その先にあるもの 5


アンジェリークは意を決して 一歩足を踏み入れた
その音にエルンストが振り返る

「アンジェリーク……」

その表情からは驚き以外 何も読み取れない
側まで歩み寄り 声をかけた

「おはようございます」
「おはようございます。アンジェリーク」

エルンストの声に通常と違った所は見受けられず
アンジェリークはそれ以上かける言葉がとっさには見当たらなかった
仕方なく エルンストが話し出すのを待つ


「随分と早いのですね。まだ夜は明けていないというのに」

そう言ってエルンストは側の灰皿で煙草をもみ消し 窓の外をちらりと見た

「エルンストさんこそ、こんなに朝早くから……どうしたんですか?」

どうしたんですか の声が平静になるように アンジェリークは細心の注意を払って声を出した
問いかけに エルンストの視線が再び戻る

「いえ。あまり眠れなかったものですから、こうして起きてきてしまいました。あなたは?」
「私も……です。…………あのっ!」

エルンストがこちらを避ける様子のないことに元気づけられたアンジェリークは 半歩前へ出た

「エルンストさん。昨日のこと、後悔なんてしてらっしゃいません、よね……?」
「後悔……いえ、そのような……」


エルンストを見つめるアンジェリークは 必死さを全面に現している
エルンストは急に思い立ち わざときりっと顔を引き締めてこう言った

「後悔していないとは言い難いですね」
え……

アンジェリークの肩が 目に見えてガクリと下がった
眉が八の字に下がり 顔に そんな…… という文字がくっきりと貼り付けられていた
エルンストは心の中でくすりと笑う

「嘘です」

エルンストは真面目な顔のまま そう言った
アンジェリークがぽかんと口を開けている
それを見て表情を緩め 右手をアンジェリークの頬に伸ばした


辺りはまだ薄暗い
その中で二人は見つめあっている

アンジェリークは 彼がキスをするのだと思った
これまでにないほど ムードは満点だった
ふいうちだったそれまでのキスとは違う
そしてなにより 今なら少しだけ心の余裕がある

しかし 彼はアンジェリークが予想したようには動かなかった


エルンストは アンジェリークの頬に手を添えたままじっとしている
視線はただひたすら 瞳の上にある
アンジェリークは段々居心地が悪くなってきた
エルンストにこんなにじっと見つめられると いろんなことが気になって仕方がない

顔のどこかにゴミがついてるかもしれない とか
昨日あんな夢を見たから 顔が腫れぼったいかも とか

気にしすぎて ついに我慢しきれなくなり 視線をそらしてしまった
少しして そおっと様子を伺うと エルンストはまだ こちらを見ている

「エルンストさん……」
そう言っても 彼は見つめるのをやめようとしない


「アンジェリーク」

不安に思っていたその時 エルンストが名前を呼び
ビクン! と体が大きく跳ねた

「こうして見ている間も、あなたの表情はよく変わる。非常に愉快です」
「エルンストさん……?」


エルンストは頬に添えていた手を動かし アンジェリークの頬をつまんだ
そして左手も同様 彼女の右頬をつまむ

アンジェリークは更に訳がわからなくなる
エルンストを見ても 愉快と言いながら 何を考えているのか 冗談なのか何なのかわからない顔をしている

パニックをおこしかけたとき アンジェリークの両頬はくいっと横に引っ張られた
と 同時に エルンストがにこりと笑った

(エルンストさんったら、私をからかって!)

「なにふるんでふか!」

精一杯の抗議をした
頬を引っ張られてるため声はかなり情けないが

そんな状態なのに
さっとエルンストの顔が近づき 一瞬 唇にキスをされた


まさか ここでキスがくるとはまったく思っていなかったアンジェリークは腰を抜かし その場にへなへなと座り込んだ

「エルンストさんのバカ……」
「すみません。あなたがあまりに可愛かったものですから」

しゃがみこんだエルンストは 少しも悪びれる風もなくそう言った


ちょうどその時 遠くでドアが開く音がした

「誰か起きてきたようですね。実に残念です。さあ、立ってください。二人で早起きの邪魔者をお迎えいたしましょう」
「……エルンスト……さん?」

エルンストの手を借りて立ち上がったアンジェリークは 彼の隣に立ち その表情を覗き見る
彼はもう いつものひきしまった表情に戻っており やがて入ってきた 彼の言う「早起きの邪魔者」ヴィクトールに朝の挨拶をしていた


(エルンストさんって、演技派だったんだ)

この人はどれだけの顔を持っているのだろう
今まで何も知らないまま 彼のことを好きになっていた
そして 知れば知るほど 想いは強くなる

離れたくない エルンストと

守護聖 聖地での教官 協力者 そしてアリオス
彼らの協力があればきっと この宇宙を危機から救うことができるだろう

そしてその後 エルンストとの別れが来る
ならばせめて ここにいる間だけでも側にいたい
側にいて少しでも 彼と共に時を過ごしたい

アンジェリークは エルンストの話し声を聞きながら 決意を新たにしていた


ヴィクトールの後 ジュリアスが顔を出した

「三人とも、早いのだな。エルンスト、今日の行き先について知りたいのだがよいか?」
「はい。ジュリアス様」

エルンストは何食わぬ顔で 今日の打合せを始めていた



◆◇◆◇◆



アンジェリーク達一行がその部屋へ行ったとき 確かにそこにロキシーはいた
しかし 彼は敵である皇帝の手下の者の術により石化させられており
その手には 今求めている封印の鍵が握り締められていた


「ロキシー!! なぜこんな……」
「………………」

アンジェリークは いつか彼 エルンストの唯一の親友だというロキシーに会うことを楽しみにしていたのだが まさかこのような対面になるとは思いもよらず ただ絶句するばかりだった
側で愕然とするエルンストを見上げるも かける言葉がなにひとつ思い浮かばない


この建物 この星の王立研究院の入口まで来たとき ジュリアスにそっくりの姿をした人物がアンジェリークたちの前に立ちはだかった
ジュリアスと違うところといえば そのギラギラとした真っ赤な瞳
キーファーと名乗るその男は

「ロキシーはもう動かぬだろう。封印の鍵もろとも石にしてやったのだから」

と言い 勝ち誇った笑いを残して去っていった

ジュリアスも ジュリアス以外の皆も その恐ろしい赤い目の他は寸分違わぬその姿に驚き 戸惑っていたが
エルンストだけはそのことに頓着せず 素早く建物の中に入っていった
そしてそこに 彼は捜し続けた親友の変わり果てた姿を見たのだ


エルンストは物言わぬ友を見て 怒りを露わにした

「ロキシーをこんな目にあわせるなど……許せない。なぜ私はあの男をあのまま逃がしてしまったのだ。倒すべきだった。倒して即座に、この忌まわしい術を解かせるべきだった!」

こぶしを握り締めて 震わせているエルンスト
彼がどんなにロキシーを大切に思っているかがアンジェリークに知れた

エルンストがこれほど激しい感情を剥き出しにしているのを アンジェリークは見たことがなかった
なんとかしたかった エルンストの為にも このロキシーという人の為にも
しかし 懸命に考えても すぐにいい案が浮かばなかった


その時ふいに 地の守護聖ルヴァがはっきりと口にした

「エルンスト。こうしていても何の解決にもなりませんよ。探すのです。彼の石化を解く方法を」
「おい、おっさん。探すって一体どこ探しゃいいんだよ。この星全部まわるだけで何年かかるかわかんねーのによお」

鋼の守護聖ゼフェルの苛立った抗議にも ルヴァは落ち着いて道を示す

「この建物の中には書物がたくさん保管されているはずです。なんといっても王立研究院なのですから、こういう類の本には事欠きません。それを調べればよいのですよ」

エルンストの目が輝く

「なるほど、ルヴァ様。こうしてはいられませんね。早速行動に移すことにいたしましょう」

彼は先程の激しさを脱ぎ捨て いつもの冷静さを取り戻していた

「さあ! そうと決まったら片っ端からいきましょう。ここにいる皆でやれば、今日一日で何らかのヒントが得られるはずですよお!」

書物のことになったからか 俄然張り切るルヴァの掛け声で 石化解除方法の全員一斉捜索が始まった



数時間後 ヒントどころではなく その方法そのものが判明した
金 銀 緑 の3つの宝玉を手に入れ 聖なる者が掲げる
そうすれば 石化が解けると エルンストが探し出したある書物に載っていたのだ

この話の信憑性について ルヴァは半々だと踏んだ
よって やってみるだけの価値はあると判断し
一行は早速 金 銀 緑の宝玉を集める旅に出ることにした



「ロキシー。必ずあなたを元の姿に戻してみせます。窮屈でしょうがそれまで待っていてくださいね」

エルンストはそう言い残し ロキシーのいる部屋を後にした


アンジェリークは部屋の外でエルンストが出てくるのを待っていた
それを見て エルンストが微笑む

「お待たせしました」

アンジェリークはエルンストの手を取り こう言った

「必ず、3つの宝玉を見つけ出しましょうね。私、早くロキシーさんとお話がしたいです」
「あなたを紹介した時、ロキシーに何を言われるか……私は今から怖いような気がしますがね」

エルンストの顔はそれでも くだけて穏やかな様子だった

「そんなにすごいことを言っちゃうかたなんですか?」

アンジェリークが問うと

「かた、なんてものじゃありませんよ。思ったことを歯に衣着せず言いたい放題です。私なんていつもこてんぱんにやられるのですから」

そう言いつつ エルンストの顔はほころんでいる
どんなにこのロキシーという人に心を許しているか アンジェリークは想像した
頭に浮かぶ彼らのいる景色に すごく楽しい気持ちになる

「エルンストさんとロキシーさんはとても仲がいいんですね」
「私の方はこてんぱんですけどね」

そして二人は笑い 並んで王立研究院から出て行った



後に残るそこの研究員たちはあ然として エルンストと赤い服を着た少女を見送った
自分達が噂で知るエルンストという人物と 実際の彼とのあまりのギャップに驚き 彼らは互いに顔を見合わせたのであった



◆◇◆◇◆



3つの宝玉を捜す旅は困難を極めた
しかし 守護聖や教官 協力者 そしてアリオス
皆で力を合わせて それらを手にしていった

そして今 再びアンジェリークたちは 石化したロキシーの前に立っていた



「何も起こらない……」

エルンストはつぶやき 手の中にあるそれぞれ違う色に輝く綺麗な3つの玉を見た

この部屋に ロキシーの前にこれらを持ってくればすぐにでも助け出せる
そう思い やっとの思いでここまでやってきた
この3つを揃えるだけでも大変な労力を要したというのに
これ以上何をどうせよというのか


「エルンスト、忘れているのではないですか?」

ルヴァがエルンストの側に歩いていく

「あなたの見つけた文献には『聖なる者が掲げたとき』と記されていたではないですか」
「あ……!」

エルンストは宝玉を手に入れることばかり考えていて 肝心の部分を失念していたのだ

「お前にしては意外だな。しっかりしろよ、研究員」

オスカーがエルンストの肩を叩く


「ルヴァ様。では『聖なる者』とはどなたのことを指すのでしょう?」

不安げな面持ちの水の守護聖リュミエールが問いかける
ルヴァは 常より更に儚げな風情を見せるリュミエールを安心させるべく
彼に向かってにっこりと笑った

「あなたにとって『聖なる者』とは誰のことですか?」
「それは……陛下……でも陛下は今……」
「そうです。この、ロキシーさんが持っているこの鍵がなければ、我々は陛下にお会いすることができません。ではエルンスト」

ルヴァはエルンストに向き直る

「あなたにとって『聖なる者』とは? 陛下の他に」


エルンストは答える代わりにゆっくりと視線を動かし それは青緑色の瞳の上でぴたりと止まった
静かに差し出だされた3つの玉が その瞳の持ち主の掌へと渡る

静まった部屋に響く 3つの宝玉を手にしたアンジェリークの足音
やがて 石となったロキシーの前に彼女は立った


『聖なる者』として アンジェリークは女王のサクリアを体中に満たす
背筋を伸ばし 両手で3つの玉を持って すぅっとその腕を掲げ

途端 眩しい光がその玉を中心に弾けた



光が消えた時 皆の目の前には呆けた顔のロキシーがいた

「な、なんだなんだ? どうなってんだ!?」
「ロキシー! 無事でよかった」

エルンストは駆け寄り ロキシーの両肩をつかんだ





「とても、面白い人ですね。ロキシーさんって」
「それだけで済んで幸いというかなんというか……」
「え?」
「いえ、なんでもありません」


ロキシーはそれまで 皇帝の手により意識を操作されており
金の髪の女王陛下アンジェリーク・リモージュとその補佐官ロザリアから
輝く女王のサクリアを抽出する手伝いをさせられていた

そんな時に聞こえたのが エルンストの内なる呼び声
それがきっかけとなってロキシーは自力で催眠を解き 目の前の 自分がしでかしたことを初めて知ったのだ

彼は自分の責任だと すぐに二人を救出するべく封印の鍵を取りに行き 手に入れることができたものの 研究院に急ぎ戻ったところでキーファに術をかけられてしまい 鍵もろとも石になってしまっていたのだった


晴れて自由の身となったロキシーはさきほど エルンストとアンジェリークに見送られて主星行きのシャトルに乗り込んだ
ロキシーは 見送られる直前まで親友をからかい続けていた
親友エルンストがアンジェリークをロキシーに紹介したことを 心から後悔するまで

せいせいした という態度のエルンストの隣で アンジェリークはくすりと笑う

「感激の対面……という感じではなかったですね」
「涙を浮かべて抱きつかれても、こちらとしては困りますけどね」

エルンストは本当に嫌そうにそう答えた


ロキシーが乗っていると思われるシャトルが飛び立つ
エルンストはその方向に視線を向けたままこう言った

「あなたにはとても感謝しています。言葉では言い尽くせないほど」

シャトルが見えなくなり エルンストはアンジェリークへと振り向く

「宝玉を掲げていくあなたは、なんといったらいいのか……あの瞬間、私は体が震え、跪きたくなる衝動にかられました。やはりあなたは女王陛下なのだと思いました」

そこで 瞳を曇らせるアンジェリークに気がつき 慌てて弁解をした

「あ、すみません。そんなことを言いたいのではなく……あ、いえ、言いたいのですが……」

動揺を露わにするエルンスト
普段あまり見せないその姿がめずらしく アンジェリークは彼の顔を覗き込んだ

「エルンストさん?」

その声にエルンストは落ち着きを取り戻し 姿勢を正す

「とにかく、私にとってあなたはかけがえのない人だ。それだけは覚えておいてください」
「はい」

胸の中にじわりと広がる暖かい喜び
それを抱きしめるアンジェリーク
その髪に こめかみの方からエルンストは右手を差し入れた
見つめ合い エルンストの顔がアンジェリークに近づき……


「ちょーっと待ったお二人さん。アタシたちがいるってこと忘れてな〜い?」

オリヴィエは両手を腰に当ててぷんすかと怒っている
側でマルセルがオリヴィエの服をひっぱり ヴィクトールは苦笑していた

「すみません」

エルンストはしれっとした顔で形だけ謝った
アンジェリークは頭皮まで赤く染まる勢いだというのに

「アンタって意外と……まあいいや。行くよ」

オリヴィエは呆れて身を翻した



次の行き先は白銀の環の惑星
そこでは貴重な宝石「蒼のエリシア」が採取されるという
それを手に入れる為だ

ロキシーにかかった石化の術を解いた衝撃に晒されて アンジェリークの持つ杖の先にある宝石が砕けた
それにより アンジェリークは魔法を使えなくなってしまっていた
その力を復活させるべく 必要な「蒼のエリシア」

封印の鍵が手に入り すぐにでも捕われの女王陛下と補佐官を助けに行きたい
だが アンジェリークの力がなければそれはよりいっそうの困難を極める



先を行く他のパーティーに追いつくため アンジェリークたちはその場を立ち去った
気を利かせてか さっさと前を歩くオリヴィエ以下三人

エルンストはアンジェリークに向けて手を差し出した
恥ずかしげに伸びてくる小さな掌をぎゅっと握りこむ

俯くアンジェリークを見るグリーンの瞳は 満足そうに細められていた



◆◇◆◇◆



「ねえちょっと! もうアタシ耐えらんな〜い!!」


星々の間を自由に行き来できる「星の小径」に乗ったところでオリヴィエが叫んだ

「もう、アタシのパワーは限界! みんなそうでしょ? こ〜んな疲れきった体で行ったって能率悪いって思うんだよね。そう思わない?」

腕を組み 口を尖らしたオリヴィエがその場にいる皆を見回す
チャーリーがそれに反応した

「そやそや! なあ、食いもんも底を尽きかけとるし、ちょっとどっか寄った方がええって。買いもんは俺にまかしとき! バンバン値切ったるで」

そう言って自慢げに胸を張り
オリヴィエと二人で「なあ」と互いに深く頷き合った


「何言ってんだ。そんな場合じゃないことぐらいお前らにだってわかるだろうが」

眉根を寄せるジュリアスの気持ちを慮ったオスカーが非難の言葉を口にする

オリヴィエはチャーリーのもとへつかつかと歩み寄った
チャーリーの肩を抱くと チャーリーも同様にオリヴィエの肩に手を回す

「私はぜ〜んぜん疲れてまっせ〜ん! ってゆー人は手を挙げて〜」


オリヴィエの呼びかけには誰も答えなかった
それを見てオリヴィエはチャーリーと再び頷き合う
チャーリーが後を継いだ

「ほら、オスカー様、見てみい。み〜んなほんとは疲れてはる。ほんのちょっとや。ほんのちょっと休んだらええねん。元気バリバリな方が敵を倒すのんも早い思うけどな」


この場にいる全員 チャーリーの言葉でどれだけ自分が疲れているかを自覚した
だが 少しでも早く皇帝に辿り着かないことには この戦いは終わらない
こうしてる間にも滅び行く宇宙
皇帝が次に何か仕掛ける前になんとかしなければ……
焦る気持ちも 皆同じだった


「アンジェリーク……お前はどう思う……?」

一瞬 しんと静まった空間に この旅でそれまでまったく意見しなかったクラヴィスが口を開いた
彼は星の小径を囲む柱に体を預けて 深い紫の瞳をひたりとアンジェリークに合わせていた

「私は、やはりどこかの星で休むべきだと思います。ジュリアス様、それでよろしいですか?」

アンジェリークは首座の守護聖であるジュリアスの意向を伺う
彼はそれまでの厳しい表情を瞬時に解いた

「そなたの意思に従おう。皆も良いか?」


口々に賛同の意が返ってきて にわかにその場が活気づいた
クラヴィスもゆっくりと頷く
ジュリアスはそれを見て続けた

「ではオリヴィエ、お前はどこに行きたいのだ?」
「さっすがジュリアス! 話が早いねぇ。あのね、スパリゾートで有名なとこがあんのよ」
「スパリゾートだ? お前、最初からそのつもりだったな」

オスカーがオリヴィエに詰め寄る
オリヴィエはチャーリーと組んだ肩をはずし
オスカーの視線を正面から受け止めた
オリヴィエのいつにない険を含んだ顔つきに 強さを司るオスカーが一瞬怯む

「いいじゃない。アンタだって賛成したんでしょ」
「だがな!」

睨みあう二人
だが そのすぐ後 オリヴィエはにんまりと笑った

「つべこべ言わない! さあレッツゴォ!!」

オリヴィエは迫るオスカーの前で高々とこぶしを振り上げた
「うおっ」と仰け反るオスカー
その姿は緊張の緩みも手伝って皆の笑いを誘った


からかいの言葉と笑いのさざ波の中 アンジェリークとエルンストも笑顔で互いを見合わせる
暖かな幸福を感じ アンジェリークは何気なくアリオスの方を見た
アリオスはどうしているだろうと ふと気になった


彼は 笑っていなかった
俺は関係ない とばかりに逸らされた視線は遥か遠くの景色へと繋がっていた

「エルンストさん、ちょっとごめんなさい」

アンジェリークはエルンストの側を離れ アリオスの方へと駆けていった



その後ろ姿を エルンストは苦い思いで見送っていた




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