きっかけは○○○
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「クラヴィス…さま……!」 アンジェリークは絶句していた この聖地ってとこに きゅるきゅるっっていう鳴声の 犬だか猫だかうさぎだかわかんない獣が見えたからって 女王候補だーっていわれて呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃんな自分が それでも見えちまったもんはしょうがないからってがんばって育成とやらをやっている毎日の中で ああ こんなに驚いたことはなかったよこんちくしょうめ 彼女の目の前には闇の守護聖クラヴィスが座っていた 今日も扉を開ければいつもどおり退屈そうに頬杖ついてぼーっとしている彼に迎えられるはずだった (”迎える”というか彼からはウェルカムなムードがちっとも漂ってこない) そして栗毛のアンジェリークが現れると スタイルはそのまま 表情にだけ変化が現れる うろんげな目つきで睨まれたり うっとおしそうに眉根を寄せたり ドロンとした目を向けられたり 全てどれもこれもネガティブ変化なのでむしろ反応してくれなくってけっこうといった感じ 育成のためにはしゃーないわーと思いつつも もうちょっと愛想よくしてくれてもバチは当たんねーべ? と思った彼女は 先週の金の曜日 彼に 「クラヴィス様。諸手を挙げて歓迎してくれとは言いませんが、 もうちょっと笑顔とか笑顔とか笑顔とかくださると 私としては嬉しいんですけどそこのところどんなもんでしょ?」 といったような内容のことを失礼のないようにぐるーっと遠回りして丁寧にお願いしてみた 彼はしばしの間 沈思黙考しているかのように見えた 彼女は待った えっらいこと待ち続けた 多分10分くらい待った 帰ってきた返事は 「笑い方を忘れた…」 だった こういう反応は想定外だったため結局うまいこと自分の納得のいく返事を返すことができず 敗北気分で寮に帰った後の土の曜日と日の曜日 常に勝ち続けていたいアンジェリークは自分的パーフェクトな受け答えを幾通りも考えて そのシナリオにそったシミュレーションも十分にして月の曜日を迎えた そして「たのもう!」とでもいうような勢いで闇の扉をドババーンと開けた後 彼女は出会ってしまったのだ 目に涙をいっぱいに溜めてすがるようにこちらを見上げるクラヴィス様に その直後 何も言えなくなっている彼女の前で 彼の紫水晶のようと世間でいわれている瞳から溢れたひとしずくが つつつーっと頬を伝った (なんて、なんて悲しそうなお顔…!) アンジェリークは何をしに来たかすっかり忘れて クラヴィスの美しい泣き姿に見惚れてしまった 「クラヴィス様…どうなさったのですか? よろしければ私に話してくださいませんか」 聖地に来てから久しく 心の声と口に出す声が一致していなかった彼女だったが ここで初めて真心込めて言葉を発した それに対してクラヴィスは これも彼にしては珍しいといえる甘えを滲ませた口調でこう答えた 「少し……痛むのだ…………」 伏せられた睫毛 再び零れ落ちる雫 この瞬間 栗色アンジェのハートに刺さったのは紛れもなく恋の矢であった 「くーらーびーすーさーまーー」 「なんだ」 「私に心を許してくださってるのはとってもありがたいんですけど、いくらなんでも目の前で鼻毛をそんな盛大に抜かれると百年の恋も冷めそうなんですけど」 アンジェリークは腕を組んで仁王立ちになっている クラヴィスは右の親指と人差し指を右の鼻穴につっこみながら彼女を見上げて 余裕の表情でフッ…と笑った 「『フッ…』じゃないですよ『フッ…』じゃ!」 「『冷めそう』なのだろう? 冷めてはいないということではないか」 そう言って ブチッ とまた一本抜いて顔をしかめた みるみるうちに彼の瞳に涙が盛り上がる 「痛い……」 「無理やり抜くからですよ、もぅしょうがないんだから……」 アンジェリークはポケットから淡い花柄のハンカチを取り出して彼の潤んだ瞳にそっと押し当てた 「いいですか、クラヴィス様。鼻毛というのはですね、外の汚れた空気から身を守ってくれているんです。 それをそんなに抜いちゃって、それじゃちりとか埃とか直接体に入りまくりですよ」 「ならばお前が私をその汚れた世の中から守ってくれ」 「言ってることずらさないでください。ていうか鼻毛の替わりなんて私務まりません」 ハンカチは彼の涙を優しく吸い上げ また彼女のポケットの中に収まった 「それじゃ、ちょっくらひと回りして皆さんに愛想振りまいて来ますねv」 「……もう行くのか」 「抜かれた鼻毛はご主人様を失ったので自由に羽ばたいていくのでした。めでたしめでたし」 「……もう抜かない」 「約束ですよ。お仕事が終わる頃にまたここに来ますから待っててくださいね」 両手をぶんぶん振って アンジェリークは扉を開けて外へ出ていった ぽつんと残された彼はひとこと 「……お前の前ではな」 癖というのはそう簡単にやめられないから癖なのだ そして二人とも この恋が鼻毛抜きをきっかけにして生まれていることに気づいていない クラヴィスはともかく アンジェリークはああ見えてけっこうロマンスを大切にするタイプである 今はこんなでも 最初のあの一目惚れ加減は運命だと信じきっている そう 最初のあの時 クラヴィスが流した涙は鼻毛を抜いた痛みに耐えかねてのものだった 近年稀に遭遇する痛みの瞬間に彼女は出会ってしまったのだ そういった意味では運命なのかもしれないが しかし 結果良ければ全てよし 恋とは勘違いの歴史によって成り立っているともいえるのだから とにもかくにも この恋によって クラヴィスは笑い方を会得し アンジェリークはかぶっていた猫を脱ぎ捨てた 偉大也鼻毛 …と 真相を知っても二人がそう思うことは決してないだろう 〜完〜
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あとがき
この話はおもてBBSに書いたものです 書き込んでくれたお客さまとのやりとりの中でうっかりこんな設定を思いつき ちょうどその時ちょっとした時間があったのでノリで書いたらちゃんと完結したので嬉しくなって書き込んだのがこれです 私はこれを非常に気に入っているのでここに残してみました クラりんとコレットの関係は私の中では基本的にこれです 本当はそのうち書こうと思った設定が別にありまして プロフィールの熱く語る100質にも書いたのですが クラりんとコレットが互いの顔にいたずら描きをし合う話なんですけど たとえば二人はこんな会話をかわしたりしているわけです コレット「この金髪フェチ! バーカバーカ!」 クラ「金髪好きで何が悪い。悔しかったら金色に染めてみろ」 コレット「誰がするもんか〜。それでクラヴィス様にすりすりされたらかなわないわ」 クラ「フフ…その時は嫌というほどしてやる……」 コレット「うげ」 なんか…私の趣味がどんどんあさっての方向に行くような気がしてなりません でもでも なんかこういうのが好きみたい この鼻毛話を最後まで読んでしかもこんなあとがきまで読んでしまったそこのあなた きっとあなたなら大丈夫! 書いたら読んでねv ちゅv |
| エル以外も万歳 |