コスプレ・ナイト
ある平穏な日の5121小隊。
作戦会議において、前代未聞の議題が可決された。
<コスプレパーティーの開催>。
クラス交流会の一環として実施が決定されてしまったのである。
明白な反対票を投じたのは壬生屋のみ。
「って、おまえさん。日常がコスプレみたいなもんだろう?」
瀬戸口がからかうと、壬生屋はいきりたって反論した。
「これは神聖な胴着です!」
「面白そうだね、舞」ぽややんと速水厚志。
「ふむ、たまには衣類を変えるのもいいだろう」
以前、軍のパーティーでドレス姿を厚志に褒められたことを、舞は忘れていなかった。
だが、はッと気が付いて彼女は副委員長席に目を移す。
にっこり微笑む原素子。
(せいぜい頑張ってね)
彼女の目はそう語っていた。
挑発を受けた舞の敵愾心は一気に燃え上がった。
とはいえ、どのような衣装が自分に合うのか見当も付かない。
「ねぇねぇ、まいちゃん」
舞の部屋ではののみが天使の装いではしゃいでいた。
可愛い羽根を背中につけ、リングが頭上にきらめいている。
「ののみ、天使になるのよ。似合う? 似合う?」
「ああ、とても可愛いぞ。そなたにぴったりだな」
パーティーの開催が決まってから、加藤祭が衣装の手配をまかなってくれていた。
開催日が近づくにつれ、舞への催促はしつこいものになっていった。
「舞、パーティーの服は決まった?」
ハンガー2階。士魂号の整備をしながら厚志がたずねる。
「いや…まだだ」
「気楽に考えればいいんじゃない? 普通にメイド服とか」
「たわけ。私にそのような格好が似合うと思うか」
かといって、具体的なアイデアがなかなか思いつかない舞であった。
パーティーの当日が訪れた。
会場となった1組の教室にはお菓子やジュースが並べられ、衣装を身にまとった生徒が次々に入場してくる。
そのたびに、天使の姿をしたののみがバトンを振って歓迎した。
紋付袴の中村は「おいは横綱たい。貫禄からいって問題なかろ?」。
茜大介は竪琴を持った妖精。ラメ入りの衣装でふてくされ顔である。
「フン。こんなくだらない遊び、本当は反対だったんだけどな」
「そんなこと言って、小道具まで用意してノリノリじゃん」
とからかうのは忍者装束の滝川。
「呪う…わ」と魔女のフードつきマントを羽織った石津萌。
「萌ちゃん、それシャレになってへんて!」笑う祭はチアリーダーのコスチューム。
「なあ、なっちゃん。中学のときはこれで応援してたもんや」
「忘れたよ、そんなこと」
車椅子の狩谷はそれでもバスケのユニフォームを身につけていた。
「俺は恋の名探偵シャーロック・瀬戸口といったところかな?」
瀬戸口はホームズのスタイルでパイプをくわえて虫眼鏡をかざしてみせた。
「おおっと、さっそく怪しい人物を発見!」
こそこそと隅に逃れようとしていた壬生屋を瀬戸口はつかまえた。
「大正時代の女学生か。やっぱり和風なんだな、おまえさんは」
「は、離してください! これで精一杯なんですから!」
<えび茶式部>風の壬生屋は、教室の真ん中に引き出されて真っ赤な顔でじたばたした。
どっと笑いが起こる。
「まいちゃん、みおちゃんと袴でいっしょなのよ。はやくはいろうよ」
ののみ天使に促されて、しぶしぶ教室に入ってきたのは芝村舞。
「し、新撰組…!?」
「いよッ、女剣士!」
ふたたび笑いの渦が巻き起こった。
口をへの字にして入場した舞は、冷やかしの声に頬を赤らめた。
「やはり、私にこすぷれなぞは似合わないのだ」
「そんなことないのよ。まいちゃん、かっこいい!」
ののみが袖を引っ張って室内へと導いていく。
「あら、もうずいぶん集まっているのね」
原素子が姿を現すと、それまでの笑いの雰囲気が一変した。
妖艶なチャイナドレスの彼女に、男子だけでなく女子の視線も釘付けになってしまう。
「この服、スリットが大きすぎなのよねえ」
「ちょっと先輩、やりすぎです!」カンフー服の森精華が背後で目をふさいだ。
素子は舞に近づくと、扇子で口元を隠して耳打ちした。
「芝村さん、かわいいわよ」
「ぬ…」
「でも、厚志くんがどっちに目を奪われるか、決まったようなものね」
「お、女の武器とは卑怯な!」
「卑怯? 悔しかったら、あなたも色気のひとつでも身につけてみたら?」
そこへ、尚敬女子高の生徒がひとり駆け込んできた。
「すいません、遅くなりました!」
皆が振り返ると、女子生徒は照れくさそうに微笑んだ。
「あ…あなた、誰?」あっけにとられて素子がたずねる。
「僕ですよ。速水です」
一瞬にして会場が凍りついた。
あまりにも自然な装いに面食らっていたからである。
厚志はしどろもどろになった。
「いや、そ、その…映ちゃんに相談したら、制服が似合うって、メイクまでされて…」
会場はいっせいに爆笑に包まれた。
「分かんなかったぜ! 速水スキーさんよ」
「女装パーティーじゃなかばってん!」
「ちょっと、ボクより胸があるってどういうことォ?」
素子はため息をついて腕を組んだ。
「どうやら私達の完敗みたいね」
「あ、あやつは一体…」
舞も頭を抱えた。
「とりあえず、目的は達成されたとみてよいでしょうか」
校舎の前で、善行がひとりごとのように言う。
隣に立つ坂上はメガネを直しながらたずねた。
「あなたも行けばいいのでは?」
「いえいえ、私はとても…。皆の一体感が醸成されればそれでいいんですよ」
「それにしては大きなボストンバッグを持ってますね」
「速水くんの後では誰も出て行けません」善行は笑った。
その晩は、いつまでも教室から笑いが絶えることはなかった。