永遠の隣 6


アンジェリークの毎日は多忙を極めていた

やっと小さな生命の誕生があちらこちらの惑星で見られるようになり
特に アンジェリークとレイチェルのいる星では発展が著しく
やはり 女王のいる場所はサクリアの行き渡り方が違うのだと
レイチェルはデータを取り出して アンジェリークに得意げに説明した

「でもさ、もうそろそろいいと思うんだよネ!」
「何が?」
「何がって!?」

はぁ〜 と 呆れたようにため息をつくと
「アナタ、ワタシの話ちゃんと聞いてた?」と付け加えた
レイチェルは普段 アンジェ と呼んでいるが
ご機嫌が悪くなると 途端に最初の頃の呼び方に戻ってしまう

アンジェリークは ふくれるレイチェルの頬を人差し指で ぷくっ と押すと
嬉しそうに笑った

「わかってるよ。わかってる」


アンジェリークとレイチェルが待ち望んでいるもの
それは彼女達と同じ 人類の誕生だった

二人は最初の頃 アンジェリークの在位中はそれは望めないだろうと踏んでいた
次代の女王はもしかしたら 元の宇宙から生まれるのだろうか
まさか人類以外 なんてことはないだろうけど
と 冗談交じりで話し合ったこともあった

しかし予想を遥かに超えて 新宇宙の星たちは新たなる生命を次々に生み出していった
その速さは アンジェリークたちのいる星を中心として
放射状に緩やかになっていると レイチェルの集めたデータが語っていた

「だからもうすぐこの星に、ネ?」
「うん、楽しみだね」



そんな話をした次の日のことだった

「アンジェ! ヤッタよ! これ見て!」

レイチェルに強い力で引っ張られて アンジェリークは足がもつれそうになりながら
研究室のモニターの前に連れて行かれた

「ここに大きな光があるデショ? これがワタシたち、
で、こっちにスゴク小さいのが光ってるの。わかる?」

アンジェリークはそれを見て 信じられないといったふうにレイチェルを振り仰いだ

「ネ!? 生まれたんだよ! ワタシたちの星にヒトが生まれたんだヨ!」

キャー! と二人は歓声を上げて抱き合い
ぴょんぴょん飛び跳ねながらくるくると回った

「これくらい光ってるならきっと何人かで集団生活してるハズだよ。
ね、行こう! 今から行こう!」

落ち着いたところで 待ちきれない とばかりに
レイチェルはアンジェリークの手首をきゅっと引っ張った
そこにいつものようなしっかりしたお姉さん的な彼女の雰囲気は無く
よほど嬉しいのだろうと アンジェリークは微笑ましく思う

それにやはり 会ってみたいのは同じ
ずっとずっと 待っていたのだから

新宇宙の女王はその補佐官の手を握り返し 力強く頷いた


アンジェリークとレイチェルは 研究員たちにその場を任せ
新宇宙最初の人類の存在を確かめるべく 聖地を出て 光のあった場所へと出かけていった





機器が示す その存在の場所に近づいたものの
いっこうに人間の生活を思わせる風景には出会わなかった
木がところどころに立っている他は 一面の原っぱになっているので
とても見晴らしがよく だからこそ 何もないことがはっきりとわかるのだ
そのうち 二人の前に小高い丘が見えてきた

歩いて登ればいい運動になるだろうと
二人乗りのエアカーを操縦するレイチェルが言う
そして一気に上昇しようと操縦桿を強く握った時
それを止めるようにすっと手が伸びてきて レイチェルの手の甲に触れた

「ね、ここからちょっと歩かない?」
「エエー!?」
「ね、お願い。驚かせたくないの。どこで会っちゃうかわかんないでしょ?」
「ま、そーだけどー……だってここからって、遠いと思うけどなー」
「お願い」

不満を声にも態度にも表しつつ レイチェルはしぶしぶ着地させた

「ガンコな女王様なんだから……ホントにもー」

そう言った顔は既に笑いを含んでいる
それを確認して礼を返したアンジェリークは エアカーから降りて大きく深呼吸した


緑の香りに包まれた空気が柔らかいそよ風となって髪をなぶる
ここにいても こうしてあの頃と同じ匂いを感じ取ることができる
アンジェリークは この宇宙に最後にサクリアを送ってくれた
金色の髪の大好きな友の顔を思い浮かべた

「けっこうキモチいいね」

隣に立ったレイチェルの髪も アンジェリークと同じように風に揺れる


金の髪


アンジェリークは思わずそのひと房を手に取った
触れた瞬間からさらさらとこぼれていく

「綺麗な髪…………」
「ナ、ナニ言ってんの? どうしちゃったの???」
「……何でもな〜い」

丘を見上げると 風が額を撫でて 長めの前髪を後ろに流していく

眉根を寄せて不思議がるレイチェルを置いて
アンジェリークはその丘の頂に向かって 一歩足を踏み出した




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