私は常に完璧だ 2
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ルヴァは自分の執務室にマルセルを招き 完全にしょげかえっている彼を熱い緑茶でもてなしながら どういう事があったのか微に入り細にわたって聞き出した 慰めることにかけてはルヴァは天才と言ってもよかった 彼の声を聞くと 不思議と気分が落ち着き にこにこにっこりと笑いかけられると思わず頬が緩み その手の平で頭を撫でられると どんなに年のいった立派な大人でも ごろにゃ〜んと懐きたくなるというもっぱらの噂であった げんに あの 漆黒の髪をした闇の守護聖 背の高いヌボーっとした 陰気でいつもやる気のない男 クラヴィスが (と言うと クラヴィスが大好きな水の守護聖リュミエールがすっとんできて 後ろから蹴りを入れられるともっぱらの評判) ルヴァに懐柔されているというのは周知の事実である (そしてそれをリュミエールが苦々しく思っていることも皆によく知られている) さて 聞いてみればいつものことであった マルセルの作成した報告書に不備があったという ただそれだけのこと しかしその”ただそれだけ”のことが ジュリアスには我慢ならないのだ ルヴァは心の中で大きくため息をついた そして再びマルセルに笑いかける 「マルセル。あなたは緑の守護聖として立派にやっています。 私が太鼓判を押しているんだから大丈夫。 今度ジュリアスに書類を持って行く前に私にお見せなさい。 どこがどういけないのか、こっそり教えましょうね」 ルヴァは人差し指をピンと伸ばして 口元にそおっと持っていった 「ジュリアスには、内緒ですよぉ〜」 その仕草は子供じみていて 妙なおかしさが漂う しかし それがマルセルの気持ちをくつろがせ 頬を緩ませた 「わかりました、ルヴァ様。よろしくお願いします」 ぺこっと頭を下げると 明るい金色の束が彼の後ろでぴょこんと跳ねた (やれやれ、ジュリアスにも困ったものですねぇ〜) マルセルが帰った後 ルヴァは椅子に座りなおし 頬に手を添えて考え込んだ 新しく聖地にやってきた緑の守護聖マルセルはまだ14歳と若く 普通の家庭で普通に育ってきた彼にはジュリアスの存在は脅威に見えるらしかった 一日も早く守護聖であることに慣れようと努力しているその姿は 他の守護聖たちには好ましく映っていたが ジュリアスの望むレベルにはほど遠いらしく 叱責されたマルセルはよく泣いていた それでも最近は涙を流すことが少なくなってはいたものの…… さぞマルセルは怖かったであろう ジュリアスが怒りを露にするまでの過程が ルヴァには手にとるようにわかった 指先が小刻みに震え 口元がワナワナと振動し そして首座様の美麗な顔が徐々に般若になる頃には 恐ろしさのあまり こちらは石と化してしまうのだ そう思い ルヴァの唇はなぜかくすりと笑いの形をとる 神話にある 顔を見た者を石にしてしまうという伝説の怪物メドゥサと ジュリアスの般若顔がおもしろいほど一致したからだった (あ〜、え〜と、困ったもので…………ぷぷぷっ) 真面目に考えようとしても メドゥサジュリアスを頭に描くと笑いがこみ上げて仕方ない 眉間の辺りを指でつまみ 笑いを必死で押さえ 再び「う〜ん」と考え始めた 「そうか、わかりました!」 数分黙考した後 ルヴァは左の手の平に右の拳をポンと打ち付けた 独り言でもとっさに出るのが丁寧語というところがさすがルヴァである 「要はジュリアスの”出来ないこと”を探せばいいんです!」 ルヴァの地味な顔が精一杯ぱあっと華やいだ ジュリアスはけして 間違ったことは言わない 至極当然のことを口にするだけなのだ その至極当然のことを当然にできないとき 人は悩み己を振り返るものだ ジュリアスは完璧だ 完璧ゆえに その彼の言う「当然のこと」が出来ない者の気持ちがわからない 彼が何事にもどんな時も強気なのはそのせいなのだ しかしジュリアスだって仮にも(?)人間である ひとつかふたつくらい 人より劣るものがあってよいはず エラそーなジュリアスが 地に手と膝をついて がくりとうなだれる様を想像して ルヴァはまたも ぷぷっと吹き出した 「さあ〜っ、やる気が湧いてきましたよぉ〜!」 というわけで ルヴァは両の手をグーにして力強く眼前に掲げ ジュリアスの”出来ないこと”とやらを見つけて聖地に平和をもたらすために(←大げさ) 足取りも軽く鼻歌交じりで(←の割に態度は軽い)執務室を出て行った |