エルとるいとランデーとれいの日記

パート13


季節は冬だけど俺は春だよ!日記 SIDE:ランデー

「…………という訳です。私には何が何やらさっぱり」

やれやれといった様子でエルンストさんが首を振る。

そもそもはれいちゃんと部室に居た時、いきなりるいさんの泣いてるみたいな怒鳴り声がして、
走り出して行く音がした。慌ててそっちに行ったら、
呆気に取られた様に立ち尽くしてるエルンストさんが居た。

あのるいさんが泣くなんてよっぽどの事だと思って、
エルンストさんに訳を聞いた所、どうやらるいさんはエルンストさんにコーヒーをもらえなかった事
が、よっぽどショックだったらしい。そういえばコーヒーコーヒーって連呼してたよな……

「成る程……私も前髪がコーヒーまみれになった挙げ句、寒空の下帰路に着く事になった訳で、
 それはそれは腹立たしかった訳ですが、彼女がそんなにコーヒーが好きだったとなれば、
 多少事情は変わって来ます」
「そうですね。エルンストさんが怒る気持ちもよーく分かりますが、そんなにるいさん
 コーヒーが好きだったんですね」
「あ……モシカシテ、ワタシがジュリーさんの所からイッパイコーヒーもらって来ちゃったのも、
 面白くなかったのカナ……」
「そんな事無いよ!大体あれは俺がもらって来たんだしさ!悪いって言ったら俺だよ!」
「ダッテ、そもそもはワタシが気に入ったって言ったからデショ?」
って見上げて来る顔がまた可愛いよな〜
「れいちゃんはそんな事気にする必要無いってば!」
「ランデー優しいんだネ……」

他の部員はどうして良いか解らないみたいで、俺達を凄く遠巻きに見ていた。
このままじゃるいさんも気まずいだろうし、原因の一端は俺にもある訳だから、
ここはやっぱりお膳立ては俺がするべきだよな!!

で、丁度ジュリーさんから何だか家の仕上げのセレモニーがあるから誘い合わせて来てくれって言われたからさ、
るいさんも誘ったんだよな。当然エルンストさんも来るだろうし。

で、当日は宝珠に火焔を付ける作業だった訳なんだけどさ。
あ、宝珠ってのはあの金色のタマネギな訳だけど、これは炎の燃え上がってる様を表してて、
これによって思うことがかなえられるって事だけどさ。飾りなら擬宝珠とも言えるんだろうけど、
スカーさんが『俺は本物しか作らないぜ?』って訳でさ。
結婚式にはその回りに付ける予定の火焔部分が間に合わなかったって事で、
今日はそれを取り付けるって事だったんだよな。

『アレ、なーに?』って言うれいちゃんに説明したら、
『やっぱりランデー凄いネ』って誉められたよ!!

そうこうしてるウチに、竜美之輔さんが無事それを取り付けて、スカーさんが、
「これで完璧だな!ファイヤー!!」って叫んだ。
完成して嬉しかったんだろうな!!
そしたら竜美之輔さんが、いきなり髪を解いてハープ弾き始めた。
そういえば前に仕事場見せてもらった時、
『無事作業が終了した時にはある儀式を行うのです……
 本日は中断されてしまったのでお見せ出来ませんが、近々お見せ出来ると思いますよ』
って言ってたっけ。これの事か!見事だよな!!

暫くしたらスカーさんが来たから、出来映えを誉めたらすっごく喜んでくれてさ!俺も嬉しいよ!!

「そういや、あのお嬢ちゃんが何やらエルンストと揉めたらしいな」
「ああ、そうなんですよ……実は……」
って事情を話したら、
「そうか……それならさっきはお嬢ちゃんにキツイ事を言っちまったな」
「エルンストさんが怒る気持ちも分かるんですがね……」
「男には譲れないものがあるからな」
「そうなんですよ。でもエルンストさんもるいさんがそんなにコーヒーが好きとは知らなかったって事で」
「ソウヨ!女にも譲れないものがあるモノ!」
「そういえば、こないだお嬢ちゃんにはコーヒーを土産に持たせなかったしな……これは俺とした事が失敗した」
「あ、でもソレはワタシが……」
「いや、俺が……」

「いや、これは俺の失態だ!とにかく夕飯も用意してあるから、そこでお嬢ちゃんの機嫌も直してもらおう」
「そうですね」

って事で皆で一緒に夕飯をご馳走になった。
すっげぇ美味しかったし、るいさんにはスカーさんからたっぷりコーヒーのお土産があったし、
エルンストさんとも仲直りしたみたいだし、ホント良かったよ!!

そういえば、れいちゃんの譲れないものっていうのは何なんだろうな?



初春のお慶びを申し上げます!日記 SIDE:れい

「ところでさ、れいちゃんの譲れないものって何なんだい?」

ジュリーさんちから帰る途中、ランデーがそう言ったの。
すごくワクワクしてるような、何かを期待しているかのような目が、
私に向かって「にぱっ」て見開いてる。

ランデー、かわいいなあ……。

「れいちゃん? れいちゃん?」
「あ、ナニ?」
「ぼーっとしちゃって大丈夫かい? あ、もしかしてお腹すいたんだね。
俺もそうなんだ! さっき腹いっぱい食ったっていうのにな! アハハ!」

ランデー、さっきだってジュリーさんの分まで食べてたのに、またお腹すいたんだ……。
私がそうじゃないって言ったら、なんかスゴク残念そう。
文字通り「しゅん」としてる。
もぅ、しょうがないナア。

「甘いものならちょっと食べたいかも……ランデー、付き合ってくれる?」

ランデーって素直だよね。スッゴク嬉しそうに笑うんだよ。
ワタシ、こういうとこもっと見習わないといけないな。


もうランデーの前では上品ぶった演技はしていないつもりだけど、
やっぱり学校にいる時のワタシは前とあまり変わらない。
だって、イキナリ変わったらみんな驚くでしょ?
ワタシのトモダチにはちょっとずつバレてきてるケドね。

こんなことなら最初から演技なんてしなきゃ良かったかなv な〜んてネ。
だって今のほうが断然! 楽しいモン。
前に学校の外で使ってたいわゆるコギャル語も今は使わなくなって、
両方のワタシが一緒になったカンジかな。

ウフv それもこれもランデーのお・か・げv



ランデーはナポリタンとグラタン。ワタシはフルーツパフェ。
最初はアイスにしようと思ったんだけど、
ランデーが「これがいいよ! ここのは本当においしいからさ」
ってニコニコ指差すもんだからこれに決めちゃった。

ランデーが勧めるものって、み〜んなスッゴクおいしいんだよ。
どこからこんな情報仕入れてくるのかな?
後でトモダチにそのお店のこと言うと、必ず後で感謝されるんだ。
これってスゴイよね?

さっきはジュリーさんちの屋根に乗せた宝珠のことを
スゴクわかりやすく説明してくれたし。
やっぱりランデーってすごいよネ! ウフフ!


ここでさっきランデーから聞かれた「譲れないもの」の話になった。
ワタシは自信満々でこう答えたよ。

「ひとことで言うと『美』ヨネ!」
「ビ?」
美!
「び、ってなんだい? …………びんぼう?

思わずバカ! って言いそうになっちゃったヨ。

「そーじゃなくて、美しいの『美』。
わたし、美しさを保つことにかけてはかなりのコダワリ、あるよ」
「へえ、努力家なんだね、れいちゃんって! だからいつもかわいいんだね!」

……そんなに正面きって言うなんて、もー……ハズカシイヨ。
でも、でもやっぱり、ウレシイ。
だからちょっと得意になっちゃうのはしょうがないヨネ?

「ソーヨ! 規則正しい生活に適度な運動。髪の毛だって毎日ブラッシングは欠かさないし、
お肌の手入れに、この爪でしょ? あとこの季節に忘れちゃいけないのがクチビル。
寝る前にパックしたりして気を付けておかないと、すーぐカサカサになっちゃうんだから!」
「へ〜え…………うん、今のれいちゃんもなんかおいしそうだしね!」
「ナ、ナニイッテンノヨ!」

調子に乗ってついクチビルことまで言っちゃったら、ランデーったら……。
もうそんな言い方するから余計にテレちゃうじゃん!

デモ、そんな意味じゃないみたいで、すぐに話が変わっちゃった。
ちょっとザンネン、かな? なんてネv
いいんだ、素直に『おいしそう』って思ってくれただけでも嬉しいもんv

「みんなそれぞれこだわりがあって面白いよな!
でも、るいさんが泣くほどコーヒー好きだったなんて知らなかったよ。
俺が気づいてあげられればあんなことにならなくて済んだのに、かわいそうなことをしたなあ」
「それを言うならワタシだよ。ワタシのほうが一緒にいたのに全っ然気づかなかったんだよ」
「いや、俺が」
「ううん!ワタシが」

なんか昼間もこうして言い合ったような気がする。
ランデーってば自分が悪いって言い張るなんて優しいヨネ……。

「とにかくさ、今度から気をつけような!」
「ウン!」

ホント、ランデーといると教わることがいっぱい。
ワタシ、これからはもっとセンパイのこと気をつけてあげよーっとv

「あと、るいさんのことで俺の知っといたほうがいいことってあるかい?」
「んーと、ワタシが知ってることって言えば、エルンストセンパイを好きってことくらいかナ?
でも、最近はスカーさんがお気に入りみたいだけど……」
「エルンストさんもスカーさんもどっちもすげぇかっこいいもんな!
あの二人がモテるのもわかる気がするよ、俺」
(ワタシはさっぱりわからないケド……)

確かにセンパイのことはチョット好きだった時もあったケド、今は全然。
ていうか今はランデーのこと大好きだしv

「るいさんも早くどっちかと付き合っちゃえばいいのにな!
俺たちみたいに……さ」
「ランデーったら……vvvvv」

あの二人相手じゃ一筋縄じゃいかないと思うケド、そんなことは説明しないでおこうっと。
きっとランデーにはわからないだろうしネ。

「そうだ! この近所においしいコーヒーを飲ませてくれる店があるんだよな!
そこはチョコレートケーキもすっげぇうまいんだ。これから行かない?」
「ぇ…………」

今食べたばっかりだっていうのにまだそんな余裕があるの?
ランデーのお腹って四次元ポケットになってるんじゃないでしょうね。

「ワ、ワタシは遠慮しようかナ……」
「無理だったらひとくちだけでいいからさ、俺のを分けてあげるよ!」
「デモー……」


結局行っちゃったんだけどね……。
結局「半分こv」しちゃったし。
ランデーが勧めてくれるだけあっておいしかったなv
今度みんなに教えてあげよーっと。



日記−29 SIDE:エル

そんなにコーヒーが好きだったと言うならば仕方が無い。
それが彼女にとって私のこの前髪と同じ位置を占めるのならば、
許してやらない事も無い訳である。

今日ランデーと部長が私の所にやって来て、
「エルンストさんは、どんな女性がタイプなんですか?」
と、唐突に聞かれた。どうした事だ。
どうしたものかと黙っていると、
「あ、じゃあ質問を変えますね!るいさんの事どう思います?」
累算……類纂………
「真木るいさんですよ!」

ああ。

それならば今はスカーでは無いだろうか。
それ以外にも随分とふらふらしている様だが。

そう答えると、二人は何故か固まっていた。
どうしたと言うんだ?



日記−29 SIDE:るい

今日はバレンタインデー。
年に一度のバレンタインデー。
今年こそうまくいきますようにと祈るような気持ちで
私はジュリー家に一目散にレッツゴー!


「ああ、いないわよ

げげっ、お姉さん、一体その格好はどういったプレイで……
スカーがいないなら出直そうと思ってたけど、驚きで動けないよ。
だって白いふりふりエプロンはいいけど、ネ、ネコミ……

「良かったら貴方も召し上がる? ついさっき出来上がったばっかりなの

何を召し上がる話だったかちっとも聞いてなかった私は、わけがわからないまま
お姉さんに、ささ、入って、と背中を優しく(ほんとーに文字通り優しくなのよ……)
押されてました。


「おお、そなたか、久しぶりだな、座るが良い」

見たところジュリーさんには変化はないようね。
服も髪も態度も寸分変わらずいつもどおり。

「は〜〜い お・ま・た・せ〜〜〜

ブルジョワな笑顔に見とれてたら扉を開けてお姉さん登場、と思ったら

ピカー!

なんなのこの物体!?

「おお! なんと素晴らしい!!」

ジュリーさんが両手を上げてその物体を褒めちぎってる。
なんとまばゆい輝きだーとかなんとか言ってるけど、
ていうかコレ、何なの?

………………
………………

黙ってても教えてくれそうにないみたい。
いつまでもジュリーさんの賞賛の言葉が終わらないから
思い切って「これ何ですか」って聞いてみた。

「そんなこともわからないの!?」

とくると思ったら

「チョコレートケーキよ ちょっと待ってね。ジュリー、いいかしら?」
「いや、待て、少しこのままで…………うむ、やはり素晴らしいな」

………………
………………

あの……よっぽど気に入ったんですね。3段重ね(形状からして多分)の
金箔を全面に貼り付けて中身がなんだかわからなくなったチョコレートケーキ。
ていうか、ジュリーさんって金色だったら何でもいいんじゃないかしら。

「ジュリーったら、もういいでしょ? るいちゃんも来てるんだし、また作ってあげるから、ね?」
「うむ………………」

まだシブい顔をしてるジュリーさん。
けっこう子供みたいなとこがあるのね。ちょっとかわいいかも。
ていうかお姉さんに るいちゃん なんてちゃん付けで呼ばれちゃったよ。
ああそうね。スカーがいなくて二人きりだからうかれトンチキになってるのね。

あ、もしかしてネコミミもそのせい?
これってジュリーさんの趣味なのかなあ?
でもこの人の場合、裸エプロンのスカーを見ても割と普通にしてるしなあ。
ここにいると、常識とか非常識とかどうでもよくなるよなあ。

「いい? 切り分けるわよ?」
「……………………切るのか……はぁー……」
「ため息なんかついちゃって ケーキなんだから食べてもらわないとね
「……………………食べるのか……はぁ……」

今度のため息はものすご〜く重かったけど、もしかしてジュリーさんって甘いもの苦手なのかな?
そう思ってそっくりそのまま聞いてみたんだけど、
なんか珍しく歯切れが悪い曖昧な返事が返ってきた。
代わりにお姉さんがゴキゲンな顔して「そんなことないわよね?」って。

そういえば前にここに来た時、スカーさん手作りのコーヒーゼリーを
喜んで食べてたし、苦手なわけないか。


あ、そうだそうだ! 思い出した! 私がここに来た理由。
スカーがいないのは残念だけど、よく考えたらいつ帰ってくるかわかんないし
こういうイベントものは当日じゃなきゃ意味ないのよね!

「あのー、実は私もケーキを作ってきたんでちょっと味見してもらってもいいですか?」
「ま 味見ってことはこれから本命にあげるってことよね
「はぁ、まぁ……すいません」
「いいのよいいのよ だって今日は女の子が勇気を出して好きな男の子に告白する日だものね
私だって女よ 味方になるのは当然! 味見でもなんでもしてあげるわ ね ジュリー

ああ……なんかそんなにハートを毎回くっつけてしゃべられると肩がこる……
うかれるにもほどがあるってもんよね。
それに、頭を動かすたびにうっかりネコミミに目が行っちゃうし、
んー、かわいいっちゃあかわいい……うん かわいいなあ……

っとっと。それはいいとして、
お姉さんのこと、私の周りで唯一まともな人かもって思ってたけど、
やっぱ違うみたい……みんな限度を知って欲しい……普通に生きてみない……?



「お嬢ちゃんじゃないか!」

入り口のドアのところでかっこつけてスカー登場。
ちょうどいただきますをしようとしていたところで、
スカーはつかつかと近寄ってくると、おもむろに私の前にあるケーキをつまみあげた。

「俺がいないからって自分で食べてしまうつもりだったのかい?
悪かった。ちょっとヤボ用でな。お嬢ちゃんが来ると知っていたら
何もかも投げ出して待っていたのにな。じゃ、いただくぜ」

あむ

スカーの口がでっかく開いて、一口で消えてなくなった私のケーキ。
だれもあんたにあげるなんて言ってないのに。
でもさすがスカー。このケーキをちゃんと私が作ったものと
確信して食べてるところがすごいわ。すごい嗅覚。

スカーは黙って咀嚼してる。
大きく膨らんだ頬が間抜けだけど、それを間抜けだと笑う余裕はなくて、
どんな反応があるかって思ってけっこうドキドキしてた。

「うまいぜお嬢ちゃん!!!」

長い時間をかけて食べ終わると(少なくとも私にはそう感じた)
スカーは目を輝かせてそう言ってくれた。
ヤッタ! 今年は大成功だ! ヤッタよ!

スカーの言葉で、ジュリーさんもひとくちパクリ。

「おお、美味であるな」

褒められるってなんて気持ちいいんだろ!

もうね、去年のような失敗はしたくないからね、
それに今度こそ自力で作らなきゃって思って、密かにお菓子作りを特訓してたのよね。
ついでに料理も習ったんだけど、ああいうのってやればけっこう楽しいものなのねー。
まあ……習った相手が気に入らないんだけど、秀でた者に教えを乞うのは当たり前だものね。
でもほんと、その甲斐があったーv

よし! これで自信持ってエルンストさんのとこに行ける!

ピンポ〜ン

「おっと、今度はどこのお嬢ちゃんが俺に会いに来たのかな?」

いそいそとスカーさんは玄関へ。
まったく誰にでも愛想がいいんだから。まあそこがいいんだけど。


スカーの後に入ってきた人を見て、持っていたフォークがお皿の上に落ちた。

(エルンストさん!?)

ドッキーン。ヤバい。予期してなかったから膝がふ、震える〜。

「これはみなさんお揃いで。……ああ、貴方も来ていたのですか」

特に仲直りしたわけじゃないんだけど、ジュリーさんの家で会ったとき以来、
エルンストさんの態度が元通りになってる。
私にとってそれは嬉しいことで、それだからこそ今年もって思ったわけで。
そう、今年もエルンストさんにバレンタイン!

「あ! あの、ケーキ食べる?」

まだ調子が元に戻らなくて、ちょっと遠慮がちになっちゃった。
もっと強引に行かないとこの人は言うこと聞いてくれないんだけど、
でもみんないるし、断らない……よね?

「お嬢ちゃんのケーキはうまいぜ、食ってみろ」
「ではいただきます」

スカーさんが後押ししてくれたからか、すんなりオッケーが出た。
ヤッタ! では準備準備と。
エルンストさんにちょっと待つように言って、持ってきた材料を手にキッチンへ。


「お待たせしましたー」

お姉さんにお願いしてお借りした豪華なお皿にチョコレートケーキを乗せて、
その上に生クリームで「Happy Valentine」って記したものを
エルンストさんの前に置いた。

「これをここで全部食べろと?」

……ああ、どうせそんな感想だと思ったけど、まあいいや。
違うと言おうと思ったらお姉さんが代わりに言ってくれた。

「そんなわけないでしょ!」

いつの間にかエプロンもネコミミも外して元に戻ってた。
そうか、スカーが帰ってきちゃったからか。
コスプレタイムは終了ってことね。
いったいどこの誰に教わったやら……ネコミミ……ちょっと被ってみたい……

「るいるい! なにボケッとしてるの?」
「あ」

慌てて切り分けて小さいお皿に入れて、ついさっき泡立てた生クリームをトッピング。
この生クリームがケーキの苦味と合ってまたいいんだよねーv

「どうぞv」
「いただきます」

黙ってもぐもぐと食べ続けるエルンストさん。
食べてるってことはそこそこおいしいってことよね。よかったー
……てちょっと! 何みんな勝手なことしてるの!?

「あら、クリームがあるとまた一味違うわね」
「うむ、更に美味であるな」
「いただくぜ、お嬢ちゃん」

いただくぜ、ってもういただいちゃってるじゃないの。
ていうかアンタ、何切れ食べる気なのよ!?

あ、あ、あー…………
呆然としてたらエルンストさんが食べ終わって

「ごちそうさまでした」
「あ、いえ、お粗末さまで……」

残りは後で食べてもらおうと思ってたのに……
それ用にパッケージも持ってきたのに……
エルンストさん、貴方に食べてもらいたいと思ってたのは
そんなたった一切れじゃなかったのよ……。

ま、まあいいか、ごちそうさまって言ってくれたし、
なんか私の求めるレベルって低過ぎない…………?


低過ぎると言えば……。
この後食べたお姉さん作の金箔チョコケーキなんだけど、
あれは……断じてチョコじゃないと思う…………。
見た目同様、味まで不思議な物体だった。

お姉さん、料理、上手なはずなのになあ。
私とスカーはなんとか一切れだけ食べて、エルンストさんはフォークを持ちもしなかった。
ジュリーさんが苦行でもしてるかのような顔で
黙って食べてたのが印象的だった。





そんな良かったんだかなんだかわからないバレンタインを過ごした次の日、
久しぶりに部活に顔を出してみたら、
なんとれいちゃんとランデーがこれ以上ないっていうくらい
わかりやすく仲違いしてた。

お互いそっぽ向いちゃっていったいどうしたの?
れいちゃんに聞いてみたら

「あんな人のキモチ傷つけるようなヒトの話はしないでください!」

首を傾げてランデーのところへ行くと

「俺はいいと思って言ったんだ! 心配してあげたのに!
どうして彼女の心配をしちゃいけないんだい? 俺わかんないよ!」

理由を聞いたけど、れいちゃんが怒った理由がわからないって言うし、
れいちゃんは「ラ」と口にするだけで「ヤメてください!」って言うし、
ああ、こりゃダメだ。


帰り道、やっと喧嘩の理由を聞いて、ランデーなら仕方がないか
となんだか納得した私に、れいちゃんは更に機嫌を悪化させて
プリプリ怒って帰っていった。

あ〜あ〜。どうしたもんかなあ〜。
ったくどうして私が怒られなきゃなんないのかしら。
帰り際

「センパイはランデーの味方なんですね!?
ゼッタイ、ワタシの方に付いてくれると思ったのに! バカ!

バカってさ、センパイにバカってさ、私バカなんだってさ……。



「そういうわけなのよー、どうにかして欲しいよー」
「だよなぁ、まいるぜホント」

れいちゃんに走り去られて、トボトボと歩いてたらゼヘルに会って、
ちょうど同じ悩みを抱えてるってことで一緒にお茶することにした。

なんか教室でも二人はいがみ合ってたみたいで
このところれいちゃんにくっついてたランデーが
一日中ゼヘルにまとわりついていてそりゃもう”ウザかった”らしい。

「あいつホントうっせぇんだよなぁ。っつうか俺に『どうしてだと思うぅ?』
なんて涙目で聞かれても困るっつーの! 俺知らねっつうんだよ。
あいつに直接聞きゃあ済むことだろ? なのに聞かねぇんだよ、
『教えてくれないんだよぅ』とか言ってる間にしつこく聞けっつうんだよ。ああウゼぇ」

アイスコーヒーをストローでずずずーっと吸ってゼヘルはため息をつく。
私も紅茶をひとくち飲んで同じようにため息。
私たちはさっきからこうやってうな垂れてため息ばかりついてた。


気分はかなり重いんだけど、その中でひとつだけいいこと。

久しぶりに紅茶が飲めたよ……!

なんかみんな私のこと勘違いしてるみたいで、どこに行ってもコーヒーを勧められるのよね。
この前なんてお昼に自販機で牛乳買おうと思ってお金を入れたら
横からニョキって手が出てきてコーヒーのボタンを押しやがるのよ!
ダレだ! と思ったらなんとそれがエルンストさん。

「何をぼんやりなさっているのですか? そっちは牛乳ですよ」

は? だから牛乳を買おうと……

「はいどうぞ。それでは」

手のひらの上に残るパックのコーヒー。
しょうがないから飲んだわよ。泣きながら飲んだわよ。


家に帰ったら帰ったで、毎日コーヒー責め。
ジュリーさんの家でお土産に持たされたコーヒーが大量に残ってて、
貰ってきた人が飲むべしと、朝昼晩私の前にはコーヒーが置かれちゃうのよ。

「お姉ちゃん、私も付き合うよv」

って妹のヴィク子がそれこそ大量にガッパガッパ飲んでくれるから、
もうちょっとがんばればなくなりそうなんだけど。
あ〜あ、結局なんだかんだいっていつも妹に助けられちゃうんだよね……。
すっごく悔しいんだけど。
うん。基本的にいい奴なんだよなあ、基本的にはね……。


そんなわけで、私は久しぶりに飲む紅茶に少し涙ぐみながら
ゼヘルと二人で肩を落としていた。

あ〜あ。自分のこともままならないのに、なんで人の恋路を気にしなきゃなんないのよ。
世間には幸せそうなカップルがごまんと溢れてるってのにさ〜。
ほら、道行く人々を見て御覧なさいよ、楽しそうなカップル……

「がっ!」

な、なななな、ダレこれ!
お、女の……子?
素通しのガラスにへばりついてこっち見てる!
おでこと鼻をびたーっとくっつけて、広がった鼻の穴から出た息が
どんどんガラスを曇らせてるからよく顔が見えないんだけど、
金髪の女の子が私と、そしてゼヘルを見て、
あ〜、あ〜あ〜あ〜、泣き出しちゃったよ〜〜〜っ。

「ゼヘル、この子知ってるの?」
「……知ってるもなにも」

いつもかっこつけてるゼヘルもさすがに驚いたみたい。
よほどびっくりしたのか、椅子から転げ落ちてた。

「勘違いしやがって……っこの、バカ!」
「ちょ! ゼヘル!」

あっという間にゼヘルは出て行って、それに気づいて逃げた女の子を追っかけていった。

「……なんなのよ」

ゼヘルが駆けていったその勢いで机の上にあった紙っぺらが私の膝の上に。

「……私が払えってことですか」

請求書に燦然と輝く アイスコーヒー という文字。
よりによってこんなものを頼んでたのよね! そういえば!
ああもうコーヒーなんて大ッ嫌いだ!
一瞬奢ってあげようと思ったけどやっぱやめた。



次の日、ゼヘルのクラスにお金を取り立てに行ったら、
あろうことかれいちゃんとランデーが仲直りしてた

あの、昨日の剣幕はどこへ……?
ま、まあ仲良いことはいいことよね、ええ、あまりにあっけなくて驚いただけよ。
気を取り直して、ゼヘルはどうしたのか聞くと、具合悪くて休みとのこと。

いったいどうしたのかと心配(一応)した帰り道、
そんな私の気持ちを踏みにじってツイストでもされるような出来事が。

学校サボってデ○ズニーランドに行ってきたバカップルに遭遇

金髪の女の子は風船を持ち ゼヘルはあのひと目でわかる袋を3つも抱えて
しかも女の子のと思しきバッグも持ってあげていて
尚且つ二人は恋人つなぎでニコニコと、私に気づかず去っていったよ……。


冬ってほんと、寒ーい季節よね……。誰かあっためて……マジで……。









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