恋しくて 8



オスカーの「愛の言葉」がこんなにクサいもんだとは知らなかった

「さあお姫様、お手をどうぞ」
「アタシは姫じゃないからヤダ!」


真っ昼間の公園で オスカーに「宣伝活動」をしようと言われて
二人で「仲良く」歩いていた時のことだった
しかしいくら「振り」だといっても こんな身の毛もよだつような
崇め奉られ方をされたんじゃかなわない

「フッ、俺のお姫様はつれないお人だ」

とかなんとか言いながら私の後を付いてくる
まさか薔薇とか口にくわえてたりしないだろうね と思い恐る恐る振り返る

「そんな所が俺のウブなハートをくすぐるんだがな」
「うわあ! やめてっ!!」

オスカーが私の顎を掴み あろうことかキスしようとしてきた
私はオスカーの肩を押して思い切り後ろにのけぞり 難を逃れた

「アンタ……な……にする……気……」
「俺はチャンスを逃さない男だぜ」

このまま腕を下に伸ばしたらブリッジができそうだ
赤毛の男はニヤニヤ笑いながら言う

「俺がこの手を離したらどうなる? ん? お前の自慢の衣装が土にまみれるぜ」

私は見下ろしてくる薄い色をした目を思い切り睨もうとした
だがこんな時 このアイスブルーだと本人が主張するこの色の瞳は
本当に意地悪そうに見えて その表情とのギャップに戸惑う


「まあ、二人お揃いでダンスの練習ですか?」

優雅でおっとりとした優しい声
私は正直 ほっとした

「リュミちゃ〜ん……助けてぇ〜苦しい〜」

リュミエールは あらまあと言いながら
今にも落ちそうな私の背を支えるべく 後ろにしゃがみ込んだ


「ダンスではないのですか」
「違うわよ、このオスカーのバカが、バカが」
「うるさい! お前にバカと言われると頭に来る」
「まあまあお二人とも、ここは皆さんの憩いの場所ですよ。お静かに」

にっこり笑ったリュミエールにいさめられ とりあえず口をつぐんだ
私とオスカーの言い争いは 大抵この笑顔を出されると終わりになる
丁度 ランディとゼフェルにとってのマルセルのように
ジュリアスとクラヴィスにとってのルヴァのように

(まあ、ルヴァの場合、それほど効果ありのようには見えないけど)

そのことをルヴァに言った時
「喧嘩するほど仲がいいってね、言いますしねぇ」と
あの小さい目を更に小さくした笑顔で返ってきたことを思い出す


「オリヴィエ、オリヴィエー?」
「あ、ゴメン」

「まだ熱があるんでしょうか?」とリュミエールのひんやりした手が額に当てられた
「それはいけないな」とオスカーがリュミエールの手を掴んでどかし 自分の手を当てた

その一瞬 ほんの一瞬だけ リュミエールがうろたえたのがわかった

そのことについて考える暇もなく 私の体は宙に浮いた

「うわっ何すんのよ!?」
「お前を連れて帰る」


私はオスカーに抱え上げられていた
初めて体験する不安定な体勢 自分が女だったらうっとりするのだろうが
男に抱えられている男なんて気味が悪い 落ち着かない

「やめて! ちょっ、降ろしなさいよ! バカったれ! 降ろせー!!」

手足をバタバタさせて暴れる私を見かねて リュミエールが止めに入ってくれた

「オスカー。嫌がっているではありませんか。降ろして差し上げては」
「何だ? その非難がましい目つきは。俺がこいつをどうしようが俺の勝手だ。口出しするな」


それは異常なほどの冷たさだった
会話の流れとしてはあまりにも不自然な声音
私は驚いてオスカーを見上げた
冷たい 思わず震えがくるほどの視線が
リュミエールへ向かって一直線に突き刺していた

「ああ、嫉妬か? 見苦しいな」
「な……んですって? いつわたくしが? 奢り高ぶるのもいい加減にしてください」


そう 二人は仲が悪い
私とオスカーなんて子供のお遊びだ
本当に仲裁にまわるのは私の役目
だが 今のは「喧嘩するほど仲が良い」の範疇ではないことは一目瞭然だった

「冗談だ。だがなリュミエール。この際だから言っておくが
俺とオリヴィエは付き合ってるんだ。だから俺たちの邪魔はするな。
お前がこのことについてどう思おうと勝手だがな……」

私はひとことも言えなかった
リュミエールも口を開くことはしなかった


そんな彼に手を振ることもできぬまま 私達は次第に遠ざかっていった
リュミエールの表情のない顔が 受けた傷の深さを物語っていたのに
私はなにひとつ 彼にしてあげることができなかった





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