私は常に完璧だ 5
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昼食をとっている間 ルヴァはそこはかとなくおかしかった…… ジュリアスは3時のおやつにクッキーをつまみながら思った ルヴァがいつもにこにこしているのはいつもののことであるかもしれないが そのにこにこがやっぱり普段と違うように感じたのは気のせいであろうか 「へぇ〜、ジュリアスはいつもこういうものを食べるんですかぁ。へぇ〜」 皿を覗き込むようにして言うルヴァに 「行儀が悪い」と何度言ったことか 指折り数えるジュリアスは 右手だけでなく左手も必要なことに気がついて 数えるのを即座に中断した これが人の目のあるカフェテリアでなかったらすぐにでも立ち去っているはずなのだが 人の噂に上るのも 人前で恥をかかせるのもジュリアスは好まないため かろうじてぐっと堪え 耐えに耐えた数十分を過ごしたのだった はぁ………… ジュリアスは珍しくため息をついて 仕事を再開した 執務終了予定時刻まで後1時間と55分 やることもたくさんあって眩暈がしそうだった コンコン ぎくっ 先の”コンコン”はドアがノックされる音 後の”ぎくっ”はジュリアスが肩をびくりと上げた効果音 時刻は午後5時 執務時間終了を知らせる鐘の音の最後のひと鳴りが 細く長く空気に溶けていこうとしていた なぜジュリアスはびくびくしているのか それはルヴァが4時ごろ突然やってきてこう言ったからである 「明日は日の曜日ですよねぇ。できれば今日、 貴方のお屋敷に泊めていただきたいんですけどいいでしょうかねぇ〜」 本当に彼ははどうしてしまったんだろうか ルヴァが自ら泊めて欲しいと頼んできたことなど初めてだ その時 ジュリアスは鷹揚に頷き「よかろう」と答えたのだが 後になって 後悔の渦潮にぐるぐると巻き込まれるような気持ちになってしまった 普段のルヴァならば問題ない しかし 今日のルヴァは結構イヤ 簡単に言えばそういうことなのだが ジュリアスは意外と 頼まれると嫌と言えない性格で それを自身はまったく自覚していなかった コンコン 「…………入れ」 ジュリアスは嫌々返事をした(←もちろん”嫌々”している自覚はない) 「オスカーではないか!」 「はい。そうですが……どうされました?」 ガタン! と派手に立ち上がり 両手を前に伸ばして大歓迎の様相を見せるジュリアス いつもならば絶対にしない大げさな身振りである だが それを見るオスカーはさすがジュリアスの一番の部下 さほど驚くことなく しかしその異常な様子に瞳をキラリと光らせた ジュリアスはそれに気づき「んっ」と小さく咳をして手を引っ込める 「突然で済まぬが、本日我が屋敷に泊まらぬか?」 今度は両手を腰に当ててなにやら子供のように威張りくさっている 狂った調子はなかなか戻らないようだ 「…………お言葉に甘えてそうさせていただ…」 「そうか! そなたならそう言ってくれると信じていたぞ!」 言い終わらないうちにジュリアスの口から歓喜の声が上がる なにやら満足そうに2、3度頷くと 続けてこう言った 「よし、では私の身辺警備はそなたに任せたからな!」 「身辺警備? ジュリアス様! 一体何があったのですか!?」 殺気立つオスカーを ジュリアスは慌てて手で制した 「いや、待て、そうではない。よく話を聞け」 「は?」 眉根を寄せて少し頓狂な顔をするオスカーを見て ジュリアスは自分の言っていることがおかしいのだと判断した 確かに「身辺警備」とは大げさすぎる 「すまぬ。説明する」 もう一度小さく咳払いをすると ゆっくりと これまでの経緯を話し始めた 「そうでしたか。ジュリアス様のお役に立てるのなら喜んで」 オスカーは快く協力を約束した それを聞いたジュリアスの心は澄み切った青空のように晴れ渡る 信頼する部下が側にいるとなれば100人力だ 「信頼」という感情を笑顔にのせて交換する二人 その後 オスカーは入り口の扉に注意を払いながらこう言った 「私は前からルヴァのことをうさんくさい男だと…」 「オスカー!」 突然のきつい調子にオスカーは驚き振り返る 「やめろ。私が言うのもなんだが、ルヴァは信頼に足る男だ。普段通りの彼ならば…だが」 「はっ、申し訳ありません」 「いや、よいのだ。それより」 ジュリアスの表情はますます硬くなる 「いつからそなたはルヴァを呼び捨てにするようになった?」 「……失礼致しました。以後気をつけます」 「うむ」 オスカーにとって ルヴァの呼び方など実際のところ気にもしない部類のことだった 確かにルヴァはこの聖地において先輩であるが ルヴァにはそう思わせない雰囲気がある 体育会系のオスカーではあっても ルヴァだけは例外なのであった その後 間をおかずルヴァが登場した オスカーは一礼し ジュリアスはいつもの威厳そのままに むしろ輝かんばかりのりりしい笑顔で地の守護聖を出迎えた (ああ、やはりジュリアスは神々しい……) そんな気持ちが湧き起こったルヴァのことなど知る由もない ただ ルヴァの前で礼儀正しくしているオスカーの態度に 満足そうに 黙って頷くのみなのであった |