまないが、あやつの世話を引き続きしてはもらえぬだろうか」
「…………かしこまりました」


クラヴィスが仕事をしなければ首座のジュリアスが困る
結局のところ 冒頭でジュリアスがリュミエールに怒ったのはただの嫉妬故だと
この後ジュリアスは顔を真っ赤にして説明するはめになったのだった





カップリング考察