恋しくて 9



「……降ろして」
「なんでだ?」
「いいから降ろして」


私はオスカーの腕の中で揺られながらずっと考えていた
なぜ オスカーの態度が急変したのか
なぜ リュミエールが黙ってしまったのか

あの場所からだいぶ遠いところまで来てしまったらしい
公園の入口にある門がすぐ側に見えた


「ねえ、アンタ達、アタシに何か隠してない?」
「なんのことだ?」

オスカーはとぼけている
笑みさえ浮かべて
視線をしっかり私に合わせて 質問を待ちかまえていたようだった
憎らしいこと甚だしい

「……わかってるクセに」

表情は変わらない

「さっきのアンタ、明らかにおかしかったよ」

オスカーの瞳が ちらりと横にそれる

「……ねえ、私は真面目に話してるんだけど」


まったく聞く気のないオスカー
私は次第に苛立ってきた
こんなふうにあからさまに無視をされるのは胸くそ悪い
声を荒げて詰問しようと息を吸い込んだその時
急にガバッと肩を抱かれた

「ちょっと! 何すんのさ」
「しっ、ルヴァが来た」

オスカーの人差し指の隙間からこぼれたその名前は
憤った私を黙らせるのに充分過ぎるくらいだった


「よお! ルヴァ」

オスカーの威勢のいい声が辺りに響いた
私は……息が苦しくて
目の前に近づいてくる人を見ているだけで精一杯だった

「こんにちは。オスカー、……オリヴィエ」

ルヴァの声が 私の名を呼ぶ
右の手首が痛みはじめた
グレイの瞳が私の上に止まる

「もう身体の方は大丈夫なんですか?」
「ああ、ピンピンしてるぜ。なあ?」

なぜか上機嫌で私の代わりにオスカーが答え ウィンクまで飛ばしてきた

「そうですか、それは良かった」

ルヴァはいつもと同じ笑顔を作り 私たちを均等に見る
そんな彼を挑発するように オスカーが甘い声を発した

「俺が見舞いに行ってやったからな。炎の情熱で風邪なんかイチコロだろう?」

「なあ、オリヴィエ」と 声だけでは足らず 身体を更に引き寄せられた


(バカバカしいったらありゃしない……)

得意気な色男と目を合わせながら それでも
ルヴァを見ているより 今はこの「バカ」を相手にしている方が
何倍も気が楽だと 心の底ではほっとしていた
その時

「見舞い……?」

ルヴァがつぶやいた

(あ…………)

私ははっとした


昨日 やはりルヴァは私の見舞いに来たらしかった
風邪に効くからと 特別にブレンドしたというお茶を持って

オスカーが帰った後 階下に降りた私は 執事からその事を知らされた
この時の気持ちをどう表現したらよいかわからない
諦めや憤り 胸の高鳴りの下に蠢く様々な思い
いちいち数え上げたらきりがないほどだ

ここで本当は問い詰めたかった
”一体どういうつもりで来たのか”と


だが この優しい人を困らせるのは本意ではない
この質問の意味がわからない相手でもない
私がどんな答えを聞きたがっているか 彼はもう既に はっきりと知っている

私は思い切りしかめ面をしてみせて 親指でオスカーを指しつつルヴァに訴えた

「ああ、ルヴァ、聞いてよ。こいつったらね、アタシが熱でうんうん唸ってるってのに
強引に部屋に入ってきたんだよ? それでこんなエラそうにされちゃあたまんないよ」

そしてさり気なくオスカーから離れようとしたが
肩に置かれた手がそれを許さなかった
「アイスブルー」が「愛しげに」細められる

「そんなこと言って、結局お前が俺を入れてくれたんじゃないか」
「アンタが窓ガラスを割ろうとするからだろ!?」
「そうでもしなきゃ意地っ張りのお前は俺を受け入れてくれないからな」
「何言ってんだか……」
「いい加減、機嫌を直してくれよ。俺のハニー」


ぞぞぞぞぞーっと悪寒が下から駆け上がってきた
口を「イーッ」の形にして 素早くこの ある意味危険な男から力いっぱい距離をとった

「ハハハハハッ」

そんな私を見て 爽やかに笑うオスカー
頭が痛い


「あのー……」

振り向くと ルヴァが所在なげに立っていた

「私はこれで失礼しますね〜」
「ルヴァっ」

思わず呼び止めてしまい 話す言葉を持たなかった私は
精一杯頭をフル回転させた

「あ……あれ、あのさ、そう! お茶ありがとね」
「……どういたしまして。飲んでくださいね。風邪の予防にもなりますからね」
「ん…………ありがと」

帰るときも均等に笑顔を残して ルヴァはいなくなった



「気に食わないな」

オスカーは腕組みをして ルヴァが消えた方角を見ている

「何が?」
「あいつの態度だ…………まあいいか」

「とにかく」と オスカーの手が私の肩を叩く

「第一段階終了ってとこだな」

ニヤニヤッと私を見た


勝手にして と半場諦めつつ
ルヴァの登場で リュミエールのことが棚上げになってしまったことに
私は改めて気が付いた

(誤魔化したつもりなんだろうけどね)


前を意気揚揚と歩くその後姿を睨みつつ
私は二人の関係を修復するべく 今後の方針を頭の中で組み立て始めていた





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