無音


・・・ シャラン ・・・

音を立てて なにかが服の中に落ちてきた
シャツの裾を出し それを確かめる
手の平にこぼれた物は 金の細いネックレス
これは 誕生日にエリスがくれたものだ
だいぶ無理をしただろうに そんなことはおくびにもださなかった
どうやら鎖が外れたらしい 留め金以外の所からそれは切れていた

「………………」

レヴィアスはしばらくそのネックレスを見つめていたが
やがて ていねいな動作で右のポケットにそっとしまった



城に帰ると なにやら騒がしい
そこで知らされた事実



エリスが死んだ



気づいてやれなかった
自分は なんと愚かであろうか
さっき酒場に来たのは 自分に別れを告げるためだったのか


エリスは皇帝である叔父の側室になれと言われた
それはすなわち 自分との永遠の別れを意味する
もっとも残酷な形で 二人は別れ別れになる


知っていれば もっと早く
自分が 酒場になどいなければ
己から目をそらし 逃げ続けていなければ
エリスは死なずに済んだかもしれない
いや
死なせなかった 何があっても
なのに 現実は
守れなかった

一生側にいると誓った 一生離れないと確信していた
だが彼女はあっけなく その生を終わらせてしまった
自分に話すこともなく この世から去っていってしまった



ポケットから千切れたネックレスを取り出した
唯一残されたもの かつての日々
いや かつての日々と言うには まだ生々し過ぎた

どんな気持ちで自分に会いに来たのだろう
「さよなら」と言った時の彼女の顔を思い浮かべた



「ぐっ……!」

ネックレスを握り締め その場にうずくまった
何にもたとえようがない

息ができない
喉の辺りで かろうじて浅く呼吸を繰り返すのみだ
こんなにも胸が苦しいのに 彼女の気持ちは自分にはわからない
これから先ずっと 知りえることはない
自分の気持ちが 彼女に伝わることも 二度とない

エリスの声が 聞こえない


嗚咽




◆ ◆ ◆




かつて レヴィアスのかたわらでは常に音楽が流れていた
優しく甘く 時に激しく時に苦く そして切なく
様々な想いが二人の間で交差し つくりあげていく交響曲
それが何の前兆もなく なにも知らされぬまま
演奏は突然止み 彼は外に放りだされてしまった


ここには何もない


彼はひとりぼっちだ


耳鳴りがする その中で必死にあがく
もう一度聞きたい たゆたう曲の調べに身を任せたい
しかしそれはもう 存在しないのだ
彼女はもう 帰ってこない
二度と
もう 二度と



これから先 何も信じない 何も愛さない
レヴィアスは これ以後 自らを破滅へと導いていく





エル以外も万歳