恋しくて 7
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「何のこと?」 今一番痛いところを突かれて私は狼狽した けれどそれを表に出すようなヘマはしない するもんか 「いきなり来て最初のセリフがそれなの? アンタ大丈夫?」 「大丈夫じゃないのはお前だろ」 即座に切り返された オスカーはにこりともしないで私をあの薄青い目でじっと見ている 「そんなこと言う前にさ、病人見舞いに来たんなら果物のひとつでも持ってきてよね。 しかもそんな真面目くさった顔見せられたら治るもんも治りゃしないよ」 オスカーの顔は見たくなかった 今すぐにでも口から本当のことが飛び出しそうだった 私は怒った振りして唇を尖らし ぷいっと窓の外に視線を移した 「誤魔化そうとしたって無駄だぜ、オリヴィエ。顔に書いてある」 「んな訳ないだろ!!」 思った以上に大きい声が出てしまい しかもまともにオスカーと顔を合わせてしまった 失態だった こんなにも早く 私は崩れかけている 「……声が男になってるぞ」 「アタシは元から男だよ ……」 泣きそうだ 誰か助けて 優しくしないで 「何があったんだ。言えよ」 なんでそんな顔で私を……ヤメて ヤメて!! 「言えよ」 開け放した窓からさらりと風が舞い込んできた 少し湿っていて 冷たく 優しく 私の頬と髪をなぶった 「フラれたんだよ」 薄い紫に染めたシーツの色を見つめながら 私はつぶやいた 「私、ルヴァにフラれたんだ」 言ってしまうと 気持ちがぐっと軽くなった 同情でも 憐れみでも なんでもかけやがれ こんな自暴自棄な気持ちになったのは久し振りだった この聖地に来てからというもの こんな気分になる前に 上手に回避できていたのに 「そうか、それがショックで熱が出たのか。可哀想にな」 その話し方のニュアンスに からかうそぶりを感じて目を上げた オスカーがあのいつものニヤけ顔でこちらを見て そして言った 「ガキ」 「なんだと?」 「お前、本気で怒ると怖いな」 「余計なお世話だよ」 「俺と付き合わないか?」 「は?」 オスカーは一体何を言っているのだろうか 「お前って化粧してない方がいい顔してるじゃないか。 俺の好みだ。だから俺と付き合え」 オスカーが ここ一番に使用するであろうイイ男顔で迫ってきた それに心動かされるどころか 笑ってしまいそうになる それに 私が化粧してない顔なんて今初めて見たわけでもあるまいし 口説くにしてはセリフにも工夫がなさ過ぎる 「アンタ何企んでんのよ。バカな考えは止めてさっさと帰りな。 出口はあっち!」 右手で直前まで近づいてきたオスカーの額を押し返し 空いた指でドアを指す しぶしぶ体を引いたオスカーを見て 私はベッドの中に勢いよく身を沈めて目をつむった 「俺の言うことを信じないのか?」 「目が嘘を言ってるからね」 流れる沈黙 大きなため息 「お前、俺のこと、本っ当になんとも思ってないんだな……」 今度は少し悲しげだ おや? と思い 目を開ける オスカーは腕を組んで 恨めしげに横目で私を見ていた 「わかったよ。せっかく俺様の高等テクニックを披露してやったが お前相手じゃ調子が出ないぜ、まったく……。オリヴィエ」 「何?」 「俺と付き合え」 「まだそんなこと・・・」 「違う。『付き合う振り』だ。それでルヴァの反応を見てやろうぜ」 ああ やっぱりこいつはバカなことを考えている ルヴァは私のことをなんとも思っていない そんなのは無駄だ 私までバカに見える これ以上は嫌だ 「お断りだよ。そんな古典的な手法。バカバカしい。バカがうつる」 「バカはお前だ。古典的な手法ってのはな、効果があるから語り継がれるんだ。 そんなこともわからないで炎の守護聖をやってられるか」 私は夢の守護聖なんだけど そんな言葉を飲み込み やけに意気込む「炎の守護聖」を見上げた 子供みたいだ よっぽどこいつがガキみたいで 気が付いたら 笑っていた さっきまで私を苦しめていた痛みが 気にならなくなったほど その日から 私たちは「付き合う」ことになった |