聖地からの迎えが来るのを 三人はその場で座って待つことにした
置いてきたエアカーまで戻るのはさすがに辛い
だいいち二人乗りなので 大の男 おまけに肩に鎧までつけている者が乗れば重量オーバーになるのは確実であった
「それにしても仰々しいカッコしてるよね。
……アナタ、この星のヒトじゃないでしょ。ここに来る前はどこにいたの?」
レイチェルは男からアンジェリークを守るかのように二人の間に陣取り
最初に出会った時の怯えた様子がまるで嘘のように 今度はぶしつけともいえる視線で相手を見据えた
質問したレイチェルはもちろんのこと アンジェリークもそれは気になるところだった
あの時消えたはずの彼がなぜここにいるのか
どうして 髪の色だけアリオスになってこうして現れたのか
そして彼は 本当に”彼自身”なのか
とても知りたかった
男は二人の視線を受けて 何と言ったものかと思案していた
金髪の女は軽そうな言い方をしてはいるものの 相手の言葉から何かを引き出そうという気合が感じられた
青緑の目を見開き 身を乗り出してこちらを覗きこむ女からは 何か祈りにも似た感情が読み取れた
恐らく これから言う言葉は二人を共にがっかりさせるだろう
彼女達がこちらに望んでいることは それぞれ違っているようではあったが
真剣な様子で見つめてくる四つの瞳を落胆の色に変えたくない
なんとなくだが 男はそう思っていた
しかし やはりここは素直に言うべきだろう
どうせ どういう答えを返せばいいのかもわからないのだから
「気がついたらここにいた。この、地面の上で寝っ転がってた。
それより前の記憶はねぇ」
レイチェルはぽかんと口を開き
アンジェリークの眉は八の字に下がった
「他にご質問は?」
二人の反応の違いに 思わず笑いが漏れそうになるのを堪えながら次を促した
「じゃ、じゃあ、その服はどこで手に入れたの?」
「知らねぇな。起きたら着てた」
質問者の口はますます開き その後ろでは眉がますます下がっていった
「…………アナタ、ホンットになんの記憶もナイの?」
「ああ」
男の目の前で 二人が顔を見合わせた
レイチェルの言うように 本当の本当に彼は何も知らなかった
自分が何者であるかわからぬというのはひどく心許ないものだ
しかも 目覚めた場所はだだっぴろい野っ原
360度見まわしても人どころか動物さえも見当たらなかった
「ちょっとーオニーサーン!」
「あ?」
「アンジェが聞きたいことがあるって」
肩を叩かれて振り向くと アンジェと呼ばれた子が笑いかけてきた
男は一瞬 虚をつかれたように動きを止めた
「何か考え事してたの?」
「ん? ……あ、ああ。……聞きたいことってなんだよ」
ぶっきらぼうに返して わずかに視線を逸らした
心にひっかかるものを感じたが 彼はなぜかそれを正視できなかった
「あなたのことなんて呼べばいいかなと思って。名前も……覚えてないんだよね?」
「ああ。名前なぁ……。なんでもいいぜ。適当に呼べよ」
「そんなわけにいかないよ。ね、私が付けてもいい?」
アンジェリークは男とレイチェルと交互に見て はずんだ声で言った
二人が頷くと アンジェリークは息をすうっと吸って口を開いた
「アリオス」
たった今アリオスと呼ばれた彼は 真っ直ぐ見つめてくる青緑色から目を離すことができずにいた
何がそんなに心を騒がせるのかわからない
先ほどは直視できなかったのに 今度は目が離せないとはどういうことなのかと
「………………なんてどう?」
アンジェリークは真剣さを誤魔化すように照れ笑いをした
なのに 瞳は変わらず訴えるように見つめてくる
「なーに見つめあってんのヨ。ナニ? このコに恋しちゃったとか?」
「そんなんじゃねぇよ」
そう そんなことではない
何かあるのだ 何かが……
「でもダメよ。このコにはちゃんとカレシがいるんだから。ね?」
「ちょっと、いいじゃないの。もぅ……レイチェルったら」
そう言いつつも 嬉しさを隠そうとせず 頬を緩めてアンジェリークは笑っていた
そういう意味でこのアンジェリークに気を惹かれたわけではない
なのに アリオスの心は急速に冷えていった
先ほどまで柔らかな暖かさに包まれているような心地を味わっていただけに
その変化はアリオスを痛めつけた
そしてその瞬間 このアンジェリークという女には 忘れられた記憶に関する鍵が隠されていると確信した
(……アリオス、か)
今はまだ この名前を聞いてもなにも思い出せない
恐らく アンジェリークに聞いても名前の由来は言わないだろう
ただ いずれわかる
嫌でもわかってしまうのだ と アリオスは思った
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