恋しくて 11
|
「わたくしがいけないのです」 だからこそ そう言うリュミエールのまつ毛が震える様を見て 眉根を寄せずにはいられなかった 「リュミちゃん……」 「オスカーを傷つけてしまったのです。わたくしが……わたくしが……」 そこまで口にしたものの リュミエールは次に話を進めようとしなかった いくら聞いても黙って首を横に振り 「ごめんなさい」と言うばかり (強情だね……) わかってはいたが 少し悔しい ここまで曝け出しておいて 途中で止めるなんて 「すみません、オリヴィエ」 上げられた顔は既にいつもの彼のものになっていた 「なんでもないのです。ほんのちょっとした行き違いで。 わたくしとしたことが、すこし弱気になってしまったみたいです」 そう言って微笑する 何をそんなにまでして隠そうとするのだろう 「私には言えないんだね……いつもそうなんだよね……」 「オリヴィエ……?」 今度は私がうつむいた 「話すだけで楽になれることってあるんだよ。 リュミエールが言いたくないんなら仕方ないけどさ……。 私、信用されてない? だったら悲しいよ……」 「オリヴィエ、そんな……そんなことでは……」 おろおろしている様が 下を向いていてもよくわかる 心の中でちょろっと舌を出し 顔を上げた 「なら、話してくれるよね。私はアンタの力になりたいんだよ」 芝居がかっていたかもしれないが 力になりたいという言葉は本当だった 「ありがとうございます、オリヴィエ……。でも、あの……」 「やっぱり言えない?」 「いえ、そういうことではないのです。ただ、貴方を傷つけてしまうのではないかと……」 「えっ、アタシ?」 素っ頓狂な声が出てしまった 何で と口にする間もなく リュミエールが言い募る 「いえ! そうではないのです。私は、わたくしは、お話することによって 貴方に嫌われることが怖いのです。でも、いつまでもこのままではいけない。 わたくしもそう思います。許しを乞わなくては……貴方にも、オスカーにも」 決意に満ちた瞳が私を見た 「わかったよ。私がアンタを嫌いになるとは到底思えないけど、聞いてあげるから言いなさい」 「優しいのですね、オリヴィエ」 にっこり笑われて 柄にもなく頬が熱くなった 「いいから、早く言いなって」 「ええ。実は……」 バタン! 大きな音をたてて誰かが入ってきた その誰かとは 今一番来て欲しくない 赤毛のバカだった 「よお! ここにいたのかマイスゥイートハニー」 全力で「爽やかに笑ういい男」を気取って入ってきたオスカーは 私の側に跪いたかと思うと 手を取り 素早く手の甲にキスしてきた 「うあ゛ーっ!」 慌てて手を引っ込め 頭をはたこうとしてそれは空を切り ガシッと掴まれた 「照れるなよ」 「照れるかバカ!」 「ルヴァが呼んでるぜ」 なんてことだろう そのひとことで私は力が抜けてしまった でもリュミエールの手前 それを出すわけにはいかない 「あっそ、今さ、リュミちゃんと仲良くお話しているところだから 後で行くって言っといてくれる?」 「嫌だ。なんで俺がお前の伝言を伝えに走らなきゃならないんだ。 お前が今すぐ行けば済む話だろ」 「ケチくさい男だね」 「ああ、俺はケチくさいさ。早く行け」 「でもさ……」 (せっかくいいところだったのに) オスカーを睨みつけたがまったく動じる様子はない まったく何を考えているのだろうか 実のところ ルヴァにはあまり会いたくない 普通に接するのがあんなに大変だとは思わなかった それでも毎日 少しずつ諦め 慣れていくのだろうけれども 「ほら、行くぜ。早くしないと俺がルヴァに怒られる」 ルヴァがそんなことで怒るわけないだろう と思いながら オスカーはなにがなんでも私を連れて行くつもりだということがわかり 私はリュミエールを見た 「悪いけどさ、私ちょっと行ってくるね。後でまたここに来てもいい?」 「ええ。待ってます」 あの話から逃げるつもりのないことが その穏やかに笑う目から確認できた それならばいい 私はソファから立ち上がり オスカーと共に扉へと歩いていった 「オスカー」 リュミエールの声 「すみませんが、お話したいことがあるのです。少しよろしいでしょうか?」 立ち上がって両手を前に組み リュミエールはきりりとした視線でオスカーを見ていた 「……ああ、わかった」 扉から離れ ゆっくりと部屋の中央へと戻っていくオスカー 私はあからさまに心配そうな目をしていたらしい リュミエールは私に向かって大きくうなずき 大丈夫 の形に はっきりと口を動かした 「オスカー、リュミちゃんをいじめたらタダじゃおかないからね!」 「うるさい。わかってる」 (わかってないくせに) それでも 今のリュミエールなら本人が言うように大丈夫だろう オスカーも相手の真剣な気持ちをばかにするような奴じゃない 二人の争いの種がなんなのかはわからないが 仲直りすることを願いつつ 私は水の執務室の扉をパタリと閉めた |