私は常に完璧だ 4
|
昼の到来を告げる鐘の音が聖殿中に響き渡る しかし 聖地で一番忙しいジュリアスにとってそんなの知ったこっちゃない 側に仕える文官にあれこれと指示を出し ついでに食事もとってくるようにと言ってから 自分は再び執務机にへばりついて(いや 実際は優雅そうに見えるが) 次々と仕事を片付けていった 昼の0時まわること5分 光の執務室をノックする音がした ジュリアスは顔を上げ 扉を見る 恐らくあの忠実な部下 炎の守護聖オスカーであろうと思いながら いつも通りのはりのある声で入室を促した だが 現れたのは赤い髪ではなかった 「ジュリアス〜?」 ドアが開くのと同時に聞こえたのは予測していたものとは違う声 今朝奇怪な行動をしていたルヴァだった 彼はドアの隙間からひょっこり顔だけ出してジュリアスの姿を確認すると にこおおおおおおおおおおおおっ と盛大な効果音をつけたくなるような顔で笑った その笑顔(と言えるほど爽やかではない)にジュリアスはぎょっとした それは”常に冷静な”ジュリアスの顔を引き攣らせ 体を後退させた拍子に 座っていた大きな椅子がガタッと鳴ってしまうほどうろたえさせた ルヴァの何か企んでいるんじゃないかと疑ってしまうような満面の笑み いつもの”にっこりにこにこ”とは明らかに一線を画している (また毒を盛られるのか……?)(←ドラマCD「緋の輪郭」参照) ルヴァだったら 本当に毒を盛るつもりならさりげなく”にっこり”やると思うのだが 今朝から予測のつかない行動をし始めた知恵の守護聖に 規則正しく生真面目なジュリアスは潜在的な怯えを感じる 「あらあら、もうお昼の時間ですよ〜〜。まだお仕事ですか?」 にこにこを継続させながらゆっくりと歩いてくるルヴァに首座様はたじろいだ なんだかわからないが見えない力が彼に働いているような気がして 正直言ってちょっと怖かった 彼のバックにジョーズのテーマが流れている気すらしてくる 「な、なななな何の用だ?」 声が上すべりしまったことが忌々しくてジュリアスはしぶい顔をした なぜ私ともあろう者がルヴァごときを恐れなければいけないのか 私は首座だ! エリートだ! 私は常に完璧なのだ! そう思って きりっとした眼差しを取り戻すと じいっと訪問者を見つめ直す にっこり笑う以外にはさして動きを見せない相手を見て 少しずつ気持ちが落ち着いてきた そう 落ち着いてみればいつものルヴァではないか 今朝の行動も この突然の訪問も さして不穏な未来を暗示するものではない 「今日はお昼を一緒にどうかと思ってお誘いに来たんですがー……お邪魔でした?」 普通だ 呆れるくらい普通だ さきほど にこおおおおおおおおおおおおっ とされた時の嫌な予感は気のせいだ ジュリアスはほっと胸を撫で下ろす いつもの余裕が大手を振って戻ってくるのを感じていた それを滂沱の涙でしっかりと両腕に抱き込む(←ジュリ様の心象風景) 「よかろう。少し待っていろ。支度をする」 握り締めていた(実は汗でびっちょり)羽ペンを定位置に戻し 左手に持っていた書類を(こちらも汗で紙面が歪んでいた)未処理の場所に置いて 彼は凛々しくすっくと席を立った 湿った太ももの後ろ側に貼りついた執務服をさり気なくつまんで剥がすと 「では行くぞ」 と 偉そうにルヴァの前に立って歩き出す しかし彼は知らない この恐怖はまだまだ続くのだ 最終的にはめでたい結果に終わる(はず)なのだが それはあくまで”最終結果”であって 現在進行形では この先恐怖のズンドコに落ちていく予定のジュリアス様 そんなこととは露知らず 意気揚揚と歩く首座様と その後ろを穏やかな笑みで付いていくルヴァ様 ルヴァ様のジュリアスチェックはまだ始まったばかりである |