恋しくて 4
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「好きですよ」 ルヴァは真顔だった 切り裂かれるのを覚悟していた身に駆け抜ける 意外な驚き 私は喜びかけた だが 「当たり前じゃないですか〜、同じ守護聖同士なんですよ?」 ルヴァはまた あの笑顔を持ち出してきた 「あ〜、お茶が冷めちゃいましたね。淹れなおしてきますから……」 ルヴァの手が私のほうへ伸びてきた 「やめて!」 私はその手を払いのけた その拍子に持っていた湯のみが空へ飛び 床に落下した ガシャン! 湯のみは割れ 藤色の破片がちらばった 入れ物を失ったお茶の雫が私の靴と足を濡らす 「わからない振りなんてやめて! 知ってるくせに、 私の気持ち、わかってるくせに、どうして誤魔化すのさ!」 「オリヴィエ……」 ルヴァを困らせてしまった その顔を見ていられなくて 私は下を向いた 惨めな思いでいっぱいだった こんなふうになるつもりじゃなかった ガキじゃあるまいし みっともないことこの上ない 床に視線を移すと 割れた藤色の欠片が目に入った この欠片と同じく 私の気持ちも粉々に砕けてしまった もう 終わらせなくてはいけない 「ルヴァ、ごめんね。アンタがくれたこれ、壊しちゃった」 私は顔を上げた ルヴァはちらばった破片を見つめている 「悪いけど、私は帰るよ。アンタと一緒にこれを拾うなんて 考えただけで気が滅入っちゃうからさ」 できるだけ明るく言った もうひきずりたくなかった そんな私の前で ルヴァはその場にしゃがみ 欠片の一つを手にしていた 「じゃあね」 来たときと同じく ヒールの音が高らかに鳴るように私は歩いた やがて入り口のドアに辿り着き ドアノブに手をかけたその時 ルヴァの声が私を止めた 「オリヴィエ」 立ち上がる気配 衣擦れの音 私は振り向かずに 続く言葉を待つ 「貴方の気持ちには応えられません。でも……明日もまた、来てください。 ……ずっと、待ってますから」 「わかってるって」 後ろ手に手を振って 執務室を後にした すぐにその場を離れ 背筋を伸ばして早足で歩く 外は既に薄暗かった 私は迎えの馬車を断り 蒼い闇の中を無心で歩き続けた その間 ついさっきルヴァとの間におきた出来事の断片が 繰り返し繰り返し 頭の中を巡っていた しかしそれが 私を打ちのめすようなことはなく ただ勝手に映像が流れているだけでしかなかった 告白する前 振られることをあんなに恐れていたのに 歩いている私は驚くほど平気で きっと感情が麻痺してしまったせいだと思った そう 文字通り 麻痺していたのだ くたくたになって屋敷に戻り 汗をかいたからとバスルームに直行した お湯に肩までつかり 痛む足の裏を揉んでいたその時 なんの前触れもなく それは訪れた 気がついたら ぽろぽろぽろと おかしいくらい涙が溢れていた 泣くつもりなんかなかった 急に胸が苦しくなる 顔が歪み 喉の奥が痙攣した 私は手で口を押さえて 嗚咽していた 声を出して泣く自分が信じられなかった なのに 衝動は止まらない その後しばらく 私の泣き声は広いバスルームに響いていた 体が溶けそうになるほど泣いた 体全部が この湯に溶けて消えてしまえばいい 本当に 消えてしまいたかった |