私は常に完璧だ 3



首座の守護聖ジュリアス
彼の行動をチェックするのは非常に体力が要る

まず 彼の朝は早かった

ルヴァは 夜遅くまで書物と戯れることを一番の楽しみとし
それを生きる糧にして毎日を暮らしていたのであるが
この早起きのターゲットを尾行するにはこの日課を諦めざるを得ない
相手はなんといっても「日の出と共に出勤する」ジュリアスである
しばらくの辛抱だと己に言い聞かせ まだ眠くない瞼を強引に閉じて
羊を5963匹数えたところでやっと 眠りの国から「こんにちは」と言ってもらえた


尾行開始の朝 羊なんかくそ真面目に数えてた彼は当然眠り足りる訳がなく
起き抜けにベッドの柱や机の角にガコンガコンとぶつかりまくったあげく
無残にも脛に一箇所大きく立派な痣をこしらえていた

痣というのはつくった時には気づかぬもので
多分気づいていたなら その観察に余念がなかったであろうルヴァなのだが
幸いにも服に隠れて見えず 予定通り彼は屋敷を出ることができた

まだ暗い空の下 よろよろと馬車に乗り込み 聖殿に向かう
眠い目を細く開けて 窓から外を眺めた
少しずつその輪郭を露にしていく景色が なぜか寂しく心に映り
ルヴァは瞳を閉じてゆっくりと息を吐いた


こんなに朝早く起きたのは何年ぶりだろうか
朝の空気は夜のとろりとした優しいものとは違う気がする
同じ聖地にいても 自分とジュリアスは吸っている空気がこんなにも違うのだ

この景色をジュリアスは見ている そしてきっと
今日己がやるべきこと 我々に指示するべきこと これから起きるかもしれない問題
無事解決した様々な出来事 そのようないろいろに思いを馳せながら
今日もこうして馬車に揺られていることだろう
そう 彼はこんなことを毎日繰り返している
毎日……毎日…………

彼を動かしているものはなんだろうか
多分それは 首座としての責任だ
聖地に召し上げれた当時 5歳だったというその頃から 彼は首座だったのだ
誰に頼ることも出来ず 彼自身も頼ることを知らずに育ったのであろう
5歳にして全てを任された光の守護聖ジュリアス……

(だからあんなに可愛げがないのですねぇ〜)


「ぷぷぷっ」

ルヴァは この朝の景色にやられてちょっとだけセンチメンタリズムに浸っていたのだが
5歳のジュリアスが 口をひん曲げて額に青筋を立てて怒っている顔を想像した途端
笑いが喉元からこみ上げてきた

ジュリアスには怒った顔が良く似合う
怒ることはエネルギーを要する
いつも頭から二本の角を出しているジュリアスは
どれだけのパワーをあの体の中に蓄積していることだろう
それはそれは想像もつかないほど 無尽蔵にあるように思われた

きっと多分 5歳のジュリアスは可愛かった
怒ってても可愛かったに違いない

ルヴァは胸の中でそう確信し ひとり うんうんうんうんと頷いた



ルヴァの馬車は予定より少し早く到着した
まだ日は昇っていない

「一番乗りだなんて、ふわあぁ〜っ…………初めてですねぇ〜」

聖殿の真ん前で大きく背伸びをすると 自然にあくびが出た
ゴロゴロゴロと音を立てて帰っていく馬車を見送って
ルヴァは正門前の階段に腰掛けた

噂通りなら じきにジュリアスはやって来る
日の出は近い 空はもう充分に明るく 後は太陽の誕生を待つだけだった


カラカラカラカラカラ

(来た!)

ルヴァは遠くから聞こえてくる馬車と思しき音を確認して立ち上がった
自然とつま先だち 目が彼にしては精一杯大きく見開かれる

軽やかな音だった
しかしまだその姿は見えない 音のみがその存在を徐々に強めていく

今 ルヴァの両手は握り締められていた
もう少しで もうちょっとで 音の主がわかる
ジュリアスか ジュリアスじゃないか


白い色が目の中に飛び込んできた
やはり……ジュリアスだったのだ

ルヴァは驚いていた
きっと来ると思ってはいたものの 本当に来るとは思っていなかった
しかも…………


白い馬に引かれた白い馬車はルヴァの目の前で止まり
中から黄金の髪の毛を豊かになびかせた光の守護聖が登場した
その時 さーっと一筋の光がジュリアスに向かって射し込んできた

そう 日の出と共に光の守護聖ジュリアスは出勤したのだ

ルヴァは動きを止め (文字通り)輝く姿に魅入られていた
聖地に彼がいる限りこの世は安泰
彼の頭の中で ジュリアスは完璧に崇拝すべき人物となった
知恵を司っている割には思い込みが激しいらしい


ジュリアスは気の抜けたバカ面を曝しているルヴァを見て
恐る恐る問い掛けた

「ルヴァ、なぜそな……」
「ジュリアスぅ〜、貴方はなんて凄い方なんですかあ〜!」

ジュリアスは最後まで質問させてもらえなかった
瞳をきらきらと輝かせたルヴァにいきなり両袖を掴まれ
服に皺が……と思う間もなく前後にブンブンと勢いよく揺すられた

「ル、ルヴァ落ち着いて話を……」
「ジュリアスぅ〜〜〜」


やることがたくさんあるというのに 朝っぱらから
知恵の守護聖の「ブンブン」に
しばらくの間つきあわされてしまったジュリアス様であった





カップリング考察     BACK     NEXT