胸が苦しい
痛くて苦しい
どうして
どうしてこの人がここにいるんだろう
レイチェルが腕にすがりついてきたが アンジェリークにはそれを気に留める余裕はなかった
彼女の意識は全て 目の前の銀髪の男性へと注がれていた
腕どころか全身が震えていた
まったくあの時のままなのだ
彼が消えたあの日 そのままの姿で
その男はアンジェリークの目の前に立っている
まぶしい太陽の下にいるというのに あの時の陰鬱な色をした城内の空気が蘇る
ただ違うのは 彼の髪が黒ではなく銀の色だということ
紫がかっているそれは あの頃
かつての友がアンジェリークの隣にいるために持っていた色だった
「アリ…………」
アンジェリークはその人の名を口にしようとした
しかし すぐにその声は強い口調にかき消された
「お前は誰だ?」
アンジェリークは言葉を失って呆然と男を見た
アリオスだ アリオスに間違いない
なのにどうして私のことを知らないの?
「私……!」
言いかけて はっとした
彼のまとうマントが突然吹いた強い風にあおられ
と同時に前髪が揺れ 警戒する眼差しが真っ直ぐにこちらを射抜いてきたのだ
その彼の瞳を見て背筋に冷たいものが駆け上がる
そこには睨みつけてくる金色の光があった
もう片方は緑色
これはレヴィアスに戻った時の彼の瞳
「貴方は……誰?」
男はぴくりと眉をひそめ 更に凄みを増してアンジェリークを睨んだ
「こっちが先に聞いたんだ。答えろよ」
「あ! ……ごめんなさい」
ひゃっと肩をすくめた後 アンジェリークは胸を押さえて深呼吸した
「えっと…………私はアンジェリーク。こっちにいるのは、レイチェルよ。
私たち、この星に住んでるの。………………貴方は?」
険しかった瞳が少しだけ揺らいだ
「俺は……」
pi-pi-pi pi-pi-pi pi-pi-pipipi pi-pi-pipi-pipipi-pipi-♪
その時 緊迫した雰囲気になんともそぐわない音楽が流れてきた
「もしもし、ワタシ。なんかあった?」
レイチェルが通信機を取り出して耳にあてる
残された二人は緊張の糸を切られて なんとはなしにレイチェルの動向を眺めていた
「ウソ! それホントなの? チョット待って!」
振り向いたレイチェルの顔は 何ごとか重大な出来事が起きたことを示していた
「アンジェ、守護聖が見つかったって!」
「え!? シュゴセー?」
アンジェリークは一瞬 守護聖の意味がわからずにそう答えた
「ナニ言ってんのよ。守護聖だってば! ジュリアス様とかランディサマとかの!」
「あ……そっか」
レイチェルはその間の抜けた返事を聞かないうちにまた通信機に向かうと
「うん、うん」と頷いたり アンジェリークにはわからない専門用語を
早口でまくしたてたりしている
「おい、お前」
呼びかけられてアンジェリークは 彼の顔に再び注目した
瞳の色は違えども むっとしているようなその表情はアリオスを思わせてならない
「なに、ぼーっと見てやがるんだ。俺の顔になにかついてるか?」
「ううん、ついてないけど……」
「けどってなんだ?」
「じゃなくて、ついてません!」
「なら初めからそう言えよ、この」
口調も これはアリオスそのものだ
そして 彼ならそのうち必ずこう言うだろう
「バーカ」
「ちょっと! なにアンジェ泣かせてるの!?」
「おい、違う! こいつがいきなり泣き出したんだ!
俺はバカって言っただけだぜ? ……初対面でそれはねぇか。
チッ、めんどくせぇな。おい、俺が悪かった。泣くなよ、おい、女!」
男はアンジェリークの頭を 五本の指の腹で遠慮がちにこづいた
「やめてよ、乱暴しないでよネ!」
レイチェルがかばうようにアンジェリークを引き寄せる
男は当然面白くないらしく また チッ と舌打ちをしたが
黙って成り行きを見守っていた
「ごめんね、レイチェル。それから……えーと……」
「俺のことなら気にすんな」
「うん。ありがと」
ぐしっと鼻を鳴らして 顔を上げたアンジェリークに
レイチェルは安心したように頷くと
すっかり観客の気分で二人を見やっていた男へと視線を移した
「悪いけどこれから私たちと一緒に来てもらえる?」
「レイチェル?」
アンジェリークは慌ててレイチェルの服を掴んだ
「詳しいことはあっちで話すよ。アンジェにもね…………。
そっちのアナタは時間ある?」
くっ と笑い 男は言った
「ああ、いいぜ。そんなもん、ありすぎるほどあるからな」
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