恋しくて 3
|
「その本、よかったら持っていってもいいですよ〜」 いつの間にか ルヴァが側に来ていた 「びっくりするじゃない……」 驚いたときにたくさん空気を吸い込んでしまって 私はそれしか言えなかった まだ何もしていないのに 無駄に心拍数が上がっている 「はい、どうぞ」と ルヴァからいつもの湯のみを手渡される これは以前 ルヴァが外界に視察に行った折に 私専用にと買ってきてくれたもの その時 こんな会話をしたことを覚えている 「なあにこれ? 私にこんなものでお茶を飲めっていうの?」 「気に入りませんかぁ? ほら、私とお揃いなんですよ」 そう言って 色違いのものを取り出したルヴァ にこにこしている彼には 私が受けた衝撃なんてきっとわからない 「ね? 私のがオリーブ。貴方のは藤色。嫌だったら交換してもいいんですよ〜」 「色は、いいんだけどさ……やけにこれ大きいじゃない。それに、お揃いって、変だよ」 彼が何を意図して買ってきたのか 男同士でお揃いだなんて 普通は 普通に考えれば おかしいから 私の声は少し震えていたんじゃないかと思う 「そうですかぁ? そういえばゼフェルにもそう言われましたねぇ…… 『気色悪ぃぜ、おっさん』ってね、あ、ジュリアスは黙って飲んでいきましたが 本当はそう思っていたんでしょうか? どう思います? オリヴィエ」 私はあっけにとられて 口がぽかんと開いたままになってしまった 「ルヴァ……守護聖全員分買ってきたの?」 「ええ、陛下とディアの分も……まあ、陛下がこちらにいらっしゃることなんて ほとんどありえませんがね。仲間はずれはいけませんからねぇ。 ね、ちょっと見ていきませんか? 選ぶのに苦労したんですよ〜」 背中を押されて戸棚まで連れて行かれ ずらりと並んだ 色違いの同じ形の湯のみに もう一度唖然とした 説明をするルヴァの顔 本当に人がいいとしか言いようがない 無邪気な顔 こんなのん気な人が知恵の神様として全宇宙から崇め奉られているなんて サギだと思う この宇宙一の頭を こんな11個の湯のみを選ぶことに使ったなんて しかもきっと ものすごく真剣だったに違いないのだ (ルヴァって、こういう奴だよね) 私はその時 自分の勘違いを恥じてため息をつき 同時に なんだか気持ちが緩んだ 彼の側は心地いい 誰にでも優しく平等に心を配ることのできる彼だから だから 私は彼が好きなんだ 私はこの時 もう一度彼を好きになったんだ 「オリヴィエ?」 呼ばれて 我に返った ぼんやりしていたと思われたくなくて できるだけ普通に返事をした 「なに?」 「いえ……なんでも」 ルヴァは首を振った きっと何か聞きたかったはずなのに 彼は聞かなかった そのかわり 違うことを話し始めた 「この色、貴方にと思って選んだこの藤色なんですけどね、実は一番悩んだんです。 どの色を手にとっても貴方じゃない気がして、とっても困りましたよ〜。 でね、仕方がないから他の皆の分を先に選びましてね、余ったのがこの色」 ルヴァは私の持っている湯のみを指差した 「余りものだからって、気を悪くしないで下さいねぇ。 今では悪い選択じゃなかったなと思っているんです。我ながら。 残り物には福があるってね、あ、ちょっとこの場合は違いますねぇ」 あははとルヴァは笑った でも 私はそれに付き合えなかった 今日の目的を達成する糸口を見つけたからだ 「私の分って、本当は何番目に選ぼうとしてくれた?」 「ええ……と……私の次だから、2番目、です」 いきなり真顔になった私に ルヴァは戸惑っている 私の心臓は段々と鼓動を早めていき 今がチャンスだと 自分で自分を急かしていた 緊張感が辺りを包む 私はたたみかけるように次の質問をした 「それって、ルヴァにとって私が特別ってこと?」 一瞬 間が空いた 私は彼の顔を見て「通じた」と直感した だがその一瞬後 彼はいつものお人よしの表情を取り戻していた 「う〜ん、そうですねぇ。貴方とは特に親しくしていますしねぇ」 それは 自然を装っている振りをして まったく不自然という かなり矛盾した変化だった 私の作った雰囲気は”そういう”類のものだったはずなのに 彼は誤魔化したのだ 恐らく彼は わかっていてやったのだ 「そうそう、貴方の飲んでいるこのお茶はですねぇ、最近取り寄せたもので……」 その後 平和な話題をルヴァは持ち出してきた きっとこのままだったら 私はまた彼の講義を延々と聞く羽目になる いつもそうなのだ でも 今日の私は違う 流されないと決めたんだ 言ってしまわなければ終わらない 「ルヴァ、私、アンタに話したいことがあるんだ」 見つめる目に 力を込めた ルヴァが何か言う前に 私は急いで口を開いた 「私、アンタが好きだよ。アンタは私のこと、どう思ってる?」 冷めかけた湯のみを両手でぐっと握りしめ 私はルヴァから視線を逸らさないように努めた 意識していないと今すぐ俯きそうで そうしてしまったら 私は自分に負けると思った 微動だにしない彼を見て 嫌な予感が頭を掠めたとしても みっともない姿だけは 晒したくない 既に崩壊寸前のプライドを掻き集めて 私はただひたすら ルヴァのグレイの瞳を見つめていた |