恋しくて 12



いまだに胸が高鳴って煩い
この手も 足も 身体全体が 恐れを抱いてそれでも
彼を求めて向かっていく

なんということだろう
なんということだろう

これが 人々に夢の力を与える守護聖
美を司る オリヴィエの姿


私の中の理性は これ以上執着するなと言っている

私はルヴァに拒まれた
この想いを はっきりと 拒絶された

事態はこんなにもわかりやすいのに
これ以上彼を求めても もう得られないのに

飼い殺し

なぜか そんな言葉が頭に浮かんだ



ルヴァの態度は あんなことがあった後も変わらなかったが
ただひとつ 変化のあったことといえば
私の執務室に顔を出す回数が増えたということだった

無理もないのかもしれない
このところ私は ルヴァの執務室へ自分から行くことができなくなっていた
それが出来ていたのは最初のうちだけで
ルヴァの部屋の扉の前まで来たものの
逡巡の後 引き返すという愚かなことばかりをしていた

だからこそ ルヴァが私の部屋の扉を叩き
「オリヴィエ〜こんにちわぁ」と あの柔らかい声を伴ってやってくる時
嬉しさのあまり ペンを持つ手がカタカタと震えてしまってどうしようもなくなった

即座に執務を止めるしか隠す手立てはなく だから忙しい振りもできず
上ずっていこうとする声を押さえ 呼吸を整えて 必死の思いで話をしていた



何日ぶりだろうか
私の手が地の守護聖の執務室の扉を叩くのは



「いいえ、私は呼んでないですよ〜?」

私が入ってきたのを見て いそいそとお茶の用意をしながらルヴァは言った

(ちっ、騙したね、あのバカ)

忌々しい おせっかいが過ぎる
ここに来るまでにどれだけの心の準備が必要だったか……

「誰からそんなことを聞いたんですかぁ?」

呑気な声がお盆を持って奥からやってきた

「オスカーだけど?」

私はおもいきり苦い顔をして言葉を投げた
怒りのせいか さほど苦労しなくても普通の声が出ることに内心 ほっとしていた

「あ……」
「どうしたの?」
「いえ……なんでもないんですよ。さあ、どうぞ」

ルヴァは薄くうつむいて 私に白いカップを渡した
もう あの藤色の湯のみを手に持つことはなく そして
ルヴァもお揃いだったオリーブの湯のみを出してくることはない

あの日から ルヴァはそうしている
それはまるで 以前の私たちにはもう戻れないのだと
彼自ら宣言しているかのようだった

私が壊してしまったのだから 仕方がないと思いつつ
無言のまま責められている気がして いたたまれなくなる

いや そう思うのは卑屈になりすぎているのかもしれない
彼は優しい
あのことを思い出させないために 思い出さないために そうしているのかもしれない


ルヴァは何か考え事をしているようだった
こういうことはよくある話で
うっかり「どうしたの」とでも聞いてみようものならば 大抵
最近読んだ書物にあった太古の遺跡に関する歴史だとか
染色体がどうしたとか αとかωとか
基礎知識も興味もまったくない私に向かって延々と話を続けるのだ

一応 わかりやすく説明しようとはしてくれるが
その説明がえらく長くて 途中で退散するのが常だった

だから 今日はこのまま帰ろうと思った
同じ部屋にいるのは まだまだ辛かった

「ルヴァ」
「あ……ああ、すみません。ぼーっとしてしまって」
「いいよ、私は帰るからさ、また明日来るよ」
「オリヴィエ!」


立ち上がった瞬間
がしりと 腕を掴まれた

腕に感じるその力はかなり強く グレイの目が必死に私を見て
……即座にそれは離れた

「あの、いえ……すみません」

だらりと垂れ下がるルヴァの手

「……どうした、の?」
「なんでもないんです」
「それがなんでもないって顔?」

ルヴァは 私の目を見ない

「ルヴァ?」

私の腕を掴みそして離れたルヴァの手は 服のお腹の辺りを彷徨っている
私は辛抱強く待つことにした
その指の動きと それに伴って変化する服の皺を眺めながら


時間としてはいくらも経っていないだろう
その手が ふいに強く握り締められた
私は顔を上げた

「……オスカーは、気を利かせてくださったのだと思うんです」

瞬時に全身が磔にされたような衝撃が走った
その時 すうっと顔を上げ ルヴァが私を見たのだ
続いて出た声音は恐ろしく低かった

こんなルヴァは知らない

唇を真一文字に引き結び
いつも優しく笑んで緩むか困って垂れている目が吊り上っている
強い光を湛えて こちらを見据えてくる

そんな顔をして あまりにまっすぐに見るものだから さすがの私もたじろいで
さっきまで持っていた怒りも勢いも なにもかも失ってしまった

それでもなんとか両足に力を入れる
それでもなんとか彼を見返すことができた
それが精一杯だった


「私が、最近オリヴィエが来なくなったと言ったんです。
だから、彼はあなたを呼びに行った。嘘をついて、あなたを私の部屋に呼んだ……」
「ルヴァ……」
「すみません。あんなことを口にしてしまった私のせいなんです。オリヴィエ」
「ちょっ、なんで……謝るのさ。悪いのはオスカーじゃないか……」

そして 私 だ

白いターバンの裾が左右に揺れた

「私はずるいんですよ。あなたは知らない。
私はあなたの知っているような私ではないんです。
……もう行ってください。また明日、お会いしましょう」


そう言って くるりと背を向け 奥へとルヴァは歩いていく
私は それを黙って見送ることしかできなかった





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